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「COMPANY Forum」レビュー(2015年、キーノートセッション)

人工知能は、ビジネスをどう進化させるのか

2016/8/24
Google X、Udacityにおけるユニークで、革新的な取り組みで知られるセバスチャン・スラン氏。人工知能とシンギュラリティをめぐる牧野氏正幸との対談は、仕事との関わりを考える上で、刺激的で示唆に富んだものになった。
*この記事は2015年12月10日に開かれた「COMPANY Forum 2015」のキーノートセッションをワークスアプリケーションズが取材・記事化したものです。

シンギュラリティこそ考えるべき道

牧野:スランさんが創設されたGoogle Xは、グーグルグラスなどの開発で有名です。どういった目的で創設されたのですか?

スラン:人とテクノロジーの境界線をなくしたいという想いから創設しました。人工知能のような高度な技術を活用して、社会的な影響を与えるものを生み出したいと思っています。もっとも99%はこれからですがね。

牧野:人工知能との出会いは、やはりスタンフォード大学ですか?

スラン:そうです。当時はまだ流行っていませんでしたが、人工知能が人を超える「シンギュラリティ」が、これから考えるべき道だろうと思い、様々な角度から人工知能を見てきました。

牧野:人工知能がビジネスパーソンの働き方を変えるのか、仕事において人にとって代わるのかといったことが、我々としてはやはり気にかかりますね。

スラン:人工知能は仕事を破壊します。破壊とは、既存のビジネスモデルを変えてしまうことです。スプレッドシートにデータを入力するといった単純な仕事は、やがてなくなります。

効率性や安全性といったものを追求すると、パイロットなどの仕事も、人工知能による自動操縦にとって代わられる可能性があります。

牧野:サンフランシスコの空港では、着陸時の自動操縦が義務づけられているとか。

スラン:そうです。2013年の大きな事故の後、そうなりました。人工知能の知性が人を超えたと判断されたわけで、非常に象徴的なできごとでした。
 スラン氏2

人工知能に負けないためには

牧野:Udacityという教育の事業に取り組まれているのは、人工知能とどのように関係してくるのでしょうか?

スラン:人工知能が発達すれば、人も生産性を高める必要があります。そのためには、低価格の教育、クルマの中でも、トイレでも、どこでも学べる教育、生涯にわたって学べる教育を提供することが必要と考えたわけです。スタンフォード大学の学費は年間約5万ドルですが、Udacityは年間733ドルから学ぶことができます。

牧野:Udacityでは、テクノロジーに関連する科目以外で、たとえばコミュニケーション能力やリーダーシップといったものも学べるのですか?

スラン:ミニMBAのような講座、起業家を育てる講座など、いろいろなプログラムを用意し、スマートフォンなどを使って効率よく学べるようにしています。

今、「オンデマンド雇用」という働き方に着目しています。必要に応じて働き、必要に応じて雇用するというもので、たとえば、今日はUberの運転手として働き、次の日はまた別の仕事をするという考え方です。

今や、一生同じ仕事をする必要はないし、人工知能を活用すれば、そうした働き方も可能だと思います。人工知能がどんどん進化するなら、生涯学習で人もどんどん賢くならなければなりません。

牧野:日本の一般的な働き方は、まだまだ終身雇用に近いもので「オンデマンド雇用」とはなかなかいきません。したがって社内教育の進化が避けられません。企業を対象とした教育に興味はおありですか?

スラン:もちろん、企業向けのトレーニングプログラムも提供しています。Googleのように若い会社であっても、10年、15年と働き続けている人はいます。

そうなるとやはりスキルセットは古くなりますから、教育で新しくしなければなりません。最先端を学ばないと、人工知能にとって代わられますからね。3年も経てばHUEも、考える前に入力されているなどという進化を遂げているかもしれませんよ。
 スラン氏3

シンギュラリティがもたらす破壊

牧野:社内教育にかけられる時間は短く、MBAなどの資格を取ろうと思うと、会社を休んで留学する必要がありました。今後は、日本で仕事をしながらMBAを取得できるようになりますね。

スラン:はい。人工知能の脅威に人はどう対応すればいいか。重要なポイントは、人が生涯にわたって学習することだと思います。

牧野:学ぶことが大切ですね。

スラン:ただし、人が学んだものはその人だけのもので、横展開ができません。しかし、人工知能は横展開できるし、そもそも学習のスピードが人より圧倒的に速い。パイロットをはじめ、弁護士、会計士、同時通訳といった仕事でも、人工知能にとって代わられる可能性があり、安心できません。それほどシンギュラリティは速く、そして思いがけない方向に進みます。

牧野:冗談のような質問になりますが、ターミネーターのような時代がやってくる可能性はありますか? そのためには、人工知能がさらに2段階くらい成長する必要があると思いますが。

スラン:どうですかね(笑)。Googleは書籍などに破壊をもたらしました。先ほどHUEのデモンストレーションを見ましたが、HUEはワークプレイスにおける本当の意味での破壊となるような効率性をもたらすでしょう。人工知能がもたらす破壊は、ターミネーターより怖いかもしれません。ただ、人工知能は愛すべきものでもあるんですよ。

牧野:最後に日本のビジネスパーソンに対して、シンギュラリティに向けて意識すべきこと、そしてすぐに行動すべきことを教えてください。

スラン:シンギュラリティは始まっているということ。これは本当です。そして、既存のビジネスモデルは破壊される可能性があることを、オープンに受け止めてほしいと思います。

これまでのビジネスの進め方は、もはや通用しないかもしれないのです。そこで投資すべきはイノベーションです。イノベーションは、小さいことから密かに、ただし、できるだけ早く始めてください。そして、人工知能に追い越されないように、学び続けてください。

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*スラン氏が登場した「COMPANY Forum」は、今年は9月28〜29日に開催します。今回も人工知能関連のセッションを設けており、中でも9月28日のキーノートセッションにはレイ・カーツワイル氏が登壇、「人工知能と人類の未来」をテーマに講演します。無料で参加できます(事前登録制)ので、こちらからお申込みください。