【総集編】トランプの側近、ピーター・ティールの逆張り人生

2016/11/14
トランプ次期大統領の政権移行チームへの参加が決まった、ピーター・ティール。シリコンバレーの代表的な人物として知られるティールは、どんな人生を歩んできたのか。どんな思想の持ち主なのか。NewsPicksでティールを取り上げた過去記事とともに、その生涯を振り返る。

フェイスブックを見出した男

「私はゲイであることを誇りに思う。私は共和党員であることを誇りに思う。そして何よりも、私はアメリカ人であることを誇りに思う」
2016年7月22日、オハイオ州クリーブランドで開かれた共和党全国大会のスピーチでピーター・ティールはこう語った。
ティールは、シリコンバレーを象徴する人物と言える。起業家であり、投資家であり、思想家でもある彼は、「知の怪物」のような存在だ。
オンライン決済サービス「ペイパル」の創業者の一人であり、現在は、ヘッジファンドの「クラリアム・キャピタル・マネジメント」、ベンチャーキャピタルファンド「ファウンダーズ・ファンド」、データ分析会社「パランティア」などを経営している。著者の『Zero to One』は日本でもベストセラーとなった。
ティールが、一躍その名声を高めたのは、フェイスブックへの出資だ。
2004年、創業初期の同社に50万ドルの資金を提供し、その投資は2012年の上場によって6.4億ドルに化けた。実に元本の、約1300倍だ。
彼の教養のバックボーンとなっているのは、哲学だ。
スタンフォードの学部時代には哲学を専攻、政治哲学者のレオ・シュトラウスの思想に影響を受け、保守系の雑誌『スタンフォード・レビュー』を立ち上げた。学部卒業後は同大のロースクールに進み、法哲学などを学んでいる。
「ティールは哲学を学んだから、投資家として成功した」──そう結論づけるのは強引すぎるが、哲学を通して培った思考力が、彼の成功にいくらか寄与したことは間違いない。
哲学は物事を根本からとらえ、常識を疑い、真理を追求するための学問だ。クリティカルシンキングを鍛えるには最高の教材と言える。
ベンチャーキャピタリストは、人が注目していないもの、人が肯定的に評価していないモノの中から、ダイヤの原石を見つけ出す職業だ。
原石探しに成功するには、いかに他人の意見に惑わされず、本質を考え抜くかがポイントになる。つまり、哲学とベンチャーキャピタルの仕事は相性がいい。
そして彼は今回、トランプ批判一色のシリコンバレーにおいて、トランプ支持を公言し、125万ドルを寄付し、共和党大会でスピーチを行った。
もしヒラリーが勝利した場合、彼はシリコンバレーから追われるのではないかと危惧する声もあったが、勝者となったのは彼だった。

ティール流思考の真髄

彼はゼロから1を生み出すような、革新的なベンチャーを生むためには、次の3つの問いを考え抜かなければならないと言っている。
「何に価値があるのか?」
「あなたに何ができるのか?」
「誰もやっていないことは何か?」
3つの問いを一文で言い換えれば、「誰も立ち上げていない、価値あるビジネスとは何か?」ということだ。この問いに対して、「たいていの人はAを信じているが、真実はBである」と答えられれば、その事業は正しい道に進んでいると言える。
今回のトランプへの支持は、「誰もがヒラリーが勝つと信じているが、真実はトランプが勝つ」というティール流思考そのものだった。
ティールの投資案件の中で、とくに彼流の「逆ばり思考」が発揮されているのが、大学中退者への資金援助プロジェクトだ。
今は、米国に限らず、世界中の人間がこぞってアメリカの大学に群がっている。そうした時代にあって彼は、「大学はバブルであり、高い学費に見合うとはとうてい思えない」と主張し、「大学を中退して起業することによって、大学教育がいらないことを証明せよ」と若者に訴えている。
そのために彼は、大学を中退した20歳以下の起業家に対し、1人当たり10万ドルの奨学金を支払うプロジェクトを始動している。
もうひとつの、ティールらしい投資案件が海上国家の創設だ。
ティールの思想の骨格をなすのは、リバタリアニズム(自由至上主義)である。
その理想を実現すべく、リバタリアニズムの祖であるミルトン・フリードマンの孫とタッグを組み、2008年からサンフランシスコ沖の公海上に独立国家を作るプロジェクトを進めている。
彼らの抱く野望とは、社会福祉や最低賃金の廃止等を押し進め、フリードマンが著書で示した、規制のないリバタリアン国家を作ることだ。
ティールはこのプロジェクトに125万ドルを投資しており、2050年までに数千万人が居住する主権国家とすることを目標に掲げている。

最も優秀な学生の条件

その賛否はともかく、ティールの思考のスケールの大きさは際立っている。
ただ単に金融や会計といった専門知識を学んできた人間からは、こんな構想は出てこない。真に革新的なアイディアを生み出すためには、やはり教養が欠かせない。
2012年、スタンフォード大のコンピューターサイエンスの学部で起業について教えていたティールは、最初の授業でこう述べている。
「人文科学を専攻すれば、世界について多くのことを学べるだろうが、仕事に必要なスキルは学べない。一方、エンジニアリングを専攻すれば、技術について多くを学べるだろうが、そのスキルを、なぜ、どのように、どこで応用すべきかは学べない。最も優秀な学生、社会人、思想家とは、これらの問いを首尾一貫したナラティブに統合する人である」
人文科学を軸にした教養と、エンジニアリング・ファイナンスの実践的なスキルを統合して、大きな物語を生み出す。今回のトランプへの逆張り支持には、ティールらしさが存分に発揮されていた。
そんなティールの思想やスタンフォード大学での日々などについて、NewsPicksでは、過去4つの連載、合計26本の記事で取り上げている。彼の思考法を知るとともに、トランプ政権の行方を読むためのヒントにしてほしい。
(バナー写真:AP/アフロ)