ファイターズ日本一で道内視聴率50%。ファンと勝利の相関関係

2016/11/12
北海道日本ハムファイターズが10年ぶりの日本一を決めた10月29日、日本シリーズ第6戦を地上波で中継した札幌テレビの視聴率は50.8%に達した(ビデオリサーチ調べ)。瞬間最高は66.5%で、道内における注目度の高さが伝わってくる。
日本一を決めた直後、喜びを爆発させる選手たち
本拠地を東京から北海道に移して13年目。新天地で多くのファンに支えられるようになったが、観客動員に苦しんだ東京時代に選手としてプレーした荒井昭吾・事業本部コミュニティグループ長は、いまも気持ちを引き締めている。
「よく『北海道に根付いた』といわれますが、われわれは全然そう思っていません。少しでも気を緩めたら東京時代にコロっと戻ってしまうと思うので、つねに危機感しかないんです」

チームが強くなり、観客増

2004年に北海道へ移転した当初から、道民にファイターズが受け入れられたわけではない。札幌で学校訪問を行おうとすると、10校のうち5校には断られたという。
移転初年度の2004年は161万6000人の観客を集めたものの、実数発表となった翌年は136万5643人まで落ち込んだ。
だが、トレイ・ヒルマン監督の下で25年ぶりのリーグ優勝を果たした2006年には160万3541人に戻した。連覇した2007年には183万3054人までアップしている。
北海道移転後、2006年に初めての優勝を果たした
チームが強くなる過程で、球場に訪れるファンが増えていった。閑古鳥の鳴いていた東京ドーム時代を知る荒井氏は、観衆でスタンドが埋まった札幌ドームにこみ上げるものがあった。
「新庄(剛志)さんが入ってきて、初めて札幌ドームが満員になったときには涙が出てきました。東京時代に不人気だった球団が、これだけのお客様が入ってくださるようになった、と」
生還し、コーチと喜ぶ新庄剛志(右)

北海道内でのきっかけづくり

観客が増えた理由は、グラウンド面ばかりではない。広大な北海道で根付くため、ファイターズは自ら積極的に出向いていった。
札幌で行われる試合に来られる人は距離的に限られるため、旭川、帯広、釧路、函館で1軍公式戦を開催。2 軍の試合は芦別、紋別、網走、夕張など、道内各地で行われている。
ファイターズを好きになってもらう「きっかけ」をつくるため、球団内にはさまざまな部門がある。とりわけ力を入れるのが、子どもファンの獲得と地域への浸透だ。
今年夏に「キッズドリームフェスタ」を企画した増山祐太郎・事業統括本部グループ長は、子どもファン獲得の重要性をこう説明する。
「野球人口が少なくなっている状況で、どう野球を身近に感じてもらうか。ファイターズとして伝えるため、選手が休みのときに小学校を訪問したり、稲葉(篤紀)さんがSCO(スポーツ・コミュニティ・オフィサー)として幼稚園や保育園で保母さんに体を動かすことを教える活動をしたりしています」
幼稚園で子どもたちと遊ぶ稲葉篤紀SCO
「野球やスポーツと密接になる手助けをファイターズがやらせてもらっています。野球だけという考え方だけではなく、うちが起点となって体を動かす大切さを広げていく。それでその人自身の人生が豊かになる。そこにファイターズがいた、と覚えていてもらえればいいですね」
札幌ドームで行われたキッズプログラムに参加する稲葉篤紀SCO(右から2人目)

地域活性化でファン獲得

一方、荒井氏の仕事は北海道各地にファイターズを浸透させることだ。
「選手や試合だけでは北海道をカバーできないので、各役割として小学校を訪問するマスコット、野球を教えるアカデミーがあり、コミュニティグループは地域を巻き込んでいきます。最終のミッションは、179市町村全部に後援会ができることです」
北海道内には179の市町村があり、そのなかに現在96の後援会が組織されている。合計会員数は6000人以上だ。
後援会の目的は、球場に応援しに来てもらうだけではない。行政と関係の薄かった後援会を結びつけ、町おこしで一助を担いたいと考えている。「スポーツと生活が近くにある社会=スポーツ・コミュニティの実現に寄与したい」という球団理念によるものだ。
人気企画のスマイルキャラバンは、後援会のある5市町村で毎年行われる。
基本的にはチームの元選手やファイターズガール(チアガール)、マスコットが金曜日に町の幼稚園や小中学校、高齢者施設を回り、土日にはステージを組んでダンスチームや地域の出し物などを実施。スポーツ広場では体を動かすメニューも行われる。
スマイルキャラバンにはファイターズガールやマスコットも参加
平たくいえば、地元の祭りをファイターズが一緒に盛り上げるようなイメージだ。
経費はすべてファイターズが負担する。子どもに人気のふわふわやスピードガンを使った企画では、18万〜20万円ほどの売り上げがすべて後援会のものとなる。そのおカネでオフに選手を呼ぶイベントを実施してもらい、楽しんでもらおうという仕組みだ。
地域が活性化することで、ファイターズを好きになってもらえればという狙いがある。
この日の開催日は晴天に恵まれた

町づくりに利用してもらう

後援会、行政、ファイターズによる関わりをもっと密にしようというものが、市町村と結ぶパートナー協定だ。「スポーツ」「観光」「食と健康による街づくり」という3つを柱とし、「町づくりや地域活性化にもっとファイターズを利用してください」という目的で行われる。
市町村が後援会に加入していることが条件で、協定期間は3年だ。現在は美唄市、新十津川町と結ばれている。
今年5月に協定終了したニセコ町では、少年たちへの野球教室や高齢者への健康教室に加え、食事調査が実施された。50歳以上の住民に普段の食事を写真で送ってもらい、日本ハムグループの中央研究所が栄養面のアドバイスを行った。
美唄市では、スキーのジャイアントスラローム大会でファイターズカップを開催。スポーツによる町づくりで貢献し、地域との関係を深めてきた。

ファンが選手を成長させる

プロスポーツチームは、地元にとって財産だ。単に応援し、応援されるという関係ではなく、「おらが町のチーム」と住民たちが誇れるようになったとき、本当の意味で「根付いた」といえるだろう。
そうしたファンの存在が、チームにとって力になる。荒井氏は選手として9年間プレーしたからこそ、実感を持ってそういうことができる。
「選手からすると、お客様が入らなければハッスルできません。私が現役だった当時はソフトバンクではなくダイエーでしたが、福岡ドーム(現ヤフオクドーム)に行くと観衆が多いから緊張するわけです。尋常ではない汗をかきました」
「自分の名前を4万人のファイターズファンに呼んでもらえたら、こんなに勇気付けられることはないですよ。選手は自分の実力以上を出すことができ、そうやって結果が出れば、自身の成長につながります。お客様が選手を成長させるとは、そういうことだと思います」
満員の観客で埋まった札幌ドーム
大観衆の声援が球場の雰囲気を変える
プロスポーツチームはなぜ、地元に根付いたほうがいいのか。10年ぶりの日本一に輝いた北海道日本ハムファイターズは、さまざまな点でその答えを示している。
(写真:©HOKKAIDO NIPPON-HAM FIGHTERS)