【ネットフリックスCCO】日本のメディア消費も確実に変わっていく(後編)

2016/7/12
ネットフリックスの世界戦略を占う特集の第2回では、最高コンテンツ責任者であるテッド・サランドス氏へのインタビュー後編をお届けする。 
後編は、人気映画監督であるデビッド・フィンチャーを、どのようにネットフリックスのオリジナルドラマ『ハウス・オブ・カード』を指揮してもらえるよう説得したのか、から。

口出しはしない

──デビッド・フィンチャー(ハウス・オブ・カードの監督)は、反逆者でもあると。
つまり、彼はルールを破るのが好きなんですね。なので、彼は、一面では、こういう動き(インターネットでのTV番組制作)を好んでいたんだと思います。
これは我々が2シーズン分をオーダーした理由でもあるんですが、「パイロット(試作)なし」「口出ししない」でも良いという条件で作ってもらうということで、(受ける価値のある仕事だと)確信してもらったんです。
彼は、(従来の映画では当然だった)我々に先に見せるためのパイロットを作らなくてよかった。
私が唯一頼んだのは、彼は番組制作に4人のクリエイターを起用しているんですが、何があっても、あなたの名前を入れてくれ、ということでした。
私は、彼が自らのブランドを損なわずに、そして、我々のために素晴らしい仕事をしてくれるために、やはりここでも「信頼(faith)」を置きました。

ローカル向け作本の狙い

──ネットフリックスが独占公開した『火花』もそうですが、日本でも、クリエイターや制作会社が、テレビ・映画だけでなく、インターネットのドラマに、シフトする動きがようやく出てきました。
これも、米国と同じような要素ですよね。
著名な制作陣たちのバリューとシネマ風のテレビ番組。これは、我々のプロダクト担当が、世界中でやろうとしていることです。普段テレビでは見られないようなスター級の俳優や監督を起用していく。
例えば、『マルセイユ』で、ジェラール・ドパルデューを起用したのもそうでしたし、『ハウス・オブ・カード』でケビン・スペイシーを起用したときもそうでした。
──日本でも、そうですが、クリエイターには、基本ローカルの現地市場向けに作ってもらいたいのですか?
我々の番組は、例えば『ナルコス』も、『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』もそうなのですが、世界中にアピールできる作品です。
それは素晴らしいことです。そして、それらは、そこまでアメリカにだけ特化したようなストーリーではありません。
もちろん、『ハウス・オブ・カード』は、アメリカの政治じゃないか、という議論はできますが、今英国を見れば分かるように、こういう政治のストーリーは世界中にあるわけです。
アメリカ的というより、よりシェークスピア的ともいえますね。
オレンジイズニューブラック (C)Netflix. All Rights Reserved

見たい番組を「発見」させる力

基本的には、そういう世界へ向けた作品なのですが、日本、フランス、メキシコ、ブラジルなどのオリジナル作品は、ローカル市場に強く関係した作品にしたいと思っています。
つまり、そういった作品については、余分なまでに日本的にしたいと思っています。世界に届けるために、日本的な要素を減らすことは簡単にできてしまいますしね。
こうした特定の番組については、日本市場独自の作品としたいんです。それが流行ればいいですし、我々の流通モデルを用いることで、作品をよりさらにローカルなものにしていきたいんです。わかりますか?
──なんとなく(笑)。ただ、例えば『火花』は、約半数が海外で見られていたというアナウンスでしたが、それは、狙ったことではないということですか?
そうではなくて、例えば、日本のアニメは、フランスとかアメリカでも人気ですね。
そして、フランスとアメリカの市場は、日本人にとっても、国内より大きな市場になるわけです。そういう意味では、日本のエンタメの特定ブランドに対して、海外にすごく熱心でハングリーな視聴者がいることは驚きではありません。
でも、多くの種類の日本のテレビ番組は、過去に世界に行き渡っていたことはありませんね。
そこで、我々がこれまでと異なることができるかというと、それは視聴者が今までに見たことがないモノを見せることなんですね。これは突然見たいものが現れるのではなく、色々な見方と統合されることでできます。
例えば、私がアメリカでネットフリックスを見ていて、日本発の『テラスハウス』のリコメンドを受け、そして、再生ボタンを押して一気に見てしまう。
それが、発見(ディスカバリー)の力なんです。そして、それはまだ日本のエンタメ市場が、アクセスできていない機能だと思います。
ネットフリックスのスクリーン画像

日本がローカルコンテンツを好む理由

私は日本に対して、日本のオリジナル作品を届けることに興奮していますが、日本から世界的なブランドを創ることには、さらにワクワクしています。
──ネットフリックスは、コンテンツ側と同じぐらい、アルゴリズム開発などテクノロジー側にも注力しています。例えば、ある番組に力を入れている時に、リコメンドに出させるように、テクノロジー側のチームと話したりしますか。
リコメンドは、個別の利用者にとって、とても大きな影響のある技術です。
我々はこのテクノロジーを、見たくもない作品を見させるためには、使いません。むしろ、彼らが好きになる可能性のある作品を見るチャンスを失わないように気を使っています。
そういう意味では、次にどんな番組が出てくるのかとか、どの要素がどうやって新たな視聴者の決断を促したのかとか、そうした対話をテクノロジーチームとしており、そういった要素で番組をプロモーションしていきます。
──すると、データ面を分析した場合に、日本のユーザーに特徴的な行動はありますか?
多分、驚きはしないでしょうが、日本は、世界のほとんどの国と比べてもローカル番組が好きですね。なので、より日本でのオリジナル番組に興奮していますね。それは、日本にユニークなことです。
恐らく、日本とインド、中国は、視聴者の嗜好が最もローカル嗜好である3つの国と言えますね。
ただ、それが『アクセス』による問題なのかは、わかりません。つまり、世界から色々な番組などが届いてくる仕組みが良くなかったためなのか、ということです。このことによって、昔も今も同様な番組を見ている可能性がある。
私自身は、そこに何かがあると思っています。
つまり、これまで何十年にわたって人々の嗜好に影響を与えてきた流通モデルに何かあるはずだ、と。そして、あるタイミングで突然、そうした嗜好は進化するはずです。
というのも、私はいつも、アメリカからの作品が日本でブレークスルーするときに、それがいつも直感的に分かる作品ではない、という事実に魅了されています。それは我々が流行ると思った作品、というわけではないんです。
──米国では、ネットフリックスだけでなく、アマゾンやHBO、HULUなど定額動画配信が花盛りになっています。競合とどうやって差別化するのですか?
野望と、番組作りのスケールだと思います。もし他でも見られる番組を見るだけのための場所なら、誰にとっても面白くないですよね。それは頂点への競争ではなく、底辺へのレースになってしまいます。
なので、我々は番組づくりのクオリティと、ほかでは見られない番組作りで、差別化を図っています。例えば、『デアデビル』を出したときは、それはネットフリックスにしかない、ほかでは無理ということです。
例えば、日本の人々がネットフリックスの番組にワクワクしてくれて会員になり、トライして、好きになり、ほかの多くの見たい作品を見つけてくれることが大事なんです。
我々は、600時間もの新たなオリジナル番組を今年用意しています。
そして、来年はさらに2倍になるでしょう。つまり、あなたは、ほぼ毎日、ネットフリックスのオリジナル作品の新たなシーズンや、新たなエピソードが始まる世界にいるわけです。
それらが、多くの時間を過ごし、大きな価値を感じる作品であってほしいと思っています。
──今年は、コンテンツに60億ドル(6000億円)もの金額を費やすと表明していましたが、この多くは日本にも使うのですか?
もちろん。日本では、世界を見ても、最も積極的にオリジナル番組に投資している場所です。
ブラジルやメキシコ、イタリア、そしてドイツ、スペインでも現地のオリジナル番組を作っていますが、日本では、すでに4つのオリジナル番組を出し、さらに3つのアニメを計画しているほど注力しています。
アメリカ国外で、ず抜けて大きな投資をしているのは、間違いなく日本ですね。
──すると、そうした巨額の投資額も他サービスとの差別化要因になりますか?
より大きな有料会員のベースがあるということは、より多額のお金を、素晴らしいコンテンツに投資し、より多くの会員の方を引きつけないといけないということです。
コストと再投資の額は、ビジネスで得られる額を現状では超えてまして、それが消費者にとって良いビジネスを生むようにしています。最終的には視聴者の方が勝つのです。非常に多くの、素晴らしいプログラムを見ることで。
そして、我々は、互いにつねに競争しているので、価格は常に低いままですし、一つのサービスだけでなくもっと多くを見る余裕もできてきます。
恐らくそうして、複数のサービスで、好きな番組を探していくことになるでしょう。
──最後に、ネットフリックスや、インターネットTVの普及で、ホームエンターテインメントの未来はどういったものなりますでしょうか?個人的な意見を聞かせてください。
不思議なことで、想像するのも難しいかもしれないけれども、日本のローカル嗜好が日本を特異な存在にしているのに加え、日本には独特のメディア消費の仕方がたくさんあります。
ビデオ店はまだとても、人気ですよね。ホームエンターテインメントも人気です。有線で、きちんとスケジュールが決まったテレビが人気なわけです。
ですが、時間が経つにつれて、一番大きな変化として訪れるのが、オンデマンドでしょう。視聴者たちは、自分自身が見たい時に、番組を見るように順応していくはずです。それは、全てを変えていきます。
そして、ビデオストアに行っていた「旅」も、何らかの番組を見逃さないために家に急いで帰っていたのも、もはやかつてほど楽しいことではなくなるはずです。
何よりも、自分のやり方と時間でコンテンツを楽しむことが、あなたにとって一番したいことなはずですから。