【ネットフリックスCCO】「ネットフリックス作品がヒットする秘密を教えよう」(前編)

2016/7/11
ドラマや映画などの映像配信最大手ネットフリックスが、世界で猛攻を仕掛けている。2016年1月には、配信国数をそれまでの60カ国から一気に190カ国にまで増やし、コンテンツ制作の投資には巨額の60億ドル(約6000億円)をつぎ込むなど、一気にアクセルを踏み込んだ。
ネットフリックスが唱える「インターネットTV」は、世界を席巻することができるのか。この10回の特集では、最高コンテンツ責任者、オリジナル作品「火花」のプロデューサーへのインタビューや対談のほか、同社のビジネスを深掘りした米ニューヨーク・タイムズマガジンの特集も掲載する。まずは、米国からヒット作品を連発するネットフリックスのコンテンツを統括するテッド・サランドス最高コンテンツ責任者へのインタビューを紹介する。  

ドラマというより映画の作り方

──先日の発表会でも、多くのオリジナル作品を発表されました。個人的には、ヒップホップの歴史をたどる「ゲットダウン」に興味を持ちました。
(『ロミオとジュリエット』などで知られる)バズ・ラーマン監督と、奥さんのキャサリンによるものですね。細部へのこだわりが、とても美しいんです。
──ちなみに私が、興味があるのは、こうしたオリジナル作品を、ネットフリックスがどのようにして選び、作っているかということです。
まず、我々の力で持ってこれるプロジェクトの中で、ネットフリックスだけのユニークな作品を選びます。
テレビシリーズのために、例えば、超大物の映画俳優を持ってくるのは、とても大きな規模が必要ですし、かかるお金も巨額になります。そして、それだけ大きなプロジェクトをサポートする裏側に、ネットフリックスが持つ世界で8100万人の有料会員がいるのです。
テッド・サランドス
ネットフリックス最高コンテンツ責任者。2000年の入社以来、コンテンツ部門をリード。ホームエンターテイメント分野で20年以上の経験があり、映画の買付と配給における業界の革新者として知られる。ネットフリックスの前は、ビデオ配給のETD社とVideo City / West Coast Video.社で重役を務めていた。夫人は元米国バハマ大使のニコル・アヴァント、ふたりの子どもがいる。

膨大なデータの使い方

例えば、先ほどのゲットダウンの場合だと、バズとキャサリンの映画は、以前から、世界中で素晴らしく評価されていますね。彼らは、世界に対する求心力を持っているのです。
つまり、それが、我々が素晴らしいプログラムを世界中に提供する際に、ビジネススケールを活用できる部分なのです。これは、従来のテレビドラマよりも、むしろ劇場映画の作り方に似ているかもしれませんね。
──逆に、ネットフリックスに作品を流したいという提案も多いとは思いますが、
はい、山ほど(笑)。
──で、ネットフリックスは、ユーザーの視聴習慣からあらゆる種類のデータを収集して分析しているはずですが、提案の中から新たな作品を選ぶときに、こうした視聴者の嗜好に関するデータは活用していますか?
そんなに使いません、特に、提案を受ける段階では。むしろ、重い財政的な決断をするときに、データを用います。
つまり、『ゲットダウン』や『ザ・クラウン』のように野心的な番組に投資する場合には、データを適切に活用しますね。その番組が成り立つだけの大規模な視聴者はいるのか?と。
70年代のヒップホップの勃興を描いたGET DOWN ©Netflix. All Rights Reserved

インターネットTVに賭けた

そして、いると判断された場合には、より多くの金額を投資し、より野心的なプログラムを作っていくことへの自信になります。
そうして、投資をより精緻化することにデータを活用していけば、より小さな規模の番組も、もっとできるようになりますね。
──そもそも、ネットフリックスは、DVD宅配から創業した会社なのに、映画やドラマのオリジナル作品を作っていく制作的な側面も持つ会社になったのは大きな飛躍だと思いますが、戦略的にやってきたのですか?
それを言うと、私が2000年に入社してからも、本当にたくさんの新しいことをして来ましたね。
最初は、DVD配達の、しかも米国市場向けだけのサービスだったのが、今は世界の動画配信会社になっているわけですから。
まず、それが一番大きな変化だとは思います(笑)。
──それは、その通りですが......。
そして、もう一つの大きな変化は、他人の番組の権利をライセンスしていただけだったのが、自分たちの作品を作るようになったことですね。
それは、我々がインターネットTVの未来に賭けていたからできたことです。
当時も、インターネットテレビのサービスは、極めて大きくなり、競合もどんどん増えていくので、将来的には、ほかのサービスと差別化を図らないといけないのは事実でした。でも、あくまで将来の話で、正直、その時点ではオリジナル作品を作る必然性まではありませんでした。
でも、あの時に本当にやってよかった。
なぜなら、予想したとおり、このインターネットTVという業界には今や多くの競合がいますからね。そして、競合がいることはもちろん良いことです。ともかく、自分たちのオリジナル作品を作り、流通するまでには、すごく長い議論があったわけです。
今日、敢えて最初から全てを話すことはしませんが(笑)。
──とはいえ、賞を総なめにした『ハウス・オブ・カード』(2013年)のようなオリジナル作品を作るのには、DVD流通や映像配信のプラットフォームとは、全く違う能力が必要だと思います。何で、ネットフリックスにヒットを生み出す力があったのかを是非知りたいです。
そこにはトリックがあるんです。

『ピック』することがカギ

私は、テレビの制作、配信についてのビジネスを大学で学んできて、何でこんなにテレビ番組の失敗率が高いのかを常に分析しようとしてきました。ほとんどのテレビ番組や映画は、どれだけ多くのリサーチや経験をもってしても、失敗していたんですね。
なぜ、そうなるのか?
そこには、ビジネス側のエグゼクティブと、クリエイターの、交差点(クロスオーバーポイント)があるからだと、確信したのです。
エグゼクティブ側は、得意でもないのに、クリエイターたちの創作プロセスに深く関わりたがる傾向があるんですね。それは、私も含めてです。
なので、例えば、私は、ゲットダウンについて、ラーマン監督と比べると、ほとんど内容を知りません。つまり、そのトリックというのは、我々のスキルはまさに作品を「ピック(選ぶ)」ことにこそある、ということなのです。
そして、「ピック」する仕事であれば、これまでも長きにわたって経験を積んでいたことです。
レンタルのためのDVDを選ぶのもそうですし、インターネットでもそうです。一度番組をピックし、その番組を運営するできる人をピックすれば、後は、(制作プロセスの)道からどいてしまえばいいのです。
ですから、私の成功の秘密は、「get out of the way(道からどくこと)」 なのです。
──とはいえ、投資している側とすれば、色々口出ししたくなるのが、世の常ではありませんか。
ビジネスの基本哲学として、人に対して、信頼(faith)を置くべき、というのがあります。
今、ネットフリックスでは40の異なる番組を制作していますが、エピソード数として、最低でも400~450エピソードになります。そうなると、毎日毎日、最新のストーリーを見ることは、できません。
ですので、良い作品を「ピック」できるような、私が信用をおける人たちが周りに必要なのですね。つまり自分が20人いるような状態です。そして、私に必要なのは、その「信頼」する能力なのですね。
ハウス・オブ・カードは、ネットフリックス初のオリジナル作品であり、エミー賞やゴールデングローブ賞を総なめにした。米国を舞台にした政治闘争を描いている。©Netflix. All Rights Reserved.

フィンチャーはRebelだ

それはクリエイターに対しても一緒です。
一番難しいのは、旧来のメディア出身の人々を雇った場合、そうした(介入したくなる)気質を排除し、クリエイティブのプロセスにマイクロマネジメント(業務干渉)させないことでした。
ある番組が失敗した場合、それは、間違った人を「ピック」し、間違った番組を「ピック」したことが原因です。努力が足りなかったとか、力を入れすぎたとか、そういうことではありません。
──今、米国のクリエイターたちは、ネットフリックスにこぞって作品を提供したがっています。著名な映画監督たちが、テレビシリーズのオリジナル作品を作りたがるような、この大きなシフトを起こすのは大変だったのでは?
全ては、(ハウス・オブ・カードを指揮した)デビッド・フィンチャーから始まりました。
彼は、我々の世代では、最も尊敬されているディレクターです。彼がテレビ番組を作ったということは、それは、あらゆるクリエイターにとっても「OK」だというシグナルだったのだと思います。
──彼を説得するのは難しかった?
かなり(笑)。でも、彼は「反逆者(rebel)」なんです。