教えて!プロピッカー
【小林史明×横山由依】政治家もAKB48も“人間味”が重要だ
2016/8/7
AKB48グループの2代目総監督を務める横山由依さんがNewsPicksのプロピッカーと対談する新連載「教えて!プロピッカー」。政治・経済からカルチャーまで、第一線で活躍しているキーパーソンと対談し、基礎から学んでいく企画です。
今回は自由民主党・衆議院議員の小林史明さん。前編となる本記事では、政治を身近に感じてもらうために必要なこと、政治家とアイドルの共通点、などについて話が展開しました。
──本日は「政治」がテーマですが、横山さんは投票に行ったことはありますか
横山:私は住民票が京都にあるのですが、20歳になったときにすぐ行きました。
小林:そのときはどうやって候補者を選んだんですか?
横山:自分なりに色々考えて、昔から名前を聞いたことがある立候補者に投票しました。政治には詳しくはないので、分からないところも多くて悩みました。アベノミクスについて調べたこともあるんですけど。
小林:京都まで帰省して投票に行ったのはすごいですね。
横山:忙しくても投票には行かないとな、と思っているんです。
小林:ご両親が「投票に行きなさい」と言っていたんですか。
横山:いつも両親が選挙に行っていたので、「私も20歳になったら行かなきゃ」と思っていたことが大きいです。今年からは18歳で選挙に行けるようになったんですよね。
小林:そうです。今年から選挙権年齢が18歳に引き下がりました。これが実現するにあたっては、「まだ子どもなんだから早い」「誰に投票するか判断できないんじゃないか」なんて意見もあったんですよね。
でも、私たちの世代はすごく冷静に社会を見ていると思います。さらに言えば横山さんの世代のほうが、もっと冷静。
僕は全国の学生を相手に講演やワークショップをすることも多いのですが、その中で感じたのは「私は私で判断するんだ」という意識がある子が多い。健全な冷静さを感じました。
一因として、テレビよりスマホで情報を手にしていることがあるんじゃないかなと。webメディアって情報も多く複数の視点で見た情報が得られるので、特定の情報ソースに大きく影響されにくい。選挙権年齢引き下げについて過度な心配は必要ないと思いましたね。
ただ、いざ投票となると、みんな悩み過ぎていることが問題かな。
横山:私も同じです。次はどうやって選んだらいいんでしょうか。
小林:たとえば、横山さんが20歳の時に投票した政治家は、今何をしているか分かりますか?
横山:うーん、どうなんだろう。
小林:みんなそんな感じで、分からない人も多いんです。今はソーシャルの時代だから、投票した人や少しでも関心を持った人をTwitterやFacebookでフォローをして、追いかけてみるといいんじゃないかと思っています。
もし、「自分が投票したけれど、ちょっと違うな」と思ったら、また次の選挙で選び直せばいい。すると、前とは違う人が当選して、世の中が変わるチャンスになるかもしれない。
AKB48も、運営側が「メンバーを全部選びます」となると、ずっとセンターが同じですよね。でも、選抜総選挙があってファンの投票で順番を決めるから、メンバーが入れ替わるチャンスが出てくる。
投票するファンの中には、メンバーの容姿だけでなく、話が面白いとか、アイドルとしての姿勢や努力する姿など、いろいろな評価軸がありますよね。自分の期待どおりに頑張ってくれていると思ったら、また次も応援してくれる。
横山:そう考えると、意外と似ているところがあるのかも。
小林:その点は、すごく似ていると思いますよ。1人1票か、何票も投じられるかの違いはありますけどね。
ネットでいかに情報発信するか
横山:ソーシャルのお話が出ましたけれど、小林さんは政治について情報を伝える時に、Twitterやネットを活用していますよね。それは、若い人のためのアプローチでもあるんですか?
小林:そうですね。政治を難しいと感じている若者はもちろん、普段は直接会えない人にメッセージを伝えるためにインターネットを活用しているんです。
「Cafe sta」というネット番組が代表的ですね。分かりやすい番組作りを心がけています。
これに力を入れ始めたのは、2009年から。当時、民主党政権になり、自民党が野党になったことで、テレビに全然出られなくなってしまったんです。
そこで、「テレビがダメならインターネットだ」と、自分たちで情報を発信するようになったんです。これで、一定数の広がりを生むことには成功しました。
ただ、今考えているのは、みんなスマホを持つようになったので、30分の動画を作っても、なかなか見てくれないだろうということなんです。
横山:確かに、長いとなかなか見ないですね。例えばですけど、短いアニメや漫画で政治について解説してくれるといいかもしれないですよね。堅過ぎず見やすいと思います。
小林:やっぱり、スマホで見られる30秒から1分ぐらいの動画に変えていなかきゃいけないですよね。これから、そういう新しいコンテンツを作ろうとしています。
横山:すごい、時代に合わせているんですね。私たちの世代は常に携帯を触っていて、時間が空いたらTwitterを見たり、ニュースアプリを見たりしているので、手軽に見られるとうれしいです。
メンバーと会話をしていても、ネットニュースに載っている政治の話は意外と出るんですよ。「EUからイギリスが抜けるんだって」とか「都知事が変わって東京どうなるんだろう」とか。
小林:本当ですか。話題に出るんですね。他に「ネットでこれをやったらいい」というのはありますか。この点は、ぜひ僕の方が教えてほしい(笑)。
横山:そうですね。小林さんが普段一緒にならない方との写真を積極的に載せるのはどうでしょうか。私は、いつもはなかなか共演できない他のアイドルの子と番組で一緒になる時は写真を撮ってTwitterに載せることがあります。例えば、ももクロ(ももいろクローバーZ)の子とか。
そうすると、お互いのファンの子に知ってもらえる機会にもなります。小林さんであれば、AKB48のメンバーでもいいと思います。そうすると、私たちを応援してくれている若い子も政治について知る機会になると思います。
小林:なるほど。お互いの層に広がりますよね。僕も、自民党の議員同士だけが写っている写真は面白みがないかなと思います。
そういう写真をTwitterやインスタ(instagram)に載せるのもいいかもしれないですね。
横山:すごい、インスタやっているんですね。私はまだなので、遅れている(笑)。
小林:政治家は意外と流行に敏感なんですよ。
横山:どんな写真を載せているんですか?
小林:地元の景色を載せることもありますし、言葉では分かりにくい情報を図にして載せることもあります。「税収が増えています」とか「企業の倒産件数が減っています」みたいなことは、文字よりもグラフ1枚で分かるようにしています。
NewsPicksでも取り組んでいるインフォグラフィックという表現も取り入れています。これにより、少しでも関心をもってもらえたらうれしいですね。
“人間味”を感じてもらう
横山:そういう写真で、政治家の方をもっと身近に感じられるようにできるといいですね。今はまだ、存在がとても遠く感じてしまうんです。
小林:それこそ昔のアイドルみたいなね(笑)。AKB48じゃないけど、「会いに行ける政治家」くらいのイメージにならなくちゃいけないかも。
アイドルも政治家と同じように本来は遠い存在じゃないですか。その中でファンになってもらうために努力していることってどんなことですか。
横山:私は“人間味”を感じてもらうことが一番だと思っています。私たちAKB48ってアイドルっていう感覚じゃなくて、一人の女の子としてすべてを見せるところがあるんです。
それが、他のアイドルと比べて新しいところだと思うんです。Twitterでも「昨日、どこに行った」「今日、これを食べている」という話を、普通の女の子として載せている感覚です。
小林:なるほど。AKB48のメンバーを見ていると、感情移入しやすいなと感じることが多いですね。
横山:また、メンバーは、テレビにあまり出られない子でも「私は握手会を頑張る」「私は劇場で頑張る」というように、いろいろな場所にチャンスがあるので、それぞれの場所で、ファンの皆さんに見てもらえるように努力しているんです。
小林:確かに、頑張っている姿がいろいろなところで見られるのはいいですよね。それに比べると、政治家ってテレビくらいしかみなさんに顔を知ってもらえる瞬間がないので。
横山:どんなお仕事をしているのか見えにくいですよね、ステージで歌っているわけじゃないし。「何を会議とかで話しているんだろう」というのはあります。普段の姿も全然わからない。
小林:そうですよね。政治家もAKB48を見習わなきゃいけないなと思っています。きちんと日常の政治活動を伝えることはもちろん、スポーツや食事をしている姿も出しているんです。そういう点は、本当に参考にしているんです。
「もっとこうなればいい」を考えてみる
横山:ありがとうございます。そういう姿が載っていたら、親近感がわきますね。
私も、もっと自分から「政治に参加したい」と思えたらいいなと思うんですけど……。
小林:政治が遠く感じるもう一つの理由として、政治は「自分たちの生活を良くするための活動」なので、やはり個々人が「何か良くないな」と感じてないと、参加しようと思いにくいところはあるなと思います。
横山:不自由を感じていることがあるから「こうして欲しい」と思って、その人に投票したり、政治について勉強したりしますもんね。
小林:そうそう。たとえば、横山さんは世の中で課題に感じていることや、「もっとこうなればいいのに」と感じることはありますか。
横山:AKB48の話で言うと、ライブ会場が足りないことですね。今、大きな会場の建て替えや改修工事などでライブがなかなかできないんです。この時期に集中しちゃったのって、ずらすことはできなかったのかな。しょうがないんですかね。
小林:それこそ、まさにずらせたかもしれない。また、ずらせなくても「東京は出来ないけど地方都市をうまく活用しよう」とすることも、政治の判断でできる。
そういう取り組みをしている政治家がいれば積極的に投票しようと思うかもしれないですよね。
自民党でも、「ライブで地方を活性化しよう」という政策を訴えている人がいます。
横山:えー! すごい。
小林:面白いですよね。大きなライブは、どうしても東京、大阪、名古屋、福岡などの主要都市が多いけれど、それを地方に広げようとしているんです。
横山:大きな会場は、決まった場所ですもんね。
小林:地方だと会場が小さかったり、利益も小さかったりして活発にライブが行われていないところも多い。
でも、自治体が少しお金を出して誘致することで、地元の人はもちろん首都圏からも人が来ることで地方の経済が元気になるかもしれない。そういう政策も政治としては十分アリなんです。
「人生100年」時代にどう向き合うか
横山:どんな政治家の方がいるか調べてみると、自分の関心に当てはまる人がいるかもしれないですね。
あと、消費税の増税が先送りされましたけど、税金が上がるのは止められないんですか?
小林:気になりますよね。これは少子高齢化が大きな問題なんです。
横山:若い人が減って、高齢者の方がどんどん増えていますよね。
小林:そう。高齢者の方を支えるためには、財源が必要。そのために、税金や保険料を上げることが考えられているんです。
でも、なかには年金をもらいつつ、社会で今も活躍している高齢者の方もいるわけですよね。例えば、前回対談したあの方とか。
横山:田原総一朗さんですね(笑)。
小林:今は田原さんのように活躍している方も一律で年金がもらえるので、「お金がある人はもうなしにしませんか?」とすると、「皆さんの負担を抑えられたりする」。そういう仕組みづくりはすごく重要です。
あとは効果の少ない無駄な予算をやめて、効率的な使い方に変えることですね。
横山:一人ひとりに合わせたり、その世代ごとにどういう状況かを見たりして、新しいやり方を考えるんですね。
小林:じゃあ、横山さんに質問です。おばあちゃんになった自分について、考えたことありますか。例えば60歳のとき何している?
横山:えーっと、結婚して、子どもを産んで、もう孫もいるかな。仕事はせずに、猫と暮らしたり、旦那さんと旅行に行ったりしていそう。
小林:なるほど。80歳だとどうだろう。
横山:うーん、ちょっと想像つかないですね。
小林:でもね、これからは健康だと、100歳ぐらいまで生きるんですよ。
横山:100歳ですか?
小林:なんでこんな質問をしたかというと、日本は戦争が終わったころの平均寿命って50歳ぐらいだったんです。でも、今では女性が87.05歳、男性が80.79歳。
2050年ぐらいになると、これが女性90歳、男性が84歳ぐらいになるといわれています。グラフにするとすごく伸びていることが分かります。「人生100年」なんだよね。
横山:すごい。きんさん、ぎんさんですね。
小林:よく知っていますね。二人が話題になったのは1992年です。
横山:わー、ちょうど私が生まれた年です。
小林:そうですね。当時は、100歳で元気な人が珍しかったけど、今は全国で6万人以上いるんですよ。
横山:そんなに多いんですか。
小林:これが2050年になると、なんと70万人近くにもなるんですよ。
今後、65歳以上の人を一律で高齢者=助けが必要な人として考えてしまうと、若い人たちで支えることは本当に大変。だから、田原さんみたいに元気な方にはどんどん活躍してもらいたいし、もっと言えば高齢者が活躍できる時代でもある。
横山:これまでとは仕組みが変わるんですね。その頃には、ライブ会場のお客さんも変わるかも。
小林:これからは、80代で現役として働いているファンもたくさんいるかもしれないですね。
このように、今は日本という国の姿が変わる転換期なんです。まずはちょっとでも自分の事として考えてみたり、関心のあるところから調べはじめたりすると、身近になるかもしれないですね。
横山:そうですね。ライブ会場の話や、自分の将来を考えるとちょっと近くなるかも。メンバーにもこんな問題があるよということと、こんな風に分かりやすく教えてくれる政治家の方がいるよって伝えたくなりました。
小林:ありがとうございます。そう言ってもらえるとうれしいです。
※後編は来週掲載予定です。
(構成:菅原聖司、写真:是枝右恭)