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新都知事が取り組むべきことは?

【田原総一朗】都政にあまり思いのない、3人による戦い

2016/7/30

みな、執着力がいまいち

増田さん、鳥越さん、小池さんのどの候補も、都政に対する執着力という意味ではいまいちです。

たとえば、増田さんは、岩手県知事を務めた後、日本創成会議座長として地方活性化に取り組んできました。地方活性化とは、言ってみれば、東京から地方に人をどう送り出すかという仕事。東京を“いかにさみしくするか”ということです。そういう人が都知事になるのがいいのかという問題はあります。

増田さんは官僚出身なので、切り替えは早いと思いますが、「自民党から頼まれて出た」という感じで、「どうしても自分で都政をやりたい」という強い願望、意欲をもって立候補したと思えません。

田原総一朗(たはら・そういちろう) ジャーナリスト 1934年滋賀県生まれ。早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経てフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。最新刊に『自民党』がある。

田原総一朗(たはら・そういちろう)
ジャーナリスト
1934年滋賀県生まれ。早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。東京12チャンネル(現テレビ東京)を経てフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。最新刊に『自民党』がある。

鳥越さんと美濃部さんの共通点

鳥越さんは、自分自身で言っていますが、参議院選挙で、改憲勢力が3分の2を超えたことに強い危機感をもって出馬を決意したという経緯があります。リベラルの鳥越さんが、強い危機感を持ったその気持ちはよくわかります。

鳥越さんの出馬で、私はかつての美濃部亮吉を思い出しました。1967年に美濃部さんが立候補したときのスローガンは、「ストップ・ザ・佐藤」でした。当時は自民党政権で、佐藤政権は3年目で安定していた。1強多弱の状況だったのです。

当時の日本は、公害問題がひどくて“公害列島”とまで言われていました。東京、大阪、名古屋、太平洋側の大都市に人が集まって過密状態になる一方、日本海側が過疎になってしまいました。過密過疎が極端だったのです。

こうした状況において、「ストップ・ザ・佐藤」はわかりやすかったのですが、それは東京の問題ではなく、国政の問題ですので、違和感はありました。

今の鳥越さんは、いわば、「ストップ・ザ・安倍」ですね。気持ちはわかるけれども、鳥越さんが都知事になったとしても、国政にどういう影響を与えられるかはわかりません。

小池さんの勝負勘

小池さんの場合は、女性知事ということで意義があると思う。英国の首相も韓国の大統領も女性で、このまま行けばアメリカもクリントンになるはずで、時代の流れには合っている。

では、具体的に何をするのかと言うと、わかりやすいのは、東京都議会を解散するということです。

そもそも、自民党の中央本部は、小池さんを推薦してもいいと思ったのです。しかし、都議会自民党が反対したので、小池さんは推薦してもらえなかった。ですから、小池さんは都議会自民党を敵だと思っていて、だから解散すると言っているのでしょう。

今後は、自民党がどの程度、彼女に抵抗するか、都議会自民党がどの程度、彼女に抵抗するかが、ひとつのポイントになる。逆に言うと、孤立して、弾が飛んでくれば、都民の支持が集まる可能性はあります。

彼女は政治家として手腕はあると思う。ただ、彼女の動き方を快く思っていない自民党の議員は少なくない。だから今、彼女は自民党で無役なのです。自民党の中で、立場がなくなったので、勝負に出たわけです。

ただ、小池さんは自民党を離党していないので、もし小池さんが選挙に勝った場合、責任をとるのは(東京都連会長の)石原伸晃さんだけでしょう。安倍首相や菅官房長官は、責任をとらないでしょう。安倍さんもあまり旗幟鮮明にしていませんから。

ですから、小池さんが勝っても、国政に影響はないでしょう。自民党と小池さんの可能性も悪化するとは思えないし、離党もしないでしょう。

ただし、もちろん、小池さんが新党をつくることで勝負ができると思ったら、新党をつくる可能性はあります。彼女には勝負勘がある。

今回の選挙も、私は最初、小池さんは勝負を誤ったと思ったけれども、今見ていると誤っていないですね。やっぱり勝負勘があると思います。

アメリカとの経済戦争

基本的に今の東京には、まだまだ地方から人が集まってきているわけで、大きな問題はありません。だから、都民もあまり大きな不満をもっておらず、都政にあまり思いのない3人が戦っているのです。

ただし、強いて言えば、東京にとって今後の争点となるのは、高齢化とインフラの老朽化でしょう。

そして一番大事なのは、東京が新しい経済面での可能性を見せられるかどうか。私は、今の時代のキーワードは、イノベーションだと思っています。東京をイノベーションの最先端都市にできるかどうかが勝負です。

AIブーム、遺伝子解明、iPSなどの生命科学。これらが結びつくと、医学が飛躍的に変わります。それに、今後は英語も必要なくなるかもしれない。AIの進化によって、日本語をしゃべれば英語に自動翻訳される時代が、10年以内に訪れるのではないでしょうか。

今、アベノミクスは行き詰まっていますが、イノベーションによって、人口減少などの問題も解消できるはずです。

イノベーションとは、いわば、アメリカとの戦争、経済戦争です。

ただし、昔のような「日本人vs.アメリカ人」という時代ではありません。日本人がどうのこうのではなく、世界中の優れた人材を日本にひっぱれるかどうか、新しい時代のイノベーション時代のプラットフォームに東京がなれるかどうか、の戦いです。

今の東京は、世界の優秀な人材が住みやすい場所になっていません。成田空港に着いてから、日本語がしゃべれないと、東京都心に来にくいですし、まずもって、家政婦が英語をしゃべれません。

イノベーションという意味でも、「平和国家」という日本の理念を維持するのは大切です。テロのない日本というのはとても魅力がある。イノベーションと平和国家は相性がいいのです。

(撮影:遠藤素子)

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