生き残るには「自分のバリュー」を考え続けるべし

2016/10/15
オリンピック、W杯を筆頭に、スポーツは巨大なビジネスへと成長。「スポーツビジネス」という仕事は、今や、世界中で憧れの「ドリームジョブ」となっている。では、世界最先端のスポーツビジネスはどのようなものなのか。どのような仕事内容なのか。NewsPicksは、岡部恭英氏、斎藤聡氏、塚本拓也氏という国際的にスポーツビジネスの分野で活躍している3人を招いたトークセッションを大手町で実施した。セッションの内容を全5回でリポートする。

意思決定ができるポジション

佐々木 ここからは会場の皆さんから質問を募ります。何か質問のある方はいらっしゃいますか?
質問者 先ほどのお話にあったように各競技団体やIOCなど、重要な意思決定ができるポジションに日本人はまだまだ少ないと思います。
今は田嶋幸三さんがFIFAの理事になられましたが、今後はそのような意思決定ができるポジションにどれだけ多くの日本人を送り込むかが大事になってくると思います。ここについての考えを聞かせてください。
塚本 これは本当に重要です。スポーツの世界で意思決定をするような団体の組織は会長が代わると、スタッフが総入れ替えするのが普通です。いま、野球はイタリア人が会長ですが、実際にイタリア人のスタッフが多くなります。会長が母国で自分の特別オフィスを作るわけですので、当然その流れになるわけです。
斎藤 論点は2つあると思います。1つは、その意思決定ができるポジションに入るためにはどうするかということ。もう1つは、そのポジションを得た時に、ちゃんとマネジメントを行い、意思決定・決裁を推し進めることができるのか。
まず、ポジションにつけるかどうかという点については、やはりある程度ポジションが上になると政治が絡んできます。
特にサッカーの場合だとアジアは47協会から成り立っていますが、アジアの各協会に「日本はこれだけアジアに貢献していますよ」「だから、日本人が選挙に出た時には票を入れてくださいね」と言えるかどうかがカギになります。
あと、実際にそのポジションになった時に意思決定をできるかどうかですが、日本人以外の部下や上司がいる環境での仕事の経験を積んでおくかどうかではないでしょうか。
岡部 2人の回答と似ていますが、ここへのアプローチはトップダウン、そしてボトムアップと2つあると思います。
トップダウンというのは例えばJFAやJリーグ、IOCが主導となり、そこから各協会に人を送るイメージです。塚本さんの話にもありましたが、プラットフォームにいるといないとでは情報の入り方が全然違います。
だから、そのようなプラットフォームに日本人をどんどん送り込むシステムを作らないといけないと考えます。もし私が協会の人間なら半分以上の職員を海外に送るようにします。
もう1つは、私のようにボトムアップでいく方法です。ここに集まったような意欲のある人がどんどん出ていかないといけない。

グローバルで活躍するために必要な能力

質問者 グローバルで優秀だと思う人材の話が出ましたが、必要だと思う能力について聞かせてください。
斎藤 海外に出てみて思ったのは、海外で働く人は、やはりオンとオフのメリハリの付け方がうまいです。
必要がない仕事をバサッと切る能力もあります。一方、これをやらなきゃいけないっていう時にはすごく集中してやり切る能力もあります。
それと比べて日本人の仕事のきめ細かさだったり、責任感だったりはジャパニーズウェイとして素晴らしいと思います。
岡部さんを見てて思うのは、とにかくコミュニケーション能力が欠かせません。
“でまかせ”って私は言いますが(笑)、岡部さんは「自分はこうやりたいんだ」とか、「日本人だから日本のマーケット全部知っているんだ」とか、「アジアは俺に任せろとか」といったことを平気で言います。
絶対にもっと市場を知っている人がいるのでしょうが、目の前で岡部さんが「私は全部知っています、俺に任せてください」って言ったら、多分きっと、「ああ、この人は何かできるんじゃないかな?」って見られますよね。
そういう意味では、そういう形がグローバルなコミュニケーション方法のひとつだと思います。
岡部さんもスイスで1人でやっていくなかで、これまでかなり苦しい思いをしてきたと思いますが、負けずにベストを尽くしてきたわけです。そのような姿が、グローバルに必要な人材の要素なのではないでしょうか。
塚本 僕は国際スポーツアカデミーに携わっているので、まさにこれから人材輩出をしていかないといけません。
スキルのほうから言うと、ビジネス面ではまずスペシャリティを持つこと。これは当然ですよね。そして国際感覚、英語能力があれば、グローバルで働くことはできます。
ただ、岡部さんや斎藤さんと接していて思うのは、2人ともやはり圧倒的にポジショニング、差別化がうまい。プラットフォームに入っていく能力とも言えます。
そのプラットフォームに必要な人間は残りますし、プラットフォームに必要のない人間は出ていくしかありません。
だから生き残りたいなら、先を読み「自分のバリューは何なのか」と常に考え続けないといけません。

必要な3つのこと

岡部 グローバルで活躍するために必要なこととして、私は3つあると思っています。
1つは間違いなく語学力、つまり英語力です。
グローバルで仕事をやりたかったら、少なくとも英語は、ビジネスでは苦労しないレベルまでもっていかないといけません。
2つ目は、先ほど斎藤さんが“でまかせ”(笑)と言いましたが、徹底した準備が必要です。
私も今まで色々な若い人を見てきましたが、準備不足な人が圧倒的に多いです。
例えば「僕に話を聞きたい」といって来ても、最初の質問でどれくらい準備してきたかがすぐに分かります。ただ、ほとんどの人は調べていない。調べていない人はやたら質問が大きいです。
質問はよく考えれば考えるほど具体的になっているので、こちらも答えやすいです。
どんなに頭が良くて、スキルがあっても、徹底して準備をしないとバリューは出せません。バリューを出し続けないと、僕らのいる欧米社会では本当にクビになってしまいます。
僕が会った若い人の中で、何人かはいいと思った人がいます。やっぱり、そういった人はちゃんと準備をしてきていますし、その後も立派にキャリアを築いていますね。
最後はアクションです。やっぱりアクションしない人がまだまだ多い。
こういうイベントに参加して、話を聞いて、「ああ、良かった。スポーツビジネスって楽しそうだな」で終わってアクションをしない人がほとんどです。
成果を出すためには行動しなきゃいけないのは自明ですよね。
アクションといっても、小さいことからやればいい。グローバルで活躍したいとしたら、どんなアクションがあるでしょうか。
それはグローバルに行くためのサークルに入ることかもしれない。もしくはグローバルでビジネスをやっている僕たちと話すことかもしれない。
そういったことを1個1個やっていくことです。そうすると慣れていきます。海外経験の乏しい普通の日本人にとって、国際舞台での「慣れ」は、本当に重要だと思います。
僕はベトナム、シンガポール、シリコンバレー、ケンブリッジ、リバプールと行って、スイスに来ました。そうしていくうちに慣れました。
また、グローバルな組織と色々交渉をしてきましたが、経験を重ねると慣れます。だから、僕は国際的な交渉の舞台で臆することはないです。
ビビらないと、相手をよく見ることができます。「相手のニーズは何か、そこに対して僕らが持っているものは何か。どうすればうまくマッチできるのか……」と集中して交渉ができます。
最後にもう1回言いたいのですが、僕みたいなドメスティックな人間でもここまでくることができました。だから皆さんも少なくとも僕のレベルまでは絶対になれると思います。
そのためにはさっき言った、語学力、徹底した準備、アクション。この3つを心がけてみてください。今日は、ご足労頂きありがとうございました!
(構成:上田裕)