【金泉×横山】ヒットの鉄則はバッターボックスに立ち続けること

2016/9/4
AKB48グループの2代目総監督を務める横山由依さんがNewsPicksのプロピッカーと対談する新連載「教えて!プロピッカー」。政治・経済からカルチャーまで、第一線で活躍しているキーパーソンと対談し、基礎から学んでいく企画だ。
今回は『週刊SPA!』編集長の金泉俊輔さん。後編では、メディアのこれから、そしてNewsPicksの未来についても話が展開した。
“電脳ライター”を名乗っていた
横山:金泉さんは色んなメディアがある中でも、昔から雑誌の編集をやりたいなと思っていらっしゃったんですか?
金泉:僕は、高校生や大学生になったくらいから、物書きになりたかったんですよ。それこそ、秋元康さんが高校時代に、ニッポン放送に出入りして放送作家をしていましたが、そういうのに憧れて、大学時代から『ホットドッグ・プレス』などの仕事を手伝って……この世代の子はホットドッグ・プレスなんて知らないかな(笑)
横山:どんな雑誌なんですか?
横山由依(よこやま・ゆい)
1992年12月生まれ。京都府木津川市出身。2009年9月、AKB48第9期研究生として加入。2010年10月に正規メンバーとなり、2015年12月、AKB48グループ2代目総監督に
金泉:当時は、高校の教室に必ずあるような感じの雑誌でした。デートの仕方とか、洋服の着方とかのマニュアルが人気だった。
横山:面白そう! 男の子バイブルみたいな感じですね。
金泉:そう。19歳くらいから、そこに出入りしていたんです。だから、同じ世代の中では、僕が最も長く雑誌業界にいると思います。
横山:すごい!
金泉:ただ、秋元さんは才能があって、作家になったんだけど、僕は無理だと思ったんですよ。「文章を書く才能がないな」と感じたので、才能のある書き手を支える編集者になろうと思ったんです。そして、1996年に扶桑社に入社しました。
その頃、ちょうど90年代中盤に、雑誌とCDの売り上げがピークを迎えました。雑誌単体の売り上げでいうと、96年がピークなんです。
横山:私が4歳のときですね。それじゃあ、すごく勢いがあるときに入社されたんですね。
金泉:一番良い時でしたね。ただ、入社してからは「あれっ?」っていう感じで、どんどんおかしくなっていきました(笑)。そこからもう、雑誌はずーっと落ちることが、基本の流れなんですよね。
ただ、今は雑誌以外にもウェブで展開しているので、SPA!は売り上げでいうと、近年、上がっているんです。2012年と比較すると、今では1.5倍ぐらいになっていますね。利益でいうと、もっと上がっています。
金泉俊輔(かないずみ・しゅんすけ)
1972年生まれ、東京都出身。立教大学経済学部卒業後、扶桑社に入社。販売部を経て、『週刊SPA!』編集部に。同誌副編集長、編集長代理を経て編集長。ウェブ版の『日刊SPA!』編集長なども務める
横山:金泉さんは、雑誌がピークの時、ウェブやデジタルについて、どう考えていたんですか?
金泉:90年代中盤には、ウェブやデジタルは絶対来ると思っていました。自分のことを「電脳ライター」って言っていたほどです。
横山:えっ、どういうことですか(笑)。
金泉:僕は、学生の頃に『週刊SPA!』から取材されているんですよ。
そこで「これからメジャー誌は終わる」「僕は電脳ライターとして、今後はマイナーなことしか書きません」みたいなことを言っているのが残っています。ちなみに、その時の僕のペンネームは「AI」でした(笑)。
横山:人工知能ですか、すごい。もうその時から、時代の変化を感じていたんですね。
金泉:当時から、僕みたいに考えている人は少なからずいました。Windows95が発売された頃には、プロピッカーでもある小林弘人さんが編集長だった雑誌『WIRED』が「これからインターネット社会になってきますよ」と書いていました。
新しい時代に向けてどういう準備をするのかっていう段階でしたね。
金泉さんが取材を受けた『週刊SPA!』。(写真提供:金泉俊輔)
“飽和”を前提に考える時代
横山:当時は、今みたいな社会になるなんて、一般の人は想像出来ていなかったと思いますけど、雑誌業界ではもう取り組んでいたんですね。
金泉:その頃は、インターネットユーザーの数とか、ネットの回線速度など課題が多かったので、「どの段階でどう参入しようか」と議論していましたが、時代の変化自体は薄々わかっていましたね。
横山:まだスマホとかもなかったですもんね。
金泉:そう。だから、スマホが革命を起こすんですよ。iPhoneの発売が2006年なんだけど、それまでは、ウェブ=PCでした。そんな中で、iPhoneの普及がどんどん進んだことが大きかったんです。『日刊SPA!』のスタートが、2011年なんですけど、その頃からネットの世界が劇的に変わっていきました。
ちなみに、2005年の時には、もうそういう時代になるということで、『週刊SPA!』はライブドアと共同でコンテンツを作り、ライブドアのポータルサイトに記事を載せて、広告をとる仕組みを始めていたんです。
僕は堀江(貴文)さんの取材をずっとさせてもらっていたこともあり、「じゃあ、一緒にやりましょう」って、スタートしたんです。そしたら、2006年の1月に、堀江さんが東京地検に……(笑)。
横山:あ! ありましたよね(笑)。
金泉:それで、その取り組みが1カ月で終わっちゃった(笑)。
横山:“想定外”でしたね……。
金泉:これがなければ、もっと早くいろんなことをスタートできたと思います。ちょっと遅れちゃいましたね。
ちなみに、現在の『日刊SPA!』と『女子SPA!』の制作は堀江さんの次にライブドア代表取締役になった山崎徳之さんのゼロスタート社が、営業は当時ライブドアの営業担当だった藤田誠さんのINCLUSIVE社がやっています。つまり、ライブドアのDNAが『日刊SPA!』と『女子SPA!』を作っているんですよ。
今のメディア状況を考える上で一つ重要なのは、おそらくこのスマホの爆発的な普及を、完璧に予測した人は誰もいないということです。こんな短期間にスマホが普及することを予測した人はいないからこそ、いち早くその可能性を見いだして 動いた人たちが、結局、陣地を広げたんです。
ただ、もう今は、iPhoneの売り上げは、横ばいになってきました。たぶん、このスマホが普及する勢いは、いったん弱まると思うんです。これまでのようなスピードにはならない。
さらに、ウェブの媒体数も、もう飽和状態になっています。雑誌が休刊すると、よく話題になりますけれど、それと比較したら立ち行かなくなって消えるサイトの方がずっと多いですからね。
だから、今後は“飽和”を前提に考えなければいけない。2010年から2015年くらいの成長速度で、スマホ周りを考えてはいけないと思っています。その中で、何をどうアジャストしていくかが重要です。
また、雑誌や本の未来でいうと、アメリカって、日本に比べて国土が広く、印刷コストが高くて、流通網がしっかりしてないから、日本より早く雑誌が衰退しているんですね。
日本とアメリカを同じようになぞらえる人もいるんですけど、日本って、印刷技術が高く、値段も安くて、狭い国土に精密な流通網を持っているので、安価に、高い質の多種な雑誌や本が行き届いている国なんです。だから、アメリカと同じような速度で、日本の雑誌が衰退するとは思っていません。
日本は急にデジタル化しない
横山:ちょっと安心しました。私は雑誌がすごく好きで、コンビニにあるファッション誌から男性誌まで、まとめて買いして読むぐらいですから、これからの変化がすごく気になっていたので。
金泉:「ハイブリッドカー」ってありますよね。世界的には、ガソリン車から、電気自動車に移行しつつあるのですが、日本車はハイブリッドカーの期間がすごく長いんです。これは、トヨタが、広範なガソリンスタンド網とか、ものすごくレベルの高い部品メーカーがある中でハイブリッドを選択したからです。
これに象徴されるように、日本は、細部にものすごく精度の高い流通や技術があることで、物事が急速に変化するのではなく、移行期間が長くなる産業が多いと思います。
つまり、雑誌、テレビ、新聞なども、ハイブリッドカーみたいな時期が長いと思うんです。
だから、日本は幸か不幸か、急に全部デジタルに変わるんじゃなくて、その良さを見ながら緩やかに移行していく。
その意味で、レガシーメディアは、NewsPicksが予測するより、もうちょっと長く存続すると思っています(笑)。テレビも、NewsPicks内で、反テレビ派の人たちが言っているような速度では衰退しないと思う。
横山:確かに、テレビはそうでしょうね。子どもの頃に比べたら見る時間は減ったかなと思いますが、スマホでテレビを見る人もいます。
それに、「Hulu」や「Netflix」を見る人もすごく多いですし、色々言われながらも、みんな形を変えてテレビを見ているのかなという気がします。
金泉:そういうことだと思います。僕は、この移行期間って実はすごく豊かな時間だと捉えているんです。
横山:いろいろ試せますもんね。
金泉:そうそう。成功の秘訣 (ひけつ)は何かを毛嫌いしないで、バッターボックスに多く立つことだと思うんです。立ち続ければ、いつかはヒットが出るので、まずはやってみて、ダメならやめればいいだけのこと。
横山:成功する人は、みなさん、そうおっしゃいますね。そういえば、私は番組の企画で酒蔵に行って、女性の杜氏(とうじ)さんにお話を聞いたことがあります。
そこでは、ずっと男性の杜氏さんがやっていたので、最初は女性だということで全然認められなかったけど、女性視点でピンク色のお酒を造ったんですよ。そうしたら、それが売れて、今まで造っていたお酒も売れるようになったと聞きました。
だから、「これはダメだ」と言われても、新しいことをどんどんしないといけないっていうのは、どこでも一緒なのかなと思います。
NewsPicksの未来
――金泉さんから見て、NewsPicksの未来についてはどうですか。
金泉:NewsPicksの未来は、ちょっと難しいなあ。とりあえずIPOでしょう(笑)。
あえて言うとしたら、ユーザー同士がお互いにコメントをできるように、双方向性にしたらどうなのかなとは思いますよ。たぶん荒れると思いますけれど。
横山:今は、記事を読んでコメントしたら、それで終わりですもんね。なんで、双方向の方が良いんですか?
金泉:これは僕も含めてなんだけど、人はすべての物事を知っているわけじゃないですよね。そして、有り体に言うと、NewsPicksではコメントで知ったかぶりをしている人が多すぎるんですよ(笑)。
横山:あっ! だから、コメントで「ここは違うよ」って言えるようにした方が良いということですか。
金泉:そうです。NewsPicksは元気があるときや、やる気があるときに見ると、すごく面白い。でも逆に、元気があんまりないときとか、忙しいときにNewsPicksでそういうコメントを見ると、なんだが元気がなくなっちゃう(笑)。
あと、やっぱりユーザー間でコミュニケーションが取れたり、それこそ連絡が取りあえたりすると、ビジネスのプラットフォームにもなるじゃないですか。リンクトインみたいな、ね。
――横山さん、今回金泉さんのお話を聞いてみていかがでしたか。
横山:私が大好きな雑誌がこれからどうなるのかが聞けてすごく楽しかったです。すぐにデジタルに移行しちゃうのかなと思ったんですけど、まだちょっと時間がありそうですね。
金泉:今後、もし紙が完全になくなる時は、学校の教科書がデジタルになるときでしょうね。その世代が大人になったら、本当に移行するんじゃないかと思います。文科省が、いつどういうタイミングで、それを導入していくかわからないですけど。
ただ、雑誌を読むデバイスが変わっても、その雑誌が持つDNAって絶対残るんですよね。僕たちはそういう伝統を大切にしながら、新しいことに取り組めばいいのかなと思います。
AKB48も、デビューから10年以上経って、アイドルの伝統校みたいになっているから、先輩たちが作り上げた物語をまねすることもすごく重要なんですよ。
横山さんが総監督に選ばれたのも、それを引き継げると秋元康さんや高橋みなみさんたちが考えたからだと思います。でも、全く同じことをしていると縮小してしまう。
AKB48のファンは、やっぱりメンバーの“物語”を見に来ているので、今の大きくなったグループでどんな物語を作れるのかが大事。そして、それが出来たときに、横山さんが『週刊SPA!』で語ってくれたように「もう一花咲く」のかもしれないですね。
横山:そうですね。私たちで言うと、握手会と劇場公演は、先輩たちがずっとやってきたことなので、私たちの世代だけじゃなくて、今後も絶対なくしてはいけないなと思っています。
ただ、ファンの方たちは、私たちと何度も握手をしてくれたから「飽きがきているのかな」と感じることもあるんです。そこで、「なにか新しいことはできないかな」とスタッフさんと話したことで、今後は「ババ抜き会」や「ツーショット会」などの新しい試みが動き出しつつあります。
そういう意味では、伝統を守りつつ、でも、私たちの象徴となる「握手会」以外の「○○会」が生まれたら良いなと思いました。
本日は、ありがとうございました!
(構成:菅原聖司、写真:是枝右恭)