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リベラルアーツとは、「奴隷にならない(=自由=リベラル)為に勉強すべき科目」であって、その内容自体にはあまり意味はないと思います。人間を使う側と使われる側に分けたとき、使う側に属することを示す「記号」のようなもので、日本ではそれを「教養がある」とか「育ちがいい」などというわけです。
人間は、相手がどちらの「側」にいるかを、身なり、話し方、話題、家柄、など様々な「記号」によって判断し、相手の利用価値を瞬時に判断します。つまり、協力関係になるべきか否か。
その判断材料としてリベラルアーツは存在し、当然時代によって変わります。つまり、時代時代で「さすがやなあ」と思われる知識のこと。グローバル化、IT化の今だと語学とITの知識、なども入るでしょう。
さらに現代では、単に記号だけでは生きていけないので、ビジネスを生み出しやすい技術の習得なんかも重視されますが、やはり実学は教養とは違うと思います。
言うなれば、何かを生み出すことができない人が、支配階級にとどまる為のパスポートを自ら設定してポジションを保つわけです。
つまり、教養はそれ自体役に立たないからこそ教養なんですよ。
そして、何を勉強すべきか、という問題とは別。
あと、ここで書いたことは、「それを言っちゃあおしめえよ」なので、公的にはその意義を説くしかないのです。
確かにアメリカではリベラルアーツカレッジで学び、その後メディカルスクールやロースクールなどで専門を身につけています。
そこで日本も一時期、その方向へ舵を切ろうとししました。まさに法科大学院はその先例で、その後アカウンティングスクール、教職大学院など、専門職大学院が続きました。
しかし学部構造がアメリカと違い、また大学や社会もそうしたリベラルアーツ+専門性という構造に慣れておらず、日本では専門職大学院に行く価値が作れなかった印象です。
そのため国立大学が個別の努力で、この仕組みを担うには厳しいかもしれません。高等教育のグランドデザインを改めて作っていく必要があるのではないでしょうか。
身体が大きい人に存在感を感じるように、広く厚い知の体系を持つ人の前では(威圧的ではない)存在感を感じます。教養とはそのようなものではないかと思っています。
ちなみに私は、学術的な知識だけでなく、職人さんやアーティストが持っている普遍性のある箴言のようなものも、私には一つの教養に思います。
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AA%E3%83%99%E3%83%A9%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%84
【問題】No man is an island, entire of itself; every man is a piece of the continent, a part of the main.
さあどうですか。「誰も(孤)島ではなく自ずと完全ではない。すべてのひとはこの大陸の一片でありその主要部の一部である」・・直訳すればこんなところでしょう。ところが正解(もはや正訳といってもいい)とは次に掲げるものなのです・・少なくとも「教養」的には。
何人も一島嶼にては非ず
何人も自らにして全きは無し
人は皆大陸(くが)の一塊(ひとくれ)
本土の一片(ひとひら)
もしもこの問題がわたしの母校の入試に出たら最初の訳でも大丈夫でしょう。でも東大文学部なら危ない。就活試験の場合だとわたしの入ったモービル石油ならば大丈夫かもしれませんが講談社なら100%一発アウト。なぜならば有名な小説の冒頭に掲げられたこのジョン・ダンの詩は次のような一節で結ばれるからです。
故に問う勿れ
誰(た)が為に鐘は鳴る也(や)と
其(そ)は汝(な)が為に鳴るなれば
もうおわかりですね。その小説とはヘミングウェイの「誰が為に鐘は鳴る」です。
大久保泰雄の名訳によるこの詩の原文を諳んじている必要はありません。しかし冒頭で「誰も島ではなく自ずと完全ではない」・・と訳してみた段階で「あ。ひょっとしてこれは?」という知的想像力を巡らして調べてみようと考え得るかどうか。それはヘミングウェイのこの名作を読んでいるかいないかということに尽きます。そしてもちろんこのことは小説だけに限ったことではありません。
つまり「教養」とはそういうものなのです。
わたしは「教養とは公認された知の体系である」と思います。言い換えれば「教養」とはいわば「既成の知の武器庫」です。野心ある若者がその武器庫から武器を奪ってテクノロジーや思想の分野で革新的ななにごとかを成し遂げるということはいままでも起きてきました。きっとこれからもそうでしょう。教養を学ぶことは若者がそのための武器を手にすることだとわたしは思っています。
若者よ。精進しなされ。