【横山由依×崔真淑】AKB48から“経済効果”の本質を読み解く

2016/11/6
AKB48グループの2代目総監督を務める 横山由依さんがNewsPicksのプロピッカーと対談する連載「教えて!プロピッカー」。政治・経済からカルチャーまで、第一線で活躍しているキーパーソンと対談し、基礎から学んでいく企画だ。
今回のゲストはマクロエコノミストの崔真淑さん。経済を分かりやすく解説し、若年世代に金融リテラシーを伝えることをミッションとしている崔さんが、経済学とは何か、経済効果の読み解き方、女性キャリアに至るまでレクチャーした。
経済学はどんな学問か
――崔さんは、マクロエコノミストとして経済学が専門です。横山さんは経済学について、何かイメージがありますか?
横山 うーん、漠然と“お金の話”というイメージくらいですね。
 すごく小難しそうな感じもすると思うんですけれど、経済学って世の中の人やモノ、お金の流れを研究することで、人間が抱える悩みを解決するためにあって、すごく身近なものです。
私が、なんで経済学に魅了されたのかというと、実家が60年ぐらい続く焼き肉屋だったからなんですよ。
横山 いいなあ。私は焼き肉大好きです(笑)。
 よかった(笑)。親が焼き肉屋を経営していたこともあって、子どもを教育するに当たって、“事あるごとにホルモンに換算”していたんです。例えば、私が進学した時も「あなたの学費はホルモン何人前なんだから」みたいなことを言うんですね。
横山 どんなことも、ホルモンにたとえるんですね。
横山由依(よこやま・ゆい)
1992年12月生まれ。京都府木津川市出身。2009年9月、AKB48第9期研究生として加入。2010年10月に正規メンバーとなり、2015年12月、AKB48グループ2代目総監督に  
 そう。さらに、「○○人前ぐらいかなあ」って言っても、「なにゆうてんの! それは売上高であって、そこから人件費も仕入れ代も光熱費も全部さっ引いて、この残りからやっと学費が出せるんやで」みたいな話をするんです。
そうすると、子ども心に「ああ、お金を稼ぐって大変なんだ」と思うわけです。そのうち、「仕入れ代や人件費、光熱費ってどういう要因で変わるんだろう?」とか、「何で2月や8月はお客さんが少ないんだろう」と考えるようになっていきました。それが、経済学に興味を持つきっかけだったんです。
横山 みんなホルモンから始まったんですね。
 だから、私は自分の研究を「ホルモン経済学」と呼んでいます(笑)。経済学はお金を扱う学問ですが、横山さんはお金に興味はありますか?
横山 最近興味を持ち始めました。以前はそれほどでもなかったんです。物欲もあまりないので、お金の使い道は基本的にAKB48のメンバーとご飯に行ったり、化粧品を買ったりするくらいで、贅沢をしてこなかったんです。特に家がお金持ちでもなかったですし。
 すごく堅実ですね。関心を持つようになったのは、どうしてですか。
横山 テレビで老後の生活や年金の問題に関する番組を見たんです。そうしたら、今の若い世代が年金をもらうときには、納めたお金よりもらえる額の方が少なくてマイナスになってしまうという話が出ていました。
そこで、「今は困らずに生きているけど、将来はどうだろう」と少し思い始めたんです。
 なるほど。そうやって考えること自体、経済学とつながるんですよ。
崔真淑(さい・ますみ)
1983年生まれ。三重県出身。神戸大学経済学部卒業後、大和証券SMBC金融証券研究所(現:大和証券)に入社しアナリストとして資本市場分析に従事。2016年に一橋大学大学院(ICS)でMBA in Financeを取得。経済ニュース解説、マクロ経済・資本市場分析を得意とするマクロエコノミストとして、テレビなどのメディアで活動。エイボン・プロダクツ社外取締役も務める。
横山 えっ、そうなんですか。
 今の横山さんの年金の話は、経済学においてもすごく重要なポイントなんです。
私たちの祖父母が年金で安泰に暮らせるのはうれしいけど、現役世代からすると全然メリットがないですよね。お金をめぐってお互いの利害が一致しないことは、世の中ではたくさん起きるわけです。そういう矛盾を解決するのが経済学です。
矛盾に関しては、「合成の誤謬」という言葉があります。例えば、世の中の人たちがみんな「1円でも節約をしよう」と一生懸命になったら、経済ってどうなると思います?
横山 回らなくなりますよね。
 そうなんです。節約って個人としては、悪い行動じゃない。でも、みんなが一斉に始めたら、経済が悪くなって、みんなの収入が減って、もっと節約しよう……と、負のスパイラルが起こるんです。
個人やミクロレベルでは合理的だけど、全体で見ると不都合な事態になることを合成の誤謬と言うんです。
他にも、ある企業が生産拠点を海外に移すと、その会社は利益が上がったとしても、国内の雇用が減って、日本のGDPが下がることにもつながるんです。
横山 なるほど。そういう問題を改善するための学問なんですね。
 ちなみに、横山さんは、お金のことが心配になって、行動に移したことはありますか?
横山 具体的にはないんですけれど、それこそ貯金は意識していました。
でも、母親からは「まだ独り身なんだから、今の自分のためにお金を使っていいと思うよ」と言われたんです。
だから、例えば「1年間お仕事を頑張ったらバッグを買おう」とか、自分へのご褒美にはお金を使おうかなとか、“使い方”については考えるようになってきました。
 私が24歳のとき、そんなの全然考えてなかったので偉いなと思います。
横山 いえいえ。年金とかの話を聞くと、心配になる年頃になってきたというか(笑)。
AKB48で読み解く経済学
 それでは、続いてせっかくなので横山さんが所属しているAKB48を例に経済のお話ができればと思います。
今年の総選挙で経済効果が生まれたことがニュースになっていたんですけれど、「AKB48の活動が経済効果を生んでいる」というニュースを見たことや、意識したことはありますか?
横山 はい、そのニュースは見ました。私がAKB48に入った17歳頃は、経済効果という言葉には、全くピンと来てなかったのですが、最近は、新潟で総選挙をやったときに「経済効果があったんだよ」と話を聞くと、自分たちの活動でお金が動いているんだと思うようになりました。
今回の新潟もそうでしたが、地方でイベントを開くとファンの方の熱気が凄いなと思います。
たとえば、これまで日本武道館や横浜アリーナで開催していた「AKB48グループじゃんけん大会」を、今年は神戸でやったんです。
そうしたら、今まで何年もやってきたからちょっとマンネリな感じもあったんですけれど、「場所を変えたら全然違うな」と感じました。
また、広島で半年ぶりに握手会をしたときもみなさん喜んでくれて、「新しいグッズが出たから買ったよ」と身につけてきてくれる方もいました。
そこでどれだけ経済効果が生まれるかは分かりませんが、これまでと違う新しい動きをすることによって、「何か生まれている」という感じを、肌で感じることは多いです。
 今の「何か生まれている」のひと言が、人、モノ、金が動くことで発生する経済効果の本質を表していると思います。
でも、「そもそも経済効果って具体的にどういうことだろう」と思いますよね。
横山 確かに、わからないです。
 実は経済を分析する人でも定義によって全然試算が違うので、金額にもばらつきがあるんです。でも、一般的には2つのポイントがあります。ここでは、熊本県の経済活性化のためのキャラクター・くまモンを例にしてみましょう。
一つは、「経済波及効果」。くまモンに会うために、熊本に行く観光客が増えたり、関連グッズを買ったりして生まれた売上です。日本銀行熊本支店は、2011年11月から2013年10月までで1,244億円と試算しています。
そしてもう一つが、「パブリシティ効果」。くまモンによって熊本の認知度や信頼度が上がり、興味を持つ人が増えることで生まれた広告効果を指しています。こちらは90億円と試算しています。
この経済効果は、AKB48にも当てはまります。最近すごいなと思ったのは、地方に姉妹グループがありますけれど、今度はまた瀬戸内海でつくると聞きました。
横山 はい、来年の夏にSTU48ができる予定なんです。
 そうすると「瀬戸内海って行ったことがないな」と、いろんな人が思うと、地域に対して興味を持つきっかけになるから、パブリシティ効果が生まれ、実際に人が集まると町おこしにもつながるかもしれません。
横山 確かに。最近は新潟にNGT48というグループが出来たんですけど、そこは他のグループと比べても特に地域密着型なんです。
活動を始めるにあたって、私とたかみな(高橋みなみ)さんと一緒に市長さんにご挨拶しに行ったんですけれど、「新潟につくってくれて本当にありがとうございます。全力でサポートするし、盛り上げたいです」とおっしゃってくれました。
実際に、NGT48は地元のテレビ番組やCMなど、いろんなところに出ています。東京では、まだ見る機会は少ないかもしれませんが、新潟ではみなさんが知っています。
NGT48が新潟の人に認知されることはもちろん、「新潟に行ってみたいな」と思うようになって、経済効果が生まれるんですね。
 多くの人がNGT48を見るために新潟へ行ってお金を使うようになると、その地域で宿泊サービスを運営したり、関連グッズを製造したりする人が「こんなに需要が出てきたから人を雇おう」「もっと商品を仕入れよう」となって、地元の企業に雇用が生まれる循環にもつながります。
だから、いつも経済効果について話が出る時は「○○億円」というお金の話ばっかりなんですけど、その先で、地域で人が雇用されてお給料をもっともらえる人が増えることが重要なんです。AKB48も、実は雇用効果も生んでいるかもしれないと考えてみると面白いと思います。
横山 そこまでは考えてなかったです。もしかしたら影響しているかもしれないんですね。
 特に、観光地ではない地域だと影響は大きいと思います。私は各地で講演活動をしているので、地元の市長や知事と話すほか、現地を観察もしています。
すると、観光地をちゃんと活性化して成功している地域は、そこまで心配はないんですけど、観光も地元産業も上手くいっていないと難しいなと感じます。
横山 そうなんですね。私は京都出身なので、観光地ですごくにぎわっているので、あんまり感じないのかもしれません。
 地元の京都と東京を比べて、経済という観点で違いを感じることはありますか。
横山 東京と比較すると物価の違いは実感します。今もスーパーに行くんですけれど、地元のスーパーはやっぱり安いなとか。あと、東京は家賃がすごく高いですよね。
 私は三重県生まれで、神戸に学生時代に住んでいたので、家賃にそれほど大きな違いは、東京ほどは感じませんでした。
やっぱり都市部のように人が密集していると、「借りたい」という需要が多くなって、高く値段を設定しても借り手がつくんです。それに、人が集まるということは、それだけそこにビジネスのチャンスもあるし、お金の巡りもいいんです。
だから、家賃が安い地域が良い場所ともいえないんです。一見「いいな」と思うけれど、実は人、モノ、金が全然回っていないことの証拠の一つかもしれません。
だから、私はいつも地方講演へ行くと、スーパーと物件の値段を見るんですよ。
横山 その値段で、地域を測るんですね。
 そう。だいたいの値段で現状がつかめるくらいにはなりました(笑)。さっきの経済効果の話に戻ると、そういうモノがない地域ほどメディアでの露出による効果も高いんです。
例えば、大河ドラマの影響力もすごく大きいので、放送が決まると、その地元は力を入れますよね。2010年の『龍馬伝』では、高知県で535億円、長崎県でも182億円の経済効果が生まれたと試算するデータもあります。
横山 そんなに影響があるんですね。
 だから、STU48など、AKB48グループが頑張れば頑張るほど、その地域が盛り上がるかもしれませんね。
□参考
日本銀行熊本支店(2013)「くまモンの経済効果」(最終閲覧日:2016年11月5日)
(構成:菅原聖司、撮影:遠藤素子)
※続きは来週掲載いたします。