トランプ政権は中国に「貿易戦争」を仕掛けるのか

2016/11/13
選挙期間中、中国を激しく批判してきたドナルド・トランプ。大統領就任後、実際に中国に対して「貿易戦争」を挑むのか。そして、米中にはそれぞれどのような「攻めのカード」があるのか。ニューヨーク・タイムズのKeith Bradsher記者がレポートする。

中国と米国の貿易戦争

大統領候補だった当時、ドナルド・トランプは中国を激しく攻撃した。
「われわれはすでに貿易戦争の最中にある」と宣言し、「米国には中国よりも強い経済力がある」と不穏な示唆をした。
米国の大統領に就任すると、大衆迎合的な発言によって台頭してきたトランプは、その主張の要である貿易を武器として使うことができるようになる。
それにより、世界の二大経済だけでなく、両国間の大規模な貿易に依存している企業や産業、労働者を大きく変えてしまうかもしれない。
ただ、どちらの側も勝利できない可能性もある。
貿易を遮断しても、中国が世界の工場になる中でここ数十年間に失われた米製造業の雇用の大半は戻ってこない。
何年も前に米国を離れた衣料品や軽製造業などの産業はすでに、もっと安価な生産拠点を探して中国から移転している。
中国に攻撃的な姿勢をとれば、経済ナショナリズムでは米国に負けない権威主義政府の反感を買うリスクもある。

中国をたたく方法は数多くある

しかし、中国政府にとって不安なのは、中国をたたく方法がいくつもあることだ。
トランプやその支持者、または損害を受けている産業が、不公正とみなす中国の貿易慣行に関して、できることは多くある。
たとえば、中国は幅広い製品を米国に輸出しているため、どの製品にも高い関税をかけることができる。
一方、中国の報復の機会はより限定的だ。基本的に、中国が米国から輸入している製品は輸出ほど多くない。
ただし、中国はボーイングや米自動車メーカー、米農業などに的を絞って、戦略的な攻撃を仕掛けることができる。
中国は航空会社を厳しく規制しており、当局が米政府が非協力的だと感じる場合には、ボーイングの欧州のライバルであるエアバスに契約を誘導することがある。
中国商務省の元幹部で、現在は影響力が強い北京の中国国際貿易学会中米欧研究センターの共同所長を務める何偉文(ヘ・ウェイウェン)は、「ボーイングは、『中国と極めて友好的な関係にあるのに、なぜわれわれがいつも標的になるのか』と文句を言っている」と語る。
あるいは、中国はiPhoneや自動車部品など幅広い製品の背後にある大規模だが繊細なサプライチェーンを混乱させることもできる。 6年前、中国があまり知られていないが不可欠な鉱物の輸出を制限したことから、世界中の製造業は悲鳴を上げた。