菊池雄星のケースから明かす、人の「将来」の見抜き方

2016/9/2
 8月26日、西武の菊池雄星投手が高卒7年目で初のシーズン2桁勝利を記録しました。
 花巻東高校時代から甲子園で活躍し、6球団がドラフト1位指名をするほどの逸材と評価されたので、プロでいつその才能を開花させるのかと注目されてきたのはご存じだと思います。
 ところが、ケガやコーチとの問題などもあって、初めてシーズン10勝するまでに7年かかりました。
 さらにいえば、花巻東の3学年後輩である大谷翔平投手(日本ハム)は入団2年目の2014年、菊池投手より先に2桁勝利をマークしています。
 菊池投手への期待度、ポテンシャル、さらに大谷投手が先に2桁勝利したことを考えると、菊池投手がシーズン10勝するまでに7年かかったことを遅く感じるかもしれません。
 しかし私は、菊池投手が高校生のころから、「この子はいいボールを投げるけど、1軍で活躍するようになるまで時間がかかるだろうな」と思っていました。
 その理由は、スカウトとして人の才能をどう見抜いてきたかを話せば、理解してもらえると思います。
プロ3年目で1軍初登板を果たした2011年オフ、菊池雄星はオーストラリアのメルボルン・エイシズでウインターリーグに参加

行動に選手の意志が現れる

 日本ではプロアマ規定により、プロ球団のスカウトとアマチュアの選手は原則、ドラフトで指名するまで接触できません。だから高校生の場合、学校の授業が終わってからグラウンドに出るまでの間に、私は選手の様子を見るようにしていました。
 ※編集部注 9月ごろに「プロ志望届」を出した選手に限り、プロ球団と接触可能になる
 たとえば、いつも見慣れない私がグラウンドに来ているとき、その選手は私のことをお客さんだと思って、立ち止まって挨拶してくるのか。あるいは、グラウンドに早く行くことがプライオリティで、素早く通りすぎていく選手もいます。
 練習では、どんな態度で取り組んでいるのか。試合で円陣を組むときにはどこにいるのか。ベンチではどこに座っているか。室内に入るとき、靴をそろえて並べているか。
 そうやって行動を細かく見ていると、その選手は自分で成長しようとしているか、野球をうまくなろうとしているかが、自然と浮かび上がってきます。

小さな積み重ねから将来性を見る

 グラウンドに来た私に挨拶するか、しないかという話をしましたが、どっちがいい、悪いという話ではありません。そうした観察が積み重なって、私の判断材料の一つになっていくわけです。
 たとえば、誰かの紹介で最初に会った際、私に挨拶をしなかったとします。その選手が守備でファーストベースのカバーリングに遅れると、「最初に会ったとき、挨拶をしてこなかったな。この子は周りに注意を払えないから、ベースカバーにも遅れるんだ」とつながっていきます。
 結局、自分の中でするべきことが整理できていないから、野球のプレーでもミスが起こるわけです。
 それは、プロでもアマでも変わりません。だからこそスカウトは選手の細かいプレーや行動を積み重ねるように見ていけば、「この選手はいずれ、こういうミスをしていくだろうな」と、自分の中で大きな判断材料になるわけです。
 ダルビッシュ有投手(レンジャーズ)くらいの圧倒的な才能があるなら別として、ドラフト候補といわれる投手たちが投げているボールの質って、あまり変わらなかったりするんです。
 従って、小さい積み重ねから将来性を見抜くことが、スカウトの重要な仕事になっていきます。

対照的な菊池雄星と大谷翔平

 菊池雄星投手は、本当にわかりやすい選手でした。
 彼が高校生のころ、私は花巻東によく通っていたので、グラウンドで向こうから「今日は来ていないのかな?」と探しているくらいでした。私が行くと、「ああっ!」みたいな感じになるんです。
 大谷翔平投手は、まったく逆でした。グラウンドで私の姿を見ても、「自分には関係ないよ」みたいな感じです。
 菊池投手とは対照的で、見ていて面白いなと思いました。
 「菊池雄星君は、こういう性格ですよね?」
 花巻東の佐々木洋監督にそういうと、彼は驚いていました。
 「気持ち悪いですね。なんでわかるんですか。僕らは毎日見ていて話もするし、親も知っています。でも、直接話したことのない人が、普通は性格までわからないですよね?」
 「いやいや、見ていればわかります。ものすごくわかりやすい性格ですよ」
 私はそう話した後、佐々木監督にこういいました。
 「この子はいいボールを投げるけど、プロの1軍で活躍するようになるまで、時間がかかるでしょうね。すごく気が散るタイプですから」
 実際、菊池投手がプロでシーズン10勝を挙げたのは、7年目の今季が初めてでした。

黒田博樹と斎藤隆の性格

 もちろん、性格がわからない選手もいます。裏の裏をかいてくる人もいますからね。プロになると、特にそうです。初めは、警戒心から入ってくる人がほとんどです。
 私がメジャーリーグにスカウトした選手でいうと、黒田博樹投手は真っすぐというか、素直というか、見た通りのままです。
 対して、斎藤隆・元投手(元ドジャース)はそうではありません。私に対して、オブラートに包んで話をします。破天荒な部分もあるようですが、私にはそうした感じを出しません。
 それらはいい、悪いではなく、そういう性格だという話です。メジャーのスカウトは選手の性格についてもリポートに書かないといけないので、見抜かなければいけません。
 なぜなら、将来の活躍を予想するうえで、性格は一つの判断材料となるからです。

人間にはどうしても癖が出る

 読者の中には、採用面接やヘッドハンティング、あるいは部下の評価などで、他者の才能を見抜く必要がある方もいると思います。私のメジャーリーグのスカウトとしての経験が参考になるかはわかりませんが、少しでもお役に立てればうれしいと思います。
 私は獲得対象として考えている選手と初めて話す際、ありきたりの質問しかしませんでした。
 でも、「私には一切気を使わないでくれ」とはいいます。「なくて七癖」ではないですけど、自然に話していても、人間はどうしても癖が出るからです。
 斎藤隆・元投手は、自分のことを話したがる傾向にあります。年数が経てば経つほど、それが強くなっていると思います。
 黒田投手は最初に会ったときから変わらないというか、「小島さんは先輩ですから」と、いい意味でのフランクさを感じました。
 そうした性格や癖は誰しも持っていますが、面白いことに、受ける印象はそれぞれ聞く側の人によって違います。だからこそ、自分の印象によってブレるのではなく、全体的な観点からしっかり見て、性格や癖がどうやって将来に影響するのか、ストーリーを描くようにしていたのです。
 古い言葉でいうと、立ち居振る舞いとなるでしょうか。人間は目の前で一緒にいる、特定の時間だけ振る舞いを装おうとしても、必ずボロが出るものです。
 そう考えると、スカウトや採用をする人は、それを見抜くだけでも大きな発見になります。
 面接で、平気でウソをいう人がいますよね? そうしたウソに引っかかって採用してしまうと、会社にとってマイナスの影響を与えてしまうかもしれません。
 目の前にいる人が本心で話しているのか、あるいは偽りの姿なのか。
 それを見抜くためには、観察と判断材料をコツコツ積み重ねて、全体を見ていくことが秘訣だと思います。
 (構成:中島大輔、写真:Hamish Blair/Getty Images)
 *次回は9月16日(金)に掲載予定です。