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日常生活の健康管理を手伝うパートナー

薬の服用をリマインドする小さなロボットたち

2016/07/28

非常にニッチな機能に特化した家庭用ロボットが出ている。薬の服用をリマインドするロボットだ。

正確にロボットといえるのかどうか議論の余地はあるだろうが、「薬を飲み忘れないように伝える」というコミュニケーションのためには何となくヒューマノイド的なかたちが役に立つらしい。

こうしたロボットを開発している会社は、私が知っている限りではすでに2社ある。1社はカタリア・ヘルスというサンフランシスコのスタートアップで、有数のベンチャーキャピタルのコスラ・ベンチャーズなどから創業資金を受けている。

もう1社はピロヘルスという会社で、ニューヨークが拠点。クラウドファンディングで目標額を上回る9万ドル以上のサポートを受けている。

詳細は異なるが、いずれのロボットも卓上型でロボットの頭部を模した形状をしている。

患者の健康状態を医療機関と共有

カタリア・ヘルスのロボット「メイブ」は小さなロボットが前面にタブレットを抱えていて、そこにメッセージが表示される。コミュニケーションは音声でも可能だ。

メイブがやるのは、主に医者から処方された薬を飲むよう、ユーザーにリマインドすることだ。それ以外に実際に服用したかどうかを尋ねたり、もし忘れていたらなぜ忘れたのかを質問したりする。また、おしゃべりのように今日の気分を尋ねたりする。

使っていくにつれて、その患者に合わせたやり取りを行うようになり、長期的にユーザーの健康管理の相談相手になるという存在だ。

高齢者や慢性病患者の場合、毎日の薬を飲み忘れることは思わぬ症状の悪化を招いたりすることがある。服用しなかったのは、単にうっかりしていただけなのか、それとも気分が落ち込んでいてそんなことが考えられる状態になかったのか、あるいは忘れっぽくなっているのかなどがメイブとのやりとりを通して明らかになる。

カタリア・ヘルスのビジネスモデルは、医療関係機関と患者ユーザーとの間にこのメイブを配置することで、患者の健康や心理状態に関するデータを取り、それを医師に提供。最終的には、行動心理学の知識などを元にして、長期的に患者が健康に向かう状態になれるように導いていくことを目標としている。

メイブは小さなロボットだが、やろうとしていることはなかなか責任感の強いものと言える。

家族の顔を見分けて薬を取り出す

一方、ピロヘルスのロボット「ピロ」は家族の顔を見分け、それぞれが服用することになっている薬を小さなカップの中に取り出す。基本的には薬品のディスペンサーだが、それがインテリジェントにできていて、その家族が部屋に入ってくるとタイミングよく薬を取り出して服用するようリマインドする。

こちらは病気の薬だけではなく、健康なユーザーが毎日とるサプリメントも対象だ。健康管理のハブのような役割を果たすべく、健康情報を尋ねたら音声で回答したり、薬がなくなったら自動的に注文をしたりする。いずれは医療関係者を呼び出して、質問に回答してもらえるといった設定も考えているようだ。

こうしたロボットは別にヒューマノイド型でなくてもよさそうなものだが、カタリア・ヘルスの研究によると、薬の服用について紙の書類や平らなスクリーンで指示されるよりも、人の存在を感じさせるロボットによるほうが効果は高いのだそうだ。

ことに高齢者になると、文字を読むのも面倒になる。親近感が持てるような小さなロボットが言い聞かせてくれたら、心理的にもその気になろうというものだ。

日常生活のなかの非常に細やかなところでも、小さなロボットが果たせる役割がある。これらのロボットはまだプロトタイプの段階で、実際にどううまく機能するかは不明だ。だが、こうしたところからも未来のロボットとの生活が形作られていくのかと思うと、実に興味深いものがある。

*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。

(文・写真:瀧口範子)