年間150軒、レンガの家を自動的に建設する「ヘイドリアンX」

2016/11/24

1時間に1000個積み上げ、2日で完成

 オーストラリアでの開発だが、ブリック(レンガ)を自動的に積んで家を建てるロボットが登場した。ロボットの名前はヘイドリアンX。イングランド北部に残るローマ時代の遺跡、ハドリアヌスの長城にちなんだ命名だ。
 ブリックは西欧の住宅や小・中規模ビルでよく使われる素材だ。
 たしかに、ハドリアヌスの長城もブリックが積み重なってできている。素材や積み方にはバリエーションがあるものの、ブリック積みは古くから変わらない建設法なのである。
 ヘイドリアンXは、人間の20倍の速さでブリック積みができるという。1時間に1000個のブリックを積み上げ、普通の家なら2日で積み上げが完了する。人間の作業員であれば、通常4~6週間かかるものだ。かなりの時間短縮ができる。
 ヘイドリアンXが1台あれば、年間で150軒の家を建設するのも可能だ。

 3D CADモデルとレーザー・ガイダンスシステム

 ヘイドリアンXが機能するのは、先に読み込ませておく3D CADモデルのデータと、現場で設置されるレーザー・ガイダンスシステムによる。
 3D CADモデルでは、ビルや家など建造物の構造を認識し、そこからどんなブリックがいくつ必要かを算出する。壁は、外側の外壁だけではなく、内部で部屋を仕切る内壁も同じように算出し、必要に応じてブリックをカットしたりもする。
 またレーザー・ガイダンスシステムは、ヘイドリアンXの位置と実際にブリックが配置される位置を照合し、狂いが出ないように断続的にモニターするためのものだ。
 このシステムのおかげで、精密度は0.5ミリ以下の誤差とかなり高い。作業の揺れなどによるズレが起こらないよう、毎秒1000回自己修正を行っている。
 ビデオを見ると、ヘイドリアンXの働きぶりはなかなかのものだ。ヘイドリアンXはトラックに積んで現場まで運ぶことができる。ロボット自体は基礎の土台の上に30メートル近い長いアームのような機器が統合された構成だ。
 アームの上部はベルトコンベヤーになっており、土台部分に搭載したブリックがひとつひとつ流れてくる。設置の間際に接着剤を施し、アームの先で所定箇所へブリックを置いていくという手順である。
 何層ものブリックは、まるでプリントするように下から順番に積み上げていく。もちろんブリックだけで家や建物が完成するわけではなく、配線、配管、窓やドアなどの開口部分が必要だが、その部分もちゃんと残しながら積み上げを続ける。
 そうした部分は、必要なところまでブリックの積み上げが終わった時点で作業を同時に進めることも可能のようだ。ブリックの積み上げが終われば、屋根や内装を施して、竣工(しゅんこう)となる。
 建設の自動化は、建築家や建設業者の夢だった。建設現場は典型的な3K仕事である。単純な肉体労働はロボットで代替できるはずだが、建設作業には危険も伴うのでその利点はさらに大きくなる。また、作業に無駄や遅れが出ず、正確さと効率が期待できるだろう。

高齢化で作業員不足の建設現場に

 3Dプリント技術が出てきた際には、さっそくそれを建設に応用できないかと実験する人々が出現した。私自身もそうした建設3Dプリンターを2種類見たことがある。
 ひとつは、イタリアの発明家が開発した巨大な3Dプリンターで、セメントの粉を特殊加工してノズルからプリントするのを可能にしていた。もうひとつは、MITメディアラボでの研究で、こちらはロボットアームを使い強度が高い内部の構造素材も同時にプリントできるものだった。
 だが、いずれも不定形の興味深いフォルムがプリントできるが、強度や実現性の点でもう少し時間がかかりそうだった。
 しかし、素材をブリックと特定してしまえば、従来の工法を踏襲できる部分も多い。デジタルなデータやモニタリングの機能性を産業ロボットのしくみに適用することで、ヘイドリアンXのようなロボットが現実的になるわけだ。
 オーストラリアでは、ブリック積み作業員の平均年齢は50歳と高齢化しており、すでに人手も足りなくなっているという。今後、人口増によって建設作業は増える傾向にあり、ブリック積みできるロボットへの需要は高まりそうだ。製品化は来年だという。
 ヘイドリアンXは、被災地での仮設住宅建設での利用にも期待できるという。
 ただ、ブリック積みは単純作業と書いたが、建設作業のすべてが単純に見えて、じつはそうではない。手の加減や高度な技を持つ熟練作業員の存在は、建築家たちが非常に評価し、焦がれるものでもある。ブリック積みひとつとっても、じつはそこには機械にはできない深いものがあるはずなのである。
 建設ロボットの登場を歓迎しながら、そうした人間の技の存在も忘れないでいられるような一消費者でいたいと思うのである。
*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。
(文:瀧口範子)