【堀江貴文×池田純】ネットスポーツ中継元年の勝者に(前編)

2016/8/24
2012年にDeNAとして球界に参入しベイスターズの観客動員&売り上げを増やし続ける池田純社長と、2004年にライブドアフェニックスとして球界参入を試みた堀江貴文氏の対談が実現。2人によるプロ野球ビジネスの可能性や課題などについて3回連載でお届けする。
ベイスターズ、初の黒字化へ
堀江 ハマスタ(横浜スタジアム)に来たのはゴールデンウィークに観戦させてもらって以来です。あのときは負けが込んでいました。
池田 つらい時期でしたね。6位でした。
堀江 それから2位まで上がり、いまは3位。でも、このままの順位でクライマックスシリーズを本拠地で開催できないと、営業的にはきついんじゃないですか。
池田 本拠地でやれればベストですけど、そうじゃなくても売り上げをつくれますよ。でも、2016年はすでに売り上げも観客動員も、もう十分いいんですよ。ベイスターズは今年初めて、数億円の黒字になります。
DeNAが参入する前の2011年は52億円の売り上げで、24億円の赤字でした。それから5年経って、売り上げが倍以上になって、2016年初めて黒字化します。
堀江 倍以上ということは、52億円が100億円くらいになった?
池田 そうです。110億円近くになる見込みです。球団単体の数字です。横浜スタジアムを買収したので、その分はまた別ですね。
池田純(いけだ・じゅん)
1976年横浜市生まれ。早稲田大学商学部卒。住友商事、博報堂などを経て2007年にDeNA入社。執行役員マーケティングコミュニケーション室長から、NTTドコモとDeNAとの合弁会社の社長に。企業再建の経験が豊富だったことから、球団買収を機に立候補する形で2011年12月横浜DeNAベイスターズ社長に就任。
堀江 110億円の内訳でいうと?
池田 30%がチケットです。
堀江 シーズンチケットやVIP席も含みますか。
池田 シーズンチケットは含まないです。
堀江 いわゆる当日の入場券?
池田 そうです。年間席が10%、グッズで20%、放映権で10%。主だったところでいうと、あとはスポンサーが10%。
堀江 クライマックスシリーズに行かないで、球団単体で黒字が出るってすごくないですか。
池田 経営として見た場合、クライマックスってコントロール不能な領域として考えておくべきだと思います。それを予算に入れて経営するのはどうかと思います。経営として予測可能な状態で、つねに黒字が出るように球団経営をしないといけませんよね。
堀江 もちろん。ただ、楽天の話を聞いたら、クライマックスに行かないと黒字にならない構造だったみたいなので。日本シリーズに行ったときには大儲けだったと思います。
池田 特需ですよね。日本シリーズに行くと、優勝旅行やらパーティーやらでホールインワンのような出銭があるので、「実はクライマックスシリーズまで行って、2位が最高」みたいな話をたまに耳にするんですけど、チャンスをきちんと売り上げに転化すればいいだけだと思うんですよね。「日本一」なんだから、その機会は大きいはず。
うちは、まだクライマックスシリーズすら行ったことがないですが(苦笑)。2012年から6、5、5、6位と勝っていないのに、ずっと売り上げも観客動員も増えているのはスポーツビジネスのセオリーから見たら、すごくレアケースだとよくいわれます。
狙うは「ネットの巨人」
堀江 ベイスターズはどこが伸びたんですか。
池田 たとえば放映権でいうと、インターネットをかなり伸ばしています。ニコニコ動画やショールーム、スポナビライブ、これからはパフォームなど、あちこちに私たちは出していて、どのみち調べればわかることですから明かしますが、「ネットの巨人」的な位置づけを狙っています。昔は巨人戦を全国でテレビ中継していたから、みんな巨人戦を見て育ったじゃないですか。だから巨人ファンが多かった。
私たちはネットで見る新しい世代に、あちこちでタッチポイントというか、接点を増やしています。そうして「野球はネットでベイスターズを見て育った」という世代をつくっています。ネットのスポーツ中継をスマホで見るのは、2016年が元年みたいなものですよね。
堀江 元年です。Jリーグは10年2100億円でパフォームと契約しました。
池田 かなりいい額ですよね。
堀江 いや、安いです、僕的には。だって、中国スーパーリーグを動画配信している会社(大手投資ファンド「華人文化産業投資資金」)は5年契約で1270億円ですよ。年間の額で、Jリーグは負けているんです。彼らのほうがいい選手をとっているし、1部のチームはものすごくカネをかけていますからね。
アリババが出資している広州恒大は、年間予算が200億円を超えています。いい選手をバンバンとるから、アウェーでも客が入りますよね。それで、リーグ全体が潤う。広州、上海、北京の辺りはそうなっています。リーグ全体が潤うと分配金も増えて、さらに潤っていくというすごくいい循環になります。
池田 国としてスポーツとリーグが強くなりますね。
堀江 そうだと思いますね。すでに放映権という意味でいうと、Jリーグは中国に抜かれています。
堀江貴文(ほりえ・たかふみ)  
1972年福岡県生まれ。実業家。ライブドア元CEO。民間でのロケット開発を行うSNSのファウンダー。東京大学在学中の1996年、23歳のときにオン・ザ・エッヂ(後のライブドア)を起業。2000年東証マザーズ上場。2006年1月証券取引法違反で逮捕され懲役2年6カ月の実刑判決を下される。2013年11月に刑期を終了し、再び多方面で活躍する。
プロ野球とJリーグの放映価値
池田 あくまで私の意見なのですが、Jリーグの放映権料が2100億円じゃないですか。単純割りすると、単年度で210億円。野球とサッカーの1試合当たりの放映権料の単価は歴史から見てもけっこう差があって、野球のほうが圧倒的に高いはずなんです。仮に5倍くらいとしましょう。じゃあ12球団を合わせて地上波での放映権が年間1000億円どころか、年間210億円ありますかというと、微妙なところだと思います。
堀江 ネットを合わせるとどうですか。
池田 ネットを合わせたら超えると思います。Jリーグがネットを中心に2100億円という基準値を見せましたし、その辺を万が一12球団全体でやれたとしたら、Jリーグで2100億円だからプロ野球はもっと、という考え方はできると思います。
堀江 全然いけると思います。
池田 ただし、放映する側も費用対効果が必要ですから、野球がマーケットをその額に見合うだけ拡大できるかがキーでもあると思います。
堀江 10年契約なら、5000億円くらいいってもいいと思います。ただJリーグの場合、あれは完全に国内のことは考えていないですね。国内の中継はスカパーに下ろしてサブライセンスするわけです。制作著作は全部Jリーグメディアみたいなところが持って、素晴らしい映像をつくって各社に流していく方式です。
しかも、パフォームが狙っている市場はアジアなんですよね。アジアで広がらないと、2100億円なんてとてもじゃないけど元をとれないので。よくNewsPicksのコメントで「日本では、どう計算しても合わないんじゃないか」といわれているけど、そもそも日本市場なんてこれからめちゃくちゃ大きく伸びることは考えづらい。
そうじゃなくて、アジアでJリーグの認知度を上げていく。レベル的にはいまでもアジア最高のリーグだと思うし、サッカーはどの国でもやっています。東南アジアでもすごい人気だし、中国でもそう。これは魅力ありますよね。ところが野球の場合、ここがちょっと課題なんですよね。
アジア3カ国で物語をどう描くか
池田 「世界」に通じる以前に、「アジア」での野球のポジショニングが弱いんですよね。数年前にベトナムに視察に行ったんですが、たぶん、国の中に数本しかバットがないんじゃないかな。それくらい、野球を目にも耳にもしなかった。
堀江 日本でクリケットの話をするくらいのものでしょうね。クリケットは旧大英帝国では人気があるけど、日本で知っている人はほぼいない。世界的には野球って、それ並みに知られていないですよね。
池田 その現状を目の当たりにしたいと思ってベトナムに視察に行ったら、本当に誰も野球を知らない。みんなサッカーです。
堀江 本当にそう。野球が通用するのは東アジアだけですよね。
池田 そう、韓国と台湾と日本がアジアの野球大国。
堀江 世界市場はメジャーリーグが全部持って行っちゃっているんですよね。アメリカ、カナダ、中米、オランダ、イタリアとか。マーケットが限られる。
池田 限られるというより、マーケットはつくらないと。せっかく3つの野球大国がアジアにあるのだから、日本を中心とした野球文化が広まっていくというのは、1球団の社長でしかない私がいうのもおこがましいですが、大きな課題であり、チャンスのように私には見えます。
堀江 マーケットが限られることが、放映権が高く売れない理由だと思います。プロ野球が頑張ってリーグで一括して売ったところで、成長ストーリーを描けるかというと、なかなか難しい。
Jリーグの場合、東南アジアも中国もマーケットになるじゃないですか。これからアジアが伸びていく中で、AFCアジアチャンピオンズリーグとかも絡めれば、広がりそうだよねというストーリーを描けます。
でもアジアの野球は、日本と韓国、台湾くらい。経済の成長度合いは厳しいですよね。
池田 めまぐるしいアジア各国の経済成長と連動した戦略をつくれていないことは、いまさらどうこういうことでもないので。やはりキーは、アジアの野球3大国でまずはどうするのかだと私は思うんですよね。それなら、いくらでもストーリーは描けますし。
(構成:中島大輔、撮影:是枝右恭)