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教えて!プロピッカー

【田原総一朗×横山由依】カリスマ性なきリーダーだからできること

2016/7/31

今回から、AKB48グループの2代目総監督を務める横山由依さんがNewsPicksのプロピッカーと対談する新連載「教えて!プロピッカー」がスタートします。政治・経済からカルチャーまで、第一線で活躍しているキーパーソンはどんな活動をしているのか? 横山さんがピッカーのみなさんと一緒に学んでいく企画です。

初回はイントロダクションとして、ジャーナリストで、AKB48にも詳しい田原総一朗さんが登場。横山さんがAKB48にかける思いや、初代総監督・高橋みなみさんとのリーダーシップの違い、グループに対する向き合い方、さらに現在抱えている悩みまで語り合いました。

自分らしくいるのが良いんだ

──横山さんは、昨年12月に高橋みなみさんから総監督を引き継ぎました。総監督になってから、どんな気持ちの変化がありましたか。

横山:総監督になると決まってから、この1年半くらいは、自分のAKB人生の中で一番涙して悩んで考えた期間でした。

ただ、そのおかげで「自分らしくいるのが良いんだ」と初めて思えるようになって、その気持ちをもって6月の「AKB48選抜総選挙」に挑めました。

総選挙当日は、他のメンバーが喜ぶ姿を見たり、スピーチも冷静に聞けたりする中で、「やっぱり私はAKB48のことが好きなんだ」という原点を思い出すことができました。

順位としては、「7位以内に入る」と目標を掲げていましたが結果は11位。去年は10位だったので、ランクも落としてしまいました。

ただ、順位よりも大事なものを手に入れられたのかなと思います。

横山由依(よこやま・ゆい) 1992年12月生まれ。京都府木津川市出身。小学生のころ、男性デュオ・CHEMISTRY(ケミストリー)のコンサートで感動し、「人を感動させられる歌手になりたい」と芸能界を志す。2009年9月、AKB48第9期研究生として加入。10年10月に正規メンバーとなり、15年12月、AKB48グループ2代目総監督に。ニックネームは「ゆいはん」。

横山由依(よこやま・ゆい)
1992年12月生まれ。京都府木津川市出身。2009年9月、AKB48第9期研究生として加入。2010年10月に正規メンバーとなり、2015年12月、AKB48グループ2代目総監督に

田原:なるほどね。でも、毎年総選挙があるなんて、むちゃくちゃだと思わない? 秋元康って、すごく残酷な男だと思いませんか(笑)。ほとんどのメンバーはランクインできない。大勢をたたき落すための選挙でしょ?

横山:それは違いますけど(笑)。でも、今回はいちメンバーとしてではなく、総監督の立場になったので「全員がランクインできない」現実を強く認識しました。

どんな結果であっても、次の日からは一緒の目標に向かって進むのは残酷ですが、総選挙はAKB48しかできないことですし、ここまでグループを大きくしてくれたものだとも思います。

みんながいるなら、できる

田原:確かに、総選挙があって、みんなが緊張しているからマンネリ化しないのかもしれないね。ところで、横山さんに「総監督になれ」と言ったのは誰なんですか?

横山:たかみな(高橋みなみ)さんが言いました。秋元さんとたかみなさんが話し合って、決めたみたいです。

田原:その時は、どんな気持ちになりましたか?

横山:色んなことが走馬灯のように浮かびました。たかみなさんが卒業するという大きな出来事。大事な役割を私に渡そうとしてくれていること。そして、メンバー、ファンの方、スタッフの方の顔……。

そのとき、なぜか「みんながいるならできるかな」と思えたんです。だから、その場ですぐに「はい」と返事をしました。

田原:それはすごい自信だ。「自分には無理だな」とは思わなかった?

横山:そうですね。「今の自分ならできる」と思ったんです。

田原:秋元さんとたかみなさんから、あなたのどこが買われたんだと思う?

横山:うーん、それなんですよね。私ってスピーチとかもうまくできないですし。

田原:そんなことはない。僕は一回スピーチ聞いたことあるけど、うまかった。

田原総一朗(たはら・そういちろう)  1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。現在、早稲田大学特命教授として大学院で講義をするほか、「大隈塾」塾頭も務める。

田原総一朗(たはら・そういちろう) 
1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。現在、早稲田大学特命教授として大学院で講義をするほか、「大隈塾」塾頭も務める。

横山:本当ですか? そう言ってもらえるとうれしいです(笑)。

田原:自分では、あんまり上手じゃないと思っているわけだ。

横山:はい。たかみなさんは言葉も上手だし、話もまとまっているので、比べてしまうところがあります。でも、秋元さんが「それが横山なんだから、いいんだよ」と言ってくれました。

田原:なるほど。無理してうまくなろうと思わなくていいと。

横山:そうですね。私が総監督になってから、たかみなさんの時とは「違う流れになってきたのかな」と思います。

今までは、たかみなさんがすべての役割をこなしていました。でも、私にはそれができないことで、他のメンバーが自分から手を挙げるようになったんです。たとえば、トークに関しては、私よりも得意な子が担当することがあります。

自分では分かりにくいですけど、周りのメンバーは「自分も頑張らないとなって思わせる何かがある」と言ってくれます。

400人のグループをまとめる方法

田原:総監督としてのタイプが全然違うわけだ。今は一人ひとりが主体的に考えなければいけないわけね。これまでは、たかみなさんの言うとおりに従っていれば良かったけれど。

横山:はい。総監督も変わって、私はもちろんグループとしても今が本当に頑張り時です。みんな危機感を持っていると思います。 

田原:そのなかで、どうやってグループをまとめているの?

横山:たかみなさんは1期生でカリスマ性があるし、引っ張ってくれる感じでした。それに比べて、私はチームのキャプテンは経験しましたけど、カリスマ性もないし、自分からリードするタイプじゃない。9期生なので、先輩や後輩もたくさんいます

でも、だからこそ先輩や後輩にかかわらずコミュニケーションを大切にして、とにかくいろんな人の意見を聞くように心がけてきました。

田原:なるほど。たかみなさんは一番先輩でリーダーだったから、ガンガンやればよかった。でも、横山さんはそうはいかない。調和を大事にしていると。

横山:そうですね。私は一人一人と、とにかくコミュニケーションをとるんです。

田原:どういう話をするんですか?

横山:たとえば、「AKB48でどうなりたいか」とか、「卒業後はどう考えているか」から、「好きな食べ物の話」まで。「一人一人がどういう子か知ろう」というやり方をしています。
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田原:きっと、彼女たちにも悩みがあるでしょう。

横山:そうですね。たとえば、チーム4のキャプテンをやっている高橋朱里は、まだ18歳で、初めてキャプテンを務めるため、チームをまとめることが難しいようなんです。メンバーも若いから、「気分が落ち込んでいる」という理由で「ステージに立ちたくない」と泣く子もいるみたいで……。

田原:たとえば、横山さんだったら、どう対応しますか。

横山:厳しいですけど、「どんなに気持ちが落ちていても、私たちはアイドルでAKB48のメンバーだから、感情を隠してもステージに立たないといけない」と言うと思います。

ただ、何があったのかも、ちゃんと聞きます。人に話すだけでも、気持ちって楽になりますから。そのためにも、話してもらえるようにしなきゃですね。

田原:なかなか自分の悩みは人には話せないけど、話してくれないと総監督としては困るわけだ。悩んでいる人の気持ちを引き出すには、どうすればいい?

横山:まずは、普段から一人一人と近い距離にいないといけないなと思います。お互いの信頼関係をつくることが大切ですね。

田原:総監督として面倒を見るメンバーは何人ぐらいいるの?

横山:国外も合わせると、もう400人ぐらいいます。

田原:そんなにいるんだ。まるで会社の社長みたいじゃない(笑)。どうやって監督するの。

横山:どうしても自分一人で全員を細かく見ることはできないので、仲が良く、信頼できるキャプテンやグループの代表に任せる部分もあります。

AKB48は5つのチームがあるので、5人のキャプテンがいます。他の姉妹グループにもそれぞれ代表とキャプテンがいます。たとえば、HKT48だったら指原莉乃ちゃんが中心にキャプテンやメンバーをまとめてくれています。

私が総監督として“木の幹”だとしたら、グループの代表やキャプテンが“枝”になって、“葉っぱ”のメンバーを育てるイメージです。実は、その方が、ひとりで見るよりも目が届くと思います。
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AKB48のメンバー間に生まれている温度差

田原:それじゃあ、横山さんが総監督になって一番困っていることは?

横山:うーん、AKB48グループが大きくなりすぎていて、みんなの向いている方向性が違ってきているところですね。

最初の1期生は、たとえば「東京ドームの公演をしたい」という思いで、みんな同じ方向を向いていました。でも、今のAKB48のメンバーは、加入期が全然違う子たちの集まりです。今では15期生までいるんです。

今しか知らないメンバーは「今が一番良い」と思って、現状に満足しているだけかもしれません。でも、私はやっぱり先輩たちの時代みたいに、もっと世の中の人にメンバーを知ってもらいたいんです。世の中の人から見て、顔と名前が一致する子をもっと増やしたい。

田原:そうか。新しいメンバーはAKB48に入れただけで満足している子もいる。そのギャップがあると。

横山:はい。もちろん上を目指している子もいますけど、それも含めてみんなが一緒の方向を向いていないのではないかと感じることがあります。

だから、私が総監督に選ばれたのは、今のAKB48の時期に合った人選なのかなと思います。先輩や後輩にかかわらずコミュニケーションを取れるので、メンバーの気持ちを一致させる役割もあると思います。

私はメンバーに「一人一人が必要なんだよ」ということを知ってほしいんです。大所帯だから「自分がいなくても成り立つんじゃないか」と思うメンバーがいると、違う方向を向いてしまいます。

ですから、今は、一人ひとりと面談をしていて、やりたいことを聞いているんです。そこから、少しずつ実現している企画もあります。たとえば、メンバーとファンの方とが一緒にAKB48のDVDを見て感想を話し合うイベントなどは、そこから生まれました。

すべては実現出来なくても、一人ひとりの意見を聞いて「一緒にやっていこうね」と話す中で「私も必要なんだ」と思ってもらいたい。そうすれば、AKB48全体も強くなるはずです。
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「負けず嫌い」が原点

田原:ところで、横山さんがAKBに入ったのは高校生の時ですね。

横山:はい。高校2年生です。

田原:なぜAKB48に入ろうと思ったんですか?

横山:私は、もともと歌手になりたくて、たくさんオーディションを受けていたんです。その中でAKB48のオーディションも過去2回受けましたがダメでした。

でも、三度目の、ラストチャンスにかけたかったんです。私は京都出身なので「東京に出ないと芸能界ではやっていけないんじゃないか」という話を母親としていました。

田原:だから少し関西弁が交じるんだ。

横山:そうです(笑)。

田原:合格した時の気持ちはどうでしたか?

横山:「やっと一歩踏み出せそうだな」という感じはしたんですけど、合格をしても、なかなかうまくいかず、テレビはもちろん、舞台にも出られませんでした。

毎日レッスンをしても、20人中3人だけ出られないコンサートでは、その3人の中に入っていたくらい。その時に、初めて挫折を味わったかもしれません。

田原:そこで、「もうやめよう」とは思わなかったんですか?

横山:思わなかったですね。上京を応援してくれた家族や友達がいたので、「こんな恥ずかしい状態で帰れないな」という気持ちがありました。

田原:なるほど、負けん気が強いんだ。

横山:はい。負けず嫌いです(笑)。それが今につながっているんだと思います。

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悩んだって悩みは解決しない

──横山さんから田原さんに質問はありますか。

横山:田原さんは、これまでの人生で悩んだり、落ち込んだりしたことはありましたか?

田原:能天気な人間だから、悩まないね。自分が失敗したら、「なんで失敗したんだろう」と面白がるところがある。

横山:そうなんですね。私は、もともとはすごくポジティブで悩まないんですけど、やっぱりこの1年ぐらいは「もう、どうしよう」というぐらい落ち込むこともあったんです。

そこで、色んな人に「悩んだ時どう乗り越えていますか」と聞いたんですけど、秋元先生も「悩んだことがない」と言っていました。

田原:そう。悩んだって悩みは解決しないんですよ。それよりも、新しいチャレンジを考えればいい。

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横山:やっぱりそうなんですね。人生の先輩に言われて納得しました(笑)

──それでは最後に、横山さんは今後どんなリーダーになりたいですか?

横山:私自身が前に進んでいないと、他のメンバーも心配になると思うので、それこそ田原さんが言うように、新しいことに果敢にチャレンジしていきたいと思います。

失敗しても、それを見せる。理想は、泥臭いというか、人間らしいリーダー像かな。たとえ泣いても恥ずかしくないし、泣きたい時に泣けるのはいいのかなと思います。喜怒哀楽を出せるリーダーでありたいです。

田原:泣きたい時に泣けるリーダーっていいと思いますよ。総監督が泣くのはみっともないなんて思わない。総監督が泣いたら、みんな余計に心配して、やる気を出すと思う。

横山:はい。いっぱい笑って、いっぱい泣いて頑張ります。涙が安くならないようにしないといけないですけど(笑)。

田原:そうですね。頑張ってください。

横山:ありがとうございます!
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(構成:菅原聖司、撮影:是枝右恭)