教えて!プロピッカー
【小林×横山】スピーチは、説明ではなく人の気持ちを動かすこと
2016/8/14
AKB48グループの2代目総監督を務める横山由依さんがNewsPicksのプロピッカーと対談する新連載「教えて!プロピッカー」。政治・経済からカルチャーまで、第一線で活躍しているキーパーソンと対談し、基礎から学んでいく企画です。
今回は自由民主党・衆議院議員の小林史明さん。先週の【小林史明×横山由依】政治家もAKB48も“人間味”が重要だに引き続き後編となる本記事では、小林さんの政治家としての思いから、スピーチでメッセージを伝える極意、握手の大切さなどについて話が展開しました。
人の気持ちを変える仕事がしたかった
小林:横山さんから“人間味”のお話が出ましたけれど、その点はすごく共感したんですよね。みんな、今この瞬間にAKB48という生き方を選んでいるだけで、他は何も変わらない。政治家もそうなんだけど、なぜか特別扱いされちゃう。
横山:それは私もすごく感じます。
小林:全然特別じゃないけれど、誰かのために頑張りたいっていう気持ちは同じなのかなと思います。
横山:そうですね。私は昔から「夢を与えられる人になりたいな」と、ずっと思っていました。でも、本当に普通の人なんですよね(笑)。
小林:時期が変われば舞台も変わると思うんです。僕はもともとサラリーマン。当時はNTTドコモという会社の舞台があって、今は政治家というだけなんです。
横山:サラリーマンから、どうして政治家になろうと思ったんですか?
小林:世の中の仕組みを変えたいと思っていたんです。
横山:それはずっと昔からですか?
小林:全然そんなこともないんです。サラリーマンを丸5年やって、後半の3年で思いました。大きくは2つの理由です。
一つは、会社の中で「それはルール上やっちゃダメ」みたいなことを言われたときに、「すごく窮屈だな」と感じたんです。それは会社だけじゃなく世の中全体でも言えることだなと思い、「世の中にある『挑戦できないルール』を変えたい」と、純粋に思っちゃったのが一つです。
そしてもう一つは、サラリーマン時代に採用の仕事をしていたので、学生と面接をすることが多かったのですが、「会社に入りたいだけ」の子がすごく多かった。
AKB48でいうと、「もうとにかくAKBに入りたいです!」みたいな人ばかり。「あなたは、その先で何をするの?」という感覚があんまりなかったんです。
横山:それはすごくよくわかります。若いメンバーの中には、「AKB48に入って夢がかなった 」という子もいますから。
小林:これは、日本の教育が関係していると思っています。学校では「とりあえずいい大学に入りなさい」「いい会社に入りなさい」と言うだけで「その先どう生きるか?」を教育してない。
途中で「アイドルになりたい」なんて言うと、「将来があるんだから、もうちょっと考えなさい!」と止められてしまう。
でも、僕は別にいいじゃないかと思うんです。それで失敗したら、もう1回学校に入ればいい。横山さんも、もしかしたら30歳でアイドルを引退して「大学に行ってみようかな」と思うかもしれない。そういう社会になったほうがいいなって思ったんです。
その時、社会のルールを変えようと思うと、政治家になるのが一番の選択だったんですよ。
もうひとつは、もともと人の気持ちを変える仕事をやりたかった。なぜかっていうと、やっぱり家族も国も、みんな人で成り立っているから。人の気持ちが変わると、世の中は変わる。
だから当時、携帯電話って全国民が持っていて、メールも届く端末。そこにポジティブなアプローチができたら、人の気持ちが変えられるんじゃないかと思ったとき「この仕事をしたい」って考えたんです。
そして、「もっと大きく人の意識を変える仕事を」って思ったときに、政治家になるということに行きついたんです。
だから、これまでの選択は僕の中では一本道なんです。僕はメッセージとかルールを変えることで、「挑戦していいんだ」「失敗しても助けてくれるんだ」と、みんなを前向きにしたい。
横山さんが言う「夢を与えられる人になりたいな」という思いと、本当に近いと思いますよ。
リアルで重要な握手
横山:すごいですね。考え方がすてきだなと思います。もっと政治家の方って、頭が固いというと語弊がありますけど、そんなイメージがずっとあったので、それが変わりました。もっと政治家の方の思いを知りたいなって思いました。
小林:そう思ってもらえるとうれしい ですよね。とはいえ、こうして会って初めて伝わるということは、僕たち政治家のメッセージがみんなに全然届いていないことでもあるので、そこは課題ですね。
やっぱり、ネットだけで情報発信するだけじゃダメで、ネットとリアルをいかに融合させるかが、テーマだと思っています。AKB48も、やっぱり握手会がないとだめじゃないですか。政治家も握手はすごく大事なんです。
横山:握手会はAKB48にとって本当に大切です。最近は、いかに素の自分でいられるかを考えています。握手会は、券を買えば誰でも来られるので、私のファン以外の方と接することもあるんです。だから、嫌なこと言う人もいたんですね。それもあって、自分の殻に閉じこもって、握手会が本当に苦手になった時期もありました。
「私のことを、そんな短時間で分かってもらえるはずがない」と考え込んじゃうこともあって。
でも、総監督になって、原点を見つめ直したんです。そのとき、AKB48がここまで大きくなったのは、やっぱり握手会のおかげだと思いました。ファンの方が直接言葉を伝えられる場ってすごく大事で、ありがたいことなんだなって。
来てくれるだけでありがたいなって思えてからは、たとえ10秒でも、言葉が伝わらなかったとしても「これが私だよ」っていう姿を出そうと決めました。
すると、ファンの方も「楽しかった」って言ってくれるし、私も楽しい。自分を隠したときは、ちょっときつかったです。「また握手会の日か」っていう気持ちになっちゃっていたんですけど。今はもうみんなに会いたいなと思います。
本当に人の言葉ってすごいなって思います。総選挙前などは、ナイーブになったり、落ち込んだりすることもあるんですけれど、一言だけ、「投票するね」「頑張ってね」と言ってもらえるだけで心が温かくなるというか。
小林:分かります。その瞬間って。10ぐらい悪いことを言われても、1個でも「応援しているからね」と言われると、すごく前向きになります。
それに、街頭演説などで直接お会いしたり、言葉を交わしたりすると「今みんなが何を感じているんだろう」「自分に何を期待してくれているんだろう」と感じることもできます。
スピーチとは人の気持ちを動かすこと
横山:私はスピーチがすごく苦手なんですけれど、小林さんは得意ですか?
小林:好きですね。やっぱり、僕は「人の気持ちを動かす仕事がしたい」と思っていたので、その意味でスピーチは原点だと思うんです。
横山:私は、伝えたいことがどんどん出てきちゃって、まとまらなくなっちゃうんです。どうしたらうまくなれますか?
小林:そうですよね。やっぱり、人は3~5分しか話を聞いてくれないので、削るほうが大変。悩みはたぶん同じなんですよね。
横山:スピーチでは経験談にするんですか。自分の今まであったことを例にして「こうだったから、こうすべき」とか。
小林:そうですね。やっぱり自分の言葉で話すのは、すごく大事だと思っています。誰かの言い回しをそのまま言っても、響かない。その意味では、飾らずにストレートに言います。
まずは、自分が感じたことを話す。言葉を選びすぎないことが大事なんですよね。特にSNSでは言葉を選ぶでしょう。
横山:私はTwitterに投稿するときも、一字一句何度も読み直して、すごく選びます(笑)。
小林:そうですよね。でもリアルは選ばないほうがいいんです。横山さんはお会いしてすごくよくわかったんだけど、すごくまじめなので言葉を選ぶんです。
横山:はい、その通りです(笑)。特に総監督になってすぐのころは、「自分の発言がどこにでも取り上げられてしまう」とプレッシャーを感じていました。だから、スピーチのときに感じたことをそのまま言いたいけど「今、これは言ったらだめなんじゃないか」とか思っちゃって、全然言葉が出なくなってしまったときがあります。
最近は、自分の感情を上手じゃなくても言おうと思えるようになったんですけど。でも、おっしゃるとおりで。本当に何を話そうか選び過ぎて、結局意味が分かんない話になることもあって(笑)。
小林:そこで大事なのは「スピーチを何のためにするか?」ということ。説明だったらスピーチじゃないですよね。スピーチは、「人の気持ちをA地点からB地点に動かすため」に、あるんです。
だから僕の場合、スピーチの場面に行くまではしゃべることを決めないんですよ。「こういうことは伝えたい」という思いを一つ だけ持っていく。じゃあ、それを伝えるために、「いま、みんなはどの地点(=A地点)にいるんだろう」「何ていう言葉をかけたらB地点に動くのかな」と考える。
そうすると、考えることはシンプルです。「みんなどこにいるのかな」「みんなを、ここに連れていきたい」「そのために何を言おうか」という三つを考えるだけでいい。
そして、1回のスピーチで言えることは一つしかないんです。
横山:一つ決めることが大事なんですね。
小林:そう。「みんなには、ここを分かってほしい」ということだけを目的にする。あれも言わなきゃ、これも言わなきゃってなると、話す方も聞く方も大変ですから。
横山:今後は、それを参考にしてスピーチしてみます。
小林:街頭演説をやると慣れますよ。
横山:やってみようかな(笑)。トレーニングになるかも。
小林:そう、トレーニングは大事。しゃべり続けて場数をこなす中で、自分のフレーズができるんです。「この言い回しは、他の人にはない自分の言い回しだ」とか。
横山:そうですね。それで言うと、私は取材を受けることがすごく好きなんです。
取材は何社もの方が同じ話題に対して質問してくれます。質問に答える 中で「自分はこう思っているんだ」というのが、どんどんわかっていくのが好きなんです。それも、場数ですよね。
小林:そうそう。あと、あえていろいろな人と同じ話題について話すのもいい。すると、自然と言葉が集約されて、自分の言葉になっていくんです。繰り返すことが大事。ダンスとかも、そうなんじゃないですか。
横山:そうですね。繰り返す中で自分のものになります。
小林:スピーチもダンスと一緒だと思えばいいですよ。
──それでは最後に、横山さんは小林さんとお話ししてみていかがでしたか。
横山:本当に、今日のこの時間だけでも政治がぐっと身近に感じました。あとはやっぱり、スピーチの話がすごく参考になりました。
上手になったら、小林さんのアドバイスが効いたおかげかもしれません。
小林:街頭演説をすることがあったら、応援演説に行きますよ。総監督を応援します。
横山:お願いします(笑)。
──小林さんはいかがでしたか。
小林:世の中の人に注目される生き方を選んだ立場として、すごく共感するところがありました。「本当は特別じゃない」「もっと自然なところを知ってほしい」という感覚は同じで、私もアイドルを身近に感じたというか。
横山:やった! ありがとうございます。
小林:それに、アイドルにはみんなの気持ちを、前向きにさせる力がすごくあると思うんですよね。私たちもそうじゃなきゃいけない。
やっぱり国民一人ひとりが将来に明るさを感じて、夢を持てるようになると「頑張ろう」って思ってもらえるので。それを発信する力は、もっと自分たちも見習いたいなと感じましたね。
横山:そう言っていただけるとうれしいです。私ももっと政治のことを勉強したいと思いました。今日は、ありがとうございました!
(構成:菅原聖司、写真:是枝右恭)