ARM会長に就任、IoTに挑戦する孫正義の「最後の10年」

2016/10/10
2017年に60歳を迎える孫正義が、加速している。
2016年9月下旬、ソフトバンクグループ社長の孫正義が、いきなり韓国に姿を現した。
現地報道によれば、まずは世界最大の家電メーカーであるサムスングループの事実上の経営者である、創業家のイ・ジェヨン副会長と面談した。
サムスンといえば、スマートフォンや液晶テレビ、半導体メモリなどで世界市場のトップシェアを誇っている。そんな彼らが次の成長領域として見据えているテーマの一つが、あらゆるモノがインターネットに接続される「IoT(Internet of Things)」だ。
クルマがインターネットにつながるようになれば、その車両は走るスマートフォンとなり、大量のデータ分析をすることで将来的には無人の自動運転も実現されると言われている。
家庭内にあるテレビや冷蔵庫、エアコンもネットにつながり、いつでも最適なエネルギー消費になるように、自動的に家が調節をしてくれる。
そんなIoTの世界について、面談では意見を交わしたという。
さらに翌日には、朴槿恵大統領に会うために大統領府の青瓦台を訪問した。
そこでは今後10年をかけて、この「IoT」を筆頭にして、人工知能(AI)やロボットなどの最先端テクノロジー分野や自然エネルギーなどについて、5兆ウォン(約4600億円)を韓国に投資するという“リップサービス”まで使った。
もはや疑う余地はない──。
孫はソフトバンクだけではなく、約3.3兆円で買収したばかりの英国の半導体設計会社ARMの会長として、スマートフォンの“次”の世界をつくるため、世界中を飛び回っていたのだ。
そして孫の横には、ARMの創業期からのエンジニアである、CEOのサイモン・シガースがぴたりとついていた。9月には中国、韓国などアジアの企業経営者を訪問して、10月に入ると北米を奔走している。
2016月下旬には、ARM主催のテクノロジーイベントで、孫がマイクを握る予定だ。

誰も知らない、IT産業の「奥の院」

「10年前からARMを買いたかった」
孫は、ハイテク産業の黒子とも言えるこのARMに対して、異例とも思える情熱を口にしている。
ARMのビジネスモデルはユニークだ。全世界で4200人以上いる社員の半数以上はエンジニアであり、彼らは昼夜、半導体チップの「設計図」を書いている。
しかし、その半導体チップの製造は一切やらない。そのかわり世界中のあらゆる半導体メーカーに、有料でその「設計図」をライセンスしている。
どんな企業に対しても中立なポジションに立ち、その企業を黒子としてサポートするARM。だからこそアップル、サムスン、米マイクロソフトといったITの巨人たち、中国で勃興する新しい半導体メーカー、そして自動車業界に関わるハイテク企業まで、広く対話のチャンネルを持っているのだ。
ARMの経営幹部たちは、自らを「パンやケーキに使われる『小麦粉』や『砂糖』みたいなもの」と例える。消費者は誰も知らなくても、すべての商品に、それが含まれているということだ。
NewsPicks編集部は今回、特集企画「孫正義のアタマの中」のSeason2として、このARMの知られざる経営像に迫った。
米国のシリコンバレーのオフィスでは、ARMのCEOであるサイモン・シガース氏が、NewsPicksの取材に対して買収後初となるインタビューに応じてくれた。
また創業の地である英国ケンブリッジの本社を訪問。2017年に60歳を迎えるという孫正義が熱中し、これまで日本メディアにほとんど登場してこなかった、IT産業の「奥の院」をレポートしていく。