僕は宇野さんの背中を見て成長した

2016/7/25
独自の視点と卓越した才能を持ち、さまざまな分野の最前線で活躍するトップランナーたち。彼らは今、何に着目し、何に挑もうとしているのか。連載「イノベーターズ・トーク」では、注目すべきイノベーターたちが時代を切り取るテーマについて見解を述べる。
教え子や部下にやる気を出させ、指導し、経験の浅い人でも仕事を任せて本人の限界を超えさせる──。
そこへいくと、U-NEXT社長の宇野康秀氏は“スーパーボス”と呼ぶにふさわしい。
宇野氏が創業した人材会社インテリジェンスは、サイバーエージェントを創業した藤田晋氏だけではなく、各界で活躍する多くの優秀な人を輩出。藤田氏はいまも宇野氏を師と仰ぐ。
社長自ら率先してハードワークすること、団体戦で戦うこと、無謀ともいえる目標を恥ずかしげもなく語る信念の強さ……。いまもなお、宇野氏の影響ははかりしれないと語る。
ちなみにお二人は、表情、しゃべる速度、話し方までそっくりだが、藤田氏は「それは僕が宇野さんを真似ているから」だと言うほどだ。
藤田氏がインテリジェンスの新卒採用試験を受けて以来、20年以上深い親交を結んできた両氏。
その間には、藤田氏がサイバーエージェントを起業したとき宇野氏が起業資金を出資したり、ライブドア事件時、藤田氏が紹介した堀江貴文氏が率いたライブドアを支援するため、宇野氏がライブドア株約95億円分を引き受けたり、宇野氏が経営していたUSENが経営難に陥った際、藤田氏は宇野氏を助けたいと思いながらも苦渋の決断をするなど、強烈な出来事が多々あった。
その20数年は、日本のITベンチャーの勃興と発展の歴史とも重なる。
本対談は両氏の考える理想のボス論を基軸にしながらも、藤田氏、宇野氏が直面してきた生々しいベンチャー経営の本質についても話が展開する。
宇野氏は藤田氏との出会いを鮮明に覚えている。
出会いの場は、インテリジェンスの入社面接。
「入社前から、『起業することが自分の人生目標のすべて』と、堂々と語り切る学生はめったにいません」(宇野氏)
一方で、藤田氏が感じた宇野氏の印象も強烈だった。
「宇野社長は『インテリジェンスはパソナを抜き、リクルートも抜き去るのだ』と、恥ずかしげもなく言い切っていた。まだ80人くらいしか社員がいない小さな会社なのに」(藤田氏)
そんな宇野さんの志の高さに惚れ、藤田氏は急速に宇野氏への共感を深めていく。
もっとも藤田氏がインテリジェンスに在籍したのはたったの1年に過ぎない。そんな若者に、なぜ宇野氏が起業資金をポンと出したのか?
藤田氏は、宇野氏は優秀な人を見つけて、抜擢し、開花させる「目利き力」が強いと言う。
見込んだ若手に大胆に裁量を与える──そのスタイルは、サイバーエージェントが行う優秀な若手に子会社社長を任せる経営スタイルに、色濃く反映されている。
では、両氏はどのような若手を抜擢するのか?
宇野氏は、「『これが好きでたまらない』という感覚がある人」と定義するが、これに対する藤田氏の意見とは?
ネットバブル崩壊後、サイバーエージェントの株価は一時、10分の1以下に下落した。このとき、藤田氏は、いっそ宇野氏に株を全部買ってもらい、社長を退こうと考えたこともあった。
しかし、宇野氏は「『買えない』と断った」。買えば得をすることがわかりきっていたのにもかかわらず、だ。
なぜなら、サイバー起業の際、宇野氏と藤田氏が交わしたある約束があったから──。
果たして、2人が交わした約束とは? そして、宇野氏が約束を守り抜いた思いとは?
冷静沈着な藤田氏は、宇野氏のある部分だけは反面教師にしていると言う。それは、「優し過ぎて、情に流されやすいところ」
「『あのとき、ああすればよかった』みたいな話が宇野さんにはいっぱいありますね(笑)」(藤田氏)
だからこそ藤田氏は、たとえ腹心の部下でもパフォーマンスを発揮できなかったら降格させるなど、人事は「断腸の思い」で行うし、投資判断も慎重にする。
一方で、宇野氏がどんなに辛い場面に遭遇してもバンザイ(投げ出す)しない──姿勢はとりわけ尊敬する、と言う。
果たして、宇野氏のその胆力はどのようにして作られたのか。
藤田氏が宇野氏のボス像に影響を受けたことは、ハードワーク、採用重視、若手抜擢など数多あるが、その中にはボスとしてのふるまい方も含まれる。
それは、一言で言うなら「ボスづらしない」こと。
偉ぶらない、威張らない、部下を叱り飛ばさない……。そのうえで、最後の責任はしっかり負うことを示す。
なぜ、両氏はこうした穏やかなマネジメントスタイルに落ち着いたのか? さらには、威張らずともリーダーシップを発揮する方法について、具体的な手法が語られる。
(目次構成:佐藤留美、本文構成:栗原昇、撮影:竹井俊晴、デザイン:名和田まるめ)