牧野正幸×小笹芳央、新卒一括採用のメリット・デメリット

2016/7/11
独自の視点と卓越した才能を持ち、さまざまな分野の最前線で活躍するトップランナーたち。彼らは今、何に着目し、何に挑もうとしているのか。連載「イノベーターズ・トーク」では、イノベーターが時代を切り取るテーマについてトークを展開する。
「イノベーターズ・トーク」第34回は、ワークスアプリケーションズCEOの牧野正幸氏とリンクアンドモチベーション会長の小笹芳央氏が登場する。
テーマは、ずばり「新卒論」だ。
牧野氏といえば、ワークスアプリケーションズの名を一躍有名にしたインターンシップの発案者だ。成績上位者には卒業後3年間はいつでも入社できる「入社パス」が与えられるインターンは人気で、今では、世界中から毎年約8万名が応募する。
2016年3月に掲載した「 東大・早慶の就活」特集のインタビューでは、学生に「自分の成長にとって都合の良い会社」を選べとアドバイス。
「だって、20代のときに成長できずに30代になって、そのまま40代に突入したら、もう“即死”だよね」と発破をかけ、大きな共感を呼んだ。
一方、小笹芳央氏はリクルートの採用担当者として、人気企業に導いた立役者の一人だ。リンクアンドモチベーションを設立した翌年には新卒採用活動を始め、同社は今では東大生がよく行くベンチャーとして名を馳せる。
同じ特集内での インタビューでは、「偏差値が高い大学は総じて優秀な学生がいる確率が高い」と言い切り、その歯に衣着せぬ発言が支持される一方で、今後の新卒採用は「内定を5社も10社ももらう学生がいる一方で、1社も獲得できない学生が出てくる。つまり、企業と学生、双方の二極化が進む」と断言し、波紋を呼んだ。
そんな、「新卒」に一家言をもつ2人が、新卒一括採用の是非、はたまた中途採用論について、さらには日本人の国際競争力について激論を繰り広げる。
これまで数多の学生と接触してきた小笹氏に言わせると、「いい人材は『誰が見ても良い』」
よって、企業の人事は、「どうやって優秀な人材を見極めるかより、どうやって口説くかを考えるべき」だと言う。
これを受け牧野氏は、「『誰が見てもいい人』の競争倍率は高い。ですから、我々は、特殊な優秀層にインターンシップを受けてもらい、その人の才能を引き出して、以降の就活に活かしてくださいというやり方でアプローチすることに特化した」と言う。
ワークスアプリケーションズのインターンのコストは、「実はまったく元が取れない」
1人採用するのに、1000万円以上かかってしまうからだ。
では、牧野氏と小笹氏が、手間とコストをかけてでも欲しい人材像とは? 
また、なぜ中途採用ではなく新卒採用に注力するのか? 
その理由について、牧野氏は「日本は中途採用の市場が全然ダメだから」と断言。小笹氏も、「30歳前後で紹介会社に行って『年収500万円ください』なんて言っている人材で、当たったためしがない」と強調する。
なぜ、日本は中途採用市場が成熟していないのだろうか。2人の本音トークが炸裂する。
ワークスアプリケーションズでは、2009年ごろから海外で新卒採用を始めたが、牧野氏は日本の新卒と比べて海外採用組は優秀だと言い切る。
「正直言って、今、日本の学生を採る理由は、日本語が喋れるメリットぐらいしかありません」(牧野氏)
小笹氏もこれに、「考える能力もさることながら、海外の新卒はいきなり動ける」と同調する。
牧野氏はさらに、「日本人は現時点では、クリエイティブなエリアや研究開発に関しては、勝ち目がありません」と畳み掛ける。
われわれ日本人はなぜ、海外エリートに大きく水をあけられてしまったのか? その理由について、両氏が激論を戦わせる。
かつて小笹氏は、その会社を良くする人材を確保できるかどうかの「9割は採用で決まる。つまらない人材を入れると、採用後にどれだけ研修をやろうが、たいした効果はないのが現実だ」と語った
これを受け、牧野氏は「そりゃ採用は大事」としながらも、育成にも「ものすごい力を入れている」と言う。
では、育成で伸びる人・伸びない人の違いとは?
小笹氏は、「結局、その後出世する人間は、最初の上司が同じ人間なんです」と意外な事実を明かす。
「最初の上司がすごく重要で、誰に預けるかがポイントですね」(小笹氏)
牧野氏もこの意見に同調し、「(新人を)誰の下に付けると伸びるか、会議で再三議論する」と言う。
では、優秀な人材を続々と輩出する上司とは、どのような人物像なのか。
ワークスアプリケーションズでは、マネジャーになるまで、若手は「自分のことだけを考えてればいいんだと言って育てる」そうだ。
「というのも、自分の力のない人間が、やれマネジメントだのチームワークだの言い出すと、面倒臭いことになってしまうので。まずは、『日本代表』になるまでは、フィジカルレベルを上げろと教育する」(牧野氏)と言う。
そして、30歳くらいになった頃には、業界内であいつはできると評判になっているのが理想形だという。
意外なことに、そういう人間は、社内での出世願望が低いそうだ。
「どこの企業でも、尖った能力を身につけることと、出世することの両方を取ることはできません。両方は、追いかけられません」(牧野氏)
では、どうすれば他社も注目する“とがった”人材になれるのか。そのキーワードは小笹氏の造語「アイ・カンパニー」な人だ。
小笹氏は、日本の会社から終身雇用や年功序列の色が薄くなったとしても「新卒一括採用はなくならない」と言う。
牧野氏も、「日本も新卒一括採用をやめるとすれば、海外と同様に、新卒もスキルセットを磨いて、就職後、即戦力になる方向を目指すしかない。でも、今の日本の学生のレベルでは、その方式では、新卒はどこに応募しても、皆、落とされてしまう」と語る。
では、日本の新卒一括採用は、今後、どのような形に変化していくのか?
小笹氏は、牧野氏が率いるワークスアプリケーションズがすでに実施している新卒者のランク付けや、「新卒入社時に待遇差が出ることは、今後ますますありうる」と占う。
牧野氏も「同期間の格差」は開いていくと言う。
新卒大格差時代の到来をそろって予測する2人。そんな両氏は、今後、日本の会社の新卒採用はどうあるべきだと思うのか。
また、横並びを助長する経団連の倫理憲章について、2人の弁舌が鋭く冴えわたる。
(予告・本文構成:佐藤留美、撮影:遠藤素子、デザイン:名和田まるめ)