エンジニアを自然のなかに解放。「アウトドア開発」は何を生むか

2016/11/18
日本オラクルが10月末に都内で開催した「Oracle Cloud Developer Day 2016」で、スノーピークのキャンプ用品で設営された展示“キャンプグラウンド”が登場した。「エンジニアをアウトドアに解放する」をテーマに行われたセッションでは、現代のエンジニアやビジネスパーソンに “キャンプが及ぼす影響”について、熱のこもった提案が行われた。
アウトドアが創造性を引き出す
「書を捨てよ、町へ出よう」ーー昭和のアーティスト寺山修司の作品名だ。そして現在、生産性アップを迫られ、さらにはAIに仕事を取って代わられかねない現代のビジネスパーソンに、「PCを持ち、自然に出よう」と提案する人たちがいる。
ソフトウェア開発に限らず、仕事といえばオフィス、そして空調の効いた閉じられた空間を想像するだろう。「アウトドア」と「ビジネス」は関連性がないように響くが、日本オラクルでクラウド・テクノロジー事業統括 Cloud Platform事業推進室 エバンジェリストを務める中嶋一樹氏は、「アウトドア開発」を提唱する。
「エンジニアとしてキャリアを積むと、どういう時に自分のパフォーマンスが良いのかがわかってくる。自分の場合は、キャンプに行って早起きし、自然の音を聞きながらPCに向かう時にパフォーマンスが上がっていることを感じ、フロー状態にも入りやすい」(中嶋氏)
中嶋氏が10月中旬の土日を利用し、1人で行ってきたアプリ開発キャンプの様子。その2日間で開発した、LINEのボットを活用して食事と健康状態の管理ができる“栄養管理サービス”のデモも、今回のセッションで披露された。
日本の開発者を取り巻く労働環境は、世界的に見ても厳しいーー次々に出てくる新しい技術やトレンドを習得し、顧客が望むサービスや機能を開発しなければならない。欧米では引く手あまたで待遇もいいが、日本の開発者の労働時間は長く、報酬も低いという調査結果もある。
仕事に対する満足度が低いとなると、ハッピーとは言えない。だが開発とは本来創造的な作業だ。中嶋氏にいわせれば、「アウトドアは開発の喜びを実感し、ハッピーになる手段」だという。
「本来、開発は楽しい作業であるはず。それなのにやりがいが感じられないというのはなにかがねじれているのかもしれない。修正する方法の1つとしてアウトドアを提案したい」(中嶋氏)
野外にオフィス以上の環境を作る
このようなアウトドア開発を実現しているのは、クラウド、軽量かつパワフルなPC、張り巡らされたネットワークなどデジタル技術の進化だ。ITにより遠隔でもかなりのことができるし、コーディングそのものは場所を問わない。
カフェやコワーキングスペースで働く「ノマド」から一歩進んで、自然のなかへ。「アプリ開発は単なる労働ではなく創造的な仕事」と中嶋氏、豊かな自然に身を置いて開発体験を変えると、結果としての成果物もよくなるという。
イベント会場内に設置された展示「キャンプグラウンド」では、スノーピーク社製のアウトドアグッズを使い、焚き火を囲んでのミューティングや遠隔地とのビデオ会議までできる環境が提案された。
中嶋氏と共にセッションに登壇したのが、同じように「ビジネス×キャンプ」の可能性の魅力にとりつかれた村瀬亮氏だ。同氏は今年7月に、アウトドアブランドの「スノーピーク」との合弁会社「スノーピークビジネスソリューションズ」を共同で立ち上げ、代表取締役に就任した。
もともとITベンダーを経営してきた村瀬氏は、“社員が自立して生き生き働く会社”を目指して、長年さまざまな施策を進めてきた。「アウトドア」に大きな可能性を感じ、2015年春にキャンプ用品一式を購入、まずは自分が1週間のキャンプに出た。
「スケジュールをやりくりして出発したが、この週に新入社員の入社式があって」と苦笑い。キャンプ先から新入社員に訓示を送り、スクリーン越しに記念撮影の輪に加わったという。
法人向けソリューションとして「野外」を提供
そのときに購入したテントなどがスノーピークブランドだったこともあり、村瀬氏はその年の夏のスノーピークのユーザーイベントに参加、そして年末にはスノーピークの本社のある新潟で代表取締役社長、山井太氏と会った。
面会時間は1時間、その場で法人向けのアウトドア・ソリューションを提供する「スノーピークビジネスソリューションズ」の立ち上げが決定する。現在、同社は「OSO/TO(Outdoor Small Office/Third Office)」として、「オフィスを変える」「働く場所を変える」「つながり方を変える」の3つを支援するソリューションを提供している。
「自然に出ることでインスピレーションが生まれるし、設営や食事作りを一緒にやることでチームの関係がよくなる。チームビルディングの手段として、キャンプは最高の方法になりうる」。村瀬氏の口からは次々とメリットが出てくる。
設立から数カ月、すでに横浜DeNAベイスターズや崎陽軒、相模鉄道など50社以上が、同社のコンサルティングやサポートを受けて、「ビジネス×キャンプ」を利用しているという。
「自社の役員会をテント内の座卓を囲んで行うようにした結果、殺伐としていた雰囲気が一気に前向きになった。また、会社のメンバーで焚き火を囲むと、自然と会話が広がり、全員が仲良くなる。チームビルディングにも極めて効果的」(村瀬氏)
AI時代こそ「自然」を知ることが強みに
自然に出ることを推奨するもう1つの理由があるーーAIの台頭だ。経営者として20年近くITの流れを見守ってきた村瀬氏は、AIの時代になるからこそ、自然を知っていることが人間の強みになると信じている。
「AIにより、一部の人間の仕事がなくなることは間違いない。そんなとき人間は何をするかーー答えはないが、創造性のある仕事、わくわく感のある仕事、人間関係が重要な仕事になるだろう」(村瀬氏)
人間らしさを自然の中で回復しておくことは、来たるべきAIの時代で振り回されず恩恵を受ける側になるためにも必要だと続けた。
開発者に限らず、ビジネスパーソンにとって自分のコンディションや状態を知ることは重要だ。オフィスにずっと座っていては、自分の生産性や冴えの変化に気がつかない。自然と関わることは、自分を知ることにもつながるのかもしれない。
中嶋氏は自身が得た感触を踏まえ、日本オラクルでの役割であるクラウド開発者のコミュニティ活動にアウトドアを取り入れていく。まずはアウトドアでドローンと「Oracle Cloud」を使ったIoT開発に関する開発者Meetupを開催する予定だ。
今後アウトドア開発がブームとなるか、注目だ。
(取材・文:末岡洋子、撮影:岡村大輔)