【小島秀夫×大塚明夫】自分の生き方を、どれだけ仕事に残せるか

2016/10/4

自分と同じタイプはいらない

──小島さんはクリエーターであると同時にコジマプロダクションの代表でもあります。採用面も含めて、どんなチーム作りをしているのか教えてください。
小島  第一に「やる気のある人」と働きたいなと思っています。そして、1人ではなくチームでやる以上、僕ができないことをできる人じゃないと嫌なんです。
だから、僕のゲームを好きな人じゃなくてもいいです。 新しいゲームを作るために会社を立ち上げたわけですから。
僕と同じタイプを連れてきても仕方ないし、自分の手が回らない仕事をただやってもらうつもりもないんです。僕の問いかけに対して、全く想定していなかった変化球で返してくれる人がいい。それによって作品自体が大きくなりますから。
面接では、心理学を駆使したり、ひっかけ問題を出したり、嫌な奴ですよ。「10分前、何言ったか覚えている?」とかね(笑)。
まあ今までの経験で言うと、面接前に経歴や作品には目を通しているので、扉を開けて入ってきた段階で、合格かどうかわかるものですよ。
最近入った若い子は、ゲーム業界以外からも来ていて、真っ白だから面白いですよ。僕自身、若返る感じがします。
古いスタッフの場合は、成功体験ばかりがあって、「小島の言うことを聞けばいい」という部分もどこかにある。せっかく一度チームを潰して再スタートさせたんだから、違うことをやらないといけない。 「シン・ゴジラ」の赤坂のラストのセリフと同じです。
映画業界から来た子は、いいですね。コジマプロダクションのアイコン(ルーデンス)のモデリングを手掛けたんですが、「これまで作った作品は何万人くらいに見られたの? E3(Electronic Entertainment Expo)に出展したら1,000万人くらいに見られるからね」って言ったらガタガタ震え始めて、会社から帰らずに仕事をし始めました。弄(いじ)りがいがあって面白い。
「いい加減に帰れ」って言いましたけどね。もっと弄ろうかな、時々アメをあげて(笑)。
大塚 僕も若い役者を見て刺激を受けますし、そういう目で見ようと思っています。自分が年を取ると、「若い人は拙(つたな)いものだ」と思ってしまうところがあるんです。
でも、今僕が同じ年齢だったら「やるな、こいつ」と思っている役者かもしれない。そんな視点で、若くて光る子に向き合いたいと思っています。

“売り逃げ”はしたくない

──小島さんのゲーム作りやチームマネジメントの現場はどのようになっていますか。
小島 僕は人に任せると失敗するので、必ず全部自分で見るようにしています。そのためにも今回は小さなチームにしています。
アニメやゲームの制作現場では、モノを作っていない人がマネージャーとして間にいるんです。その人がチームメンバーに対して「どこまで進んでいますか」とチェックする。でも、モノを作ったことがない人は、それが正しいかどうかわからないし、そんな状態で進捗管理されても良いものにならない。
僕のスタイルは、ヨーロッパにおいては100人規模でワールドワイドな作品を作っているスタジオがあるので、それに近い。
実際、作品が高く評価されたり賞を獲得したりするのは、そういうスタジオが手掛けたもの。 毎年出るフランチャイズもので1000万本売り上げたといっても評価されていないですよ。こんなこと言うと怒られるけど(笑)。
僕はゲームでみんなに驚いてもらいたいし、評価されたい。売り上げは、その向こう側にある。
たとえば、ゲームを“売り逃げよう”と思ったら、簡単にできるわけです。有名な作品の版権を買ってあれこれしたり、同じような作品を毎年作ったり。それで何十億も稼いでいる人もいますし、抜けられなくなるのはわかる。でも、クリエイターなら抜けなきゃいけません。
──作品にユーザーの声を取り入れることはありますか。
小島 ゲームの遊び心地や使い勝手については、ユーザーの声を聞きます。ゲームは遊んでもらって初めて完成する双方向的なものなので、作品がある程度出来てきたら何度もチェックしてもらいます。
でも、ゲームのシナリオやテーマ、新しさなどについて反映させることはありません。そこでお客さんの声を聞いたら、普通のゲームになってしまうので。既存の視点だと新しいものは生まれなくなります。
大塚 僕も、演技に関してファンの意見を取り入れることはないですね。でも相手にどう伝わっているかは知りたいと思います。あと、褒めてくれている人は探します。役者の原点は、承認欲求ですから。
以前、ツイッターで自分の名前をエゴサーチしようとして、そのままツイートしちゃったことがあるんです。そうしたら「【悲報】声優の大塚明夫さん、エゴサーチしてるのバレる」とスレッドが立ったんだけど、何がいけないのって思いましたね。役者でそれをしていないやつはいないですよ(笑)。感想を聞くことと取り入れることは別物ですね。

恐怖とストレスがあるから作れる

──小島さんは、作品作りにおいて「プロは失敗してはいけない」と話していたことが印象的でした。
小島 ハリウッドなどもそうですが、失敗したら後がなくなります。プロなら絶対にプロジェクトを成功させなきゃダメです。もちろん、プロジェクトを進める中で失敗はつきものです。「人選をミスしたな」「進捗が悪いな」とか。
でも、最後に結果としては成功させないといけないんです。自分だけの問題じゃないので。自分の失敗は後に続く者の道を塞ぐことと同じ。
大塚 監督は、自分の命をかけるだけじゃない大変さがあるからね。
その点、役者は体が資本だから、失敗しても命が取られるわけでもないし、評価が下がるだけです。むしろ、どんどん失敗した方がいいし、失敗を恐れたらおしまいです。
だからこそ、僕らのような失うものがない人間は、監督のような人以上に思いっきり踏み込まなきゃダメだなと思います。
小島 僕は作品について妄想しているときは、楽しくて何にも怖くないんです。でも、作り始めたら常に恐怖ですよね。気が付いたらお金の問題だけでなく、いろんなものを背負っていますから。
恐怖は消えないし、克服もできません。でも、恐怖とストレスがあるからモノを作れるんですよ。そして、自分でリスクを背負うから成功する。人に背負わせたら成功しません。
「どうやったら壁を乗り越えられますか」なんて言いますけど、壁がないと人間はその先に行けないんです。
僕たちは、それを突破する方法を考えればいい。壁を越えるためには、壁に梯子をかけてもいいし穴を開けたっていい。その越え方がアイデアであり、センスであり、本気度になるわけです。
大塚 その指示を待っていちゃいけないわけですよね。
小島 指示してもダメな人が多いんですよ。「よし、この川を渡るために泳いでいくぞ!」と一緒に飛び込んだつもりが、気付いたら「僕は泳げないんで」って向こう岸で手を振っている(笑)。
大塚 監督は、一緒に飛び込んでくれて、ぶくぶく溺れてくれる人を見ると、可愛くてしょうがないでしょ?
小島 そう。一緒に苦しんで、成功して喜びあえるから面白いんですよ。
クリエイターって、モノづくりが辛い時期に正体が明らかになります。モノをつくるときは、毎分毎秒、何か問題が起こります。それに対して常に立ち向かわなきゃいけない。
言ってみれば、1万人の敵軍を前に数人で戦うような状況です。そこで、「行くぞーっ!」と突っ込まなければいけない。それなのに、パッと横を見たら怪我をしたふりして離脱する人が出てくるんです(笑)。「ああ、しゃあない!」って言いながら進んでいくと、また気づいたら人が減っている。
戦うか離脱するか、最後は二手に分かれるわけです。そして、一度そこから外れたら人間は、もう戻ってこられない。
大塚 どんなことでも、敵前逃亡しちゃうと難しいよね。
小島 だからこそ、戦場を共にした仲間には、ホンマにチューしたくなりますよ(笑)。家族以上に「こいつらの方が大事や!」って思う瞬間があります。
大塚 自分と一緒に命を懸けて、命を預けてくれるわけですからね。昔から監督のもとにいるスタッフを見ると、それは感じます。

職業を選んで人生終わりじゃない

小島 もちろんサラリーマンとして生きることを否定はしないんですよ。ほとんどがそういう人ですから。
ただ、僕は命ある限りいいものを作りたい。目標としている“太陽”に一歩でも近づくことが僕の生き方なので。太陽に届かないことなんてわかっています。到達することが目標じゃないんです。
これまでも、作品ができて「やった!」と思っても、次の日の朝には「ここがダメだ」の繰り返しです。良いもの、面白いものは作れても、満足するものは作れない。だからこそ、作り続けたい。途中で引退する人の気持ちがわからない。
自分の生き方をどれだけ仕事に残せるか。それはクリエイターだけでなく、どんな職業にも当てはまるんじゃないでしょうか。職業を選んで人生は終わりじゃない。その次に生き方を選ばなあかんのですよ。
ビジネスマンとして、資本主義の下でお金を儲けて、子どもを残すのは正しいとは思いますが、「自分自身が生きたことで世の中の何かが変わるんじゃないか」という視点を持って仕事をしてもらえたらいいな、とは思います。
大塚 とり憑かれている感じなのかな。監督は死ぬまでモノを作り続けるでしょうね(笑)。
小島 ハハハ。とり憑かれてないとできないですよ。語弊があるかもしれないですけれど、特殊な仕事だし好きじゃないと持ちません。普通の人間じゃできない。
大塚 きっと僕も、役者で居続けるんだと思います。子どもの頃に遊んでいたときに「ずっとこのままでいられたらいいな」と思ったじゃないですか。それと同じで、もっと演じたい、役者としてプレイしたい、と思いながら死ねたらいいですね。
小島 そうですね。死ぬ瞬間も遊んでいたいですね。死んだことも覚えてないくらいに(笑)。
(構成:菅原聖司、写真:是枝右恭)