【横山由依×大室正志】人間関係が、生産性を左右する

2016/10/23
AKB48グループの2代目総監督を務める 横山由依さんがNewsPicksのプロピッカーと対談する連載「教えて!プロピッカー」。政治・経済からカルチャーまで、第一線で活躍しているキーパーソンと対談し、基礎から学んでいく企画だ。
今回のゲストは産業医の大室正志さん。時代と産業構造によって変わってきた産業医の役割や、ビジネスパーソンが抱えるメンタルの課題などについてレクチャーする。
――大室先生は、産業医というお仕事をしています。横山さんは産業医って知っていますか。
横山 今回、初めて聞きました。
大室 企業に所属していない人は、なかなか知らないかもしれません。日本では、従業員が50人以上の工場や会社の事業所は、従業員の健康を守るために医師と契約しなくてはいけない法律があるんです。そこで働いているのが産業医です。
横山 法律で決まっているんですね。
大室 もともと日本は、工場労働者などに結核などの病気がすごく多かったんです。衛生環境が整備されていないので。作業所の事故も、今よりずっと多かった。
また高度成長期には、水俣病やイタイイタイ病などの病気が増加しました。そこで、このような働くことによって起こる健康被害を専門にする医師を作ろうということで、産業医が生まれました。
時代を経ると、環境基準などが厳しくなって、いわゆる公害は減っていきました。バブル期以降は産業医というと大企業の診療所にいる医師、つまり福利厚生のイメージだったんです。
ただ、2000年ぐらいから、メンタル不調の問題が顕在化してきました。また、バスの運転手が事故を起こした際などに、従業員に対する会社の健康管理が問題視されるようになりました。
会社にとって、健康問題を放置することはリスク。次第にそのような認識が広がっていきました。
はじめは、結核や公害を防ぐ物理的な衛生環境整備を担う役割から、だんだん心身の衛生環境整備の問題にも関わってきたのが、いまの産業医のあり方なんです。
横山 ジャンルとしては、外科や内科で分かれているんですか。
横山由依(よこやま・ゆい)
1992年12月生まれ。京都府木津川市出身。2009年9月、AKB48第9期研究生として加入。2010年10月に正規メンバーとなり、2015年12月、AKB48グループ2代目総監督に 
大室 いわゆる臨床医はその通りで、大きく分けると内科系と外科系に分かれます。さらに、臓器で分かれるわけです。心臓の外科、心臓の内科というように。
産業医の場合は、少し違います。会社で起こる問題だけを、外科から精神科まで、まとめて勉強した医者なんです。
例えば、会社でインフルエンザが流行ったら、どう対応すべきか。健康診断の結果をどう活用するかなど、会社で必要なことをまとめて学ぶんです。
ただ、時代の変化によって産業構造が変わると、問題もどんどん変化しています。
横山 昔と今では、どんな違いがあるんですか。
大室 日本って、もともと第二次産業で発達してきたんです。そして第二次産業は、工場のラインで製造する人が中心的な役割を担っていました。
ラインの工員さんたちは、基本、朝、始業のチャイムが鳴ると仕事を始め、お昼になると、またチャイムが鳴って昼食休憩。そしてまた働き出して、チャイムの音とともに終業というワークスタイルでした。
これは悪く言えば、非常に「管理されている」けれど、時間で終わるのでわかりやすい面もあります。
他方、現在の主流である第三次産業は、始まりと終わりが厳密じゃない。
横山 第三次産業とは。
大室 広くサービス業が含まれるので、今ここにいる編集者や、横山さんのマネジャーさんの仕事もそうです。
横山 確かに、私がマネジャーさんに「明日のスケジュールはどうなっていますか」と質問して答えてもらうのも、お仕事ですよね。私も、マネジャーさんのお休み中に連絡したかもしれない……。
大室 それがたとえ1日のうち3分間であっても、「いつ連絡がくるかもしれない」という状態は、けっこう疲れるんです。パソコンで言えば、シャットダウンせずにずっと起動している状態なわけですから。
さらに、最近は、締めつけがどんどんキツくなっているケースが増えています。
例えば、IT企業のエンジニアには、いつサーバーなどがダウンするか分からないから、常にパソコンを持っているケースもあります。たとえ直すのは15分でも、いつダウンするか分からない。しかも、セキュリティ上の問題で「パソコンを持って飲みに行くな」とか言われる。そうしたら、土日飲みに行っちゃダメだという話になる。だけど、休日に働いたとみなされる時間はその15分だけなど。
タクシードライバーも、車にドライブレコーダーが付いていて、どこを何キロ走っているかチェックされています。
大室正志(おおむろ・まさし)
2005年産業医科大学医学部医学科卒業。専門は産業医学実務。ジョンソン・エンド・ジョンソン統括産業医を経て現在は同友会春日クリニック 産業保健部門 産業医。メンタルヘルス対策、インフルエンザ対策、放射線管理など企業における健康リスク低減に従事


横山 全部、本社に分かるんですね。
大室 そうです。もちろん、こうした仕組み化により安全面が向上し、効率化するなど利点はありますが、従業員が上手く“抜ける”ことができなくなりました。
人間も含め生体は、心電図や脳波、睡眠のリズムもそうですが、波を刻んでいることが普通です。ずっとオンの状態で張りつめていることは、基本的に体に良くないんです。
横山 “抜ける”ことができない状態が続いたら、健康にも影響があるんですね。
大室 編集者を例にとると、雑誌の編集者は締め切り前に忙しくなるけれど、校了したら部数がどうなるかは別にして、ひとまずそこで区切りができます。つまり、忙しさにリズムがあります。
でも、NewsPicksのようなネットメディアは、毎日記事を配信する上に、毎分、どれだけ記事が見られているのか数字が分かり、緊急の場合はすぐに記事を出せる準備をしている。常に稼働しているから、人が疲弊しやすい。こういう職場は、圧倒的に退職率が高いんです。NewsPicksはどうだか知りませんが(笑)。
横山 ええっ、そうなんですね。
大室 もう一つ、第三次産業は生産性が見えにくいし、予測もしづらいことが挙げられます。
工場では、ある職人が1時間で10個の部品を作れて、一方で、別のある職人が20個作れる場合、後者のほうが前者より生産性が倍だと言えます。
でも、テレビの企画などが特にそうですが、視聴率の高い人同士を組み合わせたところで、必ずしも高い視聴率を稼げるわけじゃない。
むしろ、中堅芸人同士でも、そのやり取りが面白ければ、『アメトーーク!』みたいな人気番組になる。その組み合わせの化学式が難しいわけです。
人間関係のメンテナンスが必要
横山 仕事が休みにくくなり、計算もできなくなってきたんですね。ストレスがたまる人もいそうです。
大室 ストレスで言うと、去年から法律が変わって、50人以上の会社だと、従業員がストレスチェックを受けることになったんです。いわば、ストレスの健康診断です。
その結果として、興味深い傾向が出てきています。
現時点ではオフィシャルなものではなく、私の顧問先と私の周囲の産業医たちとの傾向分析ですが。
男性も女性も、基本的には人間関係のストレスが一番多く、その約8割が上司・部下の関係なんです。
特に男性の場合は、一般社員の調子が悪いときは課長が原因、課長の調子が悪い時は部長が原因、部長がキツイときは役員が原因と、こと人間関係に限ってはやはり「下の階層」が辛い傾向がある。部活で言えば、3年生になると楽になるのと同じです。
でも、女性をみると、管理職クラスが、ストレスを受けている傾向があるんです。特に女性だけのチームにそれは顕著です。今までお互いが共感することでまとまっていたのに、一人が店長とか管理職になると1対多数に分裂してしまって、上の立場の人が辛くなることがあるんです。横山さんはいかがですか。
横山 個人的には、人間関係で悩む感じはないですね。でも、総監督になってからは、調子が良い子、悪い子がいるなと、より見えるようになりました。
大室 実は昨日、たかみな(高橋みなみ)さんの『リーダー論』を読んだんです。そこでは、人間関係のメンテナンスに対して、すごく話を割いていましたが、横山さんもメンバーに介入しますか。
横山 私がすごく関わりのある子だったら介入するんですけど、そうじゃない子の場合は、私が信頼していて、その子のことを分かっているメンバーに託します。そうしないと、「なんで、急にそこだけ総監督ぶるんだ」となってしまうので。
大室 なるほど。横山さんが声をかけなくても、誰かに「聞いてあげて」ってケアしているんですね。
実は、男性組織だと、人間関係のメンテナンスが、あんまりされないんです。
横山 えっ、やらないんですか。
大室 男性の中には「仕事なんだから、四の五の言わずにやれよ」「そんなことを話すのは、幼稚な行為だ」という意識がどこかにあるわけです。
本当は、リーダーが部下の精神的な問題に適切に介入しなきゃいけない。でも、それをすることがダサいという美学を持っている人がいまだに多い。
横山 この連載で、軍地(彩弓)さんも、雑誌で使うモデルさんやメイクさんとの人間関係を見て、チームをまとめているとお話ししていました。そうはならないんですね。
大室 女性の優れた管理職の方は、「あの部下は、最近、こことここがうまくいってなくて、元気がなさそうなんだけど」と、人間関係のメンテナンスにまで目が行き届いている人が多いんです。
でも、男性の管理職の方と話すと、「仕事が多くて、部下がキツそうだ」と、物理的な問題しか見えていない。あくまで傾向ですが。
もっとも、実は男性も、上に対しては、めちゃくちゃ気を使っているんですけどね。あの人とあの人は、ちょっと会わしちゃいけないとか(笑)。ただ、いまだに、部下にはもうノーメンテナンスでいい、という考え方があります。
その意味で、女性リーダーによるマネージメント方法は、男性も学ぶことが必要だと思います。
第二次産業から第三次産業に移っただけでなく、さらに知的労働が中心になってくる時代は特にそうです。それを怠ると、人間関係の問題で生産性が下がることになりますから。
AKB48のメンバー間は、人間関係の心配はないですか。
横山 私たちは大人数のグループなので、なにか問題が生まれてもダイレクトに出にくいことも、一つの強みかなとは思っています。
大室 それは、ごまかしているんですか(笑)。
横山 いえいえ(笑)。人数が多いので、カバーすることができるんです。どんな状況でも「ステージに立つ時間は楽しんでやろう」という雰囲気作りは心がけています。
プレイングマネジャーの課題
大室 横山さんはAKB48の総監督ですが、昨今の会社の管理職ではプレイングマネジャー、つまり選手兼監督が増えています。
つまり、ある時は部下に指示を出し、ある時は自分の仕事も成果責任を負って、やらなくてはいけないわけです。こういう時って、自分のアイデンティティとしても、仕事としても引き裂かれるんですね。
選手としてはキャプテンとしての働きが期待されている一方で、監督は指示を出す立場ですから。
その中で、AKB48は総選挙で1位をとった人が監督をするっていう仕組みではないですよね。
秋元(康)さんが、キャプテンと監督は、別の仕事だと理解して、あえて分けたのは、非常に優れた組織の戦略だと思いました。
監督しながらキャプテンするのは、けっこう辛いはずです。例えばバレー部でもキャプテンは常に「私はメンバーで一番上手いのよ」という姿を見せて、ガンガン前に出なきゃいけないですから。
横山 そうですね。AKB48は役割が分かれているから良いと思います。総監督でセンター、などと一人がすべてを担っていません。
大室 おそらく、監督としての能力と選手としての能力って違います。編集者だって、記者として書くのが上手い人が、必ずしも編集長に向いているか分からない。
NewsPicksは……どうなんですかね?(担当編集者の方を見渡す)
横山 怖い、怖い(笑)
大室 皆さん監督とキャプテンは適性が違うと頭では分かっているんだけど、やっぱり名選手だった人間が監督に昇格するところが一般的です。でも、野球だろうと会社だろうと、選手兼監督で上手くいく人って、ほとんどいないですよ。
例えば、銀座のクラブでいったら、ナンバーワンホステスとママは違いますから。銀座のママは、一歩後ろに引いて、ホステスを送り出す立場です。
ママが選手として、カリスマ性でやれるのは、せいぜい数人までですよ。小さい店のスナック芸です。
ところが、何十人もホステスを抱えるようになってくると、それだと絶対回んない。その時に、自分がナンバーワンホステスであるという我が出てしまうと、絶対うまくいかないです。
だから、横山さんはママタイプかもしれませんね(笑)。
横山 そうなんですかね(笑)。その場合、指原(莉乃)さんがナンバーワンホステスかも。
大室 AKB48の組織は役割がきちんと分かれている。いまどきの会社組織だと、ここまでうまくいっている例は、なかなかないですよ。
それが、AKB48の面白さの一つでもあると思います。
(構成:菅原聖司、撮影:遠藤素子)
※続きは来週公開予定です。