異能の融合に挑むビジネスコンテストの“リアル”

2016/9/30
複数の大企業とスタートアップが、文化やスピード感の違いを乗り越えて「イノベーション」を生もうとさまざまな取り組みにチャレンジしている。国内システム開発会社の最大手、NTTデータもその1社。約2年半前からスタートアップのビジネスコンテストを定期開催している。2016年8月に開かれた第4回の模様を取材し、その中身をリポートする。
“巨人”の危機感
NTTデータが主催する「オープンイノベーションビジネスコンテスト」の本戦会場には、約100人が集まっていた。スーツにネクタイ姿もいれば、Tシャツにジーンズ姿もいる。年齢層も20代から60代までが混在し、海外から駆けつけた人もいる。多種多様な個性が集まっていることが、会場に入った直後にわかった。
このコンテストは、NTTデータが開催するスタートアップとの協業推進プロジェクトの一つ。NTTデータのビジネスと親和性の高い企業を公募し、書類選考・面接を通じて選ばれたファイナリストが本戦でプレゼンする。
最優秀企業には、NTTデータが3か月にわたって営業と商品開発の両面を人的・技術的にサポートし、話の進展具合によっては共同で新事業を立ち上げるというストーリーだ。
NTTデータは、年商が約1兆6000億円、従業員は8万人を超える国内システムインテグレータの“巨人”。そんな最大手でも「持続的な成長には固定観念にとらわれない新たなビジネスが必要で、そのためには自社のリソースでは限界がある」(NTTデータの残間光太朗・イノベーション推進部オープンイノベーション事業創発室室長)という危機感を持っている。
「スタートアップの猛烈なスピードと斬新なアイデアを発掘し、“スタートアップ”も“我々のお客様の大企業”もそして“NTTデータ自身”もメリットが生まれるWIN-WIN-WINを実現できるようなビジネスを創発したい」。そんな思いで始まったのが、このコンテストだった。
NTTデータの残間光太朗室長。このコンテストを立ち上げ、第1回から企画・運営の指揮を執る。当日のイベントでは自ら司会を務めていた
約2年半前に始まった第1回から第3回までにおいて、このコンテストで生まれたビジネスマッチングは94件、そこから具体的なビジネス検討まで進んでいるのが21件、さらにそこから事業化まで進んだものが2件と、着実に実績を積み上げていることで、社内外の評価は高まり、4回目の今回は最多の人数が集まった
協業の芽を逃さない仕組み
今回は「フィンテック」や「ビッグデータ」「IoT」など12種類のテーマに関連するテクノロジーやビジネスモデルを募集。本戦には、55社の応募の中から選ばれた11社が参加して約8分間のプレゼンを行った。
ファイナリストたちは8分という少ない時間で自社の強みをアピール。年齢も国籍も服装もさまざまでバラエティーに富んだ個性が集まっていた
会場でプレゼンを聞くのは、有識者で構成した外部審査員と、このプロジェクトを推進する部門のスタッフだけではない。NTTデータの各事業部門の責任者や幹部数人も集まっていた。
外部審査員が最優秀賞や優秀賞を選ぶだけではなく、自らが仕切る事業部門でビジネスにつながりそうなスタートアップがいれば、その場で手を挙げて、ダイレクトに協業を検討していく仕組みがある。
NTTデータのあるスタッフは「欠点だとは重々承知しているが、みんなが知らないベンチャーと私たちが協業するのは、さまざまな手続きや承認が必要でかなり時間がかかる。ただ、こうした社内の公式イベントで選ばれた企業だと話がスムーズで、協業を進めやすい」と語る。
最優秀賞や優秀賞に選ばれた企業には、このコンテストを仕切る「オープンイノベーション事業創発室」という部門が主導して、受賞プランのビジネス化のためのサポートチームの提供や、ビジネスディスカッションの場の提供などをアレンジし、アクセラレータとしてビジネス化までをリーンスタートアップやデザインシンキングなどを組み合わせた独自の手法を活用しながら、徹底的にサポートしていく。
ただ、審査員には響かずに受賞を逃した企業でも、各事業部門にとっては有益なプランもある。そうした「協業の芽」を逃さないために各事業部門横断で組織化されている400人程度の“社内イノベーションワーキンググループ”のメンバーにも多数参加してもらい、多くの協業を創発しようと工夫しているのだ。
会場に集まったNTTデータの各事業部門の責任者は、各社のプレゼンに協業の可能性を感じたら「◯」のプラカードを挙げる。今後の展開次第でアライアンスを組む可能性がある
No.1は福岡発フィンテックベンチャー
今回は、最優秀賞1社に加えて5社の優秀企業、そして各事業部門から協業を検討したいという声が、最優秀賞・優秀賞受賞企業含め9社のプレゼンからあがった。その中で、最優秀賞を獲得したのはフィンテック関連ベンチャーのドレミングアジアだ。
ドレミングアジアは昨年に福岡で起業、企業向けに従業員の勤怠データと給与の計算・管理を両立するクラウド型プラットフォームを開発する。ここまでであれば、単なる企業向けプラットフォーム開発会社にとどまるが、ドレミングアジアが目指すのはこのプラットフォームに、決済サービスを載せるというもの。
企業にこうしたプラットフォームを提供するだけでなく、ドレミングアジアは企業と小売店をつなぐネットワークを構築して現金やクレジットカードを使わずに消費者が買い物をできるようにしようともくろんでいる。
従業員には、働いた時間に応じて日ごとの給与をリアルタイムで計算してそのデータを提供。その情報を携帯電話やスマートフォンで閲覧可能にし、その情報をもとに、企業と小売店同士の間でキャッシュレス決済ができるという仕組みを構想している。決済の方法や情報の信頼性確保など、課題はあるがビジョンは壮大だ。
「この仕組みは日本というよりも、発展途上国に最適なサービス。途上国では銀行で口座を持つことが大変で、貧困地域では企業は従業員に現金を手渡ししているケースが多く、給与の支払いを効率化したいというニーズがある。また、従業員は日ごとに給料をもらって使いたいという要望がある。そんな両者のリクエストに応えられる」と創業者の桑原広充代表取締役CEOは語る。
最優秀賞を獲得したドレミングアジアの桑原広充代表取締役CEO
現在、開発を進めている最中でリリースは来年を予定する。桑原CEOは「NTTデータは金融系のシステム構築と運用で強固なブランド力があり、決済サービスでは技術力がある。そうした企業と協業を検討できることはありがたい」と語っている。今後、NTTデータとドレミングアジアは開発と販売の両面で協業ポイントを探っていく。
このコンテストで第1回から審査員を務める多摩大学の本荘修二・客員教授は「技術的レベルが毎回上がっていて、かなり洗練されてきた。そんな中でもドレミングアジアは、社会的意義があり、ユニークなコンセプトを持っていた」と選考理由を語っている。
必要な成功体験
オープンイノベーションを生もうとする大企業のこうしたイベントは最近では多い。だが事業を進めるスピードや文化の違いからフェードアウトするケースも少なくない。
大企業とスタートアップが手を組み、互いに成功するための秘訣について今回審査員を務めたNTTドコモ・ベンチャーズの浪方竹葉・投資・事業開発マネージングディレクターは、「大企業がスタートアップに学ぶくらい気概を持つことが重要」と説く。
本荘教授は「小さくてもいいから、とにかく協業して成功体験を得ること。やらないと何も生まれない。そういう意味では、こうしたコンテストを継続的に開催し、ビジネス化に向けてしっかりと各事業部門を巻き込んでいるNTTデータの姿勢は評価できる」と説明する。
審査員メンバー。右から二番目が本荘修二・客員教授、4番目がNTTドコモ・ベンチャーズの浪方竹葉マネージングディレクター。大学教授やベンチャーキャピタル会社、監査法人などバラエティに富んだメンバーで構成した
ドレミングアジアや優秀企業、そして各事業部門とスタートアップとの協業による成功の行方は今後次第だが、残間室長はすでに第5回を企画し、10月下旬から公募を開始する予定だ。
「オープンイノベーションは今や世界では当たり前の大きな潮流となっている。そこで第5回は、一気に全世界の主要なイノベーションのクラスターの10カ所(予定)で開催し、世界中のイノベータと本イベントのコンセプトどおり“さあ、ともに世界を変えていこう”を本気で具現化していきたい。これはある意味、我々にとっても大きなチャレンジであり、無謀と言われても大企業におけるベンチャースピリッツのあるべき姿でもあると思っている」。
最大手の企業が自社のリソースに固執せずに、むしろ積極的に他社の力を借りようとしていることに、日本のビジネス環境が大きな転換期を迎えているように感じる。弱いところを認め、それを補完するパートナーがいれば、立場がどうであろうと積極的に手を組む努力をする。その姿勢の重要性をこのイベントは示していた。
(取材・文:木村剛士、写真:風間仁一郎)
“さあ、ともに世界を変えていこう”
Presented by 豊洲の港から
オープンイノベーションビジネスコンテスト
第5回は世界10都市に拡大して開催
まもなく最終決戦を迎えます
これまで過去4回東京で開催してきたオープンイノベーションビジネスコンテストの第5回は、一気にグローバルに広がりました。2016年10月下旬に世界10都市で募集開始し、2017年2月より各地予選会を実施、2017年3月15日にグランドフィナーレを迎えます。各地予選会を勝ち抜いた先進先鋭のスタートアップたちが世界の課題解決につながるイノベーティブなビジネスプランを競い合います。コンテストの最新動向はこちらをご覧ください。