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「家族留学」の取り組みから見えたもの

【プロピッカー・新居日南恵】社会が子育てする仕組みを作りたい

2016/7/30

安心して母になれる社会を

7月からU-25のプロピッカーとなった新居日南恵と申します。

慶應義塾大学法学部に在籍しながら、2014年に“いまの女子大生の手で安心して母になれる社会をつくる”をコンセプトに掲げた、任意団体「manma」を設立し、15年からは「家族留学」という体験プログラムをスタートしました。

これは、学生が子育て中の家庭に1日同行し、リアルな子育てを学んだり、親として働くキャリアを考えたりするきっかけづくりを行う体験プログラムです。

私は、はじめから「社会を変えたい」と強く思うタイプではなかったのですが、高校時代にNPO法人「カタリバ」に参加したり、「高校生100人×国会議員」の立ち上げに関わったりするなかで、社会課題に取り組みたいなという思いをもつようになりました。

大学入学後は、こうした経験を踏まえてNPOやインターンにも積極的に参加していたのですが、自分がやりたいことのために、その団体や会社があるわけではないので、どうしてもギャップを感じるようになりました。

その中で、「私が本当にやりたいことはなんだろう」「一番課題だと思うことは何だろう」と考えるようになり、家族のあり方や子育ての問題に行きつきました。そこに「世の中の意識が全然向いていないのではないか」と疑問を持ったんです。

私が学生時代に受けた教育を振り返ってみても、「いい大学を目指しなさい」「将来の仕事やキャリアを考えなさい」と言われることはあっても、結婚や子どもを産むことについては何も言われなかったからです。

そんなことを友達同士で話し合うなかで、「まずは何かやってみよう」と、私を含む3人で生まれたのがmanmaです。

そこで、最初は母親へのインタビュー取材、食育やキャリアに関するワークショップを開くなど、それぞれが関心のある問題に取り組みを始めました。

新居日南恵(におり・ひなえ) 1994年生まれ、東京都出身。 慶應義塾大学法学部政治学科に在籍しながら、2014年に”いまの女子大生の手で安心して母になれる社会をつくる”をコンセプトに掲げ、任意団体「manma」を設立。同団体の代表を務めている。

新居日南恵(におり・ひなえ)
1994年生まれ、東京都出身。 慶應義塾大学法学部政治学科に在籍しながら、2014年に”いまの女子大生の手で安心して母になれる社会をつくる”をコンセプトに掲げ、任意団体「manma」を設立。同団体の代表を務めている。

「家族留学」のきっかけ

活動を続ける中で、女子大生にとって「母親になった時の安心」を一番妨げているのは「母親になったときのイメージが描けない不安だ」と強く感じるようになりました。

就活して、大学卒業後に社会人として仕事をはじめることは理解できる。でも、そこから先の「結婚して子どもを産んで働き続ける」というロールモデルのサンプルが身近にないことに、戸惑いを感じていたんです。母親が専業主婦であれば、親に聞くこともできません。

私自身も結婚して子どもを産みたいと思っているのですが、結婚や子育てをどう考えるのかは、仕事を選ぶことと同じように、大きく人生を変えることです。本来ならば、それらを合わせて「キャリア教育」として教えるべきですが、いまの社会ではそうなっていません。manmaの役割は、仕事、結婚、出産を含めたロールモデルを提示することだと考えるようになりました。

そこで、仕事をしながら子育てをしている方を招いて、直接ロールモデルの話を聞くワークショップを開催したのですが、あまり手ごたえを感じられませんでした。

それは、登壇者の「オフィシャルな面」だけしか見えないので、「普段どうやって子育てしているんだろう」とイメージしづらかったことにありました。さらに、そもそも子どもと触れたこともない学生は、子育てに対する質問も出てこなかったんです。

そんな時、一緒にワークショップに取り組んでいたワーキングマザーの方が「実際に私の家に来て、子どもと遊んでみたら分かることもあるかもしれないね」と誘っていただいたんです。

その日、一日ママ体験をしたことが大きな転機になりました。ワークショップの場でお話をしていた時は「仕事ができる女性」というイメージしかなかったのが「休日はこんなに髪を振り乱して子どもと遊んでいるんだ」と目の当たりにしたことで、リアルな子育てを感じられるとともに、自然と質問も生まれたんです。

こうした経験が、より身近な形で子育てや仕事の両立について学べる機会になると感じて、子育て中の家庭に一日訪問する「家族留学」へとつながっていきました。

最初の受け入れ家庭は、manmaが試行錯誤しながら取り組んだ1年間の取り組みの中で知り合った女性が中心となりました。当時の活動がいまにつながっているなと感じます。そこからは、口コミで一気に広まっていきました。

家族留学の一コマ。女子大生はもちろん、最近では高校生や男子学生なども参加している。

家族留学の一コマ。女子大生はもちろん、最近では高校生や男子学生なども参加している。

現在では230以上の家庭が登録していて、参加者も220名を超えました。

受け入れ家庭は30~40代のママが中心です。初対面の大学生を家に呼んで丸一日対応するわけですから、大変な面もあると思います。それでも継続的に受け入れてくれる家庭も多いのは「次の世代に自分の話が役に立つなら話したい」という想いを強く持ってくださっているからです。子育て版のOB・OG訪問と言えるのかなと思います。

結婚や出産をしたことで会社での立場が難しくなったり、育休復帰後に不安を抱えていたり 、時短勤務で肩身の狭い想いをしたり、働きすぎて結婚のタイミングが後ろ出しになって不妊治療で苦しんだりと、仕事と子育ての両立で苦労した方もいらっしゃいます。

そうした苦難を乗り越えてきた経験を語ることで、「同じような苦悩を繰り返してほしくない」と思ってくれています。「私が学生の時にあったらよかった」と話してくれる方もいます。

学生側も、参加することで色んな気付きを得られています。多様な生き方やキャリアプランニングを知ることができて「専業主婦志望だったけれど働いてみようと思いました」「子育てをあきらめなくていいんだと思えた」という声はもちろん、意外なところでは「初めて子どもがかわいいと思いました」「親への感謝が芽生えました」という声もありました。

こうした思いを持ってもらえることは、当初は想定していなかった嬉しい反応でした。

子どもに触れる経験をすることで、キャリアだけでなく自身の家族について振り返る機会にもなっている。

子どもに触れる経験をすることで、キャリアだけでなく自身の家族について振り返る機会にもなっている。

バリキャリでも専業主婦でもなく

家族留学を経験した学生にヒアリングをすると、しっかり働きながら、子どもを2~3人持ちたいという反応が多くありました。それは、必ずしも女性役員になりたいとか、起業したいという思いではありません。

いま、世の中で伝えられる女性のロールモデルは、バリキャリでキラキラしている人が強調される一方で、専業主婦志向が強まっているんじゃないかと言われることもあります。

私は、そのどちらでもない“中間”が抜け落ちてしまっていることが問題だなと感じます。

上の世代だと、「バリバリ働いて子どもはいらない」「専業主婦として仕事はあきらめる」のどちらかに振れてしまいますが、いまの世代は働きながら子育てをする「自然体」を理想としていますし、私もそうでありたい。

たとえば、manmaの受け入れ家庭では、エンジニアや編集者として、子育てとのバランスを取りながら働いている方がいます。

外から見ると、必ずしも「何か大きなことを成し遂げた人」とは思われないかもしれませんが、みんな仕事に妥協することなく、きちんと働き子どもを育てています。そういうキャリアのあり方が世の中に伝えられていないんです。

女性活躍が言われていますが、「女性管理職を30%にしましょう」とすることには違和感もあります。もちろん、それを目指す人がいても良いのですが、みんながそうしたキャリアを望んでいるわけではありません。さらに、いずれにしても女性が働き続けるためのフォローが社会にないことに、大きな課題があるからです。

いまはまだ「家族依存社会」で、すべてのことが家族だけで回さないといけない状態です。あまりの忙しさに、子どもときちんと向き合う時間がゆっくり取れているとは言えないと思います。

manmaを始めて、私自身にも変化が生まれました。一つには、キャリアを積む前に子どもを産むことも選択肢なんじゃないかなと考えるようになりました。

受け入れ家庭の母親の中には不妊治療をして子どもを産んだ方もいて、すごく苦労した経験を語る方もいました。「いつまでも子どもを産めるわけじゃないんだよ」と言われた時に、30歳や35歳前後でキャリアを中断するよりも、まずは子どもを3歳くらいまで育ててから、キャリアを積み始めてもいいのかもしれません。

もちろん、早い段階で相手に巡り合えるかは別ですけれど(笑)。そうした選択肢にも巡り合いました。

当事者意識を持った組織づくり

また、組織を運営する上で学んだことも多かったです。団体の代表を務めるようになって、メンバーが同じ方向を向いて取り組むことの重要性を感じました。

実は、家族留学にも当初はいろんな意見がありました。そのなかで「大手企業の先輩に会えるから就職活動に役立つ」という方向にぶれそうになるときもありました。

そのとき、自分たちのコンセプトである“いまの女子大生の手で安心して母になれる社会をつくる”を共有することが大事だなと感じました。言葉の定義一つひとつも大切にしなければいけません。「安心」と言ってもそれぞれのメンバーが持つ安心のイメージが違ったんです。

私はそれまで、みんなに気を遣って「そういう意見もあるよね」と言いがちでしたが、代表として思いを言葉にすることが大事だなと思いました。

いかにメンバーに対して「自分がmanmaをつくっているんだ」という当事者意識をもって関わってもらえるかを心がけるようにしたんです。

私が一番ショックだったのは、メンバーから「家族留学の意義が分からないんですけど。何の意味があるんですか?」と言われたこと。外部からいろんな意見が出たり批判されたりするのは構わないのですが、私たちは批判的な精神を持ちながらも「それをいかに変えて行くのか」に取り組まなければいけません。そんな言葉が大事な仲間から出たことがすごく残念だったんです。

そのとき、「自分たちがより良いものに変えて行く」という当事者意識を持たないと、この活動は終わってしまうと感じました。そこからは私がすべて前に出るのではなく、「活動を紹介する役割はこのメンバー」などと、それぞれの「出番づくり」をするようにしました

社会が子育てをする仕組みづくり

また、manmaの活動は「社会にとっていいことだよね」という評価は頂くようになったのですが、サステイナブルじゃないところに課題があります。きちんと世の中に根付いて、資金的にも仕組み的にも継続的に回っていく仕組みにしたいと考えています。この取り組みをより必要としている人たちに届くようにしたいと考えています。

さらに言えば、今後は「社会に良いことだからお金を払う」のではなく、みんながつい使いたくなるサービスが「実は社会にとっても良かったんだ」と、後から気づかれるぐらいの形にしないといけないと思っています。

そうじゃないと、いつまでも社会が育児と仕事の両立を考えるようにはなりません。いま、家族留学はもちろん、社会が子どもを育てる仕組みづくりが必要だと思います。

社会全体で子育てを支えようと言われるようになりましたが、もっと子育てが社会に解放されて、学生からお年寄りまで、保育士などの専門職以外にも関わるようにしたい。今後は子どもと社会の垣根を低くして、子育てが社会に開かれた環境作りに取り組んでいきたいと思っています。

就職ではなく、事業に取り組みたい

私も大学入学当初は、多くの学生と同じように就活をして就職して、「会社で数年働いて力が付いたら独立することもあるかもしれない」くらいに考えていました。

でも、manmaに取り組む中で色んな人と出会えて組織作りでも試行錯誤する中で、このまま事業をつくっていきたいと思いました。最初に会社で働いた方が人脈や経験を積めるという声も聞きました。でも、いまやりたいことを犠牲にしてまで、それらを得るために就職するという決断はできませんでした。

来年からは大学院に進学しますが、引き続き家族や子育てを取り巻く問題に取り組んでいきたいです。

NewsPicksでは、家族や子育て、働き方などについてコメントできればと思います。私自身の思いはもちろん、家族留学に参加した学生などから見て感じることなども、コメントしていきたいなと思います。

総合トップに掲載されている記事は、学生としては少しハードルが高いなと感じることもありますが(笑)、等身大のコメントが出来ればと思っていますので、どうぞよろしくお願いします。