米国トップは年収40億円超。なぜ日本スポーツ界には夢がないのか

2016/10/23
つい先日、横浜DeNAベイスターズの池田純さんが、球団社長からの退任を発表した。
個人的に仲良くさせていただいているので、なんだか複雑な気持ちで、そのニュースを見ていた。
赤字続き、そして優勝から遠ざかって人気も低迷していた球団を黒字化するとともに、さまざまなアイデアを駆使してのファン・デベロップメントで、一気に人気球団へと成長(復活)させた。
この事実は、日本プロ野球史、いや日本プロスポーツ史に名を残すべき功績であると私は考えている。
私は経済の専門家ではないので、主観の域を出ないが、彼は日本のプロスポーツ界に初めて現れた「プロ経営者」ではないであろうか。
プロの経営者とは?
私の中でのプロ経営者の定義とは、「業界・業種を問わず、会社の組織のトップに外部から就任して、会社組織の本分である『利益を出すこと』を追求させる、追求できる環境や組織を創り出す。また、それを再構築することに秀でた人物」である。
「利益を追求すること」より義理や人情が大事にされる日本では、あまり受け入れられていない、また成功例が少ないようであるが、ここアメリカでは、大企業でなくてもよくある話である。
池田さん本人が自覚しているかどうかは別として、その彼がここ5年間で行ったことは、まさにその定義に当てはまるといえよう。
日本のスポーツ界の未来を憂える私にとっては、プロ経営者、またはそのような能力を持った彼という財産がスポーツ界に投じられ、その重責を果たしたという事実は、非常に喜ばしいものである。
しかし、同時にその彼が、そこからいなくなることは、「心許ない」といわざるをえない。
LAで語り合った「未来」
9月初旬のことである。
バイ・ウィーク(週末に試合がない週のこと)であったため、ロサンゼルス(以下LA)へと足を向けた。
久しぶりにLAに住む友人と再会できるチャンス、そして前述の池田さんが仕事でLAにいらっしゃるとのことだったので、飛行機で1時間足らずのその場所へ、行かない理由が見つからなかった。
昼ごろに合流し、再会の瞬間を楽しんだ後、私の友人宅でランチを楽しんだ。彼が退任することなど想像もしえなかった私は、日本の野球界、スポーツ界の現状や未来について、2020年のオリンピックについて、時間の許す限り、彼と語り合った。
何も知らなかった私が、矢継ぎ早に繰り出す、特に野球やベイスターズの未来についての質問は、彼の胸を少なからず痛めたのではないかと少し反省している。
その中で、彼が今回の訪問理由になったLAでのミーティングに関する会話があった。詳細は割愛させていただくが、そのベイスターズの未来に関する内容を、目をキラキラさせながら話していた彼の姿は、それがすぐ先に退任が決まっている人間であったとは到底信じられないものであった。
本人から「退任」と聞いた後にすぐに思い出したのは、彼のその希望に満ちあふれた顔であり、そのことは私の中で、彼がスポーツ界に存在する、数少ない「プロ経営者」であると改めて印象付ける出来事であった。
カーショウと黒田は年俸7倍差
ランチの後、ロサンゼルス・エンゼルスのスタジアムでの視察ツアーと試合観戦に同行させてもらうことになった。
その道中、メジャーリーグの選手をはじめとする、アメリカのプロスポーツ選手の年俸の話になった。その中で、印象に残った会話がある。
池田 日本のスポーツには夢がないんですよね~。
TK(筆者の愛称) 確かに! 比較論になるけど、アメリカのそれと比べてしまうと、そういわざるをえないよね~。
池田  年俸だけじゃなくて、生活とか、いろいろな意味で。
TK  おっしゃる通り! チームやリーグからの待遇、世間からの尊敬、セカンドキャリアに至るまで、すべてにおいて夢がない。アメリカのそれより少ない、というべきかもしれないけどね。
待遇、特に年俸を比べてみれば、一目瞭然である。
たとえば、メジャーリーグではロサンゼルス・ドジャースのクレイトン・カーショウ選手がトップで約42億円。
28歳にしてサイ・ヤング賞を通算3度獲得しているクレイトン・カーショウ
NFLでは、インディアナポリス・コルツのアンドリュー・ラック選手がトップで約26億円。
これに対して、日本のトップはメジャーリーグから戻ってきた黒田博樹選手で、約6億円である(今季限りでの引退を発表)。
試合数の違い、契約形態の違いなどあれど、この数字の差には驚きである。
興味深かったのは、その年俸を払う側の経営者が「夢がない」と表現したことだ。
もちろん、お金のことだけであるはずがないが、その表情はかすかに曇っていたような気がする。まるで、「野球界にもっと夢を与えなければ!」とでもいうかのように。
日米コミッショナーの年俸格差
話を少し転ばせていただく。日本テレビのNFL中継のお手伝いで、毎年、世界最大のスポーツイベントである、スーパーボウルに帯同させていただいている。
過去数年、NFLコミッショナーの記者会見で必ず耳にする質問がある。
記者  コミッショナー、あなたの昨年度の年俸は、〇〇億円(わかりやすいように日本円で)だと発表されましたが、もらいすぎだと思いませんか。
コミッショナー 毎年同じ質問をありがとう。過去数年と同じ答えになるけど、いいかな?
記者 何度でも聞きたいです。
一同 (笑)。
コミッショナー 何度でもいうよ。それは、俺が決めていることではない。リーグ、もう少しいうなら32チームのオーナーたちが会議で決めていることだ。俺は君たちのように、ボスたちが決めた給料をもらっているだけだ。
記者 だから、それが高すぎるとは?
コミッショナー  思っていない。それだけの評価を得ているのだと、誇りに思っている。
私の記憶が確かであれば、これは、2014年の記者会見での話であったので、おそらく2013年の彼の収入に関することであろう。
さて、この金額、読者の皆様はいかほどであると想像するであろうか。
私が記者会見に行く前に漠然と持っていた数字とは、桁が一つ違っていた。約45億円である。
小学生が片手間でも調べられるような方法で、日本のトップスポーツであるプロ野球のコミッショナーの年収について調べてみた。約3000万円だそうだ。
同じ土俵で相撲をとらせて良いのかはわからないが、この年俸の差がある力士どうしは、決して一戦を交えてはいけないと思う。
また、この数字の差を見れば、「夢がない」という表現には微塵も違和感を覚えない。
ダルビッシュが見せる「夢」
エンゼルスの球場に到着して、先方の球団関係者にスタジアムツアーをしてもらっている間も、日本のそれに比べて夢がある環境を目の当たりにしながら、われわれの野球やスポーツに関する会話は尽きなかった。
普通の会話に結論など必要ないが、そのツアー中の会話には、「それぞれの立場で、日本のスポーツの発展に対して、もっとやれることがある。お互いに頑張ろう!」という、声に出さなかった結論があったように私は感じた。
エンゼル・スタジアム・オブ・アナハイム(撮影:河田剛)
さて、ゲームである。
エンゼルスの相手はテキサス・レンジャーズ。そして、うれしいことに先発はダルビッシュ有選手であった。
素人が見てもわかる、キレの良い速球と変化球を駆使してバッターをねじ伏せていく姿は、まさに日本人の誇りであった。
「夢がある」情景が、一人の日本人によって目の前で繰り広げられていたそのシーンは、いまでも目に焼き付いている。
帰りの車でも、日本のプロ野球や、スポーツ全体の未来についての話に終始した。
この週末のみの小旅行で、池田さんに会い、「夢」、特に「日本スポーツ界の夢」の話ができたおかげで、一つ良いフレーズができあがった。
「夢が少ないところに、夢、創る夢」である。
若いアスリートや子どもたちがスポーツ選手になりたい、現在競技をしているアスリートが指導者になりたい、と思えるような明るいスポーツ界の未来に少しでも貢献したい。
そして近い将来、そのスポーツ界に池田さんに戻ってきてもらって、一緒に夢のある仕事をしたいものである。
(写真:USA TODAY Sports/アフロ)