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教えて!プロピッカー

【横山由依×金泉俊輔】“意識低い系”「SPA!」の伝統と戦略

2016/8/28

AKB48グループの2代目総監督を務める横山由依さんがNewsPicksのプロピッカーと対談する新連載「教えて!プロピッカー」。政治・経済からカルチャーまで、第一線で活躍しているキーパーソンと対談し、基礎から学んでいく企画だ。

今回は『週刊SPA!』編集長の金泉俊輔さん。雑誌を取り巻く変化とその課題について語ってくれた。前編では、『SPA!』が雑誌とネットではどのように戦略を変えているのか、またそこで重要となる「有料課金」などについて、横山さんご自身の取り組みと合わせて話が展開した。

雑誌が取り上げる人物の特性

金泉:横山さんにはこの間、『週刊SPA!』のグラビアに出ていただきましたね。

横山:はい、うれしかったです。

金泉:インタビューで「(AKB48を)もう一花咲かせたい」と言ってくれたのが印象的で、評判がよかったです。

横山:ありがとうございました。

昔はグループで表紙やグラビアをやらせてもらう機会がすごく多かったんですけど、最近は1人で登場するメンバーが多いんです。

個人としてのグラビアの需要は上がっているのかなと思いつつ、グループの価値は、ちょっと下がってきているのかなあと感じてしまっていて。

私個人が取り上げられることもグループのためになるんですけれど、もっと今のメンバーで売れたいっていう気持ちがあるので、グループみんなで載りたいなって思います。

横山由依(よこやま・ゆい) 1992年12月生まれ。京都府木津川市出身。2009年9月、AKB48第9期研究生として加入。2010年10月に正規メンバーとなり、2015年12月、AKB48グループ2代目総監督に

横山由依(よこやま・ゆい)
1992年12月生まれ。京都府木津川市出身。2009年9月、AKB48第9期研究生として加入。2010年10月に正規メンバーとなり、2015年12月、AKB48グループ2代目総監督に

金泉:それに関して言うと、1つは、もともと雑誌って、まだそんなに有名じゃない人たちを取り上げて、コアなファンに有料で買ってもらうところがあるからだと思います。

雑誌である程度認知されると、次はテレビに出るようになる。モデルなどがいい例ですよね。ファッション誌でモデルとして人気が出ると、テレビに取り上げられるようになって、その後CMに出る。

雑誌、テレビ、CMという出世魚のような大きな流れがあるんですよ。ま、ギャラが下から順番に安いことも、ひとつ理由としてあるんですけど(笑)。

横山:なるほど(笑)。

金泉:そんなわけで、AKB48も最初の頃に比べてメジャーになって、人数もすごく多くなったことで露出が減ったかもしれないですね。

一方で、AKB48のまだ知られていないメンバーが取り上げられることや、姉妹グループのNMB48やHKT48、公式ライバルグループの乃木坂46などがグループで登場することは、まだ多いと思います。

金泉俊輔(かないずみ・しゅんすけ) 1972年生まれ、東京都出身。立教大学経済学部卒業後、扶桑社に入社。販売部を経て、『週刊SPA!』編集部に。同誌副編集長、編集長代理を経て編集長。ウェブ版の『日刊SPA!』編集長なども務める

金泉俊輔(かないずみ・しゅんすけ)
1972年生まれ、東京都出身。立教大学経済学部卒業後、扶桑社に入社。販売部を経て、『週刊SPA!』編集部に。同誌副編集長、編集長代理を経て編集長。ウェブ版の『日刊SPA!』編集長なども務める

横山:確かに、今、AKB48でグラビアを主にやっているメンバーは、グループの中で、次世代の若いメンバーが多いですね。

金泉:あと、現実的なことを言うと、AKB48は水着を控える子も多いので、そこもグラビアが減っている要因の一つかもしれない。『週刊SPA!』はそこまでグラビアはやらないですけど、男性誌は水着が多いので。

「SPA!」のウェブ戦略

横山:そうなんですね。あと、雑誌でもウェブ版みたいな形が、最近増えていると思うんですけど、そういう時代になってきたんですか?

金泉:今や、雑誌とウェブは対立しているものでは全然ないんです。われわれでいうと、『日刊SPA!』」や女性向けの『女子SPA!』というウェブサイトのほか、『dマガジン』のように、電子版で雑誌を読む形式も始めています。最近ではアプリもつくりました。

何年か前までは、紙の編集者って、ネットに記事を出すと、紙が読まれなくなるんじゃないかと気にしていました。でも最近は、あまりにも読者の“接地点”が、バラバラになっていることがハッキリ分かってきたので、抵抗がなくなってきたんです。

たとえば、NewsPicksの読者の中で雑誌を全く読まない人は、相当いるかもしれません。でも、それって当たり前のことなんですよ。雑誌なんて、1つの媒体で10万部ぐらいしか出てないことが多いし、みんなが1つの雑誌を読む時代でもないですから。でも『日刊SPA!』なら、どこかで読んだことがある方もいるかもしれない。

今回アプリを出した目的がまさにそれで、雑誌を読む層とは違った層にアプローチをすることなんです。アプリを使う人たちは、やっぱり比較的年齢が低い。だから、今まで『週刊SPA!』に接してなかった層の接地点にしたいと考えているんです。

横山:雑誌『週刊SPA!』のターゲットである30代や40代じゃない、もっと若い世代ですね。
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金泉:そう。彼らは、雑誌と食い合わない層になるんです。アプリを使ってもらうことで、雑誌の『週刊SPA!』を知ってもらう入り口になればいいかなと考えているので、アプリは意識的に若い人向けの情報を出しています。

横山:記事を使い分けているんですね。

金泉:もちろん、重なる部分もあるんですけど、アプリの方はそれこそアイドル情報も厚くしています。

デジタル関連の売り上げが増加

横山:どんどんウェブやアプリが広がっていますよね。私も、この連載のようにウェブのお仕事をする機会が増えているなと感じます。

金泉:そうですよね。AKBグループに関しては、実はデビューした時から、あらゆるチャンネルを駆使してきたと思うんです。Google+や755、ニコニコ動画などもそうだし、最近だとSHOWROOMもそうですよね。

横山:確かに、新しい場所にはどんどん出ていますね。

金泉:こうした動きの中で、雑誌のビジネスモデルが変化していることも重要な流れです。雑誌ごとに売り上げの形は様々ですけれど、『週刊SPA!』の場合は、販売と広告の売り上げが販売7、広告3ぐらいの割合です。

今も昔もその比率自体はそれほど変わらないんですけど、いまや全体の売り上げの約3割がデジタル関連になっています。

今、各雑誌はマネタイズとして、ネット広告のほか、いかに有料で課金してもらえるかを考えることが、どんどん重要になってきているんです。

横山さんは、普段の活動で、コンテンツにお金を払ってもらうことを意識することはありますか?
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有料と無料の使い分け

横山:それでいうと、ツイッターやGoogle+などは無料でファンの方に見ていただけるんですけど、「AKB48mail」という有料のメールサービスがあります。

これは、AKB48のメンバー個人を指名して課金をすると、お金を払ってくれた人だけに向けて、私たちがプライベートなメールを届ける仕組みで、月額324円です。

実は私、最近までこのサービスを、他の無料で見られるSNSと同じものと考えていたんです。でも、お金を払ってもらっているありがたさを感じてからは「メールの価値を上げないといけない」と思うようになりました。

たとえば、ツイッターでは、「今日、この番組に出ますよ」と、多くの人に見てもらいたいことを伝えたり、普段の発見や面白いなと思ったりしたことを書く。

でも、有料のメールでは、「こんなことで悩んでいる」とか、「私はAKB48をこういう風にしていきたい」「総選挙の目標はこういうことだよ」と、自分のファンに向けたコアな情報を書くなど、内容を使い分けるようになりました。

個人的には、やっと、有料と無料のサービスの使い分けができるようになってきました。
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金泉:実際、そういう形にしたことで購読者は増えていますか?

横山:スタッフさんからは「少しずつ増えているよ」と言われましたね。

私は、AKB48に入った時期が遅かったので、グループは先輩たちがつくりあげ、すでに売れた状態でした。だから、握手会にもたくさんの人が来て、多くの列が並んでいることが当たり前で、そのありがたさに、気づけなかったんです。

むしろ、嫌なことを言われることもあったので、握手会が好きじゃない時期もあったくらいです

でも、「私に会う10秒のために1000円を払ってくれているんだ」と、きちんと思えるようになってからは、全員に平等に接するようになりました。「批判する人も1000円を払って来ているんだ」「AKB48を良くしたいから、言ってくれているのかな」と考えられるようになって、自分の中で対応も変わってきたんです。

そうしたら、一時期は握手に来るファンの数が減ったのが、最近はまた増えてきている実感があります。

金泉:お客さんに対して「課金したい」と思わせる感度の高いメンバーの人って、誰ですか?

横山:指原(莉乃)さんがすごくうまいと思います。たとえば、ツイッターで表向きに発言していることだと、わりと炎上というか、話題になることが多いんですけど(笑)、それについて、有料メールでは「実際はこう思っているんだよ」と伝えているんです。そういうところは、アイドルとしての基本ができているなと感じます。

私が、「握手会に、ファンが来なくなっちゃったんですよね」と話をしたときには、「それはたぶん、横山の対応にも問題があるけど、横山が変えたからって相手がすぐ変わるものじゃないから、2年とか4年とか長い目で見て、コツコツやった方が良いよ」とアドバイスしてくれました。

私がツイッターと有料メールも、全部一緒に考えていて、写真も同じものを載せていたことに対しても、「同じにするんじゃなくて、特別なことをやったら、ファンの人もそれに応えてくれるから」と言ってくれたので、変えることにしたんです。指原さんのアドバイスは、すごく大きかったですね。
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「SPA!」の伝統と戦略

横山:『週刊SPA!』も有料の雑誌だから、読者が読みたい企画や特別な記事が載ると売り上げが伸びるんですか?

金泉:そうですね。例えば、横山さんの出ていただいた、この号はすごく良かったです。

横山:えっ、うれしい!

金泉:横山さんと合わせて、おそらく、この「2016下半期に儲かる![ヤバい副収入]ランキング」が良かったんじゃないかな。

横山:面白そう!この記事(笑)。

金泉:ちなみに、NewsPicksは、「意識高い系」って言われている人たちが読んでいると、やゆされることもあるんですけど。やっぱり、「『週刊SPA!』は、『意識低い系』の雑誌なんだな」とすごく感じています(笑)。
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横山:意識高い系ってどんな人たちですか?

金泉:朝活して、ジムに通って、働きながらMBAを取って転職して……なんていう人でしょうか。でも、世の中はそういう人がメインではない。基本的には、「すぐ転職しろなんて言うけど、そんな簡単にできないぞ!」という一般的な生活者が大半です。

将来不安もあって、もっとお金が欲しいと思い、「何かしなきゃ」って時に、副収入が必要だなって考える人って、けっこういるんですよ。なので、この特集は、すごく良かったわけです。

横山:なるほど。そういう記事が『週刊SPA!』では人気なんですね。

ところで、私は今AKB48グループの2代目総監督となりましたが、金泉さんは何代目の編集長なんでしょうか。『週刊SPA!』はずっと前からある雑誌ですよね。だから特集の企画を考えるときなども、そうした伝統を重んじていますか。

金泉:雑誌が出来て28年、僕は9代目編集長です。やっぱり、このくらい経っているので、雑誌が持つ伝統は重く、だからこそ、ものすごく大事にしています、

横山:「SPA!」の伝統とは何でしょうか。

金泉:「世の中の常識を疑う」ことだと思います。その背景にサブカルチャーとか、マイノリティーなどのテーマがあるんです。

その中で僕らしさとしては、「読者と同じ目線になって、読者の気持ちになろう」ということを、1つ強く打ち出しました。というのも、どうしても雑誌を作っている人間は、高等遊民的なところがありまして。

自分たちが良いと思っている企画を第一に考えて、新しい文化を世の中に広めようという意識はいいのですが、それが過ぎると地に足がついていない企画が多くなってしまう。
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都議会の問題も追いかけていた

横山:そうすると、読者が読みたいものとは違ってしまいますよね。そういう思いを持つ中で、どんな企画が生まれたのか気になります。

金泉:それで言うと、猪瀬直樹さんが東京都知事を辞めてから、メディアの中では、『週刊SPA!』がほぼ最初にロングインタビューしたんです。編集部では、猪瀬さんの事件があった時に「そこまで悪くない」と、記事にしていたんですけど、世の中はもう猪瀬さんバッシング一色になっていて、おかしいと思った。インタビューのご縁もあって、去年は民間警備の歴史をたどったノンフィクション連載『民警』を執筆してもらいましたね。

だから、NewsPicksが都知事選の時期に、猪瀬さんにインタビューして「都議会のドン」と言われる内田茂さんの問題を書き、ものすごく話題になった時、心中複雑でした。『週刊SPA!』では、すでに、何度も猪瀬さんがこの問題についてコメントしていたんですよって(笑)。

他のメディアも、さも「タブーとして触れなかった」みたいなことを言うんですけど、うちはずっとやっていたんです。でも、やっぱり「意識低い系」の雑誌であるせいか、あまり注目されなかったんですけど……。

横山:すごい、そうだったんですね。でも、ちょっと悲しい結果でしたね(笑)。
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(構成:菅原聖司、写真:是枝右恭)

※後編は、金泉さんがNewsPicksも含めた「ネットメディアのこれから」について語ります。来週掲載予定です。