AIが、英語学習を不要にする日が到来する?

2016/8/8
ディープラーニング翻訳の衝撃  
シンギュラリティ(技術的特異点)──。
もはや言うまでもなく、AI(人工知能)が人間の能力を超えることで、人間の生活が後戻りできないほどに変容してしまうことを指す。
提唱者である米国の未来学者レイ・カーツワイル氏は、2045年には全人類の知能の約10億倍強力な知能が生み出され、それが到来すると予言している。
言語の翻訳分野においても、機械翻訳の目覚ましい進歩により、シンギュラリティの到来を予感させる現象が起きている。
もっとも最近まで、機械翻訳、特に「日本語─英語」のランゲッジペアの場合、誤訳が多すぎて使えないと不評を買いがちだった。
だが、NewsPicksのプロピッカーで筑波大学助教デジタルネイチャーグループ主宰の落合陽一氏は、「機械翻訳がバカなんじゃなくて、そう言う人の言葉の使い方に問題がある」と指摘する。
筑波大学助教デジタルネイチャーグループ主宰の落合陽一氏。
落合氏によると、最近の一流研究者は自分の論文が機械翻訳されることを意識し、日本語、英語ともに機械が翻訳しやすい文章を書くという。
「機械翻訳は精度が上がっているので、5W1Hをしっかりと書いてしまえば、英語であろうがスウェーデン語であろうが、かなり正確に翻訳できてしまいます」(落合氏)
だが、もしかしたら今後は、そんな必要さえなくなるかもしれない。
というのも、機械翻訳がこれまでの統計的手法から、ディープラーニング(深層学習)を使ったエンジンに変わりつつあるからだ。
実際、ディープラーニングを用いた機械統計の先駆者である日本マイクロソフトの業務執行役員の田丸健三郎氏は、「これまでの統計型機械翻訳は文章の構成を正確に分解し、解釈できるかできないかが、翻訳品質を左右した。しかし、ディープラーニングを用いた機械翻訳は情報の関係性を深く学習できるので、文章の分解が粗くても、結果にさほど影響しない」と話す。
“AI翻訳”の技術向上はテキスト翻訳にとどまらない。田丸氏によると、「相手が英語でしゃべったことが即時に日本語で聞こえる音声のリアルタイム翻訳も可能です。実際、Skypeトランスレーターの日本語版も開発が進んでいる」
そのローンチは年内を予定していて、その試作を社内で披露したところ、社員から「おおー」と歓声が上がったと自信をのぞかせる。
Skype翻訳のベースとなる翻訳エンジンは、もちろんマイクロソフト製。日本語—英語版のリアルタイム翻訳が年内に可能になるとは驚きだ。 (https://www.skype.com/ja/features/skype-translator/より)
グーグル、フェイスブック、百度
ディープラーニングは、画像認識も得意分野だ。グーグルは、2014年に買収したQuest Visualの技術に基づき、機械翻訳技術と画像認識技術を組み合わせ、文字にカメラをかざすと翻訳するインスタントビジュアル翻訳をすでに確立している。
フェイスブックは2015年、自然言語処理技術を提供するWit.ai 社を買収している。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOも、昨年フェイスブック上で行った公開Q&Aにおいて
「発言を文字にし、別の言語に翻訳するシステムの開発にフォーカスしている。そして、自然言語による質問を正しく認識して回答する仕組みも開発している」
と回答している。
そして、実際に今年7月、投稿を自動翻訳し複数の言語で投稿できる機能を公開した。
中国最大の検索エンジン、百度も機械翻訳技術にディープラーニングを採用し、アメリカ勢と競う構えだ。
こうした各社の取り組みにより、リアルタイム翻訳(通訳)が可能となるとしたら、精度はともかく、スピードでは人力が敵うわけがない。
これまでの統計をベースとした機械翻訳は、極端な直訳傾向にあったが、ディープラーニングを用いた手法に変わることで、前後の文脈や対話相手との関係性まで察することができるようになるという。
『WIRED』創刊編集長ケヴィン・ケリー氏が登場する「イノベーターズ・トーク」において、ケリー氏はNewsPicks編集部の「AI時代になくなる仕事とは」との質問に対し、その一つとして「文書翻訳」の仕事を提示したのも当然だと納得できる。
50年間、「あと5年」と言い続ける
AIの進化により、我々は、「人類の言葉の壁がなくなる」という永遠の夢をかなえられるのか?
特に我々日本人は、世界共通語である英語に対するコンプレックスが強く、挑戦と挫折を繰り返してきただけに、「もう英語の勉強をしなくてもいい時代かもしれない」と考える人も多いかもしれない。
そんな我々の甘い期待に対し、日本における機械翻訳技術のパイオニアである情報通信研究機構ユニバーサルコミュニケーション研究所 多言語翻訳研究室長の隅田英一郎氏は、「どう考えたって、我々は英語ネイティブにはなれないのだから、機械の性能が上がってきたら、それを使えばいい。そのうち、語学の勉強はいらなくなるでしょうね」と言い切る。
一方で、機械翻訳の進化に、冷ややかな見方をする人も多い。クラウドソーシングによる翻訳プラットフォームgengoの代表、マシュー今井ロメイン氏は、「機械翻訳は50年以上前から10年ごとに違うアルゴリズムを試すパターンが続き、『翻訳者を超えるにはあと5年』と言い続けてきた」と、翻訳シンギュラリティの到来には懐疑的だ。
また、NewsPicks編集部がプロピッカーにアンケートし「機械翻訳時代に英語学習は不要か?」と聞いたところ、回答してくれた35人のうち、実に34人が「そうは思わない」と回答した。
とはいえ、我々はAI翻訳により、英語の下訳がしやすい、知らない単語を調べやすいなどの恩恵を受けやすくなることは間違いない。
では、機械翻訳時代に注力すべき、英語学習とは? はたまた、機械学習に負けない英語術とは何か?
本特集では、マイクロソフト、情報通信研究機構、NTTドコモが主導するみらい翻訳など、機械翻訳技術の先端をいく企業を取材し、機械翻訳最前線を追うと同時に、機械ではカバーしきれない英語を身につける具体的な方法を紹介していく。
具体的なラインナップは以下の通りだ。
本日公開の<a href="/news/1709763">第1回</a>は、お笑い芸人でありながらIT会社テラスカイの役員でもある厚切りジェイソン氏が登場。
プログラマーでもあるジェイソン氏は、直接的な表現を避けがちな日本語の翻訳は、機械翻訳では読み取れないと指摘。
自分のやりたいことに英語が必要だと思うなら、言い訳無用で、今すぐ英語学習を始めよと、ハッパをかける。
そしてジェイソン氏が日本語を完璧にマスターした手法と同じ学習法が効くと指南する。果たして、その方法とは?
特集2回目は、機械翻訳の歴史について振り返る。
キリスト教の価値観では、世界が多言語なのは、神からの罰。人類が傲慢になり、天より高い「バベルの塔」を作ろうとしたことに怒った神が、報復として、それまで一つだった言語をバラバラにしたと信じられてきた。
以来、特にキリスト教圏の人にとって、言語の統一や言語の理解は念願だ。だからこそ、機械翻訳のアイディアはなんと17世紀にまでさかのぼる。
それが20世紀に入ると、米ソ冷戦、ヨーロッパ統合への挑戦と実現、9.11テロなどの事件を背景に、「即時翻訳」は喫緊の課題になり、技術が進展。
こうした巷にはあまり知られていない機械翻訳のヒストリーを、写真満載のスライド形式で振り返る。
そして3回目は、前述の通り、日本マイクロソフト、情報通信研究機構、NTTドコモが主導するみらい翻訳など、機械翻訳技術の先端をいく企業を取材し、日本国内の機械翻訳最前線を追うと同時に、シリコンバレーに多数出現する機械翻訳ベンチャーの動向をリポートする。
4回目はスカイマーク会長の佐山展生氏、経済評論家の山崎元氏、一橋大学教授の楠木建氏、DeNA 執行役員/DeNA China CEOの任宜氏をはじめとする35人のプロピッカーが考える機械翻訳の将来性や、「自身が試してみて効果的だった英語学習法」について一挙公開する。
特集後半では、シリコンバレー在住の同時通訳者関谷英里子氏が、「機械翻訳に勝つ、英語学習法」を指南する一方で、前出・落合陽一氏が一流の研究者が実践しているという「機械翻訳時代の英語の書き方、話し方」を指導。
シリコンバレー在住の同時通訳者、関谷英里子さんは現地の機械翻訳ベンチャーに勤務経験がある。
最後に、元サッカー日本代表のトルシェ監督の名通訳で、7カ国語を操るスポーツジャーナリスト、フローラン・ダバディ氏が登場。「機械翻訳は語学のファストフード」と定義する一方で、英語を学びたい人に、「苦痛な語学の勉強はしなくていい」とアドバイスする。
その真意とは何なのか?