「サードウェーブ系コンサル」だからできること

2016/11/15

プロジェクトマネジメントという「金脈」

コンサルティングファームでは長時間労働、深夜残業が当たり前だと思っていないでしょうか。戦略系コンサルの平均残業時間が51.5時間、IT系コンサルは40時間(注)と言われています。私自身の大手コンサルティングファームにいた経験からいうと、現実はもう少し長い印象もあります。
マネジメントソリューションズの社員の平均残業時間は月に20時間程。なぜ、私たちのような新興の小さなファームが東証一部上場の大企業ばかりを相手にして、長時間の残業もせずに急成長できているのか。それは、大手ファームができない「プロジェクトマネジメント」という「金脈」を掘り当てたからです。
私がこの「金脈」を掘り当てた経緯からお話ししましょう。
高橋信也 マネジメントソリューションズ 社長 CEO
上智大学経済学部卒。大学卒業後、アンダーセン コンサルティング(現アクセンチュア)入社。CやC++によるプログラミングから業務設計まで幅広い工程を経験。キャップジェミニ、SONY Global Solutionsを経て、2005年 株式会社マネジメントソリューションズを設立。

「IT+コンサル」の波

コンサルに興味を持ったのは、高校時代に大前研一さんの『世界が見える日本が見える』を読んだことがきっかけです。当時は「コンサルになりたい」とまでは考えていませんでしたが、就職活動を前に、「自分には何が向いているのか」と自分の立ち位置を深く考えるようになりました。
自分は終身雇用・年功序列の中でキャリアを積んでいくタイプではないと自覚していました。だからといって、すぐに独立することもできません。『フューチャーワーク』(Charles D. Winslow/William L. Bramer著)を読んだことで、ITとプロセスが世の中の組織を変革する起爆剤になりうることを知りました。そして、「これは面白そうだ」と感じ、新卒でアンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)を選択したのです。
当時から、「IT+コンサル」の足し算によって何か新しい価値が生まれるだろう、とは感じていました。マッキンゼーやボストンコンサルティングなどの戦略コンサルがコンサルの最初の波を作ったとすると、「IT+コンサル」という新しい第2の波が来た、と直感的に感じたことを覚えています。
アンダーセンには3年間所属しました。いつかは独立したいと考えていたので、プロジェクトマネージャーとしてプロジェクトを受注し、最後のデリバリーまで担当するようなポジションを希望していました。しかし、当時のアンダーセンは上場に向けて規模を拡大していたこともあり、たとえマネージャーになれたとしてもプロジェクトのすべてを任せてもらうのは難しい状況でした。3年目に転職を決意しました。

夜9時以降に働くのは非効率

もう一つ、転職を考えた理由。それは、長時間働くカルチャーでした。
私は基本的に夜9時以降に働くことは非効率だ、と考えています。そもそも、コンサル業界で若手が長時間働いて、どれだけの価値が生まれるのか疑問でした。だから、自分の仕事をできるだけ早く仕上げて、早く帰っていました。しかし、先輩からの評価がもっといいと思っていたのに、そうではありませんでした。理由を聞くと、「お前はすぐ帰る。みんなの仕事を手伝えよ」というわけです。先輩ができないからダメなのでは。どうして、できる自分の評価が下がるのかと不満でした。
徹夜をするような仕事の受注、役割分担、チームワークこそが異常だと思いませんか。なぜ徹夜するほどの残業をする必要があるのか。それに意味はあるのか。
プロジェクトマネジメントの重要性を感じるようになった原点はここにあります。

VAIOプロジェクトで得た課題

その後、アーンスト・ヤング・コンサルティング(後にキャップジェミニ、現クニエ)を経て、ソニーグローバルソリューションズに転職しました。起業する前に、一度は事業会社を経験したいと思ったのが理由です。
ソニーグローバルソリューションズでは、当時全盛期だったパソコン「VAIO」事業を効率化するためのシステムをグローバルで導入するプロジェクトに関わりました。プロジェクト規模は数10億、ベンダーは18社、システム開発側で約100人の人員を束ねるPMOの立場でした。PMOとは、Project Management Officeの略で、組織内における個々のプロジェクトマネジメントの支援を横断的に行います。
自由闊達な文化を持つソニーグループではあっても、いざプロジェクトを進めようとすると、さまざまな組織の壁にぶち当たります。組織を横断的に調整して意思決定をしなければプロジェクトは進みません。この壁を乗り越えて、プロジェクトを成功に導く。これが、プロジェクトマネジメントです。
同じ会議の場にいても、組織や部門が違うだけで話が通じない、納得してくれないと感じたことは誰にでもあると思います。コンサル時代はこれを傍から見ていたのですが、実際に自分が組織の中に入って感じたものとは別物でした。この学びは大きかったです。
もちろん、システムインテグレーターもプロジェクトマネジメントを提供はしています。ただ、彼らに発注すると、彼らの利得になるバイアスがかかりやすい。そのとき、一人だけ、システムインテグレーターから独立した立場で、プロジェクト全体のことを中立的な立場で考えて支援してくれた人がいました。その人の仕事ぶりを見て、外部からプロジェクトマネジメントだけを請け負うことを思いついたのです。

アウトバウンドでの営業なし

その後、2003年のソニーショックの影響もあり、日本発、ソニー発のグローバルコンサルティングファームになるという当初の夢も絶たれて、ソニーグローバルソリューションズを退職しました
当時、長男が5歳、妻のお腹の中には第2子がいました。妻がよく反対しなかったなとも思いますが、ほかに選択肢もなく独立を決意。2005年、マネジメントソリューションズを創業しました。
最初のクライアントは某大手システムインテグレーターでした。ある通信キャリアの法人向けサービスを提供しているシステム全般を請け負い、関わるメンバーは 最大300人という大規模プロジェクト。システムインテグレーターの孫請けという形でしたが、PMOとして参画しました。
その後も、大手メーカー、コンサルティングファーム、システムインテグレーターから次々とPMOの依頼が舞い込むようになっていきました。それらの経験を元に、PMI(Project Management Institute)での講演活動や社員のトレーニングプログラムを開発し、 2010年には「PMO導入フレームワーク」(生産性出版)を上梓しました。
それからというもの、こちらからアウトバウンドでの営業をかけたことは一度もありません。プロジェクトマネジメントはニーズがあるのに、誰も「プロフェッショナル」として手掛けてこなかった、正に「金脈」だったと思っています。
最近ではIT系だけではなく、大型の建設など、非 IT 系のプロジェクトも引き受けるようになりました。どんなプロジェクトにもどこかにリスクがあり、課題があるのです。それを俯瞰して見るのが、プロフェッショナルのPMOです。

付加価値を長時間で補う文化をなくす

我々がやっているプロジェクトマネジメントは、サードウェーブ系コンサルだと思っています。戦略系コンサルという第1の波、IT系、会計系コンサルという第2の波に続く、次の波という意味です。
コンサル業界全体は変わる必要があり、そのためにもまずは働き方を変えないといけません。そもそも、コンサルタントは1時間あたりの付加価値を高め、短時間でも高い収入を得るプロフェッショナルな仕事のはず。ですから私は、今なお根付いている「付加価値を長時間労働で補う文化」をなくしたい。
PMOとしては、何よりもプロジェクトの成功が大切です。ビジネスで重要とされる要素は「Quality(品質)」「Cost(予算)」「Delivery(期日)」の「QCD」と言われますが、その中でも最近のプロジェクトでは特に、期日を重視しています。ですから、「期日を遵守するためにどうするのか?」を考えたとき、マネジメントソリューションズは、発注側のクライアントの立場で、全力で解決策を考え、中立・独立の立場で支援します。
その大前提として、一人ひとりが自律的にキャリアを形成し、働ける世の中を常にイメージしています。誰しも自分の経験や専門性を価値に変えて生きていくべき。働いた人がどこに行っても独立して働けるような社会にしていかないといけないと思っています。
(取材:久川桃子、流石香織 写真:稲垣純也)
(注:DODA 残業時間実態調査 2012年)