【麻野×横山】メンバーのモチベーションを上げる方法

2016/11/27
AKB48グループの2代目総監督を務める 横山由依さんがNewsPicksのプロピッカーと対談する連載「教えて!プロピッカー」。政治・経済からカルチャーまで、第一線で活躍しているキーパーソンと対談し、基礎から学んでいく企画だ。
今回のゲストはコンサルタントの麻野耕司さん。組織をいかに変革するかについて、ビジョンやミッションのつくり方、人事制度や人材育成などの観点からレクチャーした。
成果主義的人事制度の弊害
麻野 今回、AKB48を組織論から見た場合に特徴的な4つのポイントを挙げました。続いて、「人事制度」と「新陳代謝」についてお話しできればと思います。
まずは、人事制度から。現在、企業の人事制度は昔の年功序列から成果主義の流れになってきています。つまり、若くても頑張れば評価される仕組みを設けることで、みんなのやる気につなげています。
AKB48には、ファンからの投票をベースにして評価が決まる選抜総選挙の仕組みがありますよね。それも成果主義に似た評価制度で興味深いと思います。
横山 私が入る前から選抜総選挙はあったので、当たり前に感じていました。改めてそう言われると、斬新な仕組みなんだなと思いました。
確かに、それまではアイドルグループの中で順番が付けられることもありませんでしたし、すごいシステムだなと。
私自身は、総選挙によってすごくチャンスをもらいました。多くのファンの方の投票で選抜に入れてもらえたので、「自分はここにいていいんだ。もっと頑張ろう」と思えて、活動をすごく後押ししてくれたと思います。
麻野 その一方で、成果主義の仕組みには乗ってこないパフォーマンスもあるので、その辺を工夫して考えないといけないところもあるんです。
この人事制度は90年代ぐらいに日本に入ってきたんですけど、うまくいかなかった部分もあるんです。それは、成果は個人に還元できないものもたくさんあるからです。
例えば横山さんがメンバーのフォローをして誰かのモチベーションを上げたとする。でも、それはファンの方にはわからないですし、人気投票だけでは測れない部分ですよね。
横山 ああ、確かにそうですね。
麻野 実は、会社に成果主義を取り入れて、それが過度に進んだ結果、まわりの人をだんだん助けなくなったケースもあるんです。
横山 誰かを助けても「自分には利益がないから」と考えてしまったんでしょうか。
麻野 その通りです。売上だけで評価されるんなら、「自分のことだけしかやらない」となった。極端な例を挙げると、会社にゴミが落ちていても「拾っても評価されない」と拾わなくなるところまで行きつくこともあるわけです。
横山 ええっ、そんな風になっちゃうんですね。
麻野 そこで最近は、成果主義でも定量的な成果だけじゃなくて、定性的な部分、つまり数字に還元されないポイントにもスポットライトを当てるようになっています。
だから、AKB48も総選挙や握手会の成果で評価をしながらも、それだけでは測れないものがあることを理解して運営していくことも大事だと思います。
そうしたなかで、横山さんは常に行動のベースがAKB48のためになっている。組織視点が素晴らしいですよね。
京セラの稲盛(和夫)さんがリーダーに大事なものについて、「動機善なりや、私心なかりしか」と言っています。
横山 全然わからないです(笑)。
麻野 ちょっと難しいんですけど(笑)、動機善なりやとは、何かをやるときに、その目的が善であり、誰かのため、世のためという認識があるかどうか。
私心なかりしかとは、自己中心的に物事を進めていないかを確認することが大事だということです。
自分の欲ではなく、やっぱり人のためとか、世のために動けるような人がリーダーにふさわしく、横山さんもそういうタイプだと思いました。
横山 いえいえ、恐れ多いです。
AKB48のためには、みんなと良いコミュニケーションをとることは大事ですが、例えば私から声をかけたほうがいいメンバーもいれば、仲のいいマネジャーさんから言ってもらったほうがいい場合もあるので、そこは考えるようにしています。
麻野 リーダーがメンバーをマネジメントしていく上で大事なのって、やっぱり一人ひとりのメンバーの特性に合わせることなんです。結局、組織のなかでうまくいかないのは、「みんな違う人たち」だから。その違いがお互いのモチベーションを下げ合うこともある。
例えば私たちはモチベーションのタイプを何タイプかに分けています。典型的なものとしては何かを成し遂げることにモチベ―ションを見いだす「アタックタイプ」と、誰かのためになることにモチベーションを感じる「レシーブタイプ」があります。
私はアタックタイプなので、昔は「こんな大きなビジネスに挑戦しよう」「難しい問題をみんなで解決しよう」といつでも言いまわっていたんですが、ある時、チームメンバーのモチベーションを全然高められずに失敗したことがあります(笑)。それは、チームメンバーにレシーブタイプが多かったから。
そこでは、「私たちがこの仕事をやると、世の中の役に立つよ」と伝えた方が良くて、「売上10億出るから頑張ろう」と言っても興味を持たれないのは当然でした。
お互いの違いを理解してコミュニケーションすることが大事なので、横山さんのように、一人ひとりの特性を見て、「誰から伝えたほうがいいか」「どんな言い方をしたら効果があるのか」を考えていることは大事なことです。
横山 本当ですか、よかったです。
人材の新陳代謝と採用の課題
麻野 それでは最後が、「人材の新陳代謝」とそれに関係する採用について。やっぱり組織は新しい人が入るとともに、古い人が辞めないと、環境の変化に適応できなくなるんです。
AKB48はアイドルグループにおけるCDセールスの金字塔を打ち立てましたが、それができたのも「新陳代謝」のシステムがあったからだと思っています。
他のアイドルグループは固定化された組織だったので、「人気メンバーが辞めてしまう」「流行が変わる」などの社内外の環境変化に対応できずに終わってしまうことが多かった。
それに対して、AKB48は「新陳代謝」が促されるシステムになっているので環境変化に強い。ここがよくできているポイントですね。
横山 改めて聞くと、そのとおりなのかもって思いました。もう1期生で残っているメンバーは2人だけですし、今後は16期生が入ってくる予定です。
ファンの方が離れない理由の一つに、どんどん新しい子が入ってくるので、卒業したメンバーを推していても、次の子を応援しようとなることもあります。
麻野 これだけみんなが卒業しても続くのは、素晴らしい採用とか代謝の仕組みがあると思います。ただ、人材採用に完璧はないので、磨いていく部分もあると思います。
そこでは、「どういう人を採用すべきか」「どういう人に残ってもらえるような組織にするのか」など、採用や代謝の要件をしっかりと固めることが大事です。
横山さんが採用に関わることはあるんですか。
横山 16期生に関しては今までどおり運営スタッフが決めるんですが、私たち現役のメンバーが自分のチームに欲しい人材を採るドラフト会議というシステムのオーディションもあります。そこでは、候補の子たちのレッスンの様子などを見て、AKB48の各チームが選びます。
それに関していえば、「若いメンバーが欲しいチームは、若い子を採る」くらいで、やっぱり私たちは採用に関して目が肥えていません。その日輝いて見えたから採用したけれど途中で辞めちゃった子もいますし、もう卒業した子もいます。
「人材採用って難しいんだな」と、その経験ですごく感じました。
麻野 これは本当に難しいんです。例えば、ベンチャー企業も最初の頃は、「自分がその会社をつくるんだ」といって入ってくる人が多いんです。大企業の内定を断ったり、新しいプロダクトをつくりたくて来たりする人が多くて、活性化するんです。
でも、会社が大きくなってから入社してくる人はメンタリティが違うことが多い。
NewsPicksの親会社であるユーザベースも上場しましたが、たぶん昔はもっとボロボロのオフィスで働いていたと思います。でも、こんな風にオフィスは立派になりました。そのなかで、会社に依存したり、会社に入ったことで満足しちゃったりする人が出てくる可能性があります。
横山 AKB48もそうなんです。会社も同じなんですね(笑)。これが今一番の課題です。新しく入った子でも、AKB48を変えようとか、もっと上にいきたい、頑張りたいという人数のほうが少ないなって感じます。
麻野 会社や組織が大きくなるにつれて、ベンチャー的なマインドを持った人が減っていくのは通常のことです。ですから、それを踏まえて、いかにそうしたマインドを醸成できるかがポイントになります。
横山 それをつくるにはどうしたらいいんでしょうか。
麻野 やはり、「メンバーが自ら考え、動く機会をつくる」ことだと思います。
大きく成長した後も、ベンチャー的なマインドが強い会社はあります。例えば、リクルートやサイバーエージェントなどは、よく新規事業提案制度をやっています。
これは、「良い事業の提案が欲しいからやっているのかな」と思っていたんですが、必ずしもそうではありませんでした。
関係者に話を聞くと「自分で考えて動くようなカルチャーをつくるためにやっているんだ」と答えたんです。
つまり、新規事業提案の機会があることで、「うちの会社に何が足りないんだろう」「これをやったらうまくいくんじゃないか」とみんなが考えて、自分たちが会社をつくっている気持ちが生まれ、それがベンチャー的なマインドにつながるわけです。
ですから、横山さんもメンバーに「これからAKBってどうしていくのがいいと思う?」と問いかけたり、AKB48をどうすべきかの提案大会をしたりすると、マインドの醸成に効果的かもしれません。
横山 そうですね。私もメンバー一人ひとりの話を聞きたいと思って面談をしたんです。「個人として将来どうなりたいのか」「今のAKB48で何をやりたいか」を聞くなかで、ファンの方との交流イベントを提案してくれた子がいたので、その企画を実現しています。
麻野 なるほど。もっと言うと、みんなでAKB48をよくしていくカルチャーをつくるためには、その提案したメンバーの子をみんなの前で褒めてあげて、グループ内にプロモーションすると効果的かもしれません。
そうすると、「提案すると総監督に褒められるんだ」という気持ちになって、みんなのモチベーションが上がります。
横山 なるほど。そういう視点は初めてでした。確かに個人個人に褒めることはあっても、みんなの前で褒めることはなかったので、やってみようかな。
――それでは、本日お話ししてみていかがでしたか。
横山 AKB48を組織やビジネス的な視点で客観的に見る機会もないので、4つのポイントから改めて見つめられました。中にいると、行き当たりばったりでやっているんじゃないかなと思うことも多かったんですけど、ちゃんとした仕組みになっているんだなって(笑)。
麻野 私は、アイドルではなく、普段の仕事で経営者やマネジャーの方と話す感じでしたね(笑)。
かなり噛み砕いてお話しした方が良いのかなと思っていたのですが、やっぱり普段から「どうなったら組織が良くなるんだろう」と大事なポイントを押さえて考えているので、話がすぐ通じたと思うんですよね。その点に驚きました。 
横山 いえいえ、ミッションとビジョンのお話などは、今一番考えなきゃと思っていたので、すごく参考になりました。本日はありがとうございました。
麻野 こちらこそありがとうございました。
(構成:菅原聖司、撮影:遠藤素子)
*次週は連載をお休みいたします