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目標はお笑い界の池上彰

【プロピッカー・たかまつなな】政治教育を“ビジネス”にしたい

2016/6/29

6月からプロピッカーとなった、たかまつななと申します。今は、お嬢様芸人としてテレビや舞台で活動する一方で、4月には笑下村塾という会社を立ち上げて、お笑いを使って政治教育を広める事業を展開しています。

具体的には、全国の高校生や大学生など新しく有権者になる人に向けて、お笑いやゲームを使って政治の問題を感覚的に伝える取り組みです。「政治に関心を持つべきだ」という《理想論》は、ピンと来ません。 しかし、ロールプレイング・ゲームをすることで、「投票しないと損なんだ」と 《実感》を持てるようになります。
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また、お笑い芸人を講師にして政治や社会問題に関するシンポジウムやイベントも主催するほか、「笑える!使える!政治教育」をモットーに、大学の先生などと一緒に人狼をモチーフにした「悪い政治家を見抜くゲーム」などのコンテンツ開発なども行っています。

目標は、「お笑い界の池上彰」。情報を発信するためには、きちんとした知識を身につけることも大事なので、東京大学大学院情報学環教育部や慶應義塾大学大学院で研究もしています。

関心がない人にも伝える方法を模索

そんな私が政治や社会問題に取り組みたいと思ったのは、小学校4年生の時です。アルピニストの野口健さんが開催した「富士山で自然を学ぶ環境学校」への参加がきっかけになりました。

野口さんの本を読んでいたことや、富士山にも行ってみたいと思っていたので、すごく楽しかったことを覚えています。実際に富士山を目の前にすると、その美しさに感動しました。

そうした中で、不意に野口さんが「それじゃあゴミ拾いを始めましょう」と言い出したんです。当時は、子ども心に「こんなきれいな富士山でゴミ拾い?  この人は何を言っているんだろう。ふざけているのかな」と思ったんですけれど(笑)。

いざ参加者みんなで青木ケ原樹海を探索すると、個人が捨てたゴミだけでなく、不法投棄されたバスやトラック、医療器具や産業廃棄物などが、当たり前のように転がっていました。私は、その状況にすごくショックを受けたんです。

野口さんは、「大人はこういう問題を見て見ぬふりをしてしまう。子どもの君たちの方が、みんなに伝えられるかもしれないね」と話したのですが、その言葉を聞いて「それなら、私が伝えなきゃ」と思い、社会問題に目覚めたんです。

最初は、学校の校内新聞に記事を書いたんですけれど、もっと多くの人に伝えたいと思うようになりました。そこで、読売新聞が子ども記者を募集していることを知って、「新聞ならたくさんの人に読んでもらえる」と思い、6年間記者として活動しました。

私の原体験を伝えたいという思いがあったので、富士山の不法投棄問題についても企画を出し続けました。ようやく企画が通って、自分で記事を書き、署名入りで掲載されたときは「どれだけ反響があるんだろう」とワクワクしましたね。

ところが、全然反響がなかったんです。ご学友のお母さんが「ななちゃん、すごいわね」と言ってくれただけ。同級生は全然記事を読んでいなかったので、「みんな新聞を読んでいないし、全然届かないな」とがっかりしました。

その後、私は高校生平和大使に応募して、国連の軍縮会議で核兵器廃絶のスピーチをしたこともあります。でも、その場に集まって私の話を聞いてくれていたのは、元々問題意識がある人だけ。「ここで話すことに、どれだけの意味があるんだろうか」と疑問を持ったんです。

こうした経験を通して、「関心がない人にこそ伝えないと、何も変わらないんじゃないか」「もっとエンターテインメント的な伝え方が必要なんじゃないか」と、漠然と思うようになっていきました。

家族の反対を押し切り芸人の道へ

そんなとき、中沢新一さんと太田光さんが出版した『憲法九条を世界遺産に』を読む機会がありました。私の家庭は厳格で、テレビは「NHKしか見ちゃいけない」「バラエティ番組を見てはいけない」というきまりだったので、この本を手にしたとき、太田さんのことを大学の先生だと思っていたんです。なので、プロフィールを見てお笑い芸人だったことを知ってビックリしました。

でも、その瞬間に「芸人さんだからこそ、難しい問題も関心のない人に伝えられたんじゃないか」と直感して、芸人の道を志したんです。

早速、高校時代からアマチュアで活動し始め、大学2年生でプロになりました。高校生のときには勉強のために、年間200~300はお笑いの舞台を見に行きましたね。全然お笑いの下地がなかったので、本当にゼロからのスタートでした。親には「国会図書館に行ってくる」などと言って、ごまかしていました(笑)。

ちなみに、お笑い芸人の養成所に願書を出した時に親バレしたのですが、それから今に至るまで活動は猛反対されています。実は、家からも追い出されてしまいました(笑)。「社会問題を伝えるために芸人になったんだよ」と説明しても、まったくピンと来ていません。
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プロになってすぐに、お笑いで社会の問題を伝えたいという思いはありましたが、「まずは売れてからの方が、好きなことができるよ」という周りのアドバイスもあって、フェリス女学院出身をネタにしたところ、ピン芸人が出場する「R-1グランプリ」で、いきなり準決勝まで進むことができました。その後も、「エンタの神様」に出演したり、NHKで番組のワンコーナーでレギュラーを持たせてもらえたりと、順調にお仕事をさせてもらえました。

ただ、私がお笑い界の池上彰になりたいことを、所属していた事務所はすごく理解してくれたんですけれど、テレビで自由に政治的な発言をすることはなかなか難しかったんです。

元々自分がやりたいと思っていたことが出来ないだけでなく、その頃から教員免許の取得を目指し、東大にも通い始めたので学業も忙しくなり、自分のペースで活動しようと思うようになりました。そこで、フリーとして再スタートすることに決めたんです。

政治とビジネスをつなげたモデルをつくる

今年4月には株式会社笑下村塾を立ち上げました。社団法人を勧めてくれる方もいましたし、NPOなど寄付でも回る仕組みはあると思います。でも、株式会社にしたのは、これからの日本のためなんです。

日本では「政治にはビジネスチャンスがない」と言われます。さらに、どうしても“色”がつくことを避けたいので、ますます会社の事業から遠ざかってしまっています。その現状を変えたいんです。

笑下村塾のような会社は日本でも初めてだと思いますし、まだビジネスモデルも確立していません。でも、数年後に「たかまつさんのところ、すごく稼いでいるらしいよ」となれば、「自分の方がもっとうまくやれる」と、他の人も取り組み始めると思うんです。

サイエンスショーなども、最初は誰もお金にならないと思っていましたが、どんどん増えていますよね。だから、私がまずは組織として再現性があって、「政治で稼げる」ビジネスモデルをつくりたいと思っています。その思いを伊集院光さんに話したことがあるのですが「絶対に金になるよ!」と激励してくださって嬉しかったです。私が起爆剤になって、競合もたくさん出てきてほしいと思っています。

会社を立ち上げてから、この1週間で20社ほどの取材があったり、お問い合わせも多数いただいたりと、必要とされている事業だと実感しています。出張授業やコンテンツ開発によって収益化することにも、手ごたえがあります。

そのうえで、今後は全国の学校が芸人さんを気軽に呼んで、楽しく政治を学べる仕組みをつくりたいなと考えています。

お笑い芸人100人が出張授業を行う「笑える!政治教育ショー」を広げたいんです。お金持ちの私立だけでなく、地方の公立の学校でも学べるように、ビジネスと社会貢献を両立させたいと思っています。

そのために、今はクラウドファンディングでいろんな学校への交通費などを捻出しています。宜しければご協力ください。

政治に興味を持つための橋渡し

政治に関心を持つためには、一人ひとりが、授業やワークショップで体験することが大切だと考えています。教科書を読むだけじゃなくて、当事者意識を持って政治を考えると、理解の仕方が全然違うんです。そこがすべてのスタートになると思います。

今の政治や社会問題は、色んなアクターが参加しないと解決しません。国のせい、自治体のせいだけにしてもしょうがない。当事者として関わることで変えられることも多いので、そうなるための一歩になるはずです。

それに、一度興味を持ってもらえると、「じゃあ次は先生の話も聞いてみようかな」「本も読んでみようかな」と次の階段を登れるんですね。入門の本ですら難しいと思う人も多いので、その橋渡しが出来ればいいなと思います。

さらに、こうした活動が話題になることで、バラエティ番組でも政治を扱える空気をつくりたいと思っています。池上さんが、政治を扱う情報番組でも数字を取れることを証明したと思うんですけれど、それと同じように広げたいですね。

今は睡眠時間1~2時間の時もあるので、寝たいなと思うことも多いのですが(笑)、需要がある証拠だと思って頑張っているところです。

NewsPicksのコメントでは、若い世代として、お笑い芸人としての視点をどんどん入れたいと思っています。皆さん、政治についてコメントが固いな〜と。だから、政治に興味ある人とない人との意識格差が生まれてしまうのではないかと感じています。

テーマとしては、広く政治についてコメントしていきます。個人的には国の根幹に関わる問題に興味があるので、安全保障や憲法の問題にもコメントできればと考えています。  

対談などの企画にも積極的に取り組みたいと思います。
(編集部注:プロピッカー・徐東輝さんと「若者と政治」に関する対談記事を予定しています)

今後とも、どうぞよろしくお願いします。