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NY“コンフィデンシャル”Part7

プログラミング教育を無料で提供するNY公共図書館

2016/8/28

市からの資金は150億円超え

年間4600万人が来館し、8万以上の講座を全て無料で提供する、NYの公共図書館。

前回の記事では、Wi-Fi端末や電子書籍の貸し出しなど最先端のサービスと、様々な教育プログラムを提供する公共図書館の魅力についてレポートしました。

今回は、多様なサービス提供を可能にする仕組みと、この秋から始まる子ども向けのCS(コンピューターサイエンス)教育についてお届けします。

まず図書館の運営を支える、資金についてです。

マンハッタン区、ブロンクス区、スタテンアイランド区に92館の図書館をもつニューヨーク公共図書館の決算資料を調べてみました。

その2015年度の運営費用は2億7731万ドル(約278億円)でした。

ちなみに、サービス人口がNY市よりも約4倍の多い東京都立図書館の運営費(管理運営、サービス事業、資料収集整理等の2013年度予算)は約12億2247万円。これに比べると、非常に潤沢な資金をもち、運営されていることが分かります。

運営費の約5割にあたる1億5095万ドル(約152億円)はNY市からの資金提供で賄われていますが、その額はここ数年上昇しています。

2016年度も、市からの資金提供が同館ほかクイーンズ、ブルックリン公共図書館に対して4300万ドル(約43億円)増加したことに伴い、開館時間の拡大やスタッフの増員が行われました。次年度に関しても2100万ドル(約21億円)の追加予算が確定しています。

もっとも、リーマン・ショック後の2010年には市からの予算が大幅に削減される危機もありました。その時、図書館はNY市民を巻き込み”図書館という本を閉じてはいけない(Don’t Close the Book on Libraries)”というアドボカシー(政策提言)活動を行い、ニューヨーカーに支援金の援助と図書館の重要性を市政に直訴する手紙を送付しようと呼びかけました。

その結果、市民から市政へ送られた手紙は13万通になり、削減額を3700万ドルから1000万ドルへと減らし、寄付金14万ドル(約1400万円)を募ることに成功しています。

図書館への注目を集めるため、スティーブン・A・シュワルツマン図書館内の大閲覧室で撮影が行われた映画「ゴーストバスターズ」を使ったプロモーション。突然ゴーストとゴーストバスターズが現れるサプライズな演出が話題となり、YouTubeの再生回数は800万回を超えた(出所:YouTube "Who You Gonna Call? - Ghostbusters - Movies In Real Life," https://www.youtube.com/watch?v=wKB7zfopiUA)

図書館への注目を集めるため、スティーブン・A・シュワルツマン図書館内の大閲覧室で撮影が行われた映画「ゴーストバスターズ」を使ったプロモーション。突然ゴーストとゴーストバスターズが現れるサプライズな演出が話題となり、YouTubeの再生回数は800万回を超えた(出所:YouTube “Who You Gonna Call? – Ghostbusters – Movies In Real Life,” https://www.youtube.com/watch?v=wKB7zfopiUA

あらゆる人へ届ける努力

市の予算を変えてしまうほど、ニューヨーカーに愛されている公共図書館。その努力は図書館以外でも行われていました。

前回の記事では、ピッカーの方から、図書館を利用できるのは経済的な余裕がある一部の人に限られるのでは? といったコメントをいただきました。

確かに、教育格差を埋めると言いながらも、貧しい家庭や英語の話せない移民などサービスを必要としている人にニューヨーク公共図書館はきちんと利用されているのかーー。広報担当のエイミー・ゲドルディクさんに聞きました。

「(家庭が貧しく)仕事で図書館に来られない、そういう人もいるかもしれません。

しかしながら、私たちは、学校、職業支援所やシニアセンター、その他あらゆる慈善団体に図書館員が自ら足を運び、講座の説明やフライヤーを置くなど、図書館での活動内容を周知させ、重要性を訴える努力をしています。もちろん、約2千人の図書館員は自分たちの友人を通じても広報していますよ。

講座の時間帯に関しても、働く人でも参加しやすいよう朝、昼、夜と複数回にし、子どものストーリータイムが終わった後に、すぐ大人向けの講座があるなど、家族で図書館に足を運んでもらえる機会を増やすようなスケジューリングを心がけています」

来館者の属性データなどは教えてもらえませんでしたが、図書館以外でも司書が活動していることに驚きました。

先ほどのアドボカシー活動もそうですが、図書館が自らの重要性や役割を積極的に発信することで、ニューヨーカーの認知と支持を獲得し、結果、十分な予算が確保でき、さらにサービスを向上させていくーー。市民のニーズに応え、愛され続ける秘密は、図書館員の組織力にもあるようです。

広報のエイミーさんも、自己評価するシステムはあるのかという質問に、こう答えてくれました。

「毎年、市が私たちの予算を決める時が、評価の時期だと思っています。それは、利用者のリアルな声で、私たちが市民にとって重要であるかどうか、図書館の予算に反映されるのですから。

また、図書館員は、常に私たちのパトロン(利用者)と密接に関わっています。

図書館以外にも、地域住民のニーズを学ぶために地域社会の奉仕活動を行うこともあります。そうした関わり合いの中で、提供するプログラムやサービスを定期的に評価するようにしています」

注目を集める子どものCS教育

この夏、NYの図書館が力を入れているのは、子どものコンピューターサイエンス(CS)教育です。

10代や大人向けのプログラミングやコーディング講座はありましたが、この夏から小学生向けの講座を行うようになりました。

クイーンズ公共図書館では、9歳―14歳を対象としたコンピューターサイエンスの夏期講習を7月から8月末まで実施しています。また、ニューヨーク公共図書館でも、今年の10月から定期講座として、7歳-14歳対象のCS教育プログラム“Code a story”を予定しており、先日講座開始に先立ちコーディング講習会が開かれました。

この講座では、グーグル社が開発した「Google CS First」という、子どもがCS教育に触れる機会を増やす目的の無料プログラムを利用しています。

「Google CS First」は、9歳から14歳向けのプログラムで、コンピューターを使った問題解決とプログラミングを学べるツールとして、4600校以上で活用され、45万人が利用しているといいます。

プログラムには、アニメーション、アート、ファッション、デザイン、友人、ゲームデザイン、音楽、ストーリーテリングの8つのカテゴリーがあり、さらに各カテゴリーに8つのアクティビティが用意されています。

各アクティビティの解説ビデオに従って、フリープログラミングのスクラッチ(Scratch)を使いながら、課題に取り組んでいきます。

グーグルの無料プログラム「Google CS First」。4600校以上で活用され、45万人が利用している(出所:https://www.cs-first.com/)

グーグルの無料プログラム「Google CS First」。4600校以上で活用され、45万人が利用している(出所:https://www.cs-first.com/

手順が一つ一つ丁寧にビデオで説明されているので、初めてでも分かりやすい(出所:https://www.cs-first.com/studentpage/opening-starter-project)

手順が一つ一つ丁寧にビデオで説明されているので、初めてでも分かりやすい(出所:https://www.cs-first.com/studentpage/opening-starter-project

ホームページには、このプログラムを利用する生徒だけではなく、教える側の教員やボランティア向けの指導マニュアルも用意されています。

CSの定義から、各課題の目的と時間配分、生徒への説明の仕方が書かれた台本まで網羅されたマニュアルです。さらに、保護者に対しては、このプログラムを学校で利用するよう依頼するメールの定型文まで用意されています。

インターネットに接続されたパソコンがあれば、CSの導入教育を誰でも受けられる素晴らしいプログラムです。しかしながら、学校でCSのクラスがあるには、4分の1程度(グーグル調べ)に留まり、NY市には家でもインターネット環境がない家庭が26%あり、このデジタル格差が問題になっています。

Wi-Fiフリーとパソコンを完備している公共図書館は、インターネット環境のない子どもたちの駆け込み寺になっています。ニューヨーク・タイムズ紙には、学校からの夏休みの宿題をするために、図書館の閉館後もWi-Fiにアクセルを求めて子どもが入り口に座って勉強しているという記事がありました。市民が無料で利用できる公共図書館の必要性が浮き彫りになるニュースでした。

夢はロボットエンジニア

8月20日にNY公共図書館の3か所で行われた夏のコーディング講習会に参加してきました。

7-14歳を対象に、前出のグーグルCSファーストを使ったオリジナルの絵文字づくりやコーディング講習、MikeyMikeyというキットで粘土をPCのスイッチにしてゲームをするプログラムが楽しめるイベントです。

アナと雪の女王のエルザや、NY公共図書館のシンボル・ライオンの着ぐるみも登場し、写真撮影もできるエンターテイメントにとんだ講習会だった

アナと雪の女王のエルザや、NY公共図書館のシンボル・ライオンの着ぐるみも登場し、写真撮影もできるエンターテイメントにとんだ講習会だった

初めて講座に参加したという家族や、毎日図書館で勉強しているという女の子、赤ちゃんの絵本読み会から図書館を頻繁に利用している男の子など、多くの子どもとその家族で賑わっていました。

講習に参加していたブロンクス在住のラムさん親子に、感想を聞いてみました。

「今日は、息子に、新しいことを理解して身につけさせたくて参加しました。今度図書館が始めるコーディング講座に友達と申し込むつもりです。初めてグーグルのコーディングプログラムを体験しているけど、楽しんでいるみたいで良かったわ」

ラムさんは、これまでも地元の図書館で音楽ワークショップやレゴなど色々なプログラムに参加しているそうです。

トレンスくん(8歳)に将来の夢は?と聞くと「ロボットを作りたいな」と照れ臭そうに答えてくれました。

図書館員一人一人が、自身の重要性を自負し、市民のニーズにあったサービスを提供しようと奮闘する公共図書館は、子どもたちのアメリカンドリームを育む、ニューヨーカーになくてはならない素敵な場所でした。