【合宿告知】ワナビー人材を“覚醒”させる森永製菓の試み

2016/11/21
100年以上の歴史を持つ森永製菓が今、変革を渇望している。新たな価値をもたらす“変革人材”を育てるべく、有望な社員をベンチャー企業に「留学」させる制度をスタート。その第1期に選ばれた二本木遼氏は、突如としてアフリカ大陸ウガンダに拠点を置くスタートアップへと送り込まれた。異国での濃密な体験は新卒3年目の若者をどう変えたか? 帰国直後の同氏と、制度の発起人である金丸美樹氏に話を聞いた。
北海道から抜擢、急遽ウガンダへ
10月下旬、森永製菓本社の会議室にて、“送り出した”金丸氏と、“送り出された”二本木氏は1年ぶりの再会を果たした。ドアを開けて顔を合わせるなり、がっしり肩を組んで笑う二人。
二本木氏は慶應義塾大学大学院から森永製菓に新卒入社し、北海道支社で約3年間法人営業を担当していた人物。「ベンチャー留学制度」の第1期として抜擢された直後、金丸氏がチーフマネジャーを務める「新領域創造事業部」に異動、その1カ月後にアフリカへと旅立った。
ここに出発直前の二本木氏の姿をとらえた写真がある。そこには期待よりも大きな不安を漂わせる、少し頼りない青年が映っている。
出発当日に空港で撮影された動画の1カット。緊張から話す言葉もやや震え気味。
対して、アフリカ帰りの二本木氏がこちらである。
「ウガンダでは海産物がまったく食べられなかった」という二本木氏のために寿司が用意された。
……それほど変わっていないように見えるかもしれない。だが、インタビューが進むにつれて、金丸氏は驚きをあらわにした。「本当に二本木君? まったく別人! はるかに予想を超えて、怖いくらい成長してきたみたい」
新事業創出と人材育成の両輪をつなげる
森永製菓が2014年にスタートした「Morinaga Acceleratorプログラム」は、新領域創造事業部が柱に据えるミッションのひとつ。
社外のベンチャー企業と手を組み、補完し合いながら革新的な未来のビジネスを共創していく試みだ。具体的にはビジネスプランコンテストで選抜された有望なチームの事業開発を、出資や事業提携などにより支援していく。
こうしたプログラムを実施する大企業は増えているが、食品業界では初となる取り組みであり、二本木氏が留学した「Afri-inc」も同プログラムによって選ばれた。
Afri-incはウガンダを拠点とし、流通システムの整備が遅れている現地の「流通網の構築支援」を行っているベンチャーだ。当然、ビジネスの相手はウガンダ人。何もかもが異なる環境に、現地についたばかりの“留学生”はひたすら戸惑ったという。
「まず驚いたのが、現地の企業は営業の数値管理が全くできていないこと。『今日はどの商品がどこにいくら売れた』といった数字すら管理できていない。Afri-incは営業活動を可視化するアプリを現地企業向けに提供し、改善の支援を行っています。
私の当初の仕事はカスタマーサポート。実際にシステムを運用する顧客側の担当者の意見を吸い上げて、技術者にフィードバックしたり、顧客に使い方をレクチャーしたりといった業務を担当していました。
後半の半年間は、そのデータを元に顧客の業務改善を支援する一方で、開発面でアプリの新機能の仕様を考えるなど、上流の業務も経験できました。ビジネスの全体を見渡すことができたのは、日本の大企業で“分業”に慣れていた自分にとって新鮮でした」
 “大企業からのお客さん”ではなく戦力にならなければ意味がないという決心のもと、1年間全力で仕事を続けた二本木氏。慣れない生活で体重は8kg減り、寄生虫にやられ、白血球の濃度は「危険水域」まで上昇していたという。
嘘、ごまかし、裏切りは日常茶飯事
だが、そうした身体面以上に厳しかったのは、日本式ビジネスの流儀などまるで通用しないウガンダの現実だった。
「日本人とはモラルの感覚がまるで違う。たとえば、営業スタッフが本当は5000円の商品を2万円でお客さんに売って1万5000円を自分のポケットに入れるとか、商品に手を付けてしまうとか……だんだん最初から信じないほうが楽だと思えてきて。それが結構つらかったです」
言葉の壁以上に “常識”が異なる人たちをなだめすかし、伝え方を変え、正しく仕事をしてもらえるよう粘り強く働きかけた。
「Afri-incの代表はマッキンゼー出身で、アフリカでのビジネスについて筋の通ったポリシーを持っている人物。それに引き換え自分は、英語ができるわけでも、コードが書けるわけでもない。最初は周囲の日本人メンバーと自分を比べて、強い劣等感を抱いていました。
それでも、『自分が考えて判断しなければ会社が止まる』という状況を無数に経験していくなかで、その感覚が変わっていきました。いつの間にか現地スタッフはもちろん、代表や他のメンバーに対しても自分の意見をズバズバ言えるようになって」
二本木氏にとってウガンダという国は、「自分が何者か」を知らない人間や、「自分が何をすべきか」を自覚していない人間のままでは、生きていけない環境だったのだという。そんな二本木氏を見ながら、金丸氏は言う。
「1年前までの彼は、“周りから期待されるような答えを言おう”、“周囲が求める二本木君になろう”としているところがありました。それが今は100%、自分の言葉で自分の意見を話している。だから言葉が重い。そこが一番、生まれ変わった部分だと感じます」
森永製菓が求める“イノベーター人材”
──そもそも、なぜ二本木さんは「ベンチャー留学」を志願したのでしょうか?
二本木:北海道での営業はやりがいがありましたが、学生時代に比べて、自分の中に“ギラギラしたもの”がなくなったことに焦りを感じていました。でも、何をすればいいかわからなかった。
そんなときに大学院時代の同級生に会って、「お前は牙が抜けた、丸くなった」と言われて。とにかく現状を変えるきっかけがほしかったんです。
金丸:森永製菓には、昔から“良い人”が多いんです。それ自体は社風として誇れる点でもあるのですが、われわれは「良い人ばかりで強い人がいない」ことに課題意識を持ってきました。
老舗の食品メーカーでも、昔からの価値に甘んじているだけでは時代に取り残される。周囲からの批判を恐れずに、“出る杭”になってチャレンジする実行者が必要なんです。
二本木君は優秀だからこそ、“良い人”の社風に馴染んでいく中で、かつての自分とのギャップに悩んだのだと思います。それでベンチャー留学に飛びついてくれた。
二本木:ただ、まさか1年まるまるアフリカに行くとは考えていなかったです(笑)。
金丸:エネルギーを持て余した大企業の社員は、刺激的な環境に放り込むことで劇的に生まれ変わる、というのがわれわれの考えでした。いまだから言えますが、二本木君にはその実験台になってもらった部分もあります。
いまの時代、 “イノベーション”というとベンチャーの専売特許のようですが、実際には大企業こそ改革者を求めているし、それを育てる方法もある。二本木君が成長して帰ってきたことで、そのコンセプトがお飾りでないことを証明できたと思います。
大企業の「静止摩擦力」を乗り越える
──1年ぶりに帰ってきて、今の二本木さんの目に森永製菓はどう映っていますか?
二本木:森永はその伝統の長さゆえ、堅実に業務を遂行できる社員が多数いることは大きな強みです。ただ、歴史が長い企業はそのぶん“静止摩擦力“が大きく、新しいチャレンジに対しては必ずアレルギー反応が出ます。
森永に入社してからの自分は、何か新しいアイデアを考えても、「自分がしゃしゃりでていいのか?」「本当に実現できるのか?」とリスクばかり頭に浮かんで、言葉にすることができませんでした。
でも、アフリカでの体験を経て、自分の意見を通すためにはどうすべきか、何を準備すべきかが分かるようになったし、静止摩擦の超え方も以前より遥かにうまくなっているはず。1年前とは違うアプローチで、自分のやるべきことを発信していきたいです。
金丸:老舗企業といえば保守的なイメージですが、森永は菓子メーカーなので、本当はみんな新しいモノ、コトを作るのが好きなんです。静止摩擦が大きいという話が出ましたが、そこを飛び越えたあとはすごくバックアップしてもらえる。
今年から通常採用とは別に「イノベーター人材採用枠」を設けます。求めるのは「自分で考えて動ける人」。何がしたいのかを自覚していて、自分のパッションと会社が向かうべき方向性がリンクするところを見つけて走れる人です。
そうしたイノベーターの卵にとって森永製菓が魅力ある企業だと認知されるためにも、今後もベンチャー留学制度は継続していきますし、アクセラレータープログラムをより活性化させていく必要があると考えています。
「自分で考えて動く」採用合宿
金丸:われわれは年明けに育成研修のための合宿を行います。合宿ではセミナーとワークショップを通じて「自分で考えて動く」ことを体感し、実践していただきます。
そして、研修全体を通しての姿勢や意欲、成果、適性を見て「イノベーター人材採用枠」の候補として選考させていただく予定です。
私たちと一緒に改革したい方、新しい事業や新しい世界に挑戦したい方に、是非参加して欲しいと思っています。
(編集:呉 琢磨、構成:榎並紀行/やじろべえ、撮影:岡村大輔)