SPEEDA総研ではSPEEDAアナリストが独自の分析を行っている。今回は注目度高まるサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)を取り上げる。

未踏の高齢化の進展

厚生労働省の試算によると、65歳以上の夫婦のみ世帯、単独世帯の合計は、2015年の1221万世帯から20年後の2035年には1387万世帯に増加、全世帯に占める割合は23.1%から28.0%に上昇する見通しである。10年後の2025年には団塊の世代が後期高齢者になり、2060年には高齢化率が約4割となるなど、世界でも未踏の高齢化の進展が見込まれる。

高齢者向け住居が不足

しかし、進む高齢化に住環境の整備が追いついていない。
軽度要介護認定者(要支援1~要介護1)だけでも290万人に上り、単身高齢者人口は600万人以上だ。それに対し、有料老人ホームは60万人分、介護系施設合計でも175万人分しか供給されていない。また賃貸住宅の場合、様々なリスクから大家が高齢者には貸し渋るという実態もある。
一方で持ち家を終の棲家とする習慣も弱まる傾向もあり、バリアフリー環境、生活支援、人とのコミュニケーション等が望める住居が必要となっている。

選択肢高まった高齢者向け住宅の“サ高住”

こうした問題への解決策として、サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)が導入された。サ高住とは、高齢者単身・夫婦世帯(60歳以上の者又は要介護・要支援認定を受けている方及びその同居者)を対象とした住まいで、「高齢者の居住安定確保に関する法律(高齢者住まい法)」の改正により創設された。ハード面の条件を備えるとともに、ケアの専門家による安否確認や生活相談サービスを受けることができる。
有料老人ホームが共同生活重視で協調的な暮らしなのに対し、サ高住は賃貸住宅を基礎としたプライバシー重視、自立的・自律的な暮らしを基本とする。

参入障壁を下げたサ高住

サ高住の登録制度は、厚生労働省と国土交通省の連携の下、「高齢者の居住の安定確保に関する法律」(高齢者住まい法)の改正により、2011年10月に創設された。
サ高住の開設、運営は、有料老人ホーム同様、社会福祉法人や医療法人やNPO法人だけでなく、株式会社など営利法人でも参入できる。
また地方自治体への登録制、必須のサービスはケアの専門家による安否確認、生活相談が受けられることと、有料老人ホームより参入障壁は低い。また、居住の権利形態では、サ高住は賃借権(建物賃借権)、有料老人ホームは利用権が一般的である。

補助金など政府も後押し

サ高住の建設については、国は「補助金」「優遇税制」「制度融資」から推進を図っている。
国は、サービス付き高齢者向け住宅整備事業において、サ高住の新築につき建設費の1/10(上限あり)、改修(限定的工事)費の1/3 (150万円/戸限度)の補助を実施している。
税制面では、国などの補助金を受けていることを条件に、所得税、法人税、固定資産税、不動産取得税が優遇される。
制度融資は住宅金融支援機構が「サービス付き高齢者向け賃貸住宅融資」制度を設け、サ高住の新築、建物改修、購入のための資金を低利で融資している。

サ高住は中間価格帯

高齢者向け住宅における自己負担可能額の観点からみると、有料老人ホームが高く、サ高住はこれに準ずる価格帯に位置する。有料老人ホームのような手厚いサービスではないが、手ごろな価格となっている。

高齢者向け住宅供給戸数は今後10年間で2倍を予想

高齢者向け住宅の供給目標については、住生活基本計画において、高齢者人口に対する高齢者向け住宅の割合を2.1%(2014年)を4%(2025年)に、高齢者生活支援施設を併設するサ高住の割合を 77%(2014年)から90%(2025年)にすることが2016年3月18日閣議決定されたところである。このことから、2014年度の約70万戸から2025年の146万戸に対し、約2倍の供給戸数の充足が必要と算定される。

登録戸数は拡大進む

サ高住の登録戸数は、2016年9月末時点で約 20万7千戸まで拡大している。この数値は 認知症グループホームの利用者数を追い越しており、介護付き有料老人ホームの入居者数に迫る勢いである。た。政府は、2025 年までに高齢者人口に対する高齢者向け住宅の割合を4%にする目標を掲げる中、サ高住を含めた高齢者向け住宅の供給戸数は2014年度で約 69 万戸、高齢者人口に対する割合は約2.1%となり、着実な供給戸数の増加とみることもできる。

最も多い大阪地区、地域にバラツキ

高齢者向け住宅の供給は地域によってバラツキがあり、東京都、神奈川県、大阪府などが戸数ベースでは多い。一方、高齢者人口に対する割合では、大分県、福岡県が3%を超えるが、1%台の地域も過半を超える。サ高住の地域別登録戸数をみると、大阪府が最も多い傾向となっているが、地価や 人件費が安く、需要もある事業環境にあるとみられる。

1棟当たり平均32戸、住戸面積は平均22㎡

サ高住の1棟あたりの戸数は、「10戸以上20戸未満(24%)」、「20戸以上30戸未満(27%)」が多く、全体の8割以上 が50戸未満で、平均32.3戸となっている。また、専用部分の床面積は、25㎡未満が7割以上となっているのに対し、30㎡以上のものは約9% にとどまるなど、面積が狭いものが大半を占めている。また、サ高住へのサービス事業所の併設状況を見ると、約 77%については1つ以上の高齢者生活支援施設が併設されている。

介護系が7割だが他業種も参入

サ高住の開設、運営主体は、有料老人ホーム同様に株式会社が過半を占める。
しかしその運営形式は、土地所有者に自らの資金でサ高住を建ててもらい、運営会社が一括借上げ(サブリース)する方法が一般的である。また介護サービスについては、介護事業者と提携すれば提供可能だ。さらに認可制ではなく登録制で、登録条件も高齢者住まい法による規制が比較的少ないことから、実質上誰でも可能であり、他業種からの参入が相次いでいる。

ハウスメーカー、損保などが展開

2011年の制度発足から、先行するニチイ学館、メッセージ(現SOMPOケアメッセージ)、セントケアHDなど介護、福祉、医療関連のサービス事業者のほか、建設・住宅・不動産関連企業の参入が相次いだ。さらには、金融・保険、電機メーカー、鉄道、外食など業種は多岐にわたっている。
大手ハウスメーカーの大和ハウス工業や積水ハウス、ミサワホーム、積水化学工業などは子会社を通じて、施設運営を手掛ける方向にある。
例えば、積水ハウスはグループ会社の積和グランドマストで、東京、大阪、名古屋の3大都市圏を中心に事業を展開。2019年までに累計5000戸の運営を目指している。
保険業界でも東京海上日動(東京海上日動ベターライフサービス)が、大和ハウス工業が建設する「ディーフェスタ溝の口」でサ高住運営に新規参入。SOMPOホールディングスは、SOMPOケアネクスト(旧ワタミの介護)、SOMPOケアメッセージの連結子会社化で一躍上位に浮上している。
そのほか、マンションデベロッパーの大京、東京建物、高松コンストラクショングループ、NTT都市開発、フジ住宅なども本腰を入れ始め、鉄道事業者の小田急電鉄、東京急行電鉄なども参入している。
関東地区を中心に約90施設のサ高住など介護事業を手掛けるSCホ-ルディングスを産業革新機構が買収するなど、成長市場に対する投資ファンドの動向も活発化している。

スマートコミュニティ構想が始動

様々な事業者が多様な施設・サービスを展開する中、今後の住居形態の新しい形「スマートウェルネス」や「スマートコミュニティ」として、分譲住宅とその隣接地にサ高住を建設する複合開発事業が注目される。
具体事例では、NTT都市開発の「つなぐTOWNプロジェクト」、東急不動産の「世田谷中町プロジェクト」が挙げられる。分譲マンション隣接地にサービス付き高齢者向け住宅を開発し、分譲マンション購入者が将来の高齢化に備えられる、あるいは親との近居を可能にするなど、多世代永住を可能とする。
さらに、高齢者が健康なうちに入居し終身を過ごす、日本版 CCRC 構想が注目される。
東京都板橋区内のUR都市機構の高島平団地26街区2号棟の121戸中、30戸の空室を改修し、サービス付高齢者住宅「ゆいま~る高島平」として再生。生活コーディネーターが日中常駐し、安否確認、緊急時の対応をする。サ高住に必須である「見守り」と「安否確認」のサービスをサ高住から離れた(500m以内)棟の1階に設けたことで、既存住戸・コミュニティを生かしながらサ高住として機能させた稀有な事例である。

ばら色ではないサ高住事業

とはいえ、サ高住の業態にリスクがないわけではない。野村総研の調査によれば、サ高住(非特定施設)の入居率は平均82.9%と、有料老人ホームの87%台に劣る。
さらに、入居対象を自立・要支援のみとする施設では入居率70%未満の割合が上昇、平均要介護度が低い施設ほど入居率70%未満の割合が高い傾向があるという。
つまり、「自立的な生活」を前提としていたサ高住といえども、有料老人ホーム並みのサービス提供を求められる。
事業者にとってはリスクが高いといえるだろう。

まとめ

サ高住は、今後の高齢者向け住宅のあり方を大きく変えようとしている。今後は、特養や有料老人ホームに代わって、自律した高齢者が暮らす「ケア付き住宅」としてサ高住が役割を担うことになりそうだ。
多様化する高齢者のニーズに応えつつ、事業として成立し、また持続可能な活力ある地域社会を形作れるか。地域社会を含めての将来像の提示に向けて企業や地域の取り組みが注目される。