音喜多駿議員×塩村あやか議員
30代都議が語る「都議会というスーパーブラックボックス」
2016/7/30
透明度が低くブラックボックスと言われる、東京都議会。いったいどれほど閉鎖的なのか。その実情を、無所属の1期生議員である、音喜多駿氏、塩村あやか氏に聞いた
理事会がとくにひどい
──最初に、都議会の一番の問題点は何ですか。
音喜多:閉鎖性です。情報がブラックボックスなわけです。たとえば委員会も、傍聴はできますが、ネット公開すらされていません。
そもそも、重要な話し合いや意思決定は、委員会の前段階の、「理事会」といった会議体で行われますが、それらは非公開です。そうした会議体で決まったことを都民は何も知ることができないのです。
しかも、委員会の議事録を見ると、多くの場合、「採決では異議なし」となっていて、議論もなく賛成して終わりというパターンが多い。こうして不透明にあらゆる物事が決まっていくというのは極めて不健全だと思います。
──理事会の議事録を残さないといけないルールはないのですか?
音喜多:ないです。むしろ非公開で、出してはいけないものになっています。
以前、『赤旗』が、理事会の内容について少し書いたところ、すごいクレームが来て、次の理事会で怒られたそうです。次にやったら懲罰動議といった感じで。
塩村:そう。そこは何も言えなくなるという。
音喜多:共産党もわりとお行儀が良くて、素直に指摘を受け入れてしまう。僕としては、『赤旗』もっと突っ張れよと思って応援しているのですが。
塩村:私も、ブラックボックスという指摘は本当にその通りだと思います。とくにひどいのが、議会運営委員会(議運)の理事会です。
──議運についてもう少し詳しく説明してもらえますか。
音喜多:議会運営委員会という、エヴァンゲリオンのゼーレみたいな組織があるのです。各会派の重鎮クラスが集まり、都議会運営に関わるほぼすべてがここで意思決定されます。
議会運営委員会は一応公開されていますが、これはシャンシャン総会で、「異議なし」などと言うだけです。やはり、その前の理事会が最も重要で、そこで今日は何を話し合うかがすべて決まるわけです。
塩村:その中身は、スーパーブラックボックスですよね。
音喜多:そう、スーパーブラックボックスです。
塩村:交渉会派と複数の人数がいる会派は入れますが、それ以外の会派は入れません。そこで何が話し合われているのかはほとんどわからない状態です。
たとえば、一時期問題として取り上げられた、都議会議員27名がリオオリンピックの視察に行った件も詳しいことはわからない。
音喜多:そう。結局、なぜ27人もの人数が行く必要があったのか、なぜその人数に決まったのかは非公開の理事会で議論されているので、人数や予算の根拠が全然わからないのです。
塩村:私も、自民党の議員ばかりが多すぎるということでおかしいと思い、「議事録を見せてください」と頼んだら、やっぱり出てこない。
音喜多:そう。理事会は議事録がないと言われるのですよ。みんな、非公開であることを逃げ口上に使っていて、疑問を追及していくと、「議事録が非公開だからわからない」と逃げるのですよ。
究極の村社会
──何が公開で非公開かを決めるのは誰なのですか?
音喜多:議連の理事会が決めます。
塩村:その大本になるのは、最初に当選した後の世話人会です。その世話人会に各会派から人が出ていって、どうするかを決めるのです。
視察の問題だけでなく、都庁の職員の人事権もよくわからないブラックボックスで決まっているとよく言われています。そもそも、都庁の職員の人事について、議会にお伺いを立てる必要はないと思うのですが。
──地方議会の情報公開はどこもそんな感じですか?それとも、都議会がとくにひどいのですか?
塩村:私は都議会しかやったことがないのでよくわかりません。
音喜多:僕も都議会しか知らないですが、ほかの地方議会の人に話を聞くと「そんな時代の議会はまだあるの?」と驚かれます。
──なんだか村社会みたいですね。
音喜多:ええ、本当に究極の村社会ですよ。
先進都市東京なのに、「日本で一番遅れている議会」と言われているのです。東京都議会は国会よりも歴史は古い。つまり、日本でいちばん古いのです。
塩村:実際、早稲田大学のマニフェスト研究所が出している議会改革度でも東京の評価は低い。改革が全くされていません。
──国政については、かなり情報公開が進み、委員会や諮問会議なども随分、議事録が公開されるようになりましたが、そういう流れは都議会にはないのですか。
塩村:ないですね。私たちも何回も要求しているのですが。
音喜多:僕らは当選以来、ずっと要求していますよ。でも、なんだかんだ言って、最後は通らないわけです。
──そうした状況はどうすれば変えられるのですか。議員側が自主的にやるしかないわけですか。
音喜多:要は、議会で多数派をとらないといけない。
塩村:議会のことは議会で決めないといけないので。
──知事が命令できる話ではないですよね。
音喜多:ないです。
塩村:そこが、またすごく問題なのです。
──つまり、来年6月の都議会選挙で多数派を改革派がとって自主的に変えるしかない、ということですね。
音喜多:そういうことになります。
ほかにもすごく問題があって、最近も、ネットメディアが都議会を取材できないということが発覚しました。ネットメディアの取材を許可するかどうかは、議会が決めることなので、事務局はその決定に従っているのです。
──相当古いですね。
音喜多:その議会局にもすごく問題があります。議会局はいわば、自民党の別働隊になっているのです。
本来は、事務局というのは議会の事務役として、議員に平等に情報提供をして、平等に対応しないといけないのに、事実上、与党である自民党・公明党の駒になっています。だから自民党の政治資金パーティーに行くと、議会局の人が受付をやっていたりするわけです。
塩村:しかも、部長さんがね。
音喜多:その話をブログでちょっと書いたら、「いやあ、たまたまあそこにいただけです」と言っていましたが、そんなわけないですよ。実際に受付をやっているのですから。こうしたあからさまな癒着状況があるのです。
建前上は公正中立を装っているのに、結局、全部が多数会派の意のままになっています。情報も出さないし、議事録もつくらない。結局、都民には決まったことだけが知らされる。「6200万円かけて、議員27人でリオに行きます」ということだけが知らされる状況がまかり通っているわけです。職員も議員もグルになって。
審議会も非公開
──ほかに情報公開の問題点はありますか。
音喜多:都議会ではなく都庁(執行機関側)でも、審議会の閉鎖性が指摘されています。要は、大学教授やジャーナリスト、市民団体の職員などを呼んで、審議会や協議会をやって政策を決めているのですが、それも多くは非公開です。
去年、産経新聞がすっぱ抜いたのですが、審議会の7割以上が東京都は非公開になっていて、都民が見学できなかったり、議事録がなかったりします。
本来は、都民も出席して「これはおかしいのではないか」と言える場をつくるべきなのに、そうした非公開の場所で、何億円もの予算がつく案件が決まっているのです。
しかも、やり方が汚いのは「公開していますが、誰も来ないのです」と言い訳するところ。審議会の日時も場所も公開していないので、事実上、誰も見に来られないのです。
塩村:情報公開推進委員会もひどかったですよね。いつ開催されるかもわからない。なぜ日程を教えてもらえなかったかを聞いたら、「伝えるのを忘れただけ」と言い訳するのですよ。「情報公開推進」委員会なのに!
音喜多:開催日を告知しないから、事実上、誰も見に来られない。マスコミも取材に来られない。そういうことを、平気でやっているのですよ。
それなのに、「公開の場で議論して、都民の皆さまと一緒に決めました」と言って進めている。都議会も東京都もグルになって、本当に汚いことをやっているのです。
──なぜそこまでして隠すのですか。
塩村:それはやっぱり、まずいことがあるわけですよ。
音喜多:そうですね。要は、御用学者と呼ばれる人たちが出席して、シャンシャンとやっているのがばれたら嫌だというのが第一でしょうね。
塩村:議事録が公開されているようなものに関しても、御用学者や御用業界の人などが出てきて、議事録に都合のいいキーワードを残していくこともあります。そして、議員側は「審議会でこう言われているから、これを進めないといけない」というふうにうまく利用するのです。
音喜多:今も、子供・子育て会議のように、注目度が高い審議会は公開でやっています。
でも、結構お金が動くものでも地味なものは、完全非公開でやっています。もちろん日時や場所を知らせないだけで、建前上は公開。でも、議事録が出るのはひどいときは半年後だったりします。あり得ないわけですよ。だから僕は毎回怒っているのです。
以前、秋の議会が開催するときに、春の審議会の議事録が出ていなくて、「この質問をしたいのに見られないじゃないですか」と聞いたら、「各委員の先生方に全部の確認をとると半年かかります」と言われました。そんなに時間がかかるわけがないですよ。
しかも、議事録の内容も操作されていて、結局、都合がいいことしか残っていません。今のようなやり方をしていたら、「ブラックボックス」と言われても仕方がないですよ。
塩村:付け加えると、審議会や委員会までにかなり調整をかけてきますよね。職員が説明に来るのですよ。趣旨説明というか、もう誘導に近い。よっぽどその分野について知見がないと、反論できないままに、誘導されていく。
そこでどんどん操作されていって、審議会や委員会では御用学者まで加わって、シナリオどおりの方向に進んでいくところあります。
──ほとんどの案件は、事前に根回しがすんでいて、シナリオどおりに進んでいくのですか。
塩村:たまに事件が起きたりするのは、私たちが「そこはおかしいんじゃないか」と問題提起するときです。
音喜多:我々なんかは、すごく面倒くさい奴だと思われて、嫌われているでしょうね。
塩村:そうそう。
──シャンシャン総会にならずに、言いたいことを言う議員は何人くらいいますか。
塩村:共産党は、党の考えに従ったことはしっかり主張します。
音喜多:共産党や公明党はひとりひとりの議員がかなり真面目です。ただ、組織になると、組織の人になってしまうから、自分の思っていることをなかなか言えなくなる。結局、言いたい放題言うのは、僕らのような無所属の議員ぐらいですね。
都議会は今もバブル
──今の都政は、国政に比べて、どれくらい遅れていますか?
音喜多:国政より2周ぐらい遅れていますね。
塩村:私も2周。3周とまでは言わないけれど、2周だろうなという気がします。
──1周は、10年ぐらいのイメージですか。
音喜多:12年ぐらい。干支ぐらいです。
塩村:24年ぐらい遅れている感じがします。
──1992年ぐらいということですね。
塩村:でも、今の状況はしょうがない面もあります。実権を握っている人たちに定年がなくて、期数を重ねるごとに偉くなるという組織ですから。そういう人たちの感覚で進んでいるわけです。
音喜多:1992年はたぶんいい線で、未だに都議会はバブルなのです。
東京都は、税収も7年連続でアップしているので、節約する意識もない。だからオリンピックにもバンバンお金を突っ込んでいるわけです。そして、自分たちの利権がある公共事業を業者に回して、「先生のお陰です」とお礼を言われて、「では、パーティー券100枚頼むぞ」というような世界です。
だから本当に、昭和の感覚です。バブル期の感覚で議員活動をやっている議員がいまだにたくさんいるのです。
──幸せな時代の日本がまだ続いているのですね。いわば、『ALWAYS三丁目の夕日』の世界ですね。
音喜多:そうなんです。専業主婦モデル、サラリーマンモデルが彼らの中でベストなので、保育所を作ったらそのベストな形が崩れてしまうじゃないかと思っている人もいっぱいいると思いますよ。
塩村:そういう人は、今の状況は幸せですよね。
音喜多:ハッピーだと思います。
今、自民党の東京都連や公明党の東京都連がすごく強いのですよ。東京都議会議員のほうが国会議員より偉いところが部分的にあります。
それはなぜかというと、国会議員は今、力が持てなくなってきているからです。昔は、「先生お願いします」「ああ、予算取ってくるから任せておけ」という世界でしたが、税収が減ってしまったので、そうしたこともできなくなりつつあります。
でも、都は税収が上がっていますので、都議会はこれをまだできる立場にあるのです。いまだにそういう利権構造があって、しかもそれが見えなくなっている。それが東京都議会のブラックボックスのシステムなのです。
──最後の幸せな昭和なのですね。
音喜多:だからラストリゾート(笑)。
──相当に改革の余地がありますね。今のうちから、うまく改革すれば、財政面でもかなり余裕が出てきそうです。
音喜多:国と同じ失敗を犯してはいけません。
この利権構造をずっと続けた結果、借金地獄になって、にっちもさっちもいかなくなったのが、今の日本ですから。今の豊富な予算がある状況で舵を切れれば、福祉の充実など、都民が本当に必要なことにお金を使えるのです。
特命随意契約の闇
──予算という面では、五輪も含めてインフラ整備にかかる費用も大きいですが、そうしたインフラ案件の透明性は高いのですか。
音喜多:東京都は、特命の随意契約が多すぎます。
──特命ですか。そこも「ブラックボックス」というキーワードとつながりますね。
音喜多:そう、ブラックボックス。
東京都は、入札が特命随意契約ばかりなのです。つまり、特命随意契約とは、自由競争の一般競争入札ではなくて、「あなたにお願いします」というように個別に取引する形が多いのです。
全体で正確な割合は出ていませんが、ある分野では、9割近くが特命随意契約とも言われています。
とにかく東京都は特命随意契約ばかりで、その企業がどの議員と紐づいているのかを見ていくと、例えば自民党の議員のパーティー券を買っている企業や、団体献金している企業ということもありえる。そうした関係については、なんかしら疑惑を持たれても仕方がないという気がします。
特命随意契約が多いのは、東京都のすごく不透明な部分です。当選以来、オープンな入札ができないかずっと主張しているのですが、まったく改善しません。
──東京五輪の予算に関する話も不透明でよくわかりませんが、実態はどうなっているのですか。
塩村:われわれもわかりません。だって、ニュースで知るほうが早いですから(笑)。
──森喜朗さんが委員長を務める、オリンピック組織委員会が詳細は決めているのですか。
音喜多:東京都に聞くと、「決めているのは五輪組織委員会であって、自分たちには情報が下りてこない」と言うのですが、五輪組織委員会の理事には東京都副知事も入っています。
それなのに、なぜ他人事のように、「五輪組織委員会のことはわからない」と言えるのか。その点について、私は議会で質問もしているのですが、全然改善されずブラックボックスのままです。舛添さんも、森さんの指示に唯々諾々と従うだけでした。
──都知事が代わったら、その情報公開は変わるのですか。
音喜多:都政については可能性があります。都議会の方を変える余地があるとすれば、あとは世論の声次第です。来年6月の都議選で一定の世論が示されれば、自民党といえども風は読みますから、動きが出てくると思います。
塩村:そこは難しいところで、自民党が70点の対応策を出すと、そこまでで終わってしまうおそれがあります。ここで100%壊しきってしまうか、それなりの改善策を望むか、究極の選択ですね。
年功序列という鉄の掟
──先ほど、議員に定年がないという話がありましたが、議員はやっぱり年功序列ですか。年上には逆らえないのですか。
音喜多:都議の世界には、期数年齢順という、鉄の掟があります。
──期数年齢順とは何ですか?
音喜多:とにかく期数を重ねて、年齢が高いという大物議員が偉くて、1期生議員は発言権がないということです。
1期、2期、3期というのを、われわれの業界では、期数年齢順と言いますが、これは絶対の規律です。どんなにいいことを言っても、1期生は、しょせん1期生。でも、期数や年齢が上の人が何か言えば「ははあ」ということになるわけです。
──とてつもなく昭和的ですね。
音喜多:そう。その文化は骨の髄までみんな染みついています。1期生の頃は、目がキラキラしていた新人議員たちも、今はもう長いものに巻かれろ状態で、みんな海苔巻き状態になっています。
──二人は例外なのですか。
音喜多:僕らはあまり上がいませんから。
塩村:私たちは、みんなの党の1期生で当選しているので、先輩がいないのです。
音喜多:本来は、同じ都民の信託を受けて当選した議員の一人一人の価値は変わらないはずです。若いとか新人なりの視点もあるわけですから、平等とはいかなくても、ある程度は尊重されるべきなのですが、そうしたところはまったくない。
野球部の1年生みたいに、「おまえら球拾いだ」「そんな言いたいことを言うのだったら、まず3年生になってから言え」という文化があります。まず3期はやらないと一人前ではないという文化ですが、3期もやっているうちにだんだんその文化に染まっていくわけです。
──過度な高齢化を防ぐために、いっそ議員にも定年を入れるべきだと思いますか?
音喜多:検討の余地はあるかもしれませんが、なかなかそれは人権問題でもあるから難しい面もあります。
議会として年齢制限を設けるのは、ちょっと乱暴かと思いますが、政党が党則で定年を入れるのは素晴らしいと思います。たとえば、公明党は今69歳を定年にしています。
最後に判断するのは有権者ですので、有権者が「もっと若い人を選ぼう」と考えるのであれば、自然と若くなるはずです。
塩村:期数や年齢を重ねた人は、いろんな人生の酸いも甘いも経験されているので、下を諌めたり、面倒をみたりしながら、尊敬される存在になっていくのがいい形だと思うのですが、都議会の上の人たちは、単にそれを権力と勘違いしているように思うのです。
音喜多:老兵は死なず、去らない。死にもしないし、去りもしない。にっちもさっちもいかない状況です。
塩村:どうしても、「1年生は黙れ」ということになりますし、職員さんも態度がまったく変わってきてしまう。
音喜多:職員が1期生を相手にしないのですよ。
塩村:口では「先生、先生」と言うのですが、実際の態度というか、本質が、もうなめくさっているところがあります。どうしても、自民党の意向ばっかりを汲んでやるような体質になってしまって、都民のほうを向いていません。
──都議会全体はどの程度、高齢化しているのですか?
音喜多:今の平均年齢がおよそ55歳です。
東京都の平均年齢は44.54歳ですから、ちょうど10歳高いですね。
──女性比率はどうですか?
塩村:東京は一番高いです。
音喜多:共産党はほぼ女性ですから。
──そういう意味では、数字上は進んでいるのですね。
塩村:ただ、自民党に限れば、55人中2人しか女性はいません。自民党が与党ですから、それがひとつの指標になると思います。
音喜多:それが都議会の実態ですね。