(Bloomberg) -- 米国の不動産投資顧問会社ラサール・ インベストメント・マネジメントが、三菱地所や住友不動産などに対して自社株買いを求めていることが分かった。ラサール・インベストメントは、株価が大幅に割安だと見ており、資金を不動産開発よりも自社株買いに充てるべきだと主張している。

ブルームバーグが入手したラサールから三菱地所に宛てられた5月31日付の書簡によると、「保有資産のポートフォリオが魅力的であり、強い成長力があるにもかかわらず、株価はそれらを適正に反映していない」と指摘。時価総額は独自に試算した純資産価値より40%低いとしている。「資本コストを削減したり、長期にわたる不当なアンダーパフォームを是正する投資機会」として、自社株買いをするよう要求。自社株買いは開発プロジェクトよりもリスクが低いと主張した。

事情に詳しい関係者によると、ラサールはこれ以外にも住友不動産を含む不動産会社やリート投資法人に対して、口頭で自社株買いの要求を説明したという。ラサールは世界で149億ドル(約1兆5200億円)の不動産関連証券を運用。三菱地所株を保有していることは認めているが、比率は明らかにしていない。

ブルームバーグのデータによると、三菱地所の株価は3日までの1年間で31%下落し、7月8日には12年12月以来の低水準を付けた。住友不動産も同時期に42%下落しており、両社ともTOPIXのマイナス23%を上回る下落幅を記録した。一方、三菱地所を設立母体とするJリートのジャパンリアルエステイト投資法人は同時期に8%上昇している。
 
三菱地所広報部の渡辺昌之副長は、「配当性向は25ー30%を目安とし、残り70%を再投資する」と述べ、「自社株買いはしないとは言えないが、当面は丸の内再開発などの成長のための投資に資金を振り向け、企業価値を向上させることでお返しをしていきたい」と話した。住友不動産の広報担当は、「自社株買いをする方針は今のところない。今後についても今のところ考えていない」と語った。ラサールにコメントを求めたが、回答は得られなかった。

5日の三菱地所株は一時、前日比2.7%高となった後、同14.5円(0.8%)高の1909.5円で取引を終了した。住友不動産株は同20円(0.8%)高の2636.5円。

自社株買いの是非

ラサールは、三菱地所に宛てた書簡で不動産賃貸市場は健全であり、同社が主な営業基盤とする東京・丸の内地区ではオフィス賃料が一段と上昇し続けると予想されると指摘。三菱地所のビル事業の空室率も6月に2.34%まで下がり、平均賃料も昨年から3.5%増の坪当たり2万5321円に達している。

国内企業は、内部留保を投資や株主還元に回さずにため込む傾向が強く、ブルームバーグのデータによると、東証1部上場企業の現金及び現金同等物の時価総額に占める割合は平均52%と、MSCIワールド指数の構成企業の平均23%を大きく上回っている。三菱地所の現金及び現金同等物も1年間で倍増し、3月末時点で4130億円に到達したが、株価は15年を直近のピークに低迷している。

早稲田大学大学院の服部暢達客員教授は、株主による自社株買い要求について、国内企業は内部留保が厚い上「株価収益率(PER)も低いので、そうした気持ちを持つのはもっともだ」と指摘する。ただ、「一律にやるべきとはいえない」とし、経営陣が自社の状況を考えた上で、業績見通しと比べ「今の株価が割安だと思わなかったら買わないという判断は正しい」と語った。

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