NewsPicksでもお馴染み、シグマクシス マネージングディレクターの柴沼俊一がファシリテーターを務める「シグマクシス ディレクター対談」。前回は、同社の AI&デジタルアナリティクスサービスをリードする溝畑彰洋と共に、ビッグデータやAIで人、企業、価値創造のあり方がどう変わるのかを予想した。続く第二弾に登場するのは、同社プログラム&プロジェクトマネジメントシェルパを率いる、マネージングディレクターの大賀憲。社会のデジタル化、グローバル化により企業の経営課題が複雑化する中、次世代リーダーに求められる能力とは何かを掘り下げる。 
あらゆる業界で、仕事は「プロジェクト」になる
柴沼前回は溝畑さんと、デジタル化の進行で新しいビジネスモデルが次々と生み出される中、人財や企業の価値の再定義が求められている、という話をしました。大賀さんは、企業の経営層のパートナーとして様々な経営課題解決プロジェクトをリードする立場ですが、昨今のデジタル化をどう捉えますか。
大賀:デジタルテクノロジーの進化は、企業の新たな価値創造の機会をもたらすと同時に、経営課題をより複雑化させていますね。経営を支える業務とITの仕組みひとつとっても、SAPやオラクルに代表される統合基幹システムを導入して業務を動かして行った時代から、今はクラウド、モバイル、IoT、AIの活用がテーマになった。多くの企業が、新たな事業競争力獲得のために最新テクノロジーをどう選択し、組み合わせて活用するのか、試行錯誤しています。とはいえ、並行して業務効率化も恒久的なテーマですから、基幹系システムの導入・刷新も止めるわけにはいかない。さらに昨今ではセキュリティ対策の難易度も高まっていますから、取り組むべき課題が絡み合いながら増え続けているのです。
柴沼:何かと最新テクノロジーの活用ばかりが注目されがちですが、経営の視点からすれば既存業務やそれを動かしているITシステムと連携できてこそのデジタル化ですからね。デジタル化できる仕事と、人にしかできない仕事を組み合わせて価値を出す、という視点も必要です。
大賀:そうですね。既存のものを進化させながら新しいテクノロジーを乗せて組み合わせる。しかもそこに成果を出すまでのスピードも求められている訳ですから、仕事の仕方も大きく変わってきます。
日本企業になじみ深い「ピラミッド型」「縦割り型」の体制では、この複雑な状況で成果を出すことはできません。事業部門、経営企画室、システム部門等、様々な組織から適切なスキルをもったメンバーを集め、チームでゴールを目指す「プロジェクト型」という考え方が基本です。部門間ではなく人財と能力のコラボレーションです。
柴沼:最新テクノロジーを扱うとなると、自社だけではスキルが足りない。社外のプレイヤーも巻き込むことになりますね。社内外の組織を横断して、スピーディかつダイナミックにチームを動かす形へシフトして行かなくてはならない。
大賀:私たちがいるコンサルティング業界やシステムインテグレーター(SI)業界では、こうした「プロジェクト型」がビジネスの基本ですが、普通の事業会社で「プロジェクト」というと、通常業務とは異なる「特別なもの」でした。でもこれからは、あらゆる業界が「プロジェクト」軸で物事を動かしていくことになると思います。
プロジェクトのアプローチはひとつではない
柴沼:振り返ってみれば、シグマクシスがお客様と取り組むプロジェクトも、多様化してきました。同じコンサルティングプロジェクトでも、アプローチや考え方が異なるものが並行で動いたり組み合わせで動いたりしていますね。
大賀:柴沼さんのチームが取り組んでいるイノベーション創発型プロジェクトは、何よりもスピードが大事。がっちり戦略を作って業務設計して、仕組みを整えテストを繰り返してから市場投入、というような、いわゆるウォーターフォール型アプローチでは競合に負けてしまいます。まずは大きく方向感を決めたら、新しいテクノロジーなり仕組みを使ってプロトタイプを作り、チューニングを繰り返しながら完成形に近づけていく、トライ&エラー型のアプローチが基本ですね。
一方で、全社を巻き込んだ業務効率化や基幹システムの刷新などは、これまで通りウォーターフォールをきっちり動かす必要があります。重要なのは、それらのプロジェクトは互いにいつも影響しあうということ。自分が今何のために、どういう思考回路で、何に取り組んでいるのかを理解し、動く必要があるわけです。
柴沼:確かに、私も大賀さんも一緒にプロジェクトを進めるとき、互いにそれを使いわけていますね。私はどっちかというと「トライ&エラー」が得意で「ウォーターフォール」は苦手、なような気がするけれども(笑)。
大賀:私はどちらかというと、その逆かな(笑)。互いに全体を俯瞰していること、そして自分の能力と相手の能力を理解していれば、それで良いんですよ。似た者同士がプロジェクトに沢山集まってもうまくいかない。多様性が成功の要ですから。
シグマクシス マネージング ディレクター 柴沼俊一
1995年東京大学経済学部卒、2003年ペンシルバニア大学経営大学院ウォートンスクール卒。1995年日本銀行入行。調査統計局、国際局、考査局にてエコノミスト・銀行モニタリングに従事。途中2年間、経済産業省産業政策局に出向。その後マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、国内ファンドにて投資先企業再生に携わり、2009年シグマクシスに入社。2015年より現職。著書: 『知られざる職種 アグリゲーター』(2013年日経BP)『「コンサル頭」で仕事は定時で片付けなさい! 』(2009年PHP研究所)
CEOの成り代わり:プログラムリーダーが企業を変える
柴沼:能力の多様性が大事、ということですが、大賀さんは、こういう複雑な環境で未来を牽引する人財に求められる能力って何だと思いますか?
大賀:物事が組織ではなくプロジェクト単位で動くことになると、やはりプロジェクトマネジメント能力は不可欠ですね。プロジェクトのゴールを達成するために必要な様々なリソース、社内外のステークホルダーをマネジメントし、スケジュールをコントロールし、変革を推進していく能力です。でも、プロマネ能力を持った人財が揃えば十分かというと、そうではない。企業経営において最も大事なのは、プログラムリーダーの存在だと私は考えています。ここで言う「プログラム」とは、企業内で展開される関連プロジェクトの集合体ですが、順番としてはまずプログラムありきで、それが分解されて様々なプロジェクトに展開される、と考えるのが正しい。
柴沼:要は、CEOのアジェンダ(解決したい課題)を解決するのが、プログラムですね。
大賀:そうです。企業戦略、事業開発・運営、業務、デジタル活用、既存ITシステム、組織、そして人財。あらゆる企業経営の要素を俯瞰し、相互の関連性もイメージしながら、必要なプロジェクトを立ち上げ、動かし、まとめていく人財です。プログラムリーダーなしでは、どんなにいろんな種類のプロジェクトを立ち上げても、個別最適に陥ってしまって、経営課題の解決にはつながらない。
柴沼:プログラムリーダーに求められる能力と、プロジェクトマネジメント能力は全く異なるものですね。
大賀:一言でいうと、「CEOの成り代わり」的存在ですからね。CEOに並ぶ視座と胆力を備え、ビジネスとテクノロジーを結び付けて複数のプロジェクトを束ねられる人財、ということになりますね。ただしこうした能力、スピーディな判断力、そしてやりきる実行力は、多様な領域での経験を積んでこそ身に付くものです。これまではピラミッド型組織、縦割り組織の中で、ゆっくり経験を積み上げてくるのが普通だったわけですから、突然それをやれ、と言われても、殆どの企業ではそんな人財が見つからないのが現実です。
柴沼:だからこそ、大賀さんの率いるプログラム&プロジェクトシェルパ(P2)の能力がお客様に求められ、数々のプロジェクトを任されているわけですね。そういう意味では、大賀さんの組織のコンサルタントは、プログラムリーダーやプロジェクトリーダーとして企業を牽引する人財になりうるのでは?
大賀:いや、私のところの人財だけとは限りませんね。確かに大型のプログラムマネジメントオフィス(PMO)案件を担当しているのはP2のメンバーが中心ですが、そもそもプロジェクトマネジメントやプログラムマネジメントは、コンサルタントに必須の能力。特にシグマクシスは、社内外のプレイヤーを組み合わせてチームを組成するアグリゲーションが基本ですから、その経験を積み上げて、プロジェクトの場数を踏めば、将来のキャリアの可能性は大きく拡がるでしょうね。
シグマクシス マネージング ディレクター 大賀憲
専門商社、外資系コンサルティングファームを経て現在に至る。製造業・流通業、アミューズメント、総合商社などへの コンサルティングに従事。グループ経営、経営管理、リスク管理などの策定から業務改革、大規模システムのインプリメンテーションまで、一気通貫のサービス提供を得意とする。現在はプログラム&プロジェクトマネジメントのサービスを責任者としてリードしている。
柴沼:私は、お客様やビジネスパートナーとのジョイントベンチャー立ち上げも担当していますが、そうやって立ち上げた事業会社でコンサルタントが事業運営に参画していくのを見ると、コンサルタントのキャリアパスが多様化しているなと実感しますね。ところで大賀さんご自身は、今後どのようなキャリアを考えていますか?
大賀:私の「野望」は経営者ですね(笑)。まだ誰もやったことのない新しい事業や取り組みに、いつか経営としてチャレンジをしたいと思っています。
柴沼:なるほど、CEOの成り代わりではなく、CEOそのものですか。世の中をリードする人財を我が社が輩出して行くというのは、ワクワクしますね。自分達の仲間が新たなフィールドで輝くというのは単純に嬉しいことですし、ネットワーク拡大にも繋がって行きますから。チーム・シグマクシスが拡大して行くイメージですね。
大賀:新たな人財もどんどん迎えたいですね。様々な価値観、能力、野望を持ち込んでもらい、シグマクシスを自らの成長の場として活動して欲しいと思います。