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オランダ、イギリス、カナダで展開

イーベイ(eBay)には、自動化された「争議解決ツール」がある。売り手と買い手の間で問題が生じたときに使われるもので、毎年6000万件ものトラブルを処理している。

一部の国々ではいま、これと似たテクノロジーを利用して、離婚や不動産貸借などの法的な争いを弁護士を雇ったり裁判所へ出向いたりせずに解決できるようにしようとしている。

たとえば、オランダに住むカップルはオンラインプラットフォームを使って、離婚や親権、養育費についての交渉ができる。これと同様のツールは、イギリスとカナダでも展開されつつある。

カナダのブリティッシュコロンビア州では、分譲マンションに関する争議を取り扱うため、今夏にオンラインの「民事解決審判所」(Civil Resolution Tribunal)」を設ける予定だ。この審判所は、将来的には同州における少額訴訟の大半を処理することになるという。

同州政府のスザンヌ・アントン法務大臣によると、これまでは「騒音や上階からの水漏れなどについて苦情を申し立てると、場合によっては最高裁判所まで行かなければならず」、裁定が出るまでに長い年月と何千ドルもの費用を要した。

オランダなどで利用されているオンラインの法律ツールは、イーベイのシステムとよく似ている。つまり、アルゴリズムを使ってユーザーに一連の質問に答えさせ、それに応じた説明を与えることで、ユーザー自身が示談を成立させられるよう手助けをするのだ。

イーベイと同様に、どうしても解決できない場合には、最後の手段として人間の仲裁者に相談することもできる。

イーベイの争議解決ユニット創設者

こうした新しいプラットフォームの一部は、2004年にイーベイの争議解決ユニットを立ち上げ、2011年まで運営していたコリン・ルールの助力を得て設計されたものだ。

ルール氏はイーベイを退社してまもなく、eコマース業者向けの争議解決ツールを販売する会社、モドリア(Modria)をサンノゼで設立した。

このようなツールの支持者たちは、型通りの法律問題の解決にオンラインツールを用いれば、弁護士を雇う経済的余裕のない人々にとって司法アクセスが容易になり、裁判所のスケジュールもより複雑な訴訟のために空けておけようになると主張する。

モドリアのルール氏も「民間セクターの参入によって、市民の期待は高まりつつある」と語り、このテクノロジーを採用する裁判所や政府機関は「住民の不満を買わずにすむ可能性が高くなる」と述べている。

オランダ政府の法律扶助委員会は、別居または離婚しようとしているカップルのために、2007年から「Rechtwizer」(英訳すると「ロードマップ・トゥ・ジャスティス」)と呼ばれるプラットフォームを運営してきた。

Rechtwizerは年間約700件の離婚を取り扱っており、最近では対象を土地貸借や雇用に関する争いにも広げようとしている。

カップルが100ユーロ(約1万円)を支払ってRechtwizerにアクセスすると、まず双方の年齢、収入、学歴などの情報を尋ねることから始まり、次にそれぞれの希望についての質問が示される。たとえば、子どもがいるカップルであれば、子どもたちをどちらか一方の親と暮らさせたいか、あるいは双方を行き来するかたちにしたいかといった質問だ。

アルゴリズムで合意点を探る

このプラットフォームは、アルゴリズムを用いて合意点を探し、適切な解決を提案する。また、養育費を計算するツールや契約書を作成するソフトウェアもある。

利用者は、さらに360ユーロ(約4万円)を支払って専門の調停人を頼むこともできるし、話し合いが物別れに終わった場合は裁判官に拘束力のある命令を求めることもできる。

だが、このプラットフォームの開発を主導したオランダの非営利団体「HiiL」のジン・ホー・フェルドンショート弁護士によると、そこまで行くのは全体の約5%にすぎないという。

イギリスやカナダで導入されるシステムと同様に、Rechtwizerの利用は任意であり、かつ人々に自己解決の力を与えるものだとフェルドンショート弁護士は言う。「依頼者は、離婚や別居の協議をすべて弁護士に任せればそれで安心とは限らない」

フェルドンショート弁護士は、イギリスの非営利団体「Relate」が同種のプラットフォームを構築する手助けもしており、モドリアの創立者であるルール氏の協力も得ながら、今年中にまずはイングランドとウェールズで稼働させる予定だ。

モドリアのテクノロジーは、ブリティッシュコロンビア州の法律サービス機関が運営する離婚協議プラットフォーム「MyLawBC」でも使われている。これは同州の少額訴訟用オンライン審判所とは、また別のものだ。

法律専門家の市場を再編する

アメリカでも、一部の州や地域では所得税の不服申立てや無過失責任保険の請求にオンラインプラットフォームが利用されているものの、自助的ツールの開発ではヨーロッパやカナダに遅れを取っている。

かつて「ClaimSettle」あるいは「EQuibbly」といった名称で、ウェブベースの争議解決サイトを立ち上げた起業家もいた。しかし、その多くは需要を創出することができずに活動を停止したと、オンラインの争議解決に詳しいマサチューセッツ州のロバート・アンブロージ弁護士は言う。

そうしたスタートアップは一般に周知されないまま行き詰まったり、あるいは見栄えと使い勝手の悪いユーザーインターフェースが利用者を遠ざけたりしていた。

アンブロージ弁護士によれば、示談交渉のため弁護士や元判事を雇おうと計画した者もいたが、そうした仕事に関心を持つ法律家はほとんどいなかった。アメリカの弁護士の大半は「そのような手法に不快感を覚える」からだ。

オランダの弁護士も当初はRechtwizerのシステムに懸念を示し、支払いを請求できる仕事を失うことを恐れたとフェルドンショート弁護士は言う。

だが、いまでは彼らの多くが、オンラインプラットフォームは単純な訴訟を効率的に処理する方法のひとつであり、より複雑な事件では依然として自分たちの専門知識が必要だと考えている。

「オンラインプラットフォームが法律の専門家の市場を縮小させることはない。単に市場を再編するだけなのだ」と同氏は語っている。

原文はこちら(英語)。

(原文筆者:Carol Matlack、翻訳:水書健司/ガリレオ、写真:the-lightwriter/iStock)

©2016 Bloomberg Businessweek

This article was produced in conjuction with IBM.