【新】DMMvsレアジョブ 仁義なき「オンライン英会話」対決

2016/12/2
連載対談「亀っちの部屋」では、DMM.com会長の亀山敬司氏がホスト役となり、毎回、経営者や文化人を招待。脱力系ながらも本質を突く議論から、新しいビジネスやキャリアのかたちを考えていく。
第8回のゲストはオンライン英会話事業を運営するレアジョブ社長の中村岳氏。DMMも英会話事業を展開していることもあり、完全に競合する二者。だからこそ予定調和とはいかず、話は思わぬ方向へと展開する。

「今日はバトルがしたい」

亀山 やあ、敵陣へようこそ。うちもDMM英会話をやっているから、オンライン英会話市場で競合するレアジョブを呼んだら面白いと思ったけど、「まさか、呼んでも来ないだろう」と思っていたんだよ。
そうしたら、本当に来た(笑)。
中村 お話をいただいたときにはびっくりしました。すごく考えて発言しなきゃいけない対談になりそうです(笑)。
亀山 大河ドラマの『真田丸』でいえば、今回は俺が家康役で「大人が資金力と数の力で若いヤツをつぶしてやる」みたいな構図だよね。きっと読者はレアジョブに味方したくなるんじゃないかな。
中村 いえいえ。オンライン英会話は市場がまだまだ小さいので、シェアを争うというより、情報交換をしながら業界を大きくしたいなと思っています。
亀山 うちの英会話担当に「なんか言うことある?」って聞いたら同じようなこと言ってたよ(笑)。でも、やっぱり敵は敵じゃない。だから今日はもう少し面白く、ちょっとバトルできたらと思ってるんだよね。
中村 お手柔らかにお願いします(笑)。
中村岳(なかむら・がく)
レアジョブ社長
1980年東京都生まれ。2005年東京大学大学院情報理工学系研究科修了後、NTTドコモに入社。2007年、加藤智久氏(現会長)らとともにレアジョブを設立。2008年最高技術責任者に就任。最高執行責任者、副社長を経て、2015年6月より現職

価格と講師の質で勝負をかける

亀山 まず、レアジョブが英会話事業を始めたのはいつからだっけ?
中村 創業は2007年です。「日本人1000万人を英語が話せるようにする」をミッションに掲げ、スカイプを使ってフィリピンの英会話講師からマンツーマンレッスンを受けられるサービスを作りました。
亀山 世の中には、オンライン英会話はレアジョブが元祖だと思っている人も多い。でも当時、他社でやっているところはすでにあったんだよね?
中村 ええ「スカイプを使う」「フィリピン人講師」というビジネスモデルはすでにありました。
ただ当時は、小規模の事業者が数社展開していた程度です。そこで、戦略次第では市場シェアの大部分を獲得できると考え、2つの戦略を打ち出しました。
1つは価格設定です。
最初は1レッスン25分、1カ月5000円の使い放題制にして、毎日使えば1レッスンあたりの受講料が安くなるのを売りにしました。
もう1つは講師の質です。
講師はフィリピン最難関であるフィリピン大学の学生か卒業生、教員に限って採用しました。「フィリピンの東大」というキャッチコピーも打ち出せますし、スタッフが少ないわれわれにとって、対象者を絞るほうが面接しやすかったのも理由です。

他業種からの参入が怖かった

亀山 そうやってベンチャーのレアジョブがゼロから頑張っているところへ、新参者のDMMが割り込んでパクろうとしたわけだ。
中村 (苦笑)。DMMは2013年から参入しましたよね。
実はわれわれがいちばん恐れていたのは、競合の存在です。それも既存の英会話事業者ではなく、他業種からの参入が怖かった。
既存の英会話事業者なら、オンラインに参入すればこれまでのビジネスモデルを壊す必要があるから、そこでいったん勢いが止まる。
しかし他業種ならそうはいきません。お金があって、ユーザー数を持っているIT系の会社が力で圧倒してくれば、大きな脅威になると考えていました。
亀山 具体的にはどこを想定していたの?
中村 ヤフーや楽天、リクルート、あとDeNAやグリーなどの大手ですね。
亀山 ところが、ふたを開けてみたらDMMだった。
中村 DMMは予想外でした。ですが、IT技術も資金力もあるので怖かったことに変わりはありません。どういう戦略を打ち出してくるのか、慎重に観察していました。
亀山 うちも英会話に入るとき、楽天が入って来るのがいちばん嫌だったな。いまのところ参入する気配がなくてホッとしているよ。

テレビCMの副産物

中村 DMMも、フィリピン人講師を採用して月額使い放題制で始めましたね。
亀山 そうだね、最初は完全にレアジョブを意識した価格設定にした。
当初はグループとして、そんなに力を入れていたわけではなかった。でもサービスを開始してみて、SNSなどネット上の評判が悪くなかったから、「現場はちゃんとサービスを作っているな」と思って、CMを打った。認知度を上げるにはテレビCMが一番だからね。
中村 テレビCMの効果はありましたか?
亀山 全然ないよ(笑)。会員獲得という意味では、全然採算が合わない。でも、テレビCMによって世間の認知度が上がったのは事実かな。
中村 たしかにオンライン英会話の認知度調査では、レアジョブよりDMMが上位に来ることがありますね。
亀山 テレビCMを流すと、「オンライン英会話といえばDMM」という認識が広がる。われわれは全然、オンライン英会話の元祖ではないんだけど、元祖のように思われる。
これってけっこう大事なんだよ。
中村 そして、2014年から一気に料金を下げましたね。月額2950円は驚きました。
亀山 そう、とにかく会員を獲得したかったからね。
中村 予想通りの揺さぶりに、われわれは「潰されないぞ」と必死でした。
亀山 中村さんが思っているとおり、家康の力押しだよ(笑)。

英会話をフックにして海外拠点をつくる

中村 資金力のDMMに価格面で勝てないのは事実です。だからわれわれは、利用者の英語力をちゃんと伸ばせるように、レッスンを続けてもらう工夫を施したり、学校や法人向けの営業も強化しています。
DMMは個人向けが中心ですよね?
亀山 そうだね。法人向けもあるにはあるんだけど、あまり力を入れていないかな。
それよりも講師の国籍を広げたり、サービス自体を多国展開するほうにシフトしている。DMMは他事業でも海外展開しているから、英会話事業をフックとして世界中に拠点やスタッフを持てれば、海外で新しい事業をするときに人材や情報の面で有利になる。
最初はもちろん、英会話事業で収益を上げようと思ったけど、やっているうちに「これ、他の用途にも使えるな」と思った。だから、別に英会話部門はずっと赤字でもいい(笑)。
中村 その言葉を聞くと、私たちはやってられません(笑)。
亀山 レアジョブはどうしてフィリピンの講師にこだわってるの? うちは今、60カ国の講師とレッスンできるよ。人材の獲得も難しくなっていると聞くし、普通、国を広げるのが自然だと思うけど。
中村 まず、われわれがフィリピンの講師を評価しているんです。英語がきれいに話せるのはもちろん、ホスピタリティのある人が多く、受講者が言葉に詰まっても笑顔でフォローするなど、人柄が「先生向き」なんです。
それに、国を1つにしたほうが、講師の教育やレッスンのクオリティコントロール、事務手続きの面でもやりやすい。
亀山 そのあたりはうちと違うところだね。

そして、亀山氏が仕掛けた

亀山 うーん、こうやって違いを並べるだけでは面白くないな。いよいよ本格バトルに入ろうか。
後から入ってきて幅を利かせている俺たちに対して、レアジョブは腹に据えかねることもあると思うんだよね。実は、レアジョブにDMMのネガティブキャンペーンをされたっていう報告が入ってるんだ。
中村 ネガティブキャンペーン?
亀山 『アダルト会社DMMが英会話教育を名乗ってもアダルト文化は継承されている。日本の英語教育のためにもDMM以外のオンライン英会話陣営は連合組んでDMM排除しなきゃいけない』(2014年10月28日投稿)。
これ、中村さんのツイッターアカウントだよね。
*突然投下された爆弾に、中村氏はどう答えるのか。次回に続く。
(構成:合楽仁美、撮影:遠藤素子)