オールスターを新たな風物詩へ。横浜でできる“特別野球体験”
2016/7/4
2016年夏、オールスターが8年ぶりに横浜スタジアムで開催される。
横浜DeNAベイスターズとなってからは初となる、横浜での“夢の祭典”。
もちろん、ただ粛々と試合が行われる7月16日を待つこともできたわけだが、マーケティングを武器に経営再建を果たしてきたベイスターズは、この球界の一大イベントを“活用すべきチャンス”と位置付けた。
球団社長の池田純はいう。
「オールスター開催に合わせて、プロ野球史上初となる体験型イベントを実施することを決めました。それが『オールスターエクスペリエンス』です」
前日からオールスター色に
2016年夏のオールスターは2試合制で、第1戦は7月15日、福岡のヤフオクドームで開催される。ベイスターズはそこに目をつけ、翌16日に第2戦が行われる横浜スタジアムを1日前倒しでオールスターの色に染めることにしたのだ。
15日の午後3時にグラウンドが開放される横浜スタジアムには、さまざまなコンテンツが用意される(入場にはチケットの購入が必要)。
後楽園の野球殿堂博物館から歴代オールスターにまつわる展示品を運び込み、その歴史を改めて振り返ることができるミュージアムコーナー。
最新バッティングシミュレーターやスピードガンチャレンジ、ドラフト会議など、野球を体験できるブース。
過去のオールスター映像を振り返りながらプロ野球OBが語り合うトークショー。
さらには、福岡での第1戦の模様を球場のセンターカラービジョンで観戦できるパブリックビューイングも予定されている。
スーパーボウルがヒント
こうしたイベントが企画されたのは、2016年2月、NFL(米プロフットボールリーグ)の優勝決定戦「スーパーボウル」を池田が球団職員とともに現地で観戦したことが発端となっている。
本連載でも紹介したとおり、池田はスーパーボウルの視察を通して、スポーツの持つ価値、エンターテインメントとしての可能性について大きなヒントを得て帰国した。
なかでも印象的だったのが、ホストシティの街中で大規模なイベントが展開されていることだった。
大型コンベンション施設では、「NFLエクスペリエンス」と称した有料の体験型イベントがスーパーボウル本番の何日も前から開催されていた。
さらに街の広場や目抜き通りでは、コンサートなどを楽しめる無料のパーティーイベント「スーパーボウル・シティ」も大盛況だった。
「試合を開催するだけでは、スタジアムに行って生で観戦するか、テレビなどで視聴するかの原則2通りしかスーパーボウルを楽しむ方法はありません。しかし、こうしたイベントを行うことによって、スーパーボウルやアメリカンフットボールという競技そのものとの接触人口を大幅に増やすことができる。これは横浜でのオールスターにも応用できると考えました」
球宴はライト層に訴えやすい
特に交流戦の導入以降、オールスターは注目度の低下が指摘されてきた。セ・パのスター選手がシーズン中に実際に対戦する機会が生まれ、オールスターでしか見られない光景がなくなりつつあるからだ。
またオールスターを2~3試合も開催していることによって、MLB(メジャーリーグ)のような「年に1日しかない」という希少性もなくなってしまった。
初のホストを務めるにあたり、そうした状況を何とかしたいという思いと、スーパーボウルでの発見は同じ方向を指し示していた。
「オールスターは日本シリーズと並んで、プロ野球を牽引する象徴的なものだと思います。せっかくライト層にも訴えかけやすいイベントであるはずなのに、球場で観戦するか、テレビやインターネットで視聴するかの2択だけでは、以前のような価値を取り戻すことは難しい」
「無策のまま放っておいて、オールスターという一大イベントに新たな野球ファン層が自発的に飛びつくような環境はもはや存在しない。スーパーボウルの例にならって、接触人口を増やすため、こうした体験型イベントは有効なのではないかと考えています」
NPBが価値向上へ努力すべき
オールスター自体は日本野球機構(NPB)が開催運営する興行だが、それに付随して球団主導のイベントが行われることはかつてなかった。
だが意外にも交渉はスムーズに進み、NPB共催、11球団が協力というかたちでオールスターエクスペリエンスは実現されることとなった。
厳しい言い方をすれば、オールスターの開催運営者であるNPB自体が、その人気や価値を再び向上させるために何らかの努力をすべきではあった。
球団主導でこうした新しい取り組みが始まったことで、NPBの果たすべき役割が改めて問われているともいえる。
「コンサート×野球」の新価値
史上初、手つかずだからこそチャンスと見たベイスターズは、この機会に2つのチャレンジに乗り出している。
1つは、オールスターエクスペリエンスの目玉でもあるシンガー・ソングライター秦基博のスペシャルライブだ。
その狙いを池田が説明する。
「横浜スタジアムを買収した以上は、横浜市民の方々にもっともっと楽しい文化やエンターテイメントを提供していきたいと考えています。音楽コンサートもその一つです。横浜スタジアムではこれまでにもいろいろなアーティストがコンサートを行ってきましたが、野球との連動性はまったくありませんでした」
「秦基博さんが横浜スタジアムでの野球のイベントでライブを行うことは、『コンサート×野球』という新しい価値の提供につながると思っています。秦さんのファンがこれを機に野球に興味を持ってベイスターズの試合を見にくるかもしれないし、逆にベイスターズファンが秦さんのファンになるかもしれない。そうした相互のファンの行き来が生まれるのではないかと期待しています」
150種類以上のTシャツ発売
そしてもう1つが、オールスターに合わせて150種類以上ものラインアップが用意されたという特別企画Tシャツ「オールス“T”(ティー)」の販売だ。
こちらは横浜公園の一角にブースが設けられ、7月1日から販売が開始された。
「このイベントでお金儲けをしようという考えは特には持っていませんが、イベント運営や広告などにコストをかける以上は最低限ペイする仕組みを考えるのが経営者の仕事。12球団の個性が一堂に会するこの機会にしかつくれない商品をお客様に提供していければと考えています」
「人間は違いの明確でない不必要な選択肢が多い場合、選択意欲が低下し購買意欲も失われるという心理が働きます。そのため、150種というのはチャレンジングな数字ではありますが、当社マーチャンダイジングの大きなトライアルでもあるので、どれだけTシャツでペイできるか楽しみにしています。とにもかくにも球界史上初の試みですので、赤字覚悟の挑戦です」
池田が「2017年以降の開催地でも同じような取り組みが広がってほしい」と語るように、オールスターエクスペリエンスは球界の新たな風物詩となるだろうか。
まずは2016年夏、横浜での球宴が特別な体験となるかどうか──ファンも、関係者も、熱い視線を注いでいる。(文中敬称略)
(写真:©YDB)
強さの秘密は経営戦略にあり
横浜DeNAベイスターズの野球マーケティング
- 4年で観客動員65%増。ベイスターズが横浜に根づいた“改革”
- データマッピングで「横浜」をひも解き、観客収容率約9割達成
- 黒字増へ、ハマスタ買収後の“コミュニケーション”戦略
- 「YOKOHAMA」をつなぐ3つの輪。市民、街と連携し本当の復活へ
- 池田社長のスーパーボウル観戦記。ハマスタ開幕戦で革新演出予告
- ベイスターズ池田社長が提案「スポーツ版産業革新機構」
- 「横横ベイスターズ」が実現。球団と行政のWin-Win関係
- “ビール補強”が象徴。ハマスタで実現される理想的球団経営
- オールスターを新たな風物詩へ。横浜でできる“特別野球体験”
- 【堀江貴文×池田純】ネットスポーツ中継元年の勝者に(前編)
- 【堀江貴文×池田純】プロ野球は球団数を増やすべきか(中編)
- 【堀江貴文×池田純】プロ野球ビジネスは宝の山(後編)
- 【ジーコ×池田純】本当の「プロ」が持つべき意識