医学生ピッカー・井上陽美さん「身近な医学知識、発信したい」

2016/9/10
NewsPicksで活躍する一般ピッカーにお話を伺う本連載、毎回たくさんのコメントを頂戴し、誠にありがとうございます。
コメントの中で「まだ有名ではないピッカーさんも発掘してほしい」とのご意見をいただきました。そこで、今月は少し趣きを変えて、NewsPicksでは少数派の、女性ピッカーさんにスポットライトを当てていきたいと思います。
6人目のピッカーとしてご紹介するのは、 井上陽美さんです。
現役医大生として、医療や女性のキャリアに関するニュースにコメントしている井上さん。井上さんがNewsPicksを活用する理由や、熊本地震で感じたNewsPicksのパワーについて、お話を伺いました。

女性×医学生×熊本在住

——医学生として、忙しい勉強の合間をぬって、NewsPicksにコメントしていますね。井上さんにとって、コメントすることにはどんな意味がありますか?
NewsPicksは、知り合いに教えてもらって使い始めました。ずっと記事を読むだけでしたが、AKB48の高橋みなみさんの記事に対して、なにげなくコメントしたんです。
フォロワーもほとんどいませんでしたし、誰も読んでくれないだろうと思い、推敲もせずに投稿したのですが、Likeボタンを押してくださる方がいたんです。「こんな私のコメントも見てくれている人がいるのか」と驚きましたね。そこから、少しずつコメントをしはじめました。
すごいコメントが書けるわけでも、何のプロでもない私を注目してくださる方がいるなかで、「私にしかコメントできないことってなんだろう?」と考えるようになりました。
そのとき、私が「女性であり、医学生であり、熊本在住者である」という少数派の視点を活かすことで、読んでいただく意味のあるコメントになるのではないかと思ったんです。
井上陽美(いのうえ みなみ)
熊本大学医学部医学科に在籍中。「女性であることを活かせる、婦人科系の臨床医を考えていますが、2年間の研修医期間で様々な科を経験して、進む道を決めたいです」

医療の世界の狭さに気づく

——井上さんは、なぜ医学に興味を持ったのですか?
小学生の頃、体が弱くて、病院にかかることが多かったんです。主治医の先生が女性で、「お医者さんになったら?」と言われたのが、きっかけかもしれません。気がつくと、子どもの時から職業として意識していましたね。
——プロフィールを拝見すると、「医療界と他分野の接点になりたい」と書かれていました。ここにはどんな思いが込められているのでしょうか?
医療系の学部は、基本的に他の分野にいる人々との関わりがほとんどないので、「外の世界と接点を持とう」と意識しています。私が通う大学も含めて、ほとんどの場合、キャンパスも、部活さえも、他の学部と分かれています。自分から積極的に外へ出なければ、1学年100人の狭い世界で、不自由なく暮らせてしまいます。
高校時代の友人たちが就職活動の話をするようになったとき、知らないことがたくさんあることに気づきました。
友人が就職する会社の名前を聞いてもピンとこない。「ES」って略称を言われても、エントリーシートではなくES細胞を思い浮かべてしまう(笑)。そして、時事的なニュースも、わからないことがたくさんあって、このままでいいのだろうか、と疑問に思い始めたのです。
学生のうちは、いいかもしれません。でも、臨床医になれば、患者としてやってくる様々な方と交流しなくてはなりません。それなのに、こんなに無知のままでいいのだろうか、と。
「大学受験のとき、進路を迷いましたが、最終的には一番学びたいと思っていた医学の道を選びました。数学が苦手で、受験は苦労しました。理系科目は好きですけど、脳は文系ですね」(井上さん)

外の世界を知るために

——NewsPicksを活用するようになった背景には、もっと世の中のことを知りたい、という気持ちがあったのですね。
ピッカーさんたちのコメントを読むようになって、ニュースの中には、私が一読しただけでは知りえない背景があったり、別の観点からの解釈が可能だったりすることに気づかされました。
専門家や、現場感覚を持つ方のコメントのおかげで、ニュースをなんとなく流し読みするより、本質に一歩せまることができる。そこが私にとって、NewsPicksを使う一番の魅力です。
——医学部以外の世界にも、積極的に活躍の場を広げられていると聞きました。
そうですね、グロービスが主宰する「G1カレッジ」というイベントに参加したのも、世界を広げたかったからです。大学生たちが集まって、日本や世界を良くして行くために何ができるか、ディスカッションしました。
参加者の中には、 プロピッカーで「家族留学」に取り組んでいる新居日南恵さんをはじめ、すでに起業している人もいました。彼らの目線の高さ、日本を変えていこうというモチベーションの強さに驚かされました。

被災しなかったことに苦しんだ熊本地震

——熊本地震の際、井上さんが投稿したコメントが強く印象に残っています。その時のことをお話しいただけますか?
私は、前震のときは熊本にいましたが、学会に参加するために東京へ移動したため、本震を経験しませんでした。友だちの多くが被災したのに、私は全く被害を受けなかった。SNSから伝わってくる現場の様子と、東京にいる自分。そのギャップに気持ちがついていかなくて、何かしていないと落ち着きませんでした。
震災後すぐ県外の実家に帰省した学生も多かったのですが、あのとき熊本を離れていた人は、みんな同じ気持ちだったと思います。
いてもたってもいられない思いを持った、関東出身の医学部生で集まり、一緒に募金活動をしました。
——ブログには、井上さんをはじめとする募金活動をする学生の、複雑な心境を描かれていました。
ツイッターなどのSNSは、自分の活動を批判する人との距離も近くて、心ない言葉も目に入ってしまいます。友だちの中には、ネット上で口論になってしまった人もいました。
何かしていないと落ち着かない、やりきれない気持ちを、私は言葉にすることで整理しようと思いました。
言葉にして公開すれば、いろんな人の目に触れます。ただ感情をそのまま書くだけでなく、なぜそう感じたのかが伝わるように、理由も書きました。
それでもやっぱり不安で、下書きを先輩に読んでもらいました。「ここの言い回しは誤解を招くから、変えたほうがいいよ」とアドバイスしてくれました。
NewsPicksでは、熊本地震に関する記事にもたくさんのコメントがついていました。みなさん関心も持ってくださって、心配もしてくださった。本当に感動しました。
——NewsPicksでのコメント含め、慎重に言葉を選んでいるのが伝わる文章でした。
チキンだからかもしれませんね(笑)。私自身が人を嫌うことがないので、嫌われるのが怖いというか、小さいこともわりと気にしてしまうんです。

実名でのコメント、心理的ハードルは?

——震災のことだけでなく、NewsPicksでのコメントを、実名で書くことに心理的なハードルはありませんでしたか?
どんな専門分野の方でも、何かに挑戦している方や、成し遂げられた方は、顔や名前を出して情報発信されています。
私はまだ何者でもありませんが、発信できる人になるためには、今から実名で活動した方がいいのではないか、と感じました。これは、前述のG1カレッジで知り合った人々の影響もあるかもしれません。
NewsPicksで実名を公開する際も、特に怖がる必要はない、と思っていました。
Likeボタンはあっても、Dislikeボタンはありません。ピッカー同士で議論がヒートアップしすぎないように、ニュースにコメントはできても、返信はできないようになっています。
なるべくポジティブなやりとりになるように設計されている点に、好感を持っています。

井上さんのこれからの挑戦

——現在は就職活動のために東京に来られているそうですね。「お医者さんの就活」について教えて下さい。
私より少し前の世代までは、自分が学んだ大学にそのまま就職することになっていて、医学部卒業と同時に、どの科に進むかも決める必要がありました。
それが現在は大きく変わって、全国どの病院にも「就職活動」ができます。また、最初の2年間は研修医として、様々な科で現場を経験できる「スーパーローテート方式」と呼ばれる研修制度が採用されています。
現時点では産婦人科を志望していますが、まずは私も研修医として、いろんな現場で働いて、自分の適性を確認したいですね。
——「発信できる人になりたい」というお話がありましたが、現在関心のあるテーマは何ですか?
最近話題になっている医療系の取り組みで「ピロリ菌プロジェクト」があります。
ピロリ菌を除菌すると、胃がんの発症が抑えられることは、医師や医学生には知られているのですが、一般的な認知はそこまで高くありません。このプロジェクトでは、たくさんの人にピロリ菌のことを知ってもらい、がん予防のための簡易検査を普及させるものです。
このチームの代表を、現役医大生の荘子万能くんがやっていて、同じ学生として刺激をもらっています。
医学を学ぶ者として、身体について「知る」ことの大切さを、私も伝えていきたいです。
——不妊治療の大変さについて、クリニックでの実習で知ったこともコメントしていましたね。
知ることの大切さは、不妊についても当てはまります。
子宮内膜症など、不妊につながる病気は、早期に発見すれば進行しないように治療することができます。実は多くの女性があまり気にしていない月経不順も、不妊の原因となる排卵障害や黄体機能不全といった病態が隠れているんです。
こうした身体からのアラートも、見逃さずに気づくことができれば、将来的に不妊に悩む女性を減らせるのではないかと思いました。
医学を勉強してきた私でさえ、クリニックで実習を受けるまで、月経不順が放置してはいけない症状だという危機意識がそれほどありませんでした。
こうした身近な医学知識を、みんなにも知ってもらえるように、NewsPicksでも発信していきたいですね。そして他の専門性を持った人々ともタッグを組んで、より大きな取り組みにしていけたらと考えています。

井上陽美さんのオススメピッカー

インタビュー記事を読んでファンになりました! 普段のコメントからも聡明なお人柄が感じられて、素敵です。
レベルの高い専門的なコメントに、ときどきゆるめだったり、ミーハーなところが垣間見えたり、親近感を覚えています。かわいい女の子談義したいです。
次元アイコンから発せられる格言的(イケオジ)コメントが好きです( ^ω^ )
小野 編集後記
熊本の大学に通う井上さんが、就職活動で東京にいらっしゃる日に、私も日本に一時帰国していたため、今回は直接お会いしてインタビューできました。

熊本地震のエピソードなど、発信力に加えて行動力も感じさせる井上さん。NewsPicksでもたくさんのフォロワーがいることについて、「少数派であることの恩恵を受けています」と、控えめにおっしゃっていたのが印象的でした。

「学生のうちはフットワーク軽くいきたいですが、臨床医になったら医学の道に集中したい」とのこと。エネルギーと冷静さを兼ね備えた、素敵な医師になられると確信しております。就職が決まられたら、ぜひコメント欄でお知らせください!