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数々の成功を収めてきたマイクロソフトは、今年41歳を迎える。1975年創業の同社を率いるサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)が「成長、クラウド、アジア」を語る。

過去の成功を新しい成功の邪魔にしてはいけない

――1975年創業のマイクロソフトは今年で41歳。「中年」に入った会社は何を目指すのでしょう。

とてつもなく大きな成功を収めた会社は、それが新しい成功の邪魔にならないようにすることが重要だ。子どもにとって一番よくないのも、幼いうちに成功を収めてしまうことだと聞いたことがある。早くに成功すると、やる気を持続したり、根気づよく努力したりすることがいかに重要かわからない。

マイクロソフトは、とんでもなく大きな成功を収めてきた。だから、新しい事業がどれもこれもドル箱ビジネスに成長するわけではないことを覚えておく必要がある。

私がCEO就任前に下した大きな決断の1つは、クラウドプラットフォームの「Microsoft Azure(マイクロソフト・アジュール)」をサーバー事業の中核に据えると決めたことだ。まだ売上500万ドル程度だったときに「これを将来200億ドルのサーバー事業の要にする」と言ったんだ。マイクロソフトのようにすでに成功した企業では、こうした取捨選択が必要だ。

――クラウド事業に注力していないテクノロジー企業は、時代に取り残されるリスクをおかしているのでしょうか。

平均的な「打率」のテクノロジー企業の場合、技術のトレンドを十分活用しなければそうなるだろう。すべてのトレンドをカバーする必要はないが、それなりの数をカバーして高い打率を上げないと、時代に取り残されるだろうね。

マイクロソフトの場合、創業から41年続いているということは、平均打率が高かった証拠だ。きみがインタビューするテクノロジー企業で、41年続いている会社はそんなにないだろう?

クラウドへの移行は利益の共食いにはならない

――マイクロソフトは、ユーザーをクラウドコンピューティングに移行させようとしています。でもそれは、マイクロソフトの既存のビジネスとの共食いにつながりませんか。

クラウドへの移行は、利益の共食いにはつながらない。もちろん、ビジネスモデルのシフトにある程度の時間は必要だ。でもTAM(獲得可能な最大市場規模)という点では、ユーザーに付加価値をもたらす能力が高まれば、TAMが著しく拡大する。

たとえば、クラウド版グループウエアの「Office 365(オフィス365)」。マイクロソフトではそれまで、このレベルの能力を中小企業に提供したことはなかった。それが今は、あらゆる企業に提供できるようになった。それもアメリカだけでなく、全世界の企業だ。これは市場機会の著しい拡大と言っていい。

――ビジネス向けSNSのLinkedIn(リンクトイン)の買収は、マイクロソフト史上最高の買収額となりました。しかし、これまでマイクロソフトの大型買収はあまりよい結果をもたらしていません。今回はどうでしょう。

買収相手を探すとき、私が注目する点がいくつかある。まず、相手のコアビジネスが健全で、私たちをワクワクさせてくれて、勢いがあるか。Minecraft(マインクラフト)とLinkedInは、どちらも成長を続けているすばらしいビジネスだ(マイクロソフトは今年6月にLinkedInを、2014年にMinecraftの開発会社を買収した)。

マイクロソフトにとって一番重要なのは、買収がその事業にさらなる勢いを与えられるかどうかだ。Minecraftは世界で大人気のパソコンゲームで、これからコンソール事業にシフトしようとしていた。マイクロソフトはPCの会社で、コンソール事業もやっている。だからお互いに完璧な買収だった。

同じようなことがLinkedInにもいえる。LinkedInは世界のビジネスパソーン向けソーシャルネットワークだ。そしてマイクロソフトには法人・ビジネス向けクラウドがある。時間がたてばわかることだが、私はとても、とても楽観的だよ。

「なんでも学んでやろう」というタイプが勝つ

――あなたはマイクロソフトのカルチャーを全面的に変えるために大変な努力をしてきました。そちらはどうなっていますか。

カルチャーには適応と変化が不可欠だ。また学ぶカルチャーも重要だ。これは教育現場で起きていることから私が得た直感だ。『「やればできる!」の研究――能力を開花させるマインドセットの力』(邦訳:草思社)という本を読んだのだが、このなかで著者キャロル・ドゥエックは非常にシンプルなコンセプトを明らかにしている。

「なんでも学んでやろう」というタイプの人と「なんでも知っている」というタイプの人がいるとしたら、長期的には「なんでも学んでやろう」タイプが必ず勝つというんだ。たとえ持って生まれた能力は「なんでも知っている」タイプのほうが高くてもね。

それは小学生でも、男の子でも女の子でも、会社のCEOでも社員でも同じだ。私はこのインタビューの後で「あのとき私の視野は狭かったな」とか「あのときの心構えは成長にふさわしいものではなかったな」と反省する必要がある。そういったことをきちんとできれば、私たちが望むカルチャーを作っていけるだろう。

――マイクロソフトほど大きな会社のカルチャーを変えるのは大変なのでは。

変化というのはなんでも難しいものだよ。会社だけじゃない。個人的にもそうだ。「ねえ、きみは今日変わらなくちゃいけない」なんて言われたら、誰だって嫌だろう? 「よけいなお世話だ」と思うにちがいない。

でも変わらなければ、適応能力という人間の根源的な能力は使われずに終わってしまう。企業の場合、変わらなければ存在し続けることはできない。

CEOはよく考え抜いてから発言する必要がある

――CEOに就任して個人的に一番驚いたことは?

CEOは物事をよく考え抜いてからでなければ発言しないように、おおいに注意する必要がある。CEOが何かを言うと、みんなそれをとても真剣に受け止めて、実現しようとするからね。だから本当にそれを望んでいるのか、よく考え抜く必要がある。

――あなたは以前、クリケットから経営を学んだと言っていました。

私はインドで育った。インドがクリケット大国になって、ワールドカップで優勝する前のことだ。あるとき外国人選手のいるクラブと試合をすることになった。オーストラリア人の選手だった。そんなの初めてのことで、私たちはみんな戦うというより「すごいなー」という感じで眺めていた。

すると監督が、私がはるか彼方の守備についていて、試合をぼんやり眺めていることに気がついた。そしてプレーが動いているエリアのすぐ隣に動かしたんだ。すばらしい教訓になったよ。「おい、フィールドにいるときは戦うんだ。相手をリスペクトするのは結構だが、感心している場合じゃない」ってね。

※ 後編は明日掲載予定です。

原文はこちら(英語)。

(原文筆者:Dina Bass、翻訳:藤原朝子、写真:© 2016 Bloomberg L.P)

©2016 Bloomberg Businessweek

This article was produced in conjuction with IBM.