【新】生活者起点で新たな市場を創る「デザインシンキングの時代」

2016/11/7
独自の視点と卓越した才能を持ち、さまざまな分野の最前線で活躍するトップランナーたち。彼らは今、何に着目し、何に挑もうとしているのか。連載「イノベーターズ・トーク」では、毎週注目すべきイノベーターたちが、時代を切り取るテーマについて見解を述べる。
第51回は、博報堂で内外のマーケティング戦略やブランドプロジェクトに携わり、同社のイノベーションプロジェクトをリードしている岩嵜博論氏と、イーサネットやGUI技術などを発明し、今日のコンピューター技術に多大な影響を与えたパロアルト研究所の日本代表、伊賀聡一郎氏が登場する。
テーマは、「デザインシンキング」だ。
必要なモノが満たされた今の市場環境では、「より優れたもの」ではなく、「いままでにないもの」すなわち市場創造というイノベーションが求められている。その方法論として注目されるデザインシンキングだが、日本ではまだ成功例は少ない。
なぜなら、デザインシンキングによるビジネス課題の解決手法が体系的には紹介されていないからだ。
そこで岩嵜氏は、この領域の草分けであるイリノイ工科大学のデザインスクールで学んだ知見と、社会学とマーケティングの実践知をもとに「機会発見」という具体的な方法論をまとめた。
一方、伊賀氏は「人間中心デザイン」の提唱者であるD.A.ノーマン氏の著書の翻訳を手掛け、テクノロジーと人間中心アプローチからのイノベーションプロジェクトにおいて幅広い経験を持つ。
両者の対談から、日本の開発現場の問題点を始め、人間中心アプローチによるイノベーションの進め方、そしてゼロから新しいアイデアを生み出す組織と個人の働き方が見えてくる。
ロジカルシンキングだけでは捉えられない、クリエイティブな行為を実現するデザインシンキングの真骨頂とは何かーー。
グローバルでは、ロジカルシンキングに対比される問題解決手法としてデザインシンキングがある。
岩嵜氏はビジネス書などで散見されるよくある「○○思考法」といった自己啓発のひとつではない、と強調する。
伊賀氏は、そんなデザインシンキングを理解する鍵は、デザイナーの仕事術にあると言う。
優れたデザイナーは思考を他者とインタラクティブにブラッシュアップし、より生産的に新しいアイデアを創出する。
その方法論がデザインシンキングというツールだが、ただ闇雲に組織に導入してもうまくいかないことが多いという。理由は、そもそもデザイナーのマインドセットが理解されていないからだ。
では、デザイナーの仕事の本質ともいえるマインドセットとは何なのか。
日本企業は「How=いかに作るか」は得意だが、「What=何を作るか」というノウハウがいつの間にか欠落してしまった、と伊賀氏は言う。
スマホ、液晶テレビを見ても、技術や機能の競争だけをしていても、もはや国際競争には勝てない時代となっている。
そこで求められるのは、たとえばカメラだったら、“自撮りモード”などの新たなチャンスを発見することだ。
ロジカルシンキングや定量的なアンケート調査では出てこない、このような新たなアイデアを、組織的に生み出していくステップとは何か?
デザインシンキングの核となる人間中心アプローチ。その前提となるのが、「人間をちゃんと理解すること」だ。
人はそもそもロジカルに生きているわけではなく、言うことと、行動が矛盾したりすることもよくある。
では、そんな掴みどころのない人間をどう理解すればよいのか?
その方法論が、エスノグラフィ調査だ。
消費者の意識や行動を深いレベルで知り、自分自身もまた新たなモノの見方を獲得していくというエスノグラフィ調査の効果的な進め方について議論が盛り上がる。
ビジネスパーソンが日々の仕事の中で、まったく新しいアイデアを発想する、新たな市場機会を発見するうえで、ポイントとなるのが“共感”だ。
では、どうすれば他者の気持ちや状況に寄り添う、共感する力を持つことができるのか。
岩嵜氏は、共感する力のある人の共通項として、「面白がり」を挙げる。ある意味、アイデアが湧く人は、好奇心旺盛な“遊び人”だ、と。
では、そんな遊びから得られた知見をビジネスアイデアに結び付け、さらに組織知にしていく方法とは何か?
人間中心アプローチから今後のビジネスの機会を発見するためには、組織としても、個人としても“問い”を持つことが重要になると伊賀氏は言う。
たとえば、ユビキタス・コンピューティングが今の世の中を創り出している理由は、「コンピューターが環境の中に消えていったら、どうなるのか?」という“問い”があるからだ。
今、開発が進み始めたIoTは、この“問い”の前段階といえるが、では未来はどのような形でコンピューターが環境の中に消えていくのだろうか?
人間中心アプローチから、スマホやコンピューターの未来のデザインが語られる。
本日、第1話「 デザインシンキングが理解されない理由とは 」を公開します。
(構成:栗原昇、撮影:遠藤素子、デザイン:名和田まるめ)