【塚本拓也】日本にスポーツマネジメント大学院を作る理由

2016/10/13
オリンピック、W杯を筆頭に、スポーツは巨大なビジネスへと成長。「スポーツビジネス」という仕事は、今や、世界中で憧れの「ドリームジョブ」となっている。では、世界最先端のスポーツビジネスはどのようなものなのか。どのような仕事内容なのか。NewsPicksは、岡部恭英氏、斎藤聡氏、塚本拓也氏という国際的にスポーツビジネスの分野で活躍している3人を招いたトークセッションを大手町で実施した。セッションの内容を全5回でリポートする。

TIASが生まれたきっかけ

塚本拓也です。私はつくば国際スポーツアカデミー(以下:TIAS)で海外事業広報戦略ディレクターを務めています。
私は2007年に立命館アジア太平洋大学を卒業し、ゴルフのダンロップスポーツエンタープライズという国内トーナメントで企画運営をしていました。
そんな私が国際スポーツの舞台を志したきっかけは2009年です。この時、東京はオリンピック招致でリオデジャネイロに負けましたが、ゴルフがオリンピックの正式種目になったタイミングでもあります。
そうしたところから、自分は「もっと国際的なイベントをやりたい、国際的な舞台で活躍したい」という思いが強くなりIOC(国際オリンピック委員会)が中心となり設立されたスポーツマネジメント大学院、AISTSを目指しました。
IOCはスイスのローザンヌにありますが、ローザンヌは国際スポーツ組織のメッカと言われているほど、スポーツ競技の国際連盟が多数あります。
運良く2013年にAISTSに留学できたのですが、この留学を機に自分自身の価値観やキャリア、ネットワークが大きく変わりました。帰国後はTIASの立ち上げに関わっております。
TIASのことをご存じでない方もいらっしゃると思うので、ご説明します。
2020年の東京オリンピック・パラリンピック招致の際に発表された「Sport for Tomorrow」というプロジェクトがあります。
これは日本政府がスポーツを通して国際的にもっと貢献していこうといった内容でしたが、そこには3つの柱がありました。
1つは「スポーツを通じた国際協力及び交流」。2つ目が、「国際的なアンチ・ドーピング推進体制の強化支援」。最後に、「国際スポーツ人材育成拠点の構築」で、そのアカデミーの事業にあたるのがTIASです。
具体的には国際的なスポーツマネジメント人材を育てるために、文部科学省(現在はスポーツ庁が所管)が筑波大学に委託し創設した学位プログラム(修士)です。
私はそのTIASの立ち上げから入りました。最初に与えられたミッションはAISTSとの連携です。
AISTSとは半年ぐらい交渉したのですが、これから2018年に平昌、2020年で東京、2022年に北京とアジアでオリンピックが開催されるということもあり、AISTS側もアジアに拠点を置きたいという思いを持っていました。
そして、彼らが持つ国際スポーツ界のネットワークと、我々の持つ日本のネットワークを合わせて交流機会を創出し、「スポーツ界の人、物、金、情報を集める人材プラットフォームを一緒に作ろう」と呼びかけました。
こうして、2014年7月26日に無事AISTSと事業提携を行うことができました。

TIASの3つのKPI

次にTIASの具体的な活動について見ていきましょう。
TIASは、KGI(重要目標達成指標)として
「世界のスポーツ界と日本のスポーツ界の交流機会を創出し、スポーツ界の人・物・金・情報を集める人材プラットフォームを創ること」
KPI(重要業績評価指標)として
・学生の出願数(=優秀な学生の数)
・講師の質(=教育コンテンツの質、優秀な教授陣)
・修了生の就職先(=就職実績、修了生の豊富さ)
と3つ設定しております。
まず1つ目の学生の出願数です。これは非常に大事な目標数値の設定でした。
2015年10月からTIASは第1期生の修士プログラムを始めることになっていたのですが、その前段階として、2014年にAISTSとTIASで合計2週間の短期プログラムを構築しました。
こちらはAISTSの力も借り、世界57カ国から合計153通の出願が来ました。それが功を奏し、2015年10月にTIASも単独で76通の出願数を得ることができました。2期生は73通の出願がありました。
ただ、国際スポーツアカデミーでは100通を超えないと成功してると言えません。なんとか100通に届くようチャレンジしています。
2番目は講師の質です。
ここは幸いにもTIASが立ち上がってから、こちらにいらっしゃる岡部さんを始め、レピュコムジャパンの秦英之さん、FIFAマスターを卒業した杉原海太さんと、世界で戦われている方に講師として入っていただくことができました。
ただ、浮かれることはできません。2期生、3期生目に同じ講師に来てもらうという選択肢もありますが、我々としては可能な限り講師のローテーションをして新しい血を入れながら運営していきたい。
そうでないとTIASの外部ネットワークの強化にならないからです。ただ、実際にやろうとしても2期生目の講師も同じメンバーにならざるを得ない。それくらい日本では、世界で活躍しているスポーツマネージメント人材が不足している印象を受けます。
3つ目は修了生の就職先です。
これはTIASを継続していくためにも非常に大事です。2017年の3月にTIASの第1期生が修了するので、今はインターンを駆使しながら、就職先のネットワークを強化しているところです。
塚本拓也(つかもと・たくや)
立命館アジア太平洋大学卒業。2007年よりダンロップスポーツエンタープライズにて国内ゴルフトーナメントの競技運営およびスポンサー営業に携わる。2013年よりIOC(国際オリンピック委員会)が中心となり設立されたスポーツマネジメント大学院、AISTSに留学。2014年より筑波大学主任研究員で、つくば国際スポーツアカデミー(TIAS)海外事業広報戦略ディレクターを務める。

人材プラットフォーム戦略

私がAISTSへの留学、そして現在の活動を通して一貫して持っている課題意識は、世界で活躍している日本のスポーツマネジメント人材の少なさです。
スイスのローザンヌには2000人のスポーツマネジメント人材がいると言われています。そのうちIOCに500人、FIFAに500人、UEFAには500人います。これだけの人が1カ所に集中しているわけです。
ここで大事になってくるのは「人材プラットフォーム戦略」です。
「人材プラットフォーム戦略」は、
「多くの関係するグループをプラットフォームに乗せ、マッチングや集客の様々な機能を提供する。そして検索や広告などのコストを減らし、クチコミなどの外部ネットワーク効果を創造する戦略」
と定義されていると思いますが、やはりプラットフォームに入っていないと情報が回ってきませんし、実際に仕事の話が来ません。
岡部さんもパワーエリートが一堂に集まるプラットフォームはビジネスの機会が生まれるとよくおっしゃっています。世界で活動していると、1人では何もできないと感じざるを得ません。
我々からしたら十分なプラットフォームがあるように見えるAISTSも毎年のように「自分たちには何が最適か、自分たちの提供価値は何なのか」と考えながら戦略を作っています。
TIASもAISTSのようなプラットフォームを作るべく日々チャレンジをしていますし、そこから1人でも多くの国際的なスポーツマネジメントの舞台で活躍出来るような人材を生み出したいと思っています。
(構成:上田裕)