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「2050年には男女問わず当たり前になる」との予測も

「AIを搭載したセックス・ロボット」という不気味な難問

2016/08/25

ロボットの発展を考える際に避けて通れないのは、セックス・ロボットの問題だ。つまり「セックスの相手としてロボットが作られることの是非」「そうしたロボットとセックスを繰り返すことによってどんな社会的影響が出てくるのか」といった問題である。

セックス・ロボットの問題はここ数年、目立たないながらも社会学者や法学者、テクノロジー関係者らによって提示されてきた。

ますます人間に近いロボットが開発されるようになり、このまま技術が発展していくと、動きや感覚の点でも人間を模倣することが可能になる。これにAI(人工知能)が加わると、相手の人間を魅了し、たぶらかし、とりこにすることも簡単になるだろう。

そういったロボットを放置しておいていいのか。あるいは法的に取り締まることが必要なのか。

実はカリフォルニア州の会社で、すでにそういうロボットを作り始めているところがある。レアルドルというブランドを出すアビス・クリエーションという会社は、これまでも精巧なつくりの等身大の人形を作ってきた。いわゆるダッチワイフだ。同社ではダッチワイフではなく「ラブ・ドール」というニュアンスのある名前をつけている。「愛の対象」という意味だ。

同社の製品は、どれもあられもない衣装をつけたセクシーな肢体に、厚い唇をした挑発的な顔がついている。素材にもいろいろ工夫があるようだ。

すでに世界中に製品を出荷しているが、社長が先日明らかにしたのは、これまでつちかった知識や技術とAIを利用してVR(バーチャルリアリティー)や新たな人形を開発中だということである。

欧州では学者たちの反対運動や会議

テクノロジーが進むと、必ずその裏側でセックスやポルノに関連したビジネスがそれを取り込むようになる。そして実は、売り上げとしてはそちらの方がかなり大きな業界に成長するということは、インターネットやSNSでわれわれはすでに見てきた。

それと同じことがロボットでも起きるのである。

レアルドルの発表によって、セックス・ロボットの話題がにわかに議論されるようになった。ヨーロッパの学者たちの間では「セックス・ロボットに反対するキャンペーン」と銘打った反対運動を起こす人々も出ており、それに関する会議も近く開催される予定だ。

セックス・ロボットに反対する人々の論点は、こうだ。

たいていのセックス・ロボットは女性を模しており、男性が利用する。相手を自分の言いなりにするロボット・セックスを繰り返すことは、ひいては女性をモノとみなすことにつながり、女性蔑視や女性嫌いを助長する。

もうひとつは、ロボットを相手にした世界では、人間同士のやりとりで必要な交渉や相互理解といった側面が欠落する。その結果、現実世界で他人や社会とまともに交流できない人間を生み出してしまう、というものだ。

イギリスの未来学者、イアン・ピアソン博士は「2050年には男女を問わずロボット・セックスが当たり前になっている」とも予測している。

ロボットを包括する社会構想が必要

これは、かなり難しい問題である。「セックスのようなプライベートなできごとについて、他人がとやかく口を挟むべきではない」という意見がまずあるだろう。これまでのダッチワイフ相手のセックスも、社会性をかなり遮断したものだったではないか。

それに、こうしたロボットによるセラピー的な効果も考えられるし、性的労働を目当てとした人身売買も減るのではないかという観点もある。

だが、テクノロジーが精巧になり、AIが搭載されることによって、これからのセックス・ロボットは現実との差をどんどん見えにくくすることには十分注意が必要であることも確かだ。動かないダッチワイフ相手のセックスには飽きることがあっても、セックス・ロボットならば日々変化に富んでいて夢中にさせてくれるだろう。

また、このセックス・ロボットの延長線上にセックスを目的にした子どもロボットが出てきたり、ロボットに対する暴力行動が出てきたりするといった問題も考える必要がある。何でもありのセックス・ロボットが与える影響は、予想以上に大きいのではないだろうか。

ロボットと一緒に住まうようになる世界では、われわれはロボットを孤立したものとして捉えるのではなく、ロボットを含めたひとつの社会を構想する必要がある。これは、人間関係を投影したセックス・ロボットについても同じだ。

こんな不気味な難問はできれば考えたくないが、そういうわけにはいかない。われわれは実に難しい挑戦に直面しているのである。

*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。

(文:瀧口範子)