【大塚明夫×小島秀夫】ユーザーのことだけを考えて、楽しみ続ける

2016/10/3
異才の思考」の第9弾は、全世界で累計5,000万本以上の売り上げを誇る『メタルギアソリッド』シリーズを手掛けるなど、世界的なゲームクリエイターとして知られる小島秀夫氏と、同作品の主人公・スネーク役をはじめ数々の人気作品で声優、そして役者として活動する大塚明夫氏が登場。
50歳を過ぎてなお、活躍し続ける二人の原動力と、その思いとは。
──大塚明夫さんの近書『大塚明夫の声優塾』は、前著で「声優には絶対になるな」と喝破した『声優魂』をベースに、「本気とは何か」を声優志望者に対してレクチャーした内容をまとめたものです。
今回はNewsPicksの読者に向けて、最前線で活躍するお二人から「本気とは何か」について伺えればと思います。
小島 平成もだいぶ経ちましたけど、昭和のノリでお話ししましょうか。明夫さんも僕も常にポジティブなんですけど、言っていることの上辺だけ見るとネガティブに聞こえるんですよ。その辺をうまくまとめてくれるとありがたいかな。
というわけで、次に明夫さんが出す本は、『声優死ね!』でいいんじゃないですかね。
大塚 ハハハ。
──まずはお二人の関係から伺えればと思います。小島さんが大塚さんのファンであったことに加えて、『機動戦士ガンダム0083』のアナベル・ガトー役が決定打となり、『メタルギアソリッド』(1998年)の主人公・スネークの声優を依頼したとのことですが。
小島 そうですね。スネークにはもともと声がついていなかったんですが、この作品から喋ることになったので、声優選びはすごく大切だったんです。
当時は、今の作品のようにキャラクターの表情をCGで作れなかったので、プレーヤーはスネークを文楽人形のように動かすしかなかったんです。だからこそ、キャラにとって声こそが非常に重要で、適役をずっと探していました。
小島秀夫(こじま・ひでお)
1963年生まれ。東京都出身。1986年、KONAMIにプランナーとして入社。翌年、初監督作品「メタルギア」でデビュー。「ステルスゲーム」と呼ばれるジャンルの原点である「敵に見つからないように進む」ゲーム性が大きな注目を集めた。その後『メタルギアソリッド』シリーズが全世界で5,000万本以上売り上げるなど世界的ヒットメーカーとして活躍。2015年に同社を退社し、コジマプロダクションを設立。今年6月、最新作『DEATH STRANDING』のティザー映像を発表した。

大塚さんは、『機甲猟兵メロウリンク』にキーク・キャラダイン役で出ていた初期の頃からファンでしたが、ガトーの声を聞いたとき、「キタ―ッ」と思いましたね。「この声は他にはない波長を持った声だ。頭にも心にも残る」と。
その頃は、ゲームも僕も全くマイナーな存在でしたから、とにかく明夫さんに受けてもらおうと必死でしたね。
大塚 それは僕も同じでしたよ。2人とも認知度が低くて、「今から行ったろう!」という時期でした。
小島 いざ声を録るとなったんですけど、過去に声優さんを起用した『スナッチャー』(1988年)や『ポリスノーツ』(1994年)では、うまくいかなかったことも多かったんです。
どうすればいいか声優事務所の方に相談したところ、「小島さんの好きにやったらいいですよ」と言われました。
そこで、「じゃあ、みんなで合宿して役作りしながら録りましょう」と提案したんですけど「アホちゃいますか」と却下されましたね(笑)。
大塚 当時は、スタジオ予算すら全然なかったからね。でも、そのころから監督(小島秀夫)は「アホちゃいますか」と言われるくらい、「どうやったら作品をもっと面白くできるか」って真剣でした。僕とその点が共通していたことが、仲良くなった一番の理由かもしれません。
小島 お会いするまでは「面倒くさい人だったらどうしよう」と思っていましたけどね。
大塚 面倒くさい者同士で、波長が合ったんじゃないの(笑)。
大塚明夫(おおつか・あきお)
1959年生まれ。東京都出身。代表作に、『メタルギア』シリーズのソリッド・スネーク役、『機動戦士ガンダム0083』のアナベル・ガトー役、『攻殻機動隊』シリーズのバトー役、『Fate/Zero』のライダー役、『ONE PIECE』の黒ひげ役。洋画吹き替えでは、スティーヴン・セガール、ニコラス・ケイジ、デンゼル・ワシントンなどを幾度となく演じる。
本気とは、どれだけ“遊べるか”
小島 ちなみに、声優さんの声は1人ずつ同録でかけ合いをするんですが、誰かが話しているときに会話をかぶせることが、技術的にできなかったんです。
でも、僕らも他の声優さんも収録がノッてきたら「そんなん、もういいですわ!」となってきて、銀河万丈さんなんて「オラーッ」て叫びながら明夫さんのセリフに割り込んできました(笑)。
それをゲームで再現するために、収録後に音声に関するプログラムを変えたんです。
大塚 誰かが話しているときに割って入るのは、日常ではよくあることですよね。でも、それが当時のゲームで可能になったのは画期的でした。
小島 僕は「業界初」とか「前人未到」という言葉にキュンとくるんですよ。ユーザーに驚いてもらいたいから。
大塚 本気で取り組むって何かと言うと、自分が考えられる枠の中で計算して一生懸命やることじゃないと思います。どれだけ“遊べるか”じゃないかな。役者のことを英語ではPlayerとも言いますけれど、いかに自分自身がPlayできるかが重要。
監督は、自分自身が楽しんで、そのうえでプレーヤーを楽しませることを常に考えています。『メタルギアソリッド3』では、スネークが食べ物の味を尋ねたり、「うまい」と言ったりしているけれど、ゲームの本筋には全然関係がない。でも、そこが作品の面白さになっている。そこまで本気になれるかどうかが、分かれ道なんじゃないかな。
それは「バカじゃないの」と言われることが、できるかどうかでもある。
先日、ある声優さんが収録のテストで、アニメのキャラクターが飛ぶ姿に合わせて、本人もすごい勢いで飛び跳ねながら演じたんです。本番ではないので口も合っていないけれど、役作りのために気がふれたようになっていた。若い声優は「こんなことしていいの」ってあぜんとしていました。
でも、僕は面白いなと思ったんです。“飛びたいと思っていない人は飛べない”ですから。実際に飛び跳ねるかどうかは別にして、その気持ち自体が重要なんです。
僕たちの仕事は、うまさや技術だけでは求心力が生まれない。それ以上のものがなければ、時とともに淘汰されていきます。
小島 声優もゲームのクリエイターも職人ですけど、実は技術的にうまい職人はたくさんいます。そこから上に行こうと思ったら、自分にしかできないことを身につけなければいけない。僕が明夫さんにお願いしているのは、うまいだけではなくて、キャラクターの魅力をもっと上げてくれるから。
とはいえ、『メタルギア』シリーズの収録現場では明夫さんが中心ではあるけれど、そこが“ブラックホール”になってはいけないから、色んな手法を駆使しているんですよ。
たとえば、明夫さんが奮い立つような人を連れてくる。「これは」という先輩や後輩の声優さん。時には意外な人、出身が違う人、綺麗な女性まで呼んで、明夫さんを刺激する。この辺の話はバラしたくないんだけど(笑)。
声優志望者は、砂糖にたかるアリ
大塚 ふふふ。なるほどね(笑)。
うまさって、あくまでお客さんに感動してもらうための要素の1つでしかないんです。それ以外のものがないと人の心は震えない。ただ一生懸命やって、うまくなればいいわけでもないのが難しい。
今回の本の企画についてお話しすると、参加してくれた若い子は、みんな熱心でした。「声優なんてやめちまえ」と言われても、そこをくぐり抜けてきたわけだから。でも、熱心だからいいわけじゃない。
声優はプロ同士の掛け合いを見ると「楽しそうだな」「自分にもできそうだな」と思えてしまうんですが、声だけで演じることは、特殊なことです。
この間、あるディレクターが話していたんですが、「演劇の場合はアマチュアでもできる。ただ、悲しいことに、声優はプロしかできない」と。最近はネット上で個人として声優をやる人もいますけれど、基本的に映像に声を当てるのはプロの職人仕事です。
それを理解できずにこっちの世界に来ると、木っ端みじんになるし、声優の専門学校に行ったら親御さんの財布にも響く。
それなのに、役者はできなくても「声優だったらなれるんじゃないか」と思った人が、たかってくるわけですね。砂糖にアリが集まるかのように。
小島 ハハハ。今のところ見出しにして。
大塚 それに、僕はもともと役者として経験を積んでいた中で声優もやるようになり、たまたまその仕事の割合が増えただけです。僕はずっと、声優の前に役者なんです。
声優志望者には、アニメばかりを見てきた子がいます。そのため、何となく声優っぽい、アニメっぽい声は出せる。でも、演じるためには、それではダメなんです。
一生ゲームを作れない人たち
小島 ゲームの業界も「ゲームだけしてきた子はダメ」と いう点では似ています。
今では、ゲームのシステムってだいたい完成されています。たとえば、プレーヤーは3機の残数からスタートで、体力ゲージが画面に表示されていて、それがなくなったらゲームオーバーとか。
でも、僕がゲームを作り始めたときは、そんなルールはなかったし、そもそもゲーム自体がまだ全然なかった。自分たちが決め事を作ってデザインしたらゲームになったんです。
ある時期から「ゲームとはこういうものだ、RPGとはこうだ」となっていった。それを当たり前のものとして育った子は、その枠から出られないし、出る意思すら持たない。
自分の概念が邪魔をするんです。「ゲームとはこうだ」「メディアはこうすべきだ」「プラットフォームはここにすべきだ」と思うと、クリエイターは先に進めない。新しいものを作れない。
大塚 自分の物差しが正しい、当たり前だと思っちゃうと、他のものが見えなくなる。それ以外が悪に見えてしまうのは、役者でもあることです。
相手の解釈を受け容れられずに自分だけを通すと芝居じゃなくなります。色んな人との駆け引きや釣り合いの中で生まれる新しさが楽しい。
小島 手塚治虫さんや大友克洋さんもそうですけれど、元々映画に関心を持っていたり、映画監督になりたいと思っていたりした人が漫画を作ったことで、作品に映像感覚のある広がりが生まれました。
その意味では、ゲームばかりをやってきた子よりも、全然違う土壌で育った子の方が面白いなと思います。
大塚 声優も、僕が始めた当時は、志望者が少ないどころか、そもそも人数が少なかった。そこから自分たちで作りあげていく感じでした。
小島 その点、僕が1つラッキーだったのは、ゲームを自主映画みたいに5人くらいで全部作っていたこと。昔はシナリオを作る人、サウンドの人……と役割なんて分かれていなかったので、何でもこなしていたんです。
今は、ゲームづくりがハリウッドのように巨大なラインになって、分業体制になっていることが多くて、1人が1つの同じことをずっとやることも普通です。 ドラム缶ばかりをずっとモデリングしているとか。
でも、ゲーム会社に入って1つのことをこなしているだけでは 一生ゲームを作れるようにはなりません。会社で出世して上長やマネジメントをする立場になっても、それはオペレーターなんです。 全体を俯瞰するマクロな視点とミクロな視点の両方が必要なんです。
さらには僕ら、その先にいるお客さんの顔を見に行かなくちゃいけない。でも、ものづくりではなくマネジメントだけで止まってしまっている人が多い。
大塚 ゲームには関わっているけれど、クリエイトしているわけではないもんね。
僕の人生は自分の人生じゃない
小島 そんな人も、入社したころは「自分のゲームが作りたい」って絶対に言ってたんです。でも、しばらくして「そろそろ企画書出してみたら」と声をかけると、「今はその時ではない」って必ず言うんですよ(笑)。「忙しい」とか理由をつけて、自分をごまかすわけです。
そのうち給料も上がって、結婚して子供が産まれ、ローンができると「もうこれでいいか」となる。アニメや声優の業界と比べるとゲーム業界は給料が高いですしね。そういう人が9割です。
僕は、夢破れてゲーム業界にたどり着いた人間ですけど、結果的にはむちゃくちゃ良かったと思っていますよ。
学生時代は映画を撮りたかったけど、予算もないし1人では無理だった。仕方がないから小説を書き始めたけれど、おかんしか読まない(笑)。
それが、ゲームを作るようになったら全世界の人がもれなく遊んでくれる。こんなおいしい話があるのかって思いますよ。
だからもう、僕の人生は自分の人生じゃないです。彼らのために死ぬまで頑張ります。
これはもう麻薬ですね。顔を見たこともない人のために命をささげている。でも、それがすごくうれしい。
『DEATH STRANDING』(小島氏の最新作)も、ティザー映像を出しただけで、「ウワーッ」て、みんなが待ってくれています。それがエネルギーですよね。お金が欲しいとかあんまりないです。
大塚 喜んでいる人がいることを知ると、モチベーションになるのは同じです。お金は欲しいですけどね(笑)。僕も、家族については、結婚生活で色々ありましたから、多くは語るまい……と。
小島 僕はずっとユーザーを喜ばすために、好きなことをしてきただけ。30年間休みなくコナミでゲームを作っていましたけど「働いた感覚」はないんです。
だから家族や周囲から「おまえだけ楽しんで!」って怒られるんでしょうね。「大変や、しんどい」って言いながら、どう見ても顔は笑っていましたから。
コナミを辞めて、去年コジマプロダクションという会社を立ち上げましたけど、やっていることはそのまま横にスライドしただけです。しばらくは少し小さな作品や映画に取り組んでも良かったんですけど、みんなが「小島に期待しているのは大作のゲームだ」と言われて、「それならば」と作り始めた感じです。
大塚 コナミの件について、僕はその時の状況を色々分かっていたので、「しょうがねえなあ」という感じでしたね。まあ、“大塚談”としておいてください。監督としては言えないところがあるでしょうから。
小島 でも、ある意味ありがとうって気持ちもありますよね。僕はそれまでも独立したかったというか。会社に所属していると、次々に作品を作らないといけなくて、邦画やハリウッドから映画のオファーもあったけれど、社員だったので結局できませんでしたから。
大塚 資金力で言ったら今までとは違うから、好きなことばかりやれているわけでもないと思うんだけど。
小島 そこはあんまり変わってないんですよ。今までも、自分や会社のためにゲームを作っていないし。遊んでくれるユーザーのことだけしか考えていなかったですから。
結果的にも、自分でプロモーションをやって、大きな収益を上げ、損を出したことは一度もないです。
まあ、こう言うとまた色々言われちゃうかもしれないかな(笑)。
*後編へつづく。
(構成:菅原聖司、写真:是枝右恭)