【ユーザベース】僕らはやっとスタート地点に立てた

2016/11/9
SPEEDAとNewsPicksを展開するユーザベースは10月21日、東証マザーズに上場した。「経済情報で、世界をかえる」をミッションに掲げる共同経営者の新野良介と梅田優祐に、ユーザベースの今とこれからについて聞いた。

世界の情報インフラを創りあげる

梅田 2008年に品川で創業したときに、「インフラ」を創り上げることと「グローバル」に展開することの2つを、僕らがビジネスを作っていくうえでのキーワードと決めました。
SPEEDAもNewsPicksも世界の情報インフラとなることを目指しています。インフラと呼ぶからには、「水道の蛇口をひねると水が出る」くらい、生活の中で当たり前に存在し、必要不可欠な存在でなければなりません。情報に国境はありませんから、そのくらい手軽で身近な情報インフラをグローバルで展開したいのです。
新野 インフラとグローバル、この2つを早期達成しなければならないと思ってきました。だからこそ、国内事業を固めている真っただ中の2014年に、私がシンガポールに赴き海外での営業を開始すると同時に、梅田がNewsPicksを立ち上げるというチャレンジを始めました。
通常であれば、海外展開はまだまだ先というタイミングだったかもしれません。「インフラ」「グローバル」の指針があったからこそできたチャレンジです。

まず目の前の山に登る

梅田 「4年後、5年後の戦略は?」と聞かれたとき、正直、今の僕がいちばんしっくりくる答えは「ありません」です。でも、「経済情報で、世界をかえる」というミッションは明確にあります。
新野 ミッション到達までには多くの山がそびえている状態です。「1つの山に登ったら必ず違う景色が見えるから、目の前にあるその山を全力で登ろう」と、創業期から言い続けてきました。
梅田 最初の山は「食えるようになること」でした。それだけが目的なら「とりあえずゲームを作って稼ごう」といった方向に迷い込んだかもしれません。しかし向かうべき頂上であるミッションが明確だから、方向だけはずっと間違えずに来ることができました。
「食えるようになった、でもまだ頂上まで遠いなあ」「じゃ、次の山に登るか」を繰り返して今に至っています。
上場したことで別の景色も見え始めている今、ようやく次の山のことを考えます。それがユーザベースの経営スタイルに合っています。

3つの約束を厳守する理由

新野 ユーザベースでは株主・投資家の皆様に「3つの約束」をしています。
世界中のビジネスパーソンに情報を提供し、ビジネスパーソンの意思決定を支えるためにユーザベースは存在しています。それは一人一人の意思決定が行動となり、その集積が力となり、世界が変わっていくと信じているからです。少しでもより良い方向に世界が動くよう、ミッションに対して忠実に行動する事を約束致します。
株主となって頂くためには、正しくユーザベースの事を理解して頂く事が全てのスタートラインであると考えています。そのためにも、出来る限り透明性を高める事が必要です。そしてそれは良い時だけでなく、悪い時こそしっかり開示する事を約束致します。
株主の皆様に信頼して頂くための最短経路は、有言実行を積み重ねる事でしかないと考えています。但し、今迄もそうでしたが、これからも挑戦をした結果、時には失敗してしまう事があるかもしれません。もし失敗し、有言実行を実現できなかった時は深く反省し、最速で改善してまいります。
新野 「来年どうなるのか」という関心は非常に大切です。とは言え、「来年この人がどのくらい稼ぐか」だけを基準に結婚はしないはずです。誠実かどうか、何を大切にしているかという価値観、長く一緒に歩めるかという「人物」も、交際相手を見極めるうえで重要でしょう。
いいことも悪いこともスピーディに開示していくことを宣言しているのは、変化が激しい世の中にあって、ミッションに忠実であるかを示すのは、人間関係でいうところの「人物」を示していくことだと考えているからです。
株主、投資家のみなさんにお約束した収益目標を着実に達成するとともに、ミッションに忠実でなければならないと考えています。
梅田 経営陣とステークホルダーには情報の非対称性が生まれます。外に向けては3つの約束を、社内にはバリューである7つのルール(詳細は「創業物語」参照)を示すことで、投資家のみなさんには選んでいただく基準、社員には行動指針にしていきたいと思っています。

想いは行動で示していく

梅田 中長期戦略がどうとかいうことよりも、僕たちが何者であり、本源的に何をしたい集団であるのか、それがミッションでありバリューです。ですからユーザベースの目論見書もミッション、バリューで始まっています。
ただ難しいのは、これが活字になったとき「また浮ついたことを言って」と読めてしまうところです。
新野 僕は、それでもいいと思っています。究極的には、想いは行動でしか伝わらないので、結果を積み重ねていくことしかないのでしょう。
梅田 ミッションは結果とセットで語るべきものです。なのに、言葉だけが浮いてしまう状態で語らなければならないことに、実は違和感があります。僕らはようやくスタートに立ったところで、まだ何も成し遂げてはいないので。

経済情報で世界をどうかえるのか

梅田 僕らの作ったインフラの上でビジネスパーソンは日々、情報を取り、考え、意思決定をし、行動する、その集積が世論になり、世界を変革する動力源になります。
少しでもいいので、ユーザベースが誕生したことで世界がいい方向に進むための役割を果たせるものを作り続けたいと考えています。
新野 資本市場のインフラがあるように、世界をより豊かにするためのビジネス情報のインフラは今後ますます重要になっていきます。出合えていない情報がまだまだある。
未来の情報の取り方は、現在とは全く違うはずです。僕らの発想の起点は「今、何が課題か」「ボトルネックは何か」「その中で、自分たちで解消できることは何か」です。
テクノロジーの変化とともに新たな課題も生まれてくるでしょう。それがある限り精いっぱい解消する、それをし続けるのが「世界をかえる」ことです。

事業はだれのものでもない

新野 事業とは誰のものでもなく、課題があって、誰かしら才能なり体力のある人が現れて、一生懸命がんばる。たとえば、ファーストリテイリングの柳井正氏は尊敬する経営者の一人ですが、「ユニクロ」の服には哲学と努力が集約されています。ユーザーの満足があってこそ、社員、家族も幸せになり、社会の幸せにつながっていると思うのです。
「世界をかえる」という大きな目標の実現のために、不確実性が高い環境に耐えて「これだけは守ろう」という指針を持ちます。海にたとえるなら、「航海で目印にする夜空の星」みたいなことです。
あとはもう、荒波こともあれば、凪(なぎ)のこともあり、ただこれだけやっていればまっすぐ進めるのではないかという経営があります。
しかし「事業は僕らのもの」という意識はありません。自分たちのした約束事にかなわなくなったら、退場すべきです。常に、自分自身と事業を離している感覚はあります。
NewsPicksも同じ。運営側としての努力は前提ですが、変えるところは変えるにしても、つまりは軸をしっかりさせればいいと思っています。誰かに属しているものではありません。
社長は僕ら2人でなくても誰でもいい。ミッションとかビジョンがかなう人で、継続的にステークホルダーを幸せにしていけるなら、1人でも3人でも5人でもいい。
だから仮に今後メンバーが交代したとしたら、周囲からは「ああ壊れたね」と言われるかもしれないけれど、大きなことではありません。
梅田 創業から8年、COOの稲垣裕介も含め、経営陣3人でまわりのサポートを受けながらやってきた、それが結果として最適な布陣だったというだけですね。
左から取締役COO 稲垣裕介、共同経営者 梅田優祐、共同経営者 新野良介
ただ、この8年間も私と新野の役割は常に変えてきました。最初は新野が営業で私は企画。次は新野が海外で私が国内。そして今はSPEEDAとNewsPicks。
私たち2人だけでなく、他の執行役員メンバーも同じで、サッカーチームのように、常に最適なフォーメーションを組めることがチーム経営の最大のメリットです。
新野 ミッション、バリューを大切にして、いいねという人には集まってもらい、自分たちにしかできないことを将来に向けてどんどん生み出していく。そのダイナミズム自体がユーザベースでありたいんです。

全員に幸せになってほしい

新野 先日、こんなことがありました。はやりのコーヒー屋さんでアイスコーヒーに「シロップ入れてください」と言ったら「うちのは、シロップを入れて飲むコーヒーとは違うんで」みたいな反応をされました。「あ、スミマセン。コンビニに行きます」と、店を出ました。
「ユーザベースの株主像は?」と聞かれるたびに、その場面を思い出します。僕らはまだ「うちの株主はこうでないとね」とは言いませんし、言える立場ではない。それには結果を積み重ね、信頼を獲得していかないといけない。でも、他方で、ユーザベースが何を大事する会社なのかを示すことも重要だと感じています。
梅田 上場した日、多くの方がユーザベースの株を買ってくれました。約180人の従業員とその家族、500社以上のお客様、NewsPicksの175万人のユーザー、そして200社を超えるビジネスパートナーのすべてがステークホルダーです。
ステークホルダーに加わっていただくモチベーションは、人それぞれで構いません。でも関わってもらったからには、全員に幸せになってほしい。そのための最短コースは、ユーザベースが成長することに尽きると思っています。
同時公開
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(構成:久川桃子、阿部祐子 撮影:遠藤素子)