【横山×崔】経済学が解き明かす、美貌と年収の関係

2016/11/13
AKB48グループの2代目総監督を務める 横山由依さんがNewsPicksのプロピッカーと対談する連載「教えて!プロピッカー」。政治・経済からカルチャーまで、第一線で活躍しているキーパーソンと対談し、基礎から学んでいく企画だ。
今回のゲストはマクロエコノミストの崔真淑さん。経済を分かりやすく解説し、若年世代に金融リテラシーを伝えることをミッションとしている崔さんが、経済学とは何か、経済効果の読み解き方、女性キャリアに至るまでレクチャーした。
女性が陥りやすい課題
 これまでは経済効果のお話をしてきましたが、経済学の考え方を用いた女性キャリアの研究もたくさんあります。そこから、女性特有の問題も見えてくるんです。
はじめに、「女性が陥りやすい課題」についてお話しできればと思います。
女優のエマ・ワトソンとFacebookの女性役員(COO)のシェリル・サンドバーグ。全く異なる分野で活躍する2人には共通点があります。 
それは、女性が心理面ですごく陥りやすいといわれている「インポスター症候群」に陥って苦労したことを告白しているんです。
横山 インポスター症候群、ですか。
 インポスターとは、詐欺師という意味です。女性のほうが男性よりも仕事で成功したりチャンスを掴んだりしても、「私の実力なんか全然だ」「運がよかっただけで、まわりがサポートしてくれただけだ」と、自分の価値を否定しがちになる心理的な傾向のことを言います。横山さんは、そう思うことはありますか。
横山 私も、自分の力というよりは、完全に運やタイミングがよくて、まわりに恵まれているからだなとは思っています。
 そうなんですね。謙虚な気持ちはすごく大切なんですけど、実は謙虚すぎると自信を過剰になくしてしまうことがあるんです。それが起きると、仕事上で否定されても「これは私が悪いから仕方ない」となり、キャリアに影響が出てしまいます。
私みたいな仕事やOLさんだと、例えば給料交渉の場面で上司からボーナスの査定を低くされても、全部鵜呑みにしてしまったり、自分の正当な評価ができなくなって、相手の言いなりになったりしてしまいます。横山さんは自分の評価について考えることはありますか。
横山 それで言うと、私は自分に対して自信もないし、能力もないんですけれど、どんなときも基本的な取り組みを大切にしてきたんです。
遅刻をしないとか、体調管理をしっかりするとか。だからこそ、AKB48のスタッフがちゃんとしていないと怒れるんだと思います(笑)。
何か言うときに、周囲から「あなたもやっていないでしょ」とは言われないように心がけてきました。
 「自分は怒れるだけのことをやっているから言える」という自信が背景にあるからですね。横山さんは、自分をちゃんと認められているんだなと感じました。私も心がけたいところです。
インポスター症候群の解決においても、目標を立て、それを達成できたら自分を認める習慣づけが重要なんです。
また、相談役がいることも大切だと言われているんですけど、そういう方はいますか。
横山 悩みがあると、マネジャーさんにも、メンバーにもよく相談します。
AKB48に関係がないところで言うと、姉にも相談します。一般のお仕事をしているので「こんなことがあったんだけど、どう思う?」と全然違う観点から見てもらって、「私だけがおかしいと感じているのか」「世間的にもおかしいのか」を指摘してもらっています。
昔は悩みや弱音を聞いてもらうのがダサいというか、ダメだと思っていました。「自分が我慢して周囲が回るなら、それでいいや」と感じていたんです。
 何がきっかけになって、人に相談できるようになったんですか。
横山 AKB48に入って1年目ぐらいに、いっぱいいっぱいになったときがありました。
お仕事はたくさん頂けたんですけれど、キャパオーバーになり、「やるしかない」という時期が続いて、気持ちも暗い感じになってしまったんです。でも、文句が言える立場でもない。
「このままだと、もう無理かもしれない」と思っていたときに、前の総監督のたかみな(高橋みなみ)さんが、「大丈夫?」って声をかけてくれたんです。「たぶん由依の立場だと言えないと思うから、無理だと思うことがあったら、私がスタッフに言ってあげるから」って。
それがきっかけで、悩んだときは「たかみなさんに相談しよう」と思えるようになりました。そして、うまく乗り越えられた後は、「たかみなさんみたいに後輩の面倒を見よう」とか「先輩を支えられるような存在になりたい」と考えるようになったんです。
その思いを持つことで、どんどん自分も変わっていって、今に至っていると思います。
 いいリーダーを見て、自分もそういうリーダーになろうと思ったと。横山さんは、すでにインポスター症候群の解決方法をわかっていたわけですね。
横山さんのお話を聞くと、相談相手をつくるだけでなく、自分が相談できるような人間になることも大切なんだなと、私の方が勉強になりました(笑)。
美貌と年収の関係
ところで、インポスター症候群は、女性のキャリアに関する話でしたが、人の年収に外見がどれぐらい影響するのかという研究もあります。
横山 それは、めちゃくちゃ気になりますね(笑)。
 実は、『美貌格差――生まれつき不平等の経済学』という本も出ています。
横山 えっ、怖いですし嫌ですね。
 これはテキサス大学の先生であるダニエル・ハマーメッシュが、外見と年収の関係を分析しているんです。やっぱり外見がいいという人ほど年収は高くなると思いますか?
横山 そうなんじゃないかなと、メンバーとも話すことはあります。お金もそうですけれど、「いい人生を送れそうな気はするよね」って。
あと、芸能界に限らず、例えば社長と一緒にいる秘書の方を見ると、絶対きれいですから(笑)。
 正解です。実際、美貌だと、それがきっかけで社長の右腕になったりする方もいるように、仕事が上手くいき、年収も高くなるケースが多いんです。
でも、そもそも「みんなに共通する美貌」ってあると思いますか。
横山 それは難しいですよね。国によっても違いますし。
 実は、その点も分析しています。ランダムにいろんな人に「あの人は5点中何点ですか」って点数を付けさせたんです。
だから、例えばAさんに対して、ある男性は1点をつけたり、ある男性は5点をつけたりしてバラバラになったら「統一的な美人はいない」となりますよね。
でも、結局は極端に差が付くことはなく、3点の女性なら3点と、それぞれの得点にだいたい収斂していきました。そこで、「きれいには何か定義がある」という結論に至ったんです。
それでは、年齢が経つにつれてもその関係って続くと思いますか。
横山 うーん、年齢が上がると、美貌だけでなくキャリアも積むことで年収が高くなるので、どうなんでしょう。
 すごく良いポイントですね。年齢が経つほど、美貌と年収が相関しなくなるんです。
ただ、いわゆるバリキャリと言われるような経営者、医師、弁護士など、プロフェッショナルな職業に関しては、美貌と年収が関係し続けるとしています。
「きれいだと若い頃からたくさん仕事を得て、さらにそれが自分の自信にもつながって、外見もきれいになり、仕事も増える循環があるからだ」と。
ただ、私は、それだけじゃなくて、プロフェッショナルな職業に就いている人は、社会的ステータスの高い人に出会う機会も多く、更には常に人から緊張感のある世界で見られています。それが年収や外見に影響しているんじゃないかと思うんです。
横山 確かにAKB48のメンバーでも、入った頃よりも今の方が垢抜けています。「見られると、もっときれいにしないと」と思うようになる気がします。
 ちなみに公式ホームページの画像は、最近撮影した写真ですか。
横山 1年前ぐらいですね。
 今日初めてお会いして、実物の方がきれいだなと思いました。
横山 本当ですか。実は、AKB48の公式写真って、昔からみんなかわいくないんですよね(笑)。実物のほうがいいなって感じる写りが多いです。
 お会いしたときに感動できるから、わざとなんですかね。
横山 私たちはファンの方と会える機会が多いので、そうかもしれません(笑)。
なぜ金融リテラシーが必要なのか
 それでは、最後に金融リテラシーのお話ができればと思います。
なぜ私が経済の解説や分析をしているかというと、経済の教養である金融リテラシーをみんなに身につけてほしいという思いがあります。それがないと、気づかないうちに損をしてしまうからです。
ここで問題です。原価が100万円で、売値も100万円にしている自動車メーカーがあります。でも、この会社は利益が出ています。なぜでしょうか。
横山 100万円でつくったのに、100万円で売っているんですよね。高いオプションをつけて売るとか……答えはなんでしょう。
 正解は、ローンを組ませるんですよ。
横山 ローンですか?
 つまり100万円でも100万円の現金ではなく、たとえば年利10%の12回払いのローンで買ってもらうんです。そうすると110万円になって10万円の利益が出るんです。
横山 なるほど。多くの人は100万円をポンと払えないですからね。
 これは、本当にモノが必要な人にとってはありがたいサービスなんです。
でも、バブルが崩壊して、景気が悪くなりモノが売れない時代になるにつれて、金融ビジネスって言うんですけど、消費者にローンやリボ払いを組ませ、利益を得る傾向があるんです。
企業のなかには、利益の半分がローンやリボ払いの利息になっているところもあります。
横山 リボ払いってどういう仕組みなんですか?
 リボ払いは、簡単に言うと毎月の定額払いをいくらにするかによって、利息が決まる仕組みです。極端な例ですが、30万円のカバンを毎月数千円の支払いにすると、十数万円分の利子を払うこともあるんです。
横山 ええっ、他のカバンが買えちゃいますね。
 そうそう。今や、ローンやリボが利益の多くを占めている企業もあります。洋服などの小売で有名なマルイもその一つです。
それを知って驚いたので、マルイの役員の方にインタビューしたことがあります。「メインのターゲットは誰ですか」と聞いたら、「20代から30代の女性です」と答えていらっしゃったのが印象的でした。みんなローンやリボを組んで商品を買っているわけです。
もちろん、こうした企業の取り組み自体は、法律の範囲だから問題はないんですし、どうしても必要な商品があるときにローンなどの仕組みは重要です。社会にとって必要な仕組みであるのは事実ではあるんですけど……。
また、先ほど自動車を例にしましたが、トヨタの総資産を見ても、自動車関連は3割ぐらいしかありません。その残りは、金融資産が占めているんです。そこでは、消費者への自動車ローンややディーラーへの貸付金の割合が高い。だからエコノミストやアナリストの一部は“トヨタ銀行”と呼ぶこともあります。 
横山 すごい、衝撃ですね。
 ローンやリボ払いなどの金融ビジネスで利益を生む企業が増える中で、消費者も「この支払い方でいいのかな」と、賢くならないといけない部分も大きいんです。本来はローンとかリボを組む必要がない人たちも、利息を払っているケースがあります。少し飛躍しますが、最近だと闇金融とか知っていますか。
横山 はい。漫画の『闇金ウジジマくん』も人気ですよね。
 私は全巻持っているんですけど(笑)、そういう非合法な利息で稼ぐビジネスも生まれています。だから、私は若い世代の人を中心に、利息の仕組みなど、身近なところからリテラシーを身につけてほしいなと思っているんです。
――それでは、横山さんから崔さんにお金に関する質問はありますか。貯金について考えているというお話も出ましたが。
横山 そうですね。貯金や資産運用をしたほうがいいのか、将来のために自分に投資したほうがいいんでしょうか。
 一般のOLさんだったら「少しずつ貯金して、株や外貨預金もしましょうね」って言うと思うんですけど、横山さんはまだ20代なので自己投資の方が良いと思います。
例えば、お芝居を見たり、読書をしたり、一流の物に触れることで、次のステップが見える時期だと思うんです。無理に貯金をしなければいけないと考えるよりも、次につながるお金、つまり「消費なんだけど投資になるような使い方」をしてほしいなと思います。
横山 ありがとうございます。参考にします。
――横山さん、崔さんとお話ししてみていかがでしたか。
横山 やっぱり、利息の話は衝撃的でした。ちゃんと知らないといけないなと思いました。
 金融リテラシーのイメージをつかんでもらってよかったです。
今回お話をさせていただいて、横山さんは知的で、絶対成功する人だなって思いましたね。何事にも関心を持って聞く姿勢を見て、私も初心に帰れました。
どんな業界にもいろんな人がいますし、そのなかには本物の人もいるわけですが、横山さんもその一人なんだなと思いました。
リーダーとしても、今の路線で、ぜひ貫いていただけたらうれしいなって思います。
私はいろんな女性リーダーや経営者を取材するなかで、タイプは様々だなと気付きました。「このタイプが一番」ということはないなと強く感じています。
だから、高橋みなみさんのようなトップダウンのタイプでも、横山さんの調整役タイプでも、それぞれの良さがあると思うので、このまま頑張ってほしいなと思います。
横山 そうなんですね。そう言っていただけると嬉しいです。本日はありがとうございました。
 こちらこそ、ありがとうございました。
(構成:菅原聖司、撮影:遠藤素子)