見どころ満載だった侍ジャパン対決。次に望むのは高校生対プロ

2016/8/28
真夏の甲子園で高校野球を観戦していると、気づけばブラスバンドの奏でるメロディーに心踊らされていた。
外野席でファンの声に耳を傾けると、「狙いうち」や「アメリカンシンフォニー」「あまちゃんのオープニングテーマ」など、金管楽器による美しい音色を楽しみの一つに来場している人が実に多い。選手たちのプレーと並んで、ブラスバンドの演奏はいまや高校野球の主役となっている。
同じような光景が、甲子園大会閉幕から6日後の8月27日、QVCマリンフィールドで再現された。1塁側には習志野高校吹奏楽部、3塁側には東京六大学応援団連盟。彼らが演奏で後押ししたのは、世代を超えて激突した高校日本代表、大学日本代表の侍ジャパンのメンバーだ。
「もともと応援合戦を実現したいと思っていました」
この試合を日本学生野球協会とともに主催したNPBエンタープライズの事業部兼広報部の加藤謙次郎氏は、そう語る。
1年前に始まった高校日本代表対大学日本代表の対決は、日本球界において画期的な一戦だ。日本の野球には長らくプロアマの壁が存在してきたばかりではなく、アマチュアの世界には高校、大学、社会人など、さまざまなステークホルダーが存在する。一言で「アマ」といっても、決して一つの組織ではない。
侍ジャパンの存在意義の一つとして、そうした壁を取り払うことがある。その一手として実現されたのが、高校日本代表対大学日本代表なのだ。
150キロを超えるストレートで作新学院を優勝に導いた今井達也は、高校日本代表でも中心として期待される

アマ野球を彩るブラスバンド

昨年の8月26日、両者が初めて対決した甲子園球場は、静寂に包まれていた。高校野球ならブラスバンド、プロ野球なら阪神ファンの歓声やヤジに包まれるが、その日に限っては球音とファンの歓声だけが響いていた。
普段と違った光景に、この試合が特別なものであることを感じられた。
一転、今年は“演出者”たちが迫力に満ちたパフォーマンスで盛り上げていた。日本のアマチュア野球にとって、ブラスバンドの応援は不可欠だと再認識させられる。
「試合会場を関東で探していて、まずは東京六大学にお願いしようと思いました。それでQVCマリンフィールドに決まり、高校日本代表の応援を習志野高校に頼みました」(前述の加藤氏)
習志野の吹奏楽部は日本屈指の実力を誇るといわれ、ハイレベルのパフォーマンスは高校野球ファンやテレビ番組「アメトーーク」でもお馴染みだ。QVCに集った2万590人の野球ファンは、美しい音色や会場の雰囲気も楽しんだはずだ。

胸を貸す大学生にとっての意義

グラウンドでは、甲子園の主役たちが大学生相手に実力を発揮した。
ドラフト1位候補の藤平尚真(横浜)が快投を見せれば、作新学院を54年ぶりの優勝に導いた今井達也は3者連続を含め、打者6人から5個の三振を奪う。
日本大学のショートでドラフト上位候補に挙がる京田陽太が、「キレがあってボールの威力が違う。手が出なかった。大学生にはいないレベル」と舌を巻いたほどの内容だった。
高校生たちにとって、レベルの高い大学生と肌を合わせられる意義は大きい。では、大学生たちにとってどんな意味のある試合だったのだろうか。
横井人輝監督は胸を貸す側の責任を口にした。
「この試合のメンバーが発表になって、選手にかなりの自覚を持ってくるようにいいました。これから国際試合を戦う高校生たちに、とにかく感じるものを与えないといけない。だから全力で行こう、と」
結果、大学日本代表が5対0で勝利した。得点はすべて初回に奪ったものだが、守備で記録した計27のアウトのうち18個が三振だったことは、大学生の実力と本気度を見てとれる。
キャプテンで先発を任された柳裕也(明治大学)は、2イニングのマウンドで感じることが多かった。
「高校生の代表チームとやるということで、もちろん大学生としてしっかりとした試合をしなければいけないと思いながらやりました。自分たちも高校野球をやってきた選手なので、高校生のひたむきさ、全力プレーを見て、高校のときを思いだすこともあります。すごく刺激をもらいました」

高校からプロにつながっていく

18人の高校日本代表メンバーのうち、4人は夏の甲子園に出場していない。彼らにとって、大学日本代表戦や8月30日から台湾で始まるU-18BFAアジア選手権の持つ意味は特に大きい。
通常、高校野球の地方大会で敗れた3年生は引退となるが、日の丸を背負う4人には目指すべき場所がある。
そのうちの1人が、静岡高校の鈴木将平だ。この夏は静岡大会4回戦で敗退したものの、すぐに切り替えることができたという。
「悔しい負け方をしてしまいました。でも、甲子園の次の目標をプロとしていて、こうやって日の丸を背負ってやることを目標としていたので、(負けた後は)次を目指してやってきました」
50メートルを5秒8で走る鈴木は高校1年生のときから活躍し、昨年夏の甲子園では15打数6安打。プロの注目を集める好打者だ。
彼の野球人生は、何年も先にクライマックスを迎える。その道程で、今回高校日本代表として戦うことに大きな意義を感じている。
「レベルの高い仲間たちと一緒にできて、プロという先でもつながっていけるのは自分の励みになりますし、将来のことを考えても必ず生きてきます。いいきかっけになればと思います」

ストーリーが選手、ファンを育成

日本に野球人気が根付いている一因は、甲子園で活躍した高校生が、プロとして羽ばたいていくストーリーを追いかけられることにある。
侍ジャパンは、その魅力を際立たせる装置になる。高校生のころに日の丸を背負って戦っていた少年は、プロになってどんな輝きを放つのかと見ることができる。
たとえば今季、巨人で9勝を挙げてチームの勝ち頭となっている田口麗斗は高校時代、日本代表に名を連ねた(今季の成績は8月27日時点)。国を背負っての戦いは選手を成長させると同時に、見る側を白熱させる。ストーリーの中で主催者やメディアが的確にスポットライトを当てていくことで、選手もファンも育てていくのだ。
今回の高校日本代表対大学日本代表では、ブラスバンドや各種イベント、SNS活用を含め、主催者側の演出が昨年よりはるかに進化していることに驚いた。ボールパーク化の進む日本において、侍ジャパンも興行主として魅力あるイベントに仕上げていた。
そこで、一つ提案がある。来年は高校日本代表を国際舞台に送り出す壮行試合で、プロと対戦させてはどうだろうか。ペナントレース佳境の1軍は難しいにしても、2軍なら可能だろう。現に、大学日本代表との対戦はすでに実現している。
日本高校野球連盟の反発も考えられるが、侍ジャパンという枠組みを使ってこの壁をクリアできれば、本当の意味での日本野球の一体化が一気に進むかもしれない。
何よりファンは、作新学院を優勝に導いた今井と昨年甲子園を湧かせたオコエ瑠偉(楽天)の対決や、高橋純平(ソフトバンク)の剛球を高校ナンバーワンスラッガーの九鬼隆平(秀岳館)が打ち返せるのか、見てみたいはずだ。
QVCマリンフィールドで侍ジャパンの魅力を再認識し、日本野球にもっと望みたくなった。筆者だけでなく、そんなファンが多いのではないだろうか。
(写真:Katsuro Okazawa/AFLO)